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グローバルトレンド①これからのHR 「多様性、公平性、包括性(DEI):現在と将来への取り組み」 from SHRM Annual Conference in Las Vegas 2023

なぜ書くか

世界経済はVUCAと呼ばれ、安定性を欠き、テクノロジーは進化を続け、グローバル化は進み、労働者世代は移り変わっている中、日本にも多くの変化が求められている時代になりました。つまり、世界的な動向を知ることが私たちの日常にさらに重要になってきてる時代です。

引用:国際通貨基金
引用:国際通貨基金

Every Inc.では「HRからパフォーマンスとワクワクを」というビジョンを掲げ、グローバルな取組みやアカデミックな文献からHRに関する歴史、取組み、事例など”日本なら”ではなく、”グローバルスタンダード”な情報を提供しています。https://every-co.com/

はじめに

近年、多様性、公平性、包括性(DEI)はビジネスの世界でますます重要なトピックとなっています。企業がより多様で、公平で、包括的な環境を作り上げることは、従業員の満足度や参加度の向上、イノベーションの促進、意思決定の多様性、そして収益性の向上など、さまざまな利点をもたらします。

しかし、DEIの達成には努力が必要であり、効果的な測定と評価が不可欠です。本記事では、なぜDEIが重要なのか、その測定方法、一般的な懸念事項への対応策、そして具体的な包含性の測定例について探っていきます。

DEIとは何か

  • 多様性(Diversity)の概念は、人々が異なる人種、民族、性別、性的指向、宗教、年齢、障害、文化的背景などに基づいて異なる経験や視点を持っているという考えに基づいている。この概念は、社会科学や人文科学の研究、市民権運動、フェミニズム、LGBTQ+運動、マイノリティの権利運動など、さまざまな社会運動や学術的なアプローチから派生している。

  • 公平性(Equity)の概念は、平等という考え方に対する異なるアプローチ。平等(Equal)は、すべての人に同じ扱いをすることを指す一方で、公平性(Equity)は、人々が固有のニーズや背景に応じて適切な支援や機会を受けるべきであると主張する。公平性(Equity)の概念は、社会正義の観点から生まれ、教育や雇用、経済、政治などの分野での不平等や差別の是正を求める運動から発展している。

  • 包括性(Inclusion)の概念は、異なる背景や経験を持つすべての人々が社会や組織の中で受け入れられ、参加できる状況を作り出すことを目指している。包括性(Inclusion)は、個人やグループの多様性を尊重し、それを活用することで組織や社会全体の成果を向上させるという理念に基づいている。

DEIに関連する主な動き①(1776年~1978年)
DEIに関連する主な動き②(1990年~2018年)

上記のような流れがアメリカを中心にあったという事実を認識しておくことがDEIを推進していく上で重要です。特に1964年の公民権法・選挙権法・公平住宅法な法律がこの流れの一環で制定されている事が重要なポイントです。

一方で、「DEIの重要性を理解してもらえない」という事は日本からすると自然な事のように思います。日本には「差別を定義する法律」が明確でないからです。そのような法律が存在しない中、「DEIを推進しましょう」というのはビジネス目標と個人目標のどちらにも実体験ベースでの関連性が低い為、良いことだけれどもなぜそこにリソースを投下する必要があるのか?が理解できなくて当然のようにも思います。

1.なぜDEIが重要なのか

解答:ビジネス(顧客からの評価)にプラスであるから

DEIの導入には、従業員のエクスペリエンス向上やイノベーションの促進、意思決定の多様性、収益性の向上など、さまざまな利点があります。例えば、Deloitteが行った研究によれば、多様性と包含性に優れた企業は、ビジネス目標への達成率や顧客ロイヤルティが高くなるなど、ビジネスに直結する結果が得られることが示されています(参考文献1)。また、ボストン・コンサルティング・グループの調査では、ジェンダーによるダイバーシティが企業のイノベーション力と関連していることが明らかにされています(参考文献2)。

多様性ある経営陣はイノベーションを促進している

2.どうしたらDEIを推進できるのか

解答:データの収集と評価が重要

ここからはSHRM23カンファレンスで参加したDriving Diversity, Equity, and Inclusion with Dataのセッションでの学びも含めてインサイトを記載いたします。

どうしたら推進できるのか。まず端的な回答はデータを集める事、そのデータを正しく読み解き、解決策を考える事となります。例えば、従業員の多様性に関しては、人口統計データの収集やリーダーレベルやビジネスユニットごとの分析が有効です。公平性に関しては、給与や政策、慣行、手続きなどの評価が必要です。包括性に関しては、リーダーやアライ、同僚、クライアント、人事などの行動の評価が重要です。また、帰属感については、従業員の感情や主観的な評価を捉えることが必要であり、日本であれば従業員満足度調査・エンゲージメントサーベイなどがそのデータとなるでしょう(参考文献3)。

引用:Mattingly Solutions

3.DEI推進が失敗する理由

「人々は何も達成しない DEI 作業にうんざりしています。私たちは重要なことに集中し、自分たちが行っているすべてのことを測定可能な成果に直接結び付けることができるようにする必要があります。DEI にはメトリクスが必要です。目標が達成されなかった場合には、何かしらの意思決定が生じるはずです。これは、現在のほとんどの企業における DEI の取り組みとは異なります」と彼らは説明します。

引用:ミシェル・ペネロペ・キング, 多様性、公平性、包括性の取り組みが失敗する 3 つの理由」

DEIの専門化であるミシェル・ペネロペ・キングは、上記の様に「多様性、公平性、包括性の取り組みが失敗する 3 つの理由」という記事の中で述べています。これはまさに日本企業が直面する事象とも類似するのではないでしょうか(参考文献5)。

そこで、Mattingly Solutionsは以下の様に述べます。「一般的な懸念事項と対応策 DEIの導入には、いくつかの懸念事項が存在しますが、それらに対処するための具体的な対策もあります。例えば、アイデンティティグループ間の対立や反発に対しては、全従業員の声を聴くためのフィードバックメカニズムやフォーラムを設けることが重要です。また、法的なリスクに対しては、透明性と適切なコミュニケーションの確保が重要です(参考文献4)。

引用:Mattingly Solutions

DEI成功に向けて避けるべきことを纏めると以下の様な形になります。

  • 具体的かつ定量的な目標を定めない事

  • データの収集を怠ること

  • 特定のデータ・意見にのみ焦点を当てる事(女性、など)

  • 役員や管理職クラスなどのデータに拘る事

  • 過剰に分析し、行動に移さない事

  • 透明性を担保しない事

  • 結果を従業員にフィードバックしない事

4. DEI成功に向けて取るべきデータ

Mattingly Solutionsのアイデアによると、DEIの成功を測定する指標は様々なものが存在するとの事でした。

引用:Mattingly Solutions, DEIBを測定する
  • 多様性:労働力/従業員データ・管理職データ・採用率・退職率(ソース:HRIS)

  • 公平性:報酬・指針・取り組み・手続き(ソース:組織監査)

  • インクルージョン:振る舞い(リーダー・同僚・顧客・HR、等)・目標測定の指標(ソース:他者評価&観察データ)

  • 帰属意識:個人の価値観/感情・主観的評価・包括的な振る舞いの結果(ソース:個人アンケート)

上記の情報とその測定方法からして、DEIの成功に向けては多くのステークホールダーが存在することが分かります。具体的には、従業員とHRのみならず、組織のトップ並びにHRIS担当者(日本では給与計算担当になる事もある)などです。

5.従業員への問いかけ方

更に、「DEI成功に向けて、従業員へのサーベイの取り方も工夫が必要である」と述べられていました。

具体的な例としては、「私はチーム内で包括的な環境を作っています」という表現ではなく、「私の上司はミーティング中に発言するように私を促してくれます」という具体的な行動を示すことが求められます。これにより、包含性の実際の効果や改善の可否を評価することができます(参考文献6)。

引用:Mattingly Solutions, NG例「私はチーム内で包括的な環境を作っています」
引用:Mattingly Solutions, OK例「私の上司はミーティング中に発言するように私を促してくれます」


如何でしたでしょうか。DEIに関して更に理解を深めたいという方はぜひこちらもご覧になってみて下さい。最後まで読んで頂き有り難うございました。

参考文献:

  1. Deloitte, The diversity and inclusion revolution: Eight powerful truths,(2018)

  2. Boston Consulting Group, "How Diverse Leadership Teams Boost Innovation," (2018)

  3. Society for Human Resource Management

  4. Harvard Business Review, To Drive Diversity Efforts, Don’t Tiptoe Around Your Legal Risk, (2022)

  5. Forbes, "Why Diversity and Inclusion Efforts Fail and How to Make Them Work," (2021)

  6. 26 Best Diversity and Inclusion Questions For Employee Surveys, (2023)


著者紹介:松澤 勝充(Masamitsu Matsuzawa)

神奈川県出身1986年生まれ。青山学院大学卒業後、2009年 (株)トライアンフへ入社。2016年より、最年少執行役員として組織ソリューション本部、広報マーケティンググループ、自社採用責任者を兼務。2018年8月より休職し、Haas School of Business, UC Berkeleyがプログラム提供するBerkeley Hass Global Access ProgramにJoinし2019年5月修了。同年、MIT Online Executive Course “AI: Implications for Business Strategies”修了し、シリコンバレーのIT企業でAIプロジェクトへ従事。2019年12月(株)トライアンフへ帰任し執行役員を務め、2020年4月1日に株式会社Everyを創業。採用や人材育成、評価制度など、企業の人事戦略・制度コンサルティングを行う傍ら、UC Berkeleyの上級教授と共同開発した4カ月プログラムで、「日本の人事が世界に目を向けるきっかけづくり」としてグローバルスタンダードな人事を学ぶHRBP講座を展開している。

保有資格:
・Senior Professional in Human Resources – International (HRCI)
・Global Professional in Human Resources (HRCI)
・The Science of Happiness(UC Berkeley)
・DiSC認定トレーナー
・HR Management and Analytics: Unlock the Value of Human Capital(The Wharton School)
・ピープル・アナリティクス(authorized by the University of Pennsylvania)
・ポジティブ・サイコロジー・ワークショップ(Japan Positive Psychology Institute)、他

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