Diversity&Inclusion for Japan(番外編①)〜ゆるく学ぶD&IとDEI
※本ブログはあくまでも個人の見解です。
なぜ書くか
Diversity&Inclusion(ダイバーシティ・インクルージョン ※以下D&I)というコンセプトがビジネスの世界において重要になる中、日本に住む約1億人には世界的な最新の取り組みやトレンドを学ぶ機会が多くありません。Every Inc.では「HRからパフォーマンスとワクワクを」というビジョンを掲げ、グローバルな取組みやアカデミックな文献からD&Iに関する歴史、取組み、事例など”日本なら”ではなく、”グローバルスタンダード”な情報を提供しています。
とある一日…
(Masa)なんだかエイシンが話したいことがあるとかなんとか?
(Masa)
(Eishin)そうなんですよ。近年、「多様な視点は多様なアイディア・解決策につながる」ってことで、国内外で教育の場や企業でのダイバーシティ推進の重要性が説かれているじゃないですか。でも、コンセプト自体や導入すべき対策がピンと来ないのが正直なところだと思うんですよ。
(Eishin)
(Masa)え、何の話?
(Eishin)まささんが特集組んでる、D&Iのことですよ。横文字むずいし中々とっつきにくい話題だと思うので、まずはダイバーシティが「海外由来の輸入概念」ではない、日本でも身近なテーマであることを是非とも感じていただきたいなと!今回は、ダイバーシティにまつわる基本的な概念をいくつかピックアップしながら、僕が渡米・大学留学した際に衝撃を受けた、多様性にまつわるエピソードを共有したいと思っています。
D&Iとは何か
(Masa)お、おお。じゃ、じゃぁ、「D&I」ってなに?
(Eishin)D&IってDiversity&Inclusionの略なんですけど、直訳すると、多様性(diversity)を包含する(inclusion)って意味なんです。組織的な文脈では「すべてのステークホルダーの多様な能力、スキル、経験や文化的背景などの違い(=diversity)を尊重し、活かすことで最大限の成果を出すこと(=inclusion)」であると定義されてます。
目には見えないけど、思想や意見の違いなども多様性のひとつですよね。アメリカの職場におけるD&I推進の歴史は1970・80年代まで遡るんですけど、障害、民族、宗教、セクシャリティなどが職場や教育現場の研修で実際に扱われるようになったのは90年代以降なんです。
(Masa)へー。となると結構新しいコンセプトなんだね。
(Eishin)そうなんです。今では日本のビジネス界においても関心が高まってきているD&Iですが、同じく注目されているSDGs(持続可能な開発目標)にも、ジェンダー平等実現や(人・国間の)格差是正などが掲げられています。国連が提唱する「すべての人のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」の推進にD&Iは欠かせないんです。「すべての人のための」って言うくらいですから。
(Masa)言葉がきれいすぎて圧が強くない?
D&Iに代わる新しい概念
(Eishin)確かに、眩しすぎて目がムスカになりますね。あ、ちなみに最近は「D&I」に代わる概念も出てきているんです。
(Masa)D&ルフィ?
(Eishin)違います。DIBとDEIです。
(Masa)モンキー&D&ルフィ?
(Eishin)さっき「すべての人」なんて大それたこと言っちゃいましたけど、十人十色な人材を一所に寄せ集めれば事足りるのか?って言ったら、残念ながらそうじゃない。
さまざまな属性の認知・サポート拡大はD&Iの大前提として、D&Iの定義や実現へのアプローチも徐々に変化しているんです。Harvard Business Publishingの記事では、D&IにB (Belonging: 帰属意識・所属感)を足したDIB、つまり社会や企業の一員としての実感や扱いが重要だと強調しています。いろんな人が集まったところで、何となく馴染めなかったり居心地悪かったらしょうがないじゃないですか。ハブられるなんて、もってのほか。
(Masa)ハーバード。。
(Eishin)じゃあ、Belongingが生まれる環境とはどんなものなのか?自身の属性に起因する不平等や障害に晒されることなく、個々人が必要なサポートや均等な機会を受けられる、安全で公平な環境です。正直、世の中にはさまざまな経験や能力、価値観を持つ人たちがいる以上、衝突や軋轢は避けられないと思うんですよ。
だけど、積極的に格差是正に取り組まなければ、意図せずとも個人の属性に対してマイクロアグレッション(小さな攻撃性)や差別が起きてしまうかもしれない。だから今、海外ではD&IにE(Equity: 公平性)を加えたDEI という考え方がより一般的になってきていますね。
あくまでダイバーシティとインクルージョンは結果論であって、実際に重要なのは公平性、つまりすべての人が属性関係なく成長・貢献できる場を作り、維持し続けるプロセスなんだっていう。
D&Iにおける公平性とは
(Masa)ん、公平性?ってなに?
(Eishin)「公平性」って「平等」と混同されることが多いんですけど、一歩踏み込んだ概念というか。平等が「今日から差別はやめて、みんな同等の扱いをしよう」ということだとすれば、公平性は「人によって特権やハンデを持っていて、そもそものスタートラインが違う」のを念頭に、「みんなが同じ権利を享受できるよう、積極的に不平等や障害を取っ払う」ことだと思うんですよ。
長年の偏見や差別の積み重ねって、一朝一夕で無かったことにはできないので。格差是正の第一歩は、まず多様性を可視化して、その裏にどんな経験や苦労があったかを知ることが大事だと思うんです。
(Masa)Eishinは何か、そういうDEIに関連する経験あったmm?
(Eishin)ありますよ。自分語りになっちゃいますけど...。大学進学直後に起きた出来事を通して、ダイバーシティ可視化の意義をしみじみと感じましたね。渡米後1年間の短大時代を経て、念願のUCバークレーに編入できたんですけど、新入生歓迎会でインタラクティブな場面があったんです。理事や代表学生スピーチ、吹奏楽部を始めとする学生団体パフォーマンスとかの合間だったんですけど。
今までテンション高めの祝福ムードだったのが、急にまじめでちょっと厳かなトーンになって。「これから読まれる質問に該当したら、起立または挙手をしてください。抵抗のない範囲で大丈夫です。立ち上がったら、ゆっくり周りを見渡してみてください。」ざっと300人は下らない編入生で埋まった講堂で、次々質問が読まれていったんです。
(Masa)学校へ行こう的な?兄弟で仲悪いとか?
(Eishin)そんなポップなノリじゃないです笑 質問は「家族や親族内で初めて大学に進学できましたか?」「20代後半以降ですか?」「子育てと学業を両立していますか?」「女性と自認していますか?」「海外出身の方は?」「ミックスルーツの方は?」「目に見えない障害を持っている方は?」「見た目や自分の文化などで差別されたことのある方は?」「性暴力やDVなどを生き抜いた、サバイバーの方は?」など、結構ヘビーめな内容。
(Masa)えー、ちょっと強烈な質問。
(Eishin)ビビりますよね。まあでも言われた通りに時々立ち上がって、部屋を見渡してみると、意外と立ってる人いて。で、まずたくさんの仲間が居るってのが心強くてホッとしました。自分には関係ないカテゴリーでも、例えば隣の人が該当してて立ってるっていうインパクトはでかいし、少数派として名乗り出る勇気を間近で見るのはエモかったですね。
正直、今まで「目には見えない障害」ってピンと来なかったし、あと「この人もか、意外だなあ」とよぎった瞬間に、自らも他人を見た目で判断しているのだと気づかされて反省も覚えましたね。自分もハーフ+クィアなために色々で悩んできたというのに笑。
違いや個性が私たちを強くする
極めつけは、最後に読まれた「これらの違いや個性が私たちを強くする」、そして、「違いを超えた、学びたいという意志が私たちをつないでいる」っていう言葉。「ああ、この大学を選んで良かった」とちょっと泣けました。
(Masa)英語でいうと?ビー、ストロング?
(Eishin)ユナイト(unite=一体になる、団結する)って言ってたかな?正直当初は、ベイエリア、とりわけバークレーはアクティビズムが盛んな場所だから意識が高いのか、と思ったんですよ。
アメリカだからいろんな人いるんか、と。でも、よくよく考えるとさっきの質問のオンパレードに当てはまる人って、日本にもたくさんいますよね。同じ日本人を取っても、育ちとか性格とか、違いは星の数ほどあるし。アメリカでも日本でも、学びの場や企業など、生活の多くの時間を費やす場所で多様性を可視化することで、一人ひとりが自分らしくのびのび過ごし能力を発揮できるんじゃないかなー?って振り返りながら思います。
(Masa)はー。
(Eishin)だいぶ自分語りしちゃいましたね。要するに、マイノリティを含めたあらゆる属性を可視化することは、DEI実現のための重要な第一歩だって言いたかったんですけど。でも、その結果浮上した格差を是正しなければ、可視化だけしたところで全く意味がないし、ただのきれいごとになっちゃうのが難しいですよね。
公平性があって初めて、すべての人がディーセント・ワークに就けるようになるし、暮らしやすくなるんだと。今回、概念とかのふわっとした話とか個人的経験談になっちゃったんで、今後はコミュニティ・教育・職場・政策などのテーマに沿って、D&I/DEIの具体的取り組みをご紹介していきたいと思います。まささん、お付き合いいただきありがとうございました。
(Masa)あ、ごめん、宅急便きたわ!また!
<参考文献>
Start Here: A Primer on Diversity and Inclusion (Part 1 of 2), https://www.harvardbusiness.org/start-here-a-primer-on-diversity-and-inclusion-part-1-of-2/
The 17 Sustainable Development Goals (SDGs), https://sdgs.un.org/goals
What is Diversity & Inclusion?, https://kgdiversity.com/what-is-diversity-and-inclusion/
WHAT’S THE DIFFERENCE BETWEEN DIVERSITY, INCLUSION, AND EQUITY?, https://generalassemb.ly/blog/diversity-inclusion-equity-differences-in-meaning/
<画像引用元>
Our Refreshed Global Inclusion & Diversity Strategy, https://www.thecloroxcompany.com/blog/our-refreshed-global-inclusion-diversity-strategy/
Visualizing Health Equity: One Size Does Not Fit All Infographic, https://www.rwjf.org/en/library/infographics/visualizing-health-equity.html
著者紹介:松澤 勝充(Masamitsu Matsuzawa)
株式会社Every 代表取締役CEO
神奈川県出身1986年生まれ。青山学院大学卒業後、2009年 (株)トライアンフへ入社。2016年より、最年少執行役員として組織ソリューション本部、広報マーケティンググループ、自社採用責任者を兼務。2018年8月より休職し、Haas School of Business, UC Berkeleyがプログラム提供するBerkeley Hass Global Access ProgramにJoinし2019年5月修了。同年、MIT Online Executive Course “AI: Implications for Business Strategies”修了し、シリコンバレーのIT企業でAIプロジェクトへ従事。
2020年4月1日に株式会社Everyを設立。採用や人材育成、評価制度など、企業の人事戦略・制度コンサルティングを行う傍ら、UC Berkeleyの上級教授と共同開発したプログラム(HRBP養成講座)で、「日本の人事が世界に目を向けるきっかけづくり」を展開している。
(お仕事の依頼はこちらから)
https://every-co.com/#contact
近松瑛真(Eishin Chikamatsu)
東京都出身。University of California, Berkeley大学正規留学を通して社会学・LGBT学を学ぶも、結局学外に広がるアメリカ社会の全貌がつかめず。卒業後にキャンバシングを通して文化・教育・政治などにまつわる会話やエンカウンターを増やすことで、英語力アップ&理解を深める。ベイエリアの環境系NPOで営業・採用・ボランティアコーディネーターなどを兼任したのち、日本語を活かした仕事に就きたいと思い立ち方向転換、CCSF医療通訳プログラム首席卒業。現在は某シリコンバレー企業で日本市場の広告QAを勤めつつ、医療通訳・翻訳家、ときどきアクティビスト・オーガナイザー。日米ハーフでトランスジェンダー・ゲイ。
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