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HR豆知識㉗心理的安全性とは何か

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2021年7月22日。心理的安全性とは何か?というテーマについて、アメリカのUniversity of Central Floridaで博士号、専門はリーダーシップとチームワーク研究で早稲田大学の准教授である村瀬さんと対談セミナーを行いました。


なぜ、書くか

私含め、人事コンサルタントを名乗る人たちが提唱する「心理的安全性の追求の仕方」は、ほとんど本で読んだ内容をそのままなぞっているだけ(かもしれない)。私自身がアメリカのビジネススクールで学び体感したように、理論というのは表面的な側面を理解しただけでは学んだことになりません。一つの理論で半年考えるくらい、じゃないと本当のところを理解したとは言い切れないのです。

もっと客観的に、多面的に、本質的に「心理的安全性とは何か、なぜ必要なのか、何をしたらよいのか?」という事を学んでみたい、というほぼ個人の欲求から、村瀬さんと対談が決まりました。

当日の様子は弊社HPに今後アップされる予定ですのでご興味をお持ちの方はご覧ください。

想ったことを正直に伝えようと思いますので、ここからデスマス口調でなくなります。予めご了承ください。。。


まず、このテーマに興味を持ってくださった方、この3冊はお薦め。

図2

夫々、とってもいい本なのでぜひ読んで頂きたい。

1.「日本を知ること」が、この「心理的安全性」をきちんと理解する上で最も重要な要素だ。

図1

この心理的安全性の研究は主にアメリカを中心になされてきた。しかし、日本とアメリカでは、働く人・環境・文化は全くもって違う。組織文化の第一人者であるHofstedeのCountry Comparisonでは、日本という国がグルーバルで見てどのような文化を持つ国なのかが数値化されており、上記のグラフは、日本・アメリカ・中国・ドイツの4か国を比較したもの。そこから以下の事が"日本"という国に対して言える。

<"日本"という国の特徴概要>
① Uncertainty Avoidance がトップ:先活きの見えない不安を回避する傾向が4か国内で断トツに強い(リスクは?という組織的口癖。)

② Power Distance高い:最終的な責任が自分に来ないようにしながら、一方でその不平等な権力分配を受け入れる(ハンコスタンプリレーは面倒だけどやれば納得)※中国は最も高い

③ Masculinityが高い:男らしい(達成、英雄、自己主張、成功への物質)報酬を好む。社会全体が競争的。女性らしさは、協力、謙虚さ、弱さや生活の質への配慮を好むことを表すがその数値は低い。

④ Individualismが低い:"個"としての意識が低く、グループの一員としての意識が高い ※中国はもっと低い

⑤ Indulgienceは普通:「人生は自由だよ」的に甘やかす傾向は薄く、社会に強制されるケース(大学へ行かなくてはいけない、大きい企業へ行かなくてはいけない、離婚はしていけない、など)が多い為、やや皮肉的かつ悲観的



また、「④グループの一員としての意識が高い」という点においてはこのような特徴も言われる。集団主義と表現されることが多く、欧米諸国で見られるような"個を中心とした文化"ではなく、日本には"相互依存を中心とした文化"があるようだ。これもよくHR界隈でメンバーシップと表現される元の研究ではないだろうか。


図1

このような文化的な差異というものを詳しく勉強したい方、興味を持ってくださった方には以下の本をお薦めしたい。


2.学び"ながら"実行していく組織が今、強い。

テイラー主義と呼ばれる1900年~1920年頃のフォードの大量生産に特化した組織マネジメントを"実行する組織"と呼ぶ。これは、恐怖と不安でヒトをマネジメントする手法だったそうだが、これはこれでその時代の成功方法だったようだ。しかし、先活き不透明なVUCA時代において、市場競争に勝てる組織作りにはそうはいかなくなっているという事を名だたる企業の破産などが証明している、とAmyは述べる。一方で、成長成功を遂げている企業には一つの共通点があった。それが「学習する組織」だ。学習するというのは多様な意見をぶつけ合いながらより良いアウトプットを0から作り上げていく組織

学習する組織が一つの方向性であるからこそ、その前提となる心理的安全性が必要なのだ。

図4


3.心理的安全性を追求する前に知っておくべきこと

様々な方との会話の中で以下の様な声が聴かれる。


「このチームには心理的安全性がない、だから心理的安全性を作らなければ。リーダーはもっと謙虚になってほしい」


上記の主張が各方面からあるのも一定レベルで理解はできる。やる気のない上司、残念。ただし、批判非難するだけの人、もっと残念。「心理的安全性」という言葉や理論が、自己防衛の武器として使われてしまうのは少しずれている。


どのような組織でも、役割や責任がある。楽をしてすべてがうまくいく社会ではない。即ち、自分の仕事に対して自分の意志で努力し、成果を出そうと一生懸命になっている必要がある。仕事は自己の利益のみを追求するのみではないし、草野球ではないし、楽しければいいというわけではない。


なので、上司も部下も、メンバー個々人がプロフェッショナルとしての意識行動をしている事が大前提だ。言い換えれば、お金を貰って仕事をしている以上、その対価以上のものを発揮できているかどうかだ。それが出来ていれば認めてくれるし、メンバーの意見を聞こうとするだろう。


ちなみに、アメリカの方がもっとドライで厳しい。もっと上司と部下にも距離(格差)がある。実体験、アメリカで就職活動をしていた時は100通応募しても1通返事が来ればいいレベルだった。採用不合格連絡を丁寧に、そして全員にしてくれるのも日本特有の文化で"異質"なことだ。マネジメントチームには専用の部屋が用意されるがメンバーには共有スペースしかないという事もある。成果を出せていなくても解雇されない環境も、日本特有だ。


4.同時に、成果を出すことに対してやる気のないリーダーも残念ながら不要だ。


そして、(日本における)リーダーとメンバーの最大の違いは、意思決定権だ。「いいね、それで行こう」と決められるのはリーダーしかいない。メンバーに何かを期待するならまず自分から動くことが求められる。その上で、意見を求めよう。

・チャレンジングな目標を持てているか

・日々その目標に対して努力できているか

・その努力を継続しながら日々をより良く過ごしているか

これがリーダー自身が出来るか出来ないか、日本語で言えば要はやる気の問題だ。


5.全員が"We"の視点を持つ。

リーダーも日々学び、メンバーも日々学んでいく必要がある。リーダー、そしてメンバーの双方がWeの視点を持つことが何よりも大事。ここから始まって欲しい。かの前人未到のNBA3連覇を成し遂げたレイカーズ黄金期を支えたシャキール・オニールとコービー・ブライアントの会話は少し似た面白い会話。

シャキール:Hey, Kobe. There is no "I" in ”TEAM"(コービー。 チームという言葉のスペルに"私(I)"は存在しないんだぜ)

コービー:I know, but there is "M" "E" in that Mo**** Fu****(知ってるさ、でもME(自分)は含まれているだろう。くそったれ。)

(会場大爆笑)

個を尊重する欧米文化ならではのジョークではあるものの、"個"を尊重しながらも"We"の視点を持って動けるかがとても大事という事を学べる。


となると「良い目標とは何か」が次の論点になる「勝つ」という事に焦点を置いた目標がベストだと思う。私たちは勝つために努力をするのだ。

(組織においては、勝利が目標にならない、物理的に難しい非営利法人やコミュニティも当然あるが、何かを達成する事≒勝つことという風に私は捉えている)


私たちは勝利至上主義を時に過度に否定することもある。それは人間社会なので勿論当然だ。しかし、前述のコービーやシャキールも、友達になるために努力しているのではなく、勝つために努力しその過程の中で強固なチームワークと深い関係性を築いたのだろう。


制度を入れるかどうかはさておき、その目標の設定の仕方としてOKRの考え方は日本人にもとても共感されやすいものだと思うので、ご紹介。


6.リーダーは、メンバーの話を聞きながらチームにとってためになるヒントを見つけよう。


上記の前提がある中で、心理的安全性がない=人の意見を聞き入れないというのは問題と認定できる。


確かに優秀である(あった)リーダーは、自分の意見を持ち、是々非々の判断が出来るかもしれない。それはそうだ。あなたが一番優秀という前提のチームだから。だから話を遮り、「そんな意見は無駄だ」と切りつける。ただ、自分の意見は多くのバイアスが含まれている事を考えてほしい。そして、物事の正解は1つではないという事もリーダーはわかっているはずだ。


そんな中で、あなた以外の別の視点からの意見は宝ではないだろうか。リーダーの過去の成功体験・失敗体験を基にした学びを、更にブラッシュアップしてくれるヒントがそこにあるかもしれない。そんな気持ちでメンバーの話を聞けたら「それは無駄」とぶった切る必要性もない。


そして、意見を言ってくれてありがとうと言ってくれれば次の機会にはもっと良い意見が出てくるかもしれない。大事なのは「組織として、チームとして、最大の成果を挙げる事」だからだ。リーダーの役割は、それだけに尽きる。とはいえ、迎合して成果が出そうにない意見を取り入れる必要性も下駄をはかせる必要もなく、素晴らしいアイデアを出し合う事がすべて。それはガチンコ勝負だ。


7.トラブル時こそ、リーダーの器が試される。


どんな時も、業績が良いとすべてが正当化される(やすくなってしまう)。Uberなどの事例で業績の良さが故に組織内の暗黙知がハラスメントなどのネガティブな現象を水面下で推奨してしまったことを村瀬さんから教わった。「あのリーダーは、人間的にはだめだけど、ものすごく優秀だからしょうがない」という暗黙知だ。

この話は、留学中のリーダーシップの授業やこのブログの件でも触れているが、ぜひ組織のリーダーにも人事の方にも読んでおいて欲しい。


さて、このセミナーでは、あなたがリーダーで、あなたがメンバーから大失敗の報告を受けたらどう対処するか?という事を参加者の方に投げかけた。

毎日毎日ミスを繰り返し、毎日毎日指導をしていたらどうだろうか。これもすべては文脈次第で、どれだけ冷静に対処できるかはそのリーダーの器にかかっている。

高い心理的安全性を築ける良いチームのリーダーはこのように対処する。

① ミスとミスを報告したアクションは分けて考える。
② 怒られるかもしれないが報告してくれたこと(リスクを取って行動したこと)に対してポジティブな反応を返す。
③ 「言ってくれてありがとう。少し深呼吸してみよっか。このまま電話繋いだままでいいよ。心をお互いに落ち着けよう。…どう、少し落ち着いた?よし、じゃあ次のステップ。まずは●●さんも混乱したり不安だったりすると思うから、今できる事に集中して一緒に対策を考えよう」


なぜか。繰り返しになるがメンバーの学習を促すためだ。チームの心理的安全性とは、対人のリスクをとっても安全であるという、チーム全員の信念である(Amy C. Edmondson)と語られる定義の中では、組織の学習と個人の学習が欠かせない。即ち、この経験を単なるミスとしてリカバリーするのではなく、学びの機会として活用するマインドが必ず必要だという事だ。


誰しもミスはしたくない。性善説的にメンバーの事を信頼できるリーダーでなければ、まずリーダーから外した方が良い。

ちなみに、リーダーシップ(リーダーの振舞い方)には様々なスタイルがあり、一長一短である事も頭にいれておかなくてはならない。

図1


8.リーダーの「観察と傾聴と共感」こそ、学習できる組織作りに必要なスキルだ。


残念ながら、やる気のある社員だけが存在するとも限らない。仕事を投げやりにやった結果、大きなミスをしてしまったという事もある。その時には、断固たる決意で行動する事も重要だ。

どんなに優秀であっても、越えてはいけない線を越えてしまったメンバーにはきちんとした対応をしなければならない。日本ではアメリカのようにAt Willという前提がなく解雇が難しい為、アサインを変える事(異動)が現実的な施策だろうか。


となると、リーダーは3つの行動スキルが重要だ。

①観察

まずメンバーの事を知らなくてはいけない。どんな性格で、どんな経験で、何にやりがいをもって働いているのか、そして今何をしているのか、プライベートでトラブルは発生していないか、人間関係で困っていないか、その人となりを観察し、何が起きそうかを事前に予測しておくことは重要だ。

②傾聴と共感

これは専門用語で言えばアクティブリスニングと言われるものだが、特に共感の部分が大事だ。私が述べる共感とは、「変わり身の術」である。相手の立場や状況に自分を置き換えて、同じような経験や学びがなかったのかを考え、その時どうしたかを話せるスキルだ。

同じ経験はなくとも「感情」的なアプローチで言えば、「想像を絶するほどの失敗」や「悔しくて眠れない体験」などはいくらでも出せるだろう。それは別に仕事の経験だけでなくていいから。

このイメージをもっと具体的に持ちたい方はこのブログを読んで欲しい。



9.リーダーに対して、あなたができる事

最後に別の視点で感想を述べたい。セミナー中には「チームリーダーに対して、心理的安全性を作ってくれるようにどのように働き替えたらよいか」というご質問を頂いた。非常に良い質問で、村瀬さんとの対談を経て回答はこれだった。


あなたがリーダーを観察し、感謝し、良い行動を推奨しよう。


誰しもリーダーは一部の方を除いて「本当にこれでいいのか」と迷いながら頑張っている。もしかしたら、ヒトの意見を聞かないリーダーには、ヒトの意見を聞かずに成功してきた自負、または人の意見を聞いて失敗した経験があるのかもしれない。


そんな時は共感のスキルを駆使して、こう言ってあげて欲しい。

「●●さんが●●してくれたことが、本当にうれしかった」
「●●さんが●●してくれなかったことが、本当に残念で悲しかった」

行動心理学的には「オペラント条件付け」と呼ばれるもので、条件反射的な刺激がその後の行動に影響を及ぼすと言われるものである。

図1

https://theory.work/terms-operant-conditioning/


「学習できるチーム」を作っていこう。その為に、関係性を大事にしていこう。


腹を割って、1人の大人として、人間として、会話してみる事。これによって何かの扉は開けるのではないだろうか。そうなるとダニエルキムの成功循環モデルなどもつながってくる。



最後まで読んで頂き有り難うございました。
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著者紹介:松澤 勝充(Masamitsu Matsuzawa)

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株式会社Every 代表取締役CEO

神奈川県出身1986年生まれ。青山学院大学卒業後、2009年 (株)トライアンフへ入社。2016年より、最年少執行役員として組織ソリューション本部、広報マーケティンググループ、自社採用責任者を兼務。2018年8月より休職し、Haas School of Business, UC Berkeleyがプログラム提供するBerkeley Hass Global Access ProgramにJoinし2019年5月修了。同年、MIT Online Executive Course “AI: Implications for Business Strategies”修了し、シリコンバレーのIT企業でAIプロジェクトへ従事。

2020年4月1日に株式会社Everyを設立。採用や人材育成、評価制度など、企業の人事戦略・制度コンサルティングを行う傍ら、UC Berkeleyの上級教授と共同開発したプログラム(HRBP養成講座)で、「日本の人事が世界に目を向けるきっかけづくり」を展開している。



(お仕事の依頼はこちらから)
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