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新しい始まり

学校初日の朝、私の心は自分でも聞こえるくらい大きい音が感じられた。
昨日の夜は時差でか5時まで眠りにつけなくて、
不安と心配の気持ちを落ち着かせるために何度も自分と会話した。
座ってみたり、寝ることを忘れるためにラジオを聴いてみたり。
いつもなら、すぐに眠くなるラジオの音声も今日はなぜだか
全部聞けてしまう自分にやれやれと思う。
思い返せば、高校生の頃から何度味わってきただろう。

高校生で一人で海外寮での生活が始まった。
わからない言語、知り合いのいない場所、
ついていけないクラスと、やりたくもないスポーツ
何もかもが自分にとって苦痛で、全く私自身のスタイルではなかった。
ただただ毎日が終わることを願うばかりで。
日本に帰国するたびに、ホッとした。そして帰ってきたということは
まだ戻らないといけない現実に嫌気がさした。
もちろん両親や誰かに強制されてたわけではなく
行くと決めたのも、頑張ると決めたのも全部自分自身だ。
でもあの時はやることと課題に追われ
プレッシャーで何度も体調を崩して、
精神的に追い詰められていた。

目覚ましは1回。絶対目覚ましの前に目が覚めたし、
準備はできるだけ早く終わらせて、
友達に置いていかれないように、ご飯を食べるのも早かった。
そんな中で、自分の楽しみはアートのクラスだった。
表現することが好きだったし、作品作りの間は
不安なことを少しだけ忘れていたと思う。

そんな高校生活が終わり、大学生となった。
また新しい環境で、新しい友達と、新しい暮らし。

いつも飛行機の中は不思議な気持ちにさせられた。
なかなか眠れない飛行機の中は、いつも音楽を聴いていた。
思い出の曲が流れてきて、つい恋しい気持ちになる。
そんなことをしている間に目的地に到着する。

また帰ってきてしまった。
日常、そして日々の当たり前の生活が戻ってきた。

学校が始まる。

知らない人ばかりのクラス。
自己紹介はいつも緊張するから嫌いだ。
見た目で判断するのは良くないが、
海外の大学生はファッションにやる気がない。
みんなパジャマみたいだし、ラフな格好で来れるのは嬉しいけれど、
おしゃれだってしていたい。
日本のいわゆる大学生デビューみたいな人は誰一人としていなくて
流石に痛いと思われる人たちでさえも恋しくなる。


今になって思うこと。
日本人の当たり前は私にとっての特別でかけがえのないものだった。

夜中のコンビニ、冬はおでんを買い、夏はアイスを買う。
いくところもないのに、まだお別れしたくないから、
適当な理由でみんなで一緒にいる時間。

カラオケで朝が来るまでオールして、
へとへとになって帰ってくるお家とあったかい湯船。

アルバイトだってしたいし、
居酒屋で飲みにも行きたい。

ナンパにうっかりついて行ってみたり、
男女グループで盛り上がりたい。
いつか若気の至りだったな。と思えるような
馬鹿なことだってしたい。

エモいという感情がどこにもない生活は
なんだか少しだけ物足りなくて、
ずっと海外に憧れてた私はいつの間にか、
日本の大学生に憧れる女の子になっていた。
人間ないものねだりだというが本当にそうだと思う。

自分のないものを数えるのはあるものを数えるよりもはるかに簡単で。
辛かった時は抜け出したいと必死で思うのに、
何もない平凡すぎる毎日には飽きが来るということも事実だと思った。

そんな妄想と少しの逃げを頭の中で作り出しながらも
今日もまた学校に向かう。
清々しいほど天気が良くて快晴。
私の頭の中のシーンは朝から電車に揺られて、
現実はバイクで向かう。電車なんてないし、そんなの信じたくもない。

私の頭の中の妄想はいつだって、少しの寂しさと孤独を感じる
大学生が一緒に今を楽しむこと。
めいいっぱいの青春を追いかけてみる。

そんなことを考えることもいつかは無くなってしまうのだろうか。
それとも、私の今の現実には、そんなものさえ存在しないのだろうか。


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