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セックスをする時、人は何かを捧げている『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記』

やあ、僕だよ。

そろそろ浮上していきたいという思いと実際の心身の追いつかなさのギャップが久々に沁みて、「ああ、僕ちゃんと生きているなぁ」なんて見当違いな感想が浮かんだよね。

「ちゃんと生きて」いるなんて意識もしたことない君は、きっと今までいつも、今や未来や過去を大事にして「ちゃんと生きて」きた人なんだろう。

僕はそういう人たちがすごくすごく羨ましいし、自分の劣等感の根本はそこにあると思う。
だからそういう人たちを見つけると僕は贔屓してしまう。劣等感が刺激されるのに惹かれるのをやめられない。

実は、今回の一冊は「ちゃんと生きて」いる人は出てこないんだ。
僕みたいな人間にとってはぬるま湯のような居心地の良い話だったよ。読みながら「浮気は悪いこと」だとぶち怒られた時を思い出したから少しだけ書いていくね。

度々入る下ネタで恐縮だけれど、今日も楽しんでくれると嬉しいよ。
さあ、始めようか。

本作あらすじと感想

タイトルそのままの話、僕があらすじを書くまでもない。
が、この本の見どころは内容云々より、主人公が出会った男性たちの懐に飛び込むやり方が実にスマートなところや、そのスマートさが生み出す出来事が何とも言えない湿度高めな暗い気持ちを起こさせる。

最終的に主人公は不特定多数の若い「イケメン」たちとヤりまくるし、エピローグではその「相手選びすら雑になって」きているのが窺い知れ、更に暗い気持ちになるのだが、絵柄が爽やかなので深刻になりすぎないのもまた良いところだろう。

ヤリまくり体験告白(コミック)エッセイの類は男女問わずレビューが荒れがちであるが、このコミックエッセイを読んで「自慢だ」と感じる人たちはずいぶん「ちゃんと生きて」いる人なのかもしれない(が、自分も同じような経験をしている人が同族嫌悪しているパターンもなくはない)。

こんな可愛い人がマッチングアプリで来たら僕だって何とかして家行こうとするしあわよくばと思っちゃうわ。

なお、松本千秋先生はnoteもやってらっしゃるようです。
可愛い人は絵も可愛いんだなぁ。眼福眼福。

僕は捧げられる側の人間

10代の頃の僕は優れた容姿(と思い込んでいた)と知的な会話(と思い込んでいた)で老若男女からモテまくり、調子に乗りまくっていた。
モテなかったのは子どもと動物くらいだった。

今思えば僕がモテた理由は全てにおいて標準的な身なり、加えて若さと手軽さと人なつこさ(あるいは顔色を伺うスキル)が理由なのだが、若者特有の偏った視点や引き出しのなさが僕を暴走させていたのだ。

色んな人に好かれていると、色んな人と恋仲になるチャンスがある。
僕はあの、「イケるな」の瞬間が大好きだった。単に好かれているだけでなく、相手が相応の捧げものを僕に差し出す瞬間。
その捧げものは色んな形で僕を愛してくれる。生来より会話を無視されがちだった僕はその愛がたまらなく魅力的に思えた。

が、特定の相手と付き合っていると後から「イケるな」の瞬間に出くわしても取り逃がしてしまう。
なお、この「イケるな」には僕の愛が入っているとは限らない。あくまでも相手の愛を受け取れる瞬間だというだけで僕から何かを捧げる必要はなかった。

何故なら僕は可愛くて賢くて愛されるべき存在。
僕と一緒に過ごすその時間こそが彼ら彼女らにとっての喜びなのだから。

浮気をすると何で怒られるのかを理解していなかった

愚かながらも、知識としては「浮気をすると怒る人がいる」くらいのことは分かっていた。
恋愛を覚えたての頃はきちんと別れてから次に行くプロセスを踏んでいたが、その内、僕も相手も愛を捧げ合う付き合いだけでは物足りなくなり、一方的に相手からの愛を捧げられる付き合いもしたくなった。

要するにつまみ食いである。

本能的にそれぞれの相手に僕の愛を同じ分だけ捧げると面倒なことになると気付いていたので、それはしなかった。
僕に愛を捧げられるのは、僕が愛を捧げないことを了承している相手のみにした。

サブには「本命がいる」と告げていたが、本命には何も告げない。あの頃の僕はこれが精いっぱいの譲歩だと思っていたが、何とも不誠実極まりない身勝手なヤツである。

携帯を三台持ち、彼ら彼女らにすべてを支払ってもらっていた。
美味しいものをたくさん食べ、色んな場所に連れてってもらい、知らないことをたくさん教えてもらった。
この辺りの傍若無人な振る舞いに罪悪感を覚えた時期もあったが、今では良い経験をさせてもらったなという感想しかない。

実のところ、僕自身も彼ら彼女らに捧げものをしていたからだ。

イタすぎる僕は痛い目を見た

夫より以前に結婚を唯一考えていた、当時付き合っていた恋人(モラハラバツイチ年上)にサブの存在がバレた。
思った以上に大きな声で怒られ、携帯を2台解約(名義は僕だった)させられた上に端末をぶち折られ、一日中こんこんと説教された。

彼氏のことは大好きだったので殊勝な態度でその場を丸く収めたが、正直なところまったく納得いっていなかった。

何故僕はこんなにも怒られているのだろう。
たかがセックスを一度や二度や三度(何度か覚えていない)したくらいで僕らの愛は何も変わらない。
むしろ、こんなにたくさんの愛を捧げられている僕が彼氏にだけ愛を捧げていることに優越感を覚えてもいいくらいではないか。

驚くべきことに僕は当時本気でそう思っていたのだ。
そんな僕の心の内を知る由もなく、その夜ラブホテルに入った頃には彼氏の態度はかなり軟化していた。

飽き性ちゃんのすべらない話(居酒屋限定)

浮気関連以外であまりケンカをしない間柄だったので、仲直りセックスもその時が初めてだった。
当時つるんでいた悪い大人たちから「仲直りセックスは燃えるぞ」と教えてもらっていたのですごく期待していた。

彼氏が風呂を準備している間、僕はいそいそと服を脱ぎつつ、カバンの横に丁寧に畳んで置く。彼氏の服も同様に畳んで殊勝な態度を演出しようとした。

ふいにカバンの中の通知に目が入った。
唯一解約されなかったメイン端末にサブ1からの連絡が来ている。解約された回線に連絡を入れても繋がらなかったので心配して連絡をしたのかもしれない。

その時、何を思ったかサイレントモードを切ってしまった。
多分怒られたくない気持ちが焦りを生み、メンタル激弱な僕はポンコツな行動に出てしまったのだ。

そうして狙いすましたかのように電話がかかってきた。
高らかに鳴り響く着信音。当時は着うたが流行っていたが、メイン端末は味気ない電子音だったように思う。

僕はびっくりして、その電話を切った。

「ねえ、誰からの電話?」

冷ややかな声はその日一番の怒りの色を含んでいて、その声に体温がすうっと下がった。にもかかわらず、汗が噴き出てくる。
人間、最高に追い詰められると自律神経がおかしくなるみたいである。

「誰だろう、分からなかったな」

いや、本当は分かっている。
メインには登録していないがぶち折られた端末で何度も長電話した相手だ。

「まあいいや、座りなよ」

彼氏はすでにベッドに腰かけていたので、僕はその隣に座ろうとした。
そんな僕に彼氏は不快感を隠そうともしない。

「何で?床だよ、床」
「え?」
「ゆ、か!!」

僕は池袋の古いラブホテルの床に正座した。
汗でますます体が冷える。まあ、その時すでにパンイチ(パンツ以外は全て脱いでいた)だったから汗で張り付くような布はなかったのだけれど。

「それで、土下座するよね」
「ああ…そうだね…」
「何食わぬ顔でさ、俺を騙せると思ったの?」

その質問には答えなかった。
騙すも騙さないも僕にとってセックスは取るに足らないことで、怒られる謂れもない。が、「浮気が相手を殺したくなるほど嫌な人もいる」ということだけは分かった。

ちなみに、「相手を殺したくなる」の「相手」とは僕のことである。念のため。
あそこまで「あ、殺されるな」と思ったことはない。本当の殺意に触れた僕は人間の生態について一つ見識を深めた。

そうして僕はラブホテルでパンイチの姿のまま土下座したのである。

夫も僕も浮気容認派だが浮気しないのは何故か

それは不倫になるからである。
夫婦ともなると法的な問題や責任の話になりがちだ。つまるところ、面倒なのだ。

例えばスワッピング等のえちちな趣味を事前の約束ごとや信頼の上で他人を交えて楽しむことも出来るが、僕らはしない。
僕らは約束ごとや信頼を築けるようなコミュニケーション能力を持ち合わせてないし、そもそもタイミングによって悪用出来てしまう関係を保つ労力を割きたくない。

大体僕ら、若い頃遊びすぎて今そんなに欲さなくなってしまった。
もはやその事実に悲しい気持ちすら沸かない。夫は知らないが、僕に限ってはそういうことをするのは夫だけで必要十分である。

第一、捧げられるだけの愛なんてないのだ。
僕は確かに大きなものを彼ら彼女らから受け取っていたが、無意識の内に、ほんのわずかでも、彼ら彼女らに捧げていたと今では思う。

若い頃のように雑な生き方をしていないので、そう簡単に僕のモノを捧げることは出来かねる。
夫だけで必要十分になってしまったのは僕の性欲が枯れ切ったせいではなく、誰ぞ知らない魅力的な人に捧げられるものがなくなってしまったからに他ならないのだ。



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