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読了!石田衣良「てのひらの迷路」


《粗筋》
二十代の頃の恋愛、作家デビュー、そして母との別れ……。川端康成の「掌の小説』に触発された著者が「ささやくように」書きつづった、美しく、ちいさな二十四の物語。私小説のような味わいを持つ掌篇のストーリーと切れを楽しみながら、人気作家の素顔を垣間見ることができる、あなたのための特別な一冊。


《感想》
物語だったりエッセイだったり。
各短編の前になんでその物語を書こうと思ったかが書いてあったので、物語に入り込みやすかった。


《引用》
「歌舞伎町を歩いてると、背広着たいい年の大人が、人のことを指さすの。見ろ、あのばけもの、あんなのがいるから日本はダメになるなんて、大声でいってさ。わたし、あんまりくやしいからJRの改札までそいつのこと追っかけて、いってやった。誰が、あんたに迷惑かけたんだ。わたしの目を見て、もう一度いってみろって。で、おやじってそういうときには、おどおどしちゃうんだよね」(P239)

初めての長篇だから、何度も手をいれて直したのだが、最後の五十ページは読み返すたびに泣いてしまった。ぼくは自分の本で泣けるくらい単純な人間なのです。この掌篇集でもいくつかじわっとしてしまったものがある。(P285)

この掌篇集の最初の一篇は、ほぼ実体験です。深い昏睡状態で病院に収容されたのは、ぼくの母でした。数字の書かれたホワイトボードも実話。いつか小説を書くことになったら、この数字のことを書こう。集中治療室の外のベンチでフリーターのぼくはそう考えていたのだ。だから、この本は今はなき母.石平貴美に捧げようと思います。さよなら、おかあさん(P305)

(2022/1/4)

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