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読了!石田衣良「目覚めよと彼の呼ぶ声がする」


《粗筋》
現代を鮮烈に描き、絶大な支持を集め続ける石田衣良の刺激に満ちたエッセイ集。恋愛、東京、子供、音楽、時事、そして文学――。あらゆるテーマに対し軽やかに、かつ鋭く切り込んでいきます。自在の作風をもつ石田衣良を形作ってきたものは何なのかを窺い知ることのできる、必読の1冊。語りおろしインタビューを新たに収録。


《感想》
定期的に読む衣良先生のエッセイ。
こんなに素晴らしい価値観を、何年間も石田衣良作品を読み続けて自分の中に落とし込んでいる事実と、これからその価値観で生きていけることが嬉しくて仕方ない。



《引用》
多彩な調理法で食事を楽しむことができるのは、人間だけだという。セックスは動物だってしているけれど、それをパートナーといっしょに、いろいろと変化をつけて楽しめるのは、やっぱり人間だけなのだ。フェティシズムや変態だって、もう立派な文化なのである。(P40)

ぼくたちは仕事に勉強と、いそがしさに追いまくられるように日々を生きている。そんな細切れの砂のような時間のなかで、「ああ、自分は今生きているんだ」と実感できる瞬間は、ほんのわずかなものだ。セックスや恋愛は、その最高のモーメントで、人生のご馳走なのだ。くわず嫌いはよくないし、すぐに飽きるのもよくないよ。おいしくなかったら、おいしくたべる方法を考えよう。セックスについて、ぼくがおすすめするスローガンは簡単だ。
「好きな人とたくさん」
(P41)

ぼくは浴びるように本を読み、音楽を聴き、映画を観ていた。月に五十冊ならすくないほうだった。活字はどんなジャンルのものでもひたすら愉快で、ページを離れて目に吸いこまれていくようだった。毎日千ページ以上を読んでいた時期もある。あのころの力まかせの読書が、現在の仕事にどれだけ役に立っていることか、はかり知れないものがある。五年間の大学生活が与えてくれた自由な時間が、結局は卒業証書や就職という形ではなく、ぼくの人生を決定してしまったことになる。学生時代はどんな可能性を秘めているかわからないほど、尊いものだ。みんな、遊びながらでいいから、自分だけのなにかを探し続けてください。(P90)

小説のなかではかなり細かく池袋の細部を書きこんできた。現代の東京が持つ危険さ、もろさ、美しさ。それにこの都会で時代の風を切って生きている無数の人たち。確かに厳しい時代かもしれないが、ほとんどの人はそれなりの病いや傷を抱えながら、なんとかしぶとく生き延びている。ぼくは逆風のなかでも、まえむきに生きている普通の人が好きだ。(p121)

身の丈にあわないものばかり欲しがる生活が慢性化していませんか。これからは誰もが同じ速度で幸せになることはないだろう。逆にいえば、誰にも強制されずに幸せの形を自分好みのペースで追求できる時代なのだ。どんな弱者にもそれなりの幸せがある。でこぼこかもしれないが、その形をさらに歪めるような余計なお世話はやめてもらいたいものだ。(P152)

ぼくは大学を一年留年して、卒業後はフリーのアルバイトで何年かすごした。二十代の十年間は自分が一生をかける仕事を探すために棒に振ればいいと思っていた。だって人間の一生などどうせたいしたことはないのだ。社長もホームレスも変わらない。一流企業でおおきなプロジェクトを手がけなくても、一冊百円の古本を読み、天気のいい日は公園のベンチで昼寝するだけで、ぼくは十分しあわせだった。(P198)

もっと本を読んで、自分なりの世界観や教養をつくりあげていければ、それは最高の学生時代のすごしかたなのではないだろうか。ちいさな声でいうけれど、受験勉強なんてそこそこでいい。青春をたっぷりエンジョイしながら、一日百ページは本を読もう。おもしろくて、ためになる、それに意外と成績だってよくなるのだ。(P204)

(2021/8/16)

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