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読了!よしもとばなな「デッドエンドの思い出」


《粗筋》
つらくて、どれほど切なくても、幸せはふいに訪れる。かけがえのない祝福の瞬間を鮮やかに描き、心の中の宝物を蘇らせてくれる珠玉の短篇集。


《感想》
染みる。
俺はこういう温かいのが好き。
個人的に好きな表現が多い点も良かった。


《引用》
彼の気の優しさ、育ちのよさはいっしょに町を歩いているだけでよくわかった。たとえば公園を歩くと、風に木がざわざわ揺れて、光も揺れる。そうすると彼は目を細めて、「いいなあ」という顔をする。子供が転べば、「ああ、転んじゃった」という顔をするし、それを親が抱き上げれば「よかったなあ」という表情になる。そういう素直な感覚はとにかく親から絶対的に大切な何かをもらっている人の特徴なのだ。(P12)

食後の甘いものって、夢があって、人を幸せにすると思ってる。(P32)

「…今から、作りに行こうか?」
私は言った。
「材料費は岩倉くん持ちね。」
「いいの?」
「いいよ。」
これはもう、セックスしてもいいの?、いいよ、というやりとりと何も違わないことを、私たちはわかっていたと思う。(P34)

「でも、男は、穴しか見えないの。どんなにきれいにお化粧した人でも、どんな服を着てても、どんな普通の会話してても、この人の、奥のほうにも穴があるんだ、あの湿った、いやらしい穴が、としか考えないわけ、一点しか見えないんだ。一回そう思い始めると、もうそのことしか考えられない。」(P38)

小さなライトだけをつけて、私たちはその夜、一回だけセックスをした。ずっと黙って、ものすごくいやらしいセックスをした。彼のていねいなやり方は私の感じ方を根本的に変えていった。彼は私の体をていねいに検分していって、どこをどうしたらいいのか調べているような感じだった。彼が興奮を抑えてそうしているのがまたいやらしくて、私ははじめて人の見ている前でいってしまった。(P40)

家族のことで傷ついたことがない人なんて、この世にはひとりもいないということも、もうさすがにわかってきた。自分は全然特別ではなくて、みんなそれにうまく対処したりできなかったりの差があるだけで、いずれにしても家族に慈しまれはぐくまれて、その反面家族というものに規定されてしまうのが、人間っていうものなんだ、と私はさとった。(P88)

この世の中に、あの会いかたで出会ってしまったがゆえに、私とその人たちはどうやってもうまくいかなかった。でもどこか遠くの、深い深い世界で、きっときれいな水辺のところで、私たちはほほえみあい、ただ優しくしあい、いい時間を過ごしているに違いない、そういうふうに思うのだ。(P134)

「どうして私が?どうして私だけにこんなことが?」という身を裂かれるような疑問を、今日も世界中で大勢の人が発している。そう、神様は何もしてくれない。(P177)

「やっぱり閉じ込められるっていう感覚を思い出すのは本当のこと言うと、いやかもしれないなあ、今でも。女の人でたまにそういう感じの人がいると、本当に大嫌いになっちゃう。いつでもいっしょにいないとだめな人っていうのかな本当に苦手」(P212)

(2021/8/23)

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