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『爆上戦隊ブンブンジャー』の1クール目を見終えて〜所詮は先輩方に頼らないと持たせられなくなって来ているスーパー戦隊シリーズの致命的欠陥〜

『爆上戦隊ブンブンジャー』がちょうど全開の「ゴーオンジャー」とのコラボ回で1クール目を終了したわけだが、はっきり言ってこの出来では現在のところ良くてC(佳作)以上の点数をつけることはできないのが正直なところだ。
やはりパイロットの出来があまりにも良すぎたが故に私もとんだ買い被りをしていた部分もあったのだが、冨岡淳広をメインライターに抜擢した時点で何となくであれこんな風になるのは目に見えていた
しかもまだキャラ立ちや作品としての個性が明確に立ちきっていない段階での車戦隊の客演……一体誰向けに作っているのだ?と怒鳴りたくなったのだが、SNSを見るとほとんどが能天気に絶賛している。
スーパー戦隊のファンの知性の低下・衰退は今に始まった事ではないのだが、『海賊戦隊ゴーカイジャー』が悪い意味でのスーパー戦隊シリーズの分水嶺となってしまったのではないかと思う。

それは何かというと、所詮は先輩方との客演に依存しないと番組を持たせられなくなってしまっているというスーパー戦隊シリーズの致命的欠陥である。

別にヒーローの客演そのものが悪いと言いたいのではない、そんなものは70年代の『帰って来たウルトラマン』『仮面ライダー』からあったことなのだし、殊更に今のシリーズに固有の問題というわけでもない。
昔の第二期ウルトラにしろ昭和ライダー(正確には平山ライダー)にしろ、毎回ではないにせよ先輩ヒーローとの夢の共演に頼って作品作りをしていたことは当時から批判されていた問題の1つではあった。
特に昭和ライダーの中でもスカイライダーは現役のライダーが既存の先輩ライダーからの猛特訓を受けて強化されるなんて話まであったし、ついこないだまでYouTube配信をしていた「仮面ライダーX」でも先輩ライダーが現役ライダーを強化しているのである。
しかし、昔の作品は(全部が全部ではないにしても)ある程度作品としての個性・カラーが確立された上であくまでも先輩との共演を「作品を面白くするための手段」としてのみ使っており、客演そのものが目的ではなかった

その点スーパー戦隊シリーズはどうだったのかというと、基本的には「VSシリーズ」という番外編のオリジナルビデオにおいてのみ客演回が許されていて、本編にまで先輩ヒーローが出てくるということはほとんどなかったのである。
例外は『高速戦隊ターボレンジャー』の1話だけだったが、あの時はまだ『秘密戦隊ゴレンジャー』『ジャッカー電撃隊』が公式のスーパー戦隊シリーズに含まれていなかったこともあり、例外中の例外として見た方がいいだろう。
それがいつからか「客演自体が目的化した」わけであって、その分水嶺がまさしく『海賊戦隊ゴーカイジャー』であり、ウルトラシリーズが『ウルトラマンメビウス』、ライダーシリーズが『仮面ライダーディケイド』だったのではないだろうか。
いずれも共通しているのがシリーズとしての体力がなくなってネタ切れ感が香り出している段階での奥の手として出した感じはあって、経緯がどうあれテレビシリーズ本編でそのような「夢の共演」の大判振る舞いをしてしまったらある種それは最後の打ち上げ花火だ

あえて濁し気味に言いますが、
これから幕を開ける新たな戦隊の時代を
大きく前に進めてくれたことは間違いありません

これは今後「あ〜、吉川が言いたかったのってこういうこと!」となる日が来るはず…!
さて、ゴーオン回をやるに際し呼ばれたのは
ゴーオンジャーのパイロットを演出された渡辺監督。
うむ、この人以外にはあり得ません。
そして脚本家は古怒田健志さん。
古怒田さんは当時のゴーオンジャーの脚本も担当されていた方です。
つまりスタッフの布陣は完全に2008年。

こんなことをブンブンジャースタッフの吉川史樹はハイテンションで能天気気味に書いているが、客観的にも主観的にも恥晒しの文章になってしまっていることに気付いていないのであろうか?
特に「これから幕を開ける新たな戦隊の時代を大きく前に進めてくれたことは間違いありません」という一文は言い換えれば「現役の戦隊は先輩の客演に頼らないと前に進む力を持たない脆弱なシリーズ」と取られてもおかしくないのである。
穿ち過ぎではないかと思われるかもしれないが、せめてやるなら「VSシリーズ」という年一の夢の共演の舞台があるならそこでやればいいのに、なぜわざわざここでやる必要があるのか全くわからない。
しかもこういう回を作ったことから2クール目以降のどこかで『高速戦隊ターボレンジャー』『激走戦隊カーレンジャー』と共演するであろうことは想像に難くないが、そこまで手を染めたらシリーズ物として終わりであろう。

なぜ12話という1クール目の節目の大事な回をこんな先輩に花を持たせる形での客演回として消費してしまったのかはわからないが、この1クール目の総評は決して芳しくないものなのに客演回を中途半端にぶち込んだせいで更に悪印象である
これがある程度シリーズとしての土台が完成し、ブンブンジャーの個々のキャラクター性とアクション、そして悪の組織たるハシリヤンの魅力が固まりきった3クール目以降とかであればまだ納得できなくはない。
しかし、土台がきちんと固まりきっておらず掘り下げも十二分にできて作品としての魅力・個性をきちんと打ち出せているとはお世辞にも言えない段階で客演に頼るのは悪手以外の何物でもないだろう。
それにもかかわらずネットでは能天気に「ゴーオンレッドが出てくれた!」とまるで上を下への大騒ぎみたいにはしゃいでいるものだから、なおさら溜息が出る他はない。

以前に評価を書いた『デジモンアドベンチャー:(コロン)』がそうであったが、メインライターの冨岡淳広は立ち上げの段階のキャッチーな男心をくすぐるものを導入するのは上手い人だが、同時にそこから先がない
そこが上原正三・曽田博久・井上敏樹・浦沢義雄・小林靖子ら歴代の中でも凄腕の名脚本家との圧倒的な実力の差であり、要は初速だけは凄いがそこから先の年間の構成をきちんと持たせる持久力がないのだ。
だから初期の数話まではそのキャッチーさで誤魔化せたとしても、長年続いてきたスーパー戦隊シリーズの個性と歴史の前に簡単に敗北を喫してしまい、直ぐにでもガス欠を起こしてしまう。
特に8・9話に関してはそれこそスーパー戦隊シリーズの永遠の課題の1つである「公的動機と私的動機の衝突」「メンバー間の信頼関係=団結」という最も根深いテーマを扱った前後編であった。

ここに関してもやりようによってはもっと根深く掘り下げた上での劇的なチームヒーローとしての変化・ステップアップに出来たであろうに、そこの掘り下げが中途半端なまま何故だか全員大也について行く形になってしまっている
大也が持つ「夢=私的動機」と「世界を守る=公的動機」のバランスが他のメンバーたちは信じられなかったという簡単に答えの出る問題ではないのに、何故だか全員が具体的な洞察や決定的な場面すらないまま大也をマンセーする形となった。
深刻な話題に突っ込んだ結果墓穴を掘ってしまい、作品そのものが瓦解しかねない」というとんだ失敗作のセオリーを地で行く形となったわけであり、ここがうまく出来なかった時点で「ブンブン」に対する評価・信頼は失われている。
それだったらいっそのこと現在配信中の『激走戦隊カーレンジャー』みたいな論点ずらしそのものをコメディにする流れにしてしまえばいいのではないかという向きもあろうが、それもそれで別の技巧が必要だ

「カーレンジャー」は実はシリーズとしてはめちゃくちゃ危ない橋を渡っているのだが、それでも「戦隊ヒーローそのものをバカにしない」という既存のシリーズに対するリスペクトはきちんと持っていた。
構成の面ではのちの「メガレンジャー」「ギンガマン」に繋げていくための仕掛けを凝らしながらも、戦隊シリーズのお約束や文法・形式自体は実は丁寧に遵守している
だからこそ不思議コメディーシリーズとの「混ぜるな危険」が何とか成り立ったわけであるが、しかしそれとて終盤ではやや破綻気味になってしまったところもある。
パロディするならするにしたってそれ相応の技術と筋の通った土台・演出・音楽・カメラワークといった「世界観」の見せ方は絶対に必要だ。

そこに失敗してしまった上で根幹の問題から目を反らし、明らかに躓きがあった部分をろくすっぽフォローすらしないまま安易な先輩戦隊との共演でお茶を濁してしまう。
パイロット感想で「この作品の出来如何で今後のスーパー戦隊シリーズの10年が決まる」という趣旨のことを書いたが、それはどうやら悪い方向での10年になってしまいそうだ。

少なくともこの1クール目全体の出来はC(佳作)100点中60点であり、やはり9話で大きく失点してしまったのが後々のクオリティーに大きく影響しているだろう。
その失墜を覆すことができればいいのだが、まあでもここ数年のシリーズでもそれに成功した作品はないのだから、あまり大きな期待はできないししない方がいい。

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