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新戦隊『爆上戦隊ブンブンジャー』パイロット感想〜いつでも過去の名作を見られる状況で同じ車ネタをやる難しさ〜

新戦隊『爆上戦隊ブンブンジャー』の1・2話を見たので軽い感想を書いていきますが、とりあえず「ドンブラザーズ」「キングオージャー」よりは画面がスッキリまとまっていて見やすかった
それがすごくよかったところで、近年というか、2010年代以降のスーパー戦隊はとにかく1話から詰め込む情報量が多過ぎるせいで見る側としても、それから作り手としても余裕が感じられない。
その点で本作のパイロットはまず基本に戻って「3人戦隊」というところからスタートして、必要以上に玩具販促に阿るわけでもなければストーリーを凝り過ぎているわけでもないというバランスは良し。
むしろ今までのスーパー戦隊がやたらに詰め込め詰め込めだったので、そういう方向性を廃止してきちんと引き算して本当に必要な情報量だけに絞って見せてくれたというのは好感度が高い。

脚本家の富岡淳広は『勇者エクスカイザー』をはじめ男児向けアニメで長いことキャリアを積んできた人なので、少なくとも下手など新人脚本家よりは「わかっている」なと思う。
ここでいう「わかっている」とは男の子のロマンというか「こういうのを男の子は好む」というツボの抑え方をきちんとわかっていて、それがしっかり活かされている。
最初はデザイン面も含めて心配だったのだけど、じっくり見ていくと意外にも動くとカッコイイし、何より「車」というのはやはり「絵作り」がとてもしやすい題材だなと。

かつて、ゴダールは「男と女と車さえあれば映画なんて撮れる。そうでなければならない」というようなことを言っていたが、本当に「車」って映像作品で一番「映える」ものの1つである。
あらゆる乗り物の中でも「車」って出てきただけで面白いし、だからこそ古今東西無数のカーアクションものが作られてきたというのもあるので、そこはまあ良しとしよう。
それに、個人的好感度はともかく「ターボレンジャー」「カーレンジャー」「ゴーオンジャー」と車戦隊は子供との相性も良く人気も高いので、最初の不安は払拭されている。

とはいえ、では諸手上げて100点満点あるいはそれをはるかに超えるような雷に撃たれたような衝撃が体を貫く程の衝撃・驚きがあったかというと答えは「否」である

何故かってちょうど今YouTubeで車戦隊の怪作である『激走戦隊カーレンジャー』が配信中であり、あの伝説はどうしたって超えられないというのがわかってしまうからだ。
車戦隊というモチーフ・題材だけならば確かに無数にあるわけだが、やはりまず揃っている人材も含めた「作品自体が持つ強さ」において「カーレンジャー」はどうしたって超えられない。
理由は色々あるが、やはり1996年という第二のミニ四駆ブーム『爆走兄弟レッツ&ゴー』が全盛期であることも含めた「時の運」があの奇跡をもたらしてくれたのだと思っている。

90年代戦隊を原体験で体感しておられるファンの方々はわかるかと思うが、『激走戦隊カーレンジャー』という作品は90年代きっての駄作『超力戦隊オーレンジャー』の失敗を受けて生まれたものである。
「ゴレンジャー20周年」という公式側が一方的に持ち出した唐突な「原点回帰」というフレーズの元に作られたあの作品は蓋を開けてみれば1クールもしないうちに軸足を失ってしまい方向性がブレてしまった。
『鳥人戦隊ジェットマン』という戦隊史上最大のエポックを経て、その後『恐竜戦隊ジュウレンジャー』〜『忍者戦隊カクレンジャー』まで「ヒーローらしからぬヒーロー」が模索されていた時代だ。

そんな中で「オーレン」は久方ぶりに直球の70・80年代で散々擦り倒された「軍人戦隊」を直球でやったのだが、結果的には単なる「焼き直し」「劣化コピー」「エピゴーネン」でしかなかったのである。
私を含め当時の視聴者はその目に見える失敗ぶりに落胆し「スーパー戦隊は終わった」と誰もが嘆いていた中で、本作に参加していた髙寺成紀は「オーレン」の反省を踏まえて奇襲戦法に出た。
それこそが「カーレンジャー」であり、スタッフで見ても髙寺成紀・浦沢義雄・佐橋俊彦・坂本太郎に荒川稔久と曽田博久というとんでもない強力な伝説のメンバーが揃っていたのである。

しかも髙寺と浦沢は東映不思議コメディシリーズでも活躍していた御仁であり、「オーレン」のあの正統派を目指してコケてしまった後ではど直球の正統派ヒーローなんてやりにくかったことは想像に難くない。
そんな中で生まれた「カーレンジャー」は今配信中なので是非ご覧頂きたいのだが、昭和戦隊の王道やエッセンスをしっかりと抑えつつ、その中にどれだけの「崩し」を入れられるかに挑戦した作品であった。
宇宙暴走族ボーゾックが怖く見えないのも意図的なものであるし、5人の若者たちがやる気のなさそうなヒーローに見えてしまうというのも当然浦沢脚本の中に設定として入れられたものである。

戦隊シリーズ全体で見てもやはり「迷走」と「足踏み」が強く「次世代に向けたニュースタンダードのヒーロー」が固まりきっていない中で、時代の逆風に抗いながらシリーズに様々な「革命」をもたらした。
それこそが『激走戦隊カーレンジャー』だった訳であり、単なる不思議コメディテイストを導入して既存のシリーズの文法を茶化しパロディにしただけではなく、シリーズそのものに「幅」を持たせることに成功している
では、シリーズとして表向きの設定や作風などが似通っている「ブンブンジャー」が「第二のカーレンジャー」に果たしてなり得るのかというとそれは決して「あり得ない」と断言する。

何故ならば「カーレンジャー」という作品はそもそも「再現性が低い」作品であり、天才の浦沢義雄師匠をはじめ佐橋サウンドも演出も全てにおいて「突然変異=継承不可能」な一作限定の存在だ。
確かにその後「ゴーオンジャー」「ニンニンジャー」などどこか部分的に「カーレンジャー」に似たテイストを持つ作品はあるが、かといって作風や概念としての「第二のカーレンジャー」は決して存在しない
それは野球に例えるならイチロー選手の「振り子打法」や大谷選手の「二刀流」と同じことであり、これらのプレイスタイルは天才である彼らにしか到底再現も実演もできないプレイスタイルなのだ。

その意味で「カーレンジャー」は事によると『鳥人戦隊ジェットマン』と同レベルかそれ以上に「シリーズ全体に影響を与えたが、同じものの再現は絶対に不可能」という意味において特殊である。
因みに「カーレンジャー」とは真逆の方向で天才的なのが『電撃戦隊チェンジマン』と『星獣戦隊ギンガマン』であり、この2作は「再現性は高い」が「当該作品に匹敵する完成度・個性のものはない」ものである。
「チェンジマン」「ギンガマン」は「ジェットマン」「カーレンジャー」に比べると「王道」なので「模範」にはなりやすいし後継作品も多いが、ではこれらに匹敵する名作が以後にあるかというとないのだ。

話を戻して、「ブンブンジャー」に関しては現段階ではやりたい方向性は間違いなく明確だし割と個人的には好みな方なのだが、諸手上げて「大好き」とまではなかなか言えない部分は正にそこにある。
意識的にか無意識にか、本作はかつての「カーレンジャー」がやったことと同じ「再現性が低い」かつ「当該作品に匹敵する完成度・個性のものはない」を奥底でやろうとしているのが伺えるのだ。
敵組織が宇宙の走り屋で遊び感覚で領地を拡大している設定も、そしてヒーローが車大好きな連中なのも「カーレンジャー」への幾許かのリスペクトを込めたオマージュであろう。

しかし、現段階では少なくとも「カーレンジャー」ほどに強烈な個性・インパクトのラインには到達していないし、仮に到達しても最後までしっかりと走り切ることはなかなか難しい。
まあ「キングオージャー」を最後まで視聴せずに1クール目で切ったので様子見ではあるが、「ブンブンジャー」に関しては前評判を裏切ってそこそこいい出来栄えであることはわかった。
後はまず近年の作品が疎かになってしまっている「5人のキャラクターの基盤固め」「敵組織とのしっかりした因縁の構築」「中盤と終盤の山場を盛り上げる」といった基礎基本を遵守して盛り上げて欲しい。

前評判であれだけ悪く言ってしまった無礼をここで詫びると共に、まずはこの1クールでどれだけしっかり基礎固めができるか、お手並み拝見といったところか。
少なくとも「ブンブンジャー」の魅力がこのパイロットで100%出し切れているかというとまだまだであり、今後それを確立できるのか、あるいはここ数年の戦隊のように「ああ今年も失敗か」になるのか。
この作品が成功するかどうかで令和のスーパー戦隊シリーズの今後10年が決まる、そう言っても過言ではない「分岐点」の作品であることは何となくだが感じ取れる。

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