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そんなに直球の王道を描きたくないのか今のスーパー戦隊は?『王様戦隊キングオージャー』1話で見えたここ数年のスーパー戦隊シリーズの致命的欠陥

『王様戦隊キングオージャー』1話が期間限定特別無料配信されたのでおっかなびっくりで蓋を開けてみたのだが、案の定「地雷を踏んでしまった」というのが率直な感想である。
本作は『獣電戦隊キョウリュウジャー』以来10年ぶりとなる大森P作品なのだが、相変わらずこの人は「勧善懲悪」「王道」「戦隊」「ヒーロー」を履き違えたものしか作れない人なのだなと。
感想を具体的に書こうとしても「お話にすらなっていない」のだから書きようがないのが本音だが、今回の話を見て最大のツッコミどころは主人公・ギラが変身を決意するシーンだ。
敵組織が復活して国に攻めっているのを見捨てようとする国王に憤慨するのだが、ここでギラはなぜか己が手に入れた剣で国王をバッサリと一刀両断しないのである。

ふざけるな!
なぜギラは国民を道具だとして切り捨てようとする国王を殺さねえんだよ!?
自ら「邪悪の王」だとか厨二臭いことをやりたがる割には腰が引けてんじゃねえかよ!
せっかく「父殺し」ができるチャンスが転がってんだからそこは定石外すなよ!

相変わらずこの人は映像作家としてもプロデューサーとしてもセンスが全くないというか、本当にアメリカの映像学校で何を学んできたのか?という話である。
東映公式サイトで自分がいかに凄い映像技術を駆使したかを自慢してる場合か、そんなので喜んでいるのは精々ハッピーセットの安い玩具に夢中になってるガキ位だぞ。
Twitterでは何やら「進撃の巨人っぽい」「CGが凄い」と見た目の派手さに眩惑されて本質が見えていない感想ばかりで、戦隊ファンの知性もここまで下がったかと愕然としている。
いやもう怒るだけ無駄なのだが、この1シーンを見たお陰で今のスーパー戦隊シリーズがなぜ面白くないのかという答えがここ数年の作風の変遷も踏まえて理解できてしまった。

要するに白倉Pにしろ大森Pにしろ、ここ数年のスーパー戦隊シリーズの作り手は「ヒーローとは何か?」「王道とは何か?」という本質と向き合おうとしていないのだ。
ドンブラザーズの軽い総評で「ドンブラザーズはいつもの白倉・井上コンビのやり方を戦隊に適用しているだけで「戦隊シリーズならではの面白さ」ではない」というようなことを書いた。
それは真逆の作風を志向した「キングオージャー」も同じであり、「王道に見せかけた覇道」をやりたいという意図はわかるが、その為に必要な物語の土台の構築ができていない。
そもそも「父殺し」「王位継承」を物語の導入に持ってくるのであれば、もっと丁寧にシュゴッダムという国の政治について1話をかけて丸々描くべきではないか。

権力を笠に着て何をしてもいいと踏ん反り返っている腐った国の政治や仕組みを変えたいというのはわかるし、それこそ本作が多少なり参考にしたであろう「コードギアス」は正にそんな物語だった。
今読んでいる「新テニスの王子様」もちょうど「父殺し」が決勝戦のテーマになっており、今年の1つのテーマは「既存の権威をいかに崩すか?」が1つの時代としてのテーマなのかもしれない。
もしも「反逆児の物語=ピカレスクロマン」として打ち出すのであればもっと複雑な政治経済の問題を描かないといけないし、最終的にはそれを「戦隊の面白さ」に昇華して初めて成立するのだ。
しかし、本作の1話の大ゴケっぷりを見ると、その目論見は早くも崩れ去り早速転がってしまったのではないかと思えてならず、今年はこの段階で「駄作」にしかならないのだと読めてしまう。

スーパー戦隊シリーズに限らないが、どんなシリーズ物も「パターン破り」自体はそんなに難しいことではない、お約束が何かを理解してその逆を行けばいいのだから。
しかし、大事なのはその「パターン破り」を行うことでどんな破壊が生まれ、それがどのような面白さを生むのか?というのをきちんと示さなければならない。
戦隊シリーズでは『鳥人戦隊ジェットマン』『激走戦隊カーレンジャー』『未来戦隊タイムレンジャー』もそういう予定調和を崩した先にある面白さだった。
それではここ数年のスーパー戦隊シリーズ、わけても直近の「ゼンカイジャー」「ドンブラザーズ」辺りがそんな予想外の面白さを生み出せていたかといえばそうではない。

そもそも私は本作のキャッチフレーズである「覇権を握る」「王様たちが自己主張の強い者たち」という薄っぺらな作り手の「王様」に対する解釈違いに対して呆れ果てているわけだが。
なぜストレートに「人々を守る為に戦う」というスーパー戦隊シリーズの王道を直球で表現しようとしないのか?どうしていつも訳のわからない変化球を通り越した暴騰した投げれないのか?
そんなにアンチヒーロー路線がやりたければ1から新しい世界観やフォーマットを組み立ててみればいいと思うのだが、どうやらそんな挑戦心や気概はないらしい。
でもその割にはスーパー戦隊シリーズの本質と真正面から向き合い格闘してニュースタンダード像を形成するのもめんどくさがり勝負の土俵にすら立とうとしないようだ。

そんな体たらくがスーパー戦隊シリーズの現状であり、もうわかりきっていた深刻な問題を改めて浮き彫りにしてくれた「キングオージャー」の1話目であった。

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