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絵本『てぶくろ』を語る 3

第3話 てぶくろといぶくろ


(礒野)なので、子ども達は絵の細かい部分までしっかり見ているんです。最後の、動物達がいなくなって手袋だけが雪の上に落ちているシーンで「あ、落ちたまま」って言った子がいるんです。これ、一番最初のシーンと同じなんですよね。そのままのアングル。ということは、最初と最後の間に、時間は経過していない。でも、ストーリーは進んでいて、空想の世界、イメージの世界、いろんな世界に子どもたちは旅をしていたんだなと思います。でも最後には、みんな落ちていた場所に帰ってくる。つまり、子どもたちは旅に出たままではなくて、ちゃんと自分の場所に帰ってこれるから、みんな安心して見てくれるんです。

(須田)ありがとうございます。おふたりから、1冊の絵本を目と耳で楽しむというお話があったかと思います。ここから、目つまり絵についてもう少し深めていきたいと思います。根本先生は、『てぶくろ』の絵についてどのような感想をお持ちでしょうか。

(根本)そうですね。まず、絵の完成度はもちろんなんですけれど、ここに登場する動物たちの擬人化が素晴らしいと思います。ロシアの民族衣装を着ていながら、動物のリアルな特徴はしっかりと残している。これ、実はできそうでできないんです。たとえば、きつねを描くにしても、色々なデザインが考えられると思うのですが、これは「本当のきつねを見て描いている」というのがわかります。作者のラチョフさんは、シベリアに生まれ育ちました。極寒の大自然のなかで、本物の動物たちを見て育ったんだなということがわかります。だからこそ、子どもたちに説得力を持って表現できる。
あとは、先ほどもお話したんですけど、手袋を家で表現するというのは、実は非常に難しいんです。例えば、『てぶくろ』ならぬ『いぶくろ』というハンガリーの昔話を絵本化した作品があります。ハンガリーでは伝統的にソーセージが主要な食材ですが、この話でも、登場人物が飼っていた子豚をソーセージにして暮らしています。でも、やがて食料が底をついて、最後に残ったのが子豚の胃袋の肉詰めだった。ところが、その胃袋に、逆に人がどんどん食べられていくというお話です。

やっぱり描き方としては、子どもたちにわかるように、胃袋をどんどん大きく描いていくという表現をせざるを得ないんですよね。
最終的には、軍隊も全部飲み込んでしまう。昔話の世界は言葉の世界なので、どんどん飲み込んでいける。だから、嘘のお話を本当らしくにするためには、こういった表現をするのが非常に一般的な方法だと思うんですけれども、その中で、『てぶくろ』については、手袋の大きさを保ってるというのが非常に絵として素晴らしいと思います。しかも少しずつ増築をすることによって、そのリアリティーを保っている。(つづく)

目次

|1| 噛まない絵本
|2| 増築の手法
|3| てぶくろといぶくろ 
|4| 絵と言葉
|5| 作者ラチョフについて (準備中) 
|6| 子どもは絵本に何を求めるのでしょう (準備中) 
|7| わたしの『てぶくろ』 


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