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絵本『てぶくろ』を語る 1

第1話 噛まない絵本


(須田)本日、福音館書店で絵本研究に携わっておられる根本栄次さんと、日頃から保育の現場で読み聞かせをされている附属幼稚園の礒野久美子先生にお越し頂きました。まずは自己紹介をお願いします。

(根本)福音館書店の根本栄次と申します。現在47歳、昭和50年生まれのうさぎ年です。中学3年生と1年生の子どもがおります。家に絵本がたくさんありまして、昔家を購入した際に、階段の壁際が全部デッドスペースになるから、そこに本棚を設えました。1,000冊以上の絵本があると思います。この『てぶくろ』も子どもに読んだ絵本なんですが、自分が子育てで絵本を読んだお話も含めながら、今日はお話ができればと思います。

(礒野)お招き頂きありがとうございます。もうずいぶん昔の話ですが、新任の時には加古川市の園で働いておりました。そこで絵本の読み聞かせをしました。最初は全員が聞いてくれたんです。2回目、2人減りました。3回目、5人減りました。どんどん減ってきて、どうして絵本ってこんなにしんどいのかな、読み聞かせってしんどいのかな、と思ったのが1年目でした。けれども、そこの園長に出会って、私は開眼したんです。絵本は読むものではなくて、子どもと共に同じ時間を過ごすためのものだと。この子たちは今どこを見ているのかなって思いながら読み聞かせると、子どもたちの気持ちがすっと入ってくるんですね。そういうことを考えながら、今日まで読み聞かせを続けてきました。そして、『てぶくろ』。私にとって、この絵本は内容だけではなくて、子どもたちがつぶやいた言葉が1冊にちりばめられてるんです。今日はそういう経験のなかから、お話ができればと思います。

(須田)ありがとうございます。ところで、なぜ私がここで司会をするのかということなんですが、附属図書館長というのももちろんあります。一方で昔私も絵本やグリム童話を題材に研究をしていた時期がありました。あと、今日私も『てぶくろ』の絵本を1冊持ってきました。これは、私が昔子どもに読み聞かせた時の絵本です。少し色が薄くなっているところがあって、裏には子どもが落書きをしたようなボールペンの跡もある。この絵本を自分も読み聞かせてきたなという感慨があります。それでは、初めに根本さんから、この絵本の魅力について語って頂きたいと思います。

(根本)そうですね。『てぶくろ』を先ほど皆さんの前で読ませていただいたんですが、どきどきしながらも最後まですらすらと読めるということにちょっとほっとしました。この絵本の文章が、非常に読みやすいんです。「くいしんぼうねずみとぴょんぴょんがえるとはやあしうさぎとおしゃれぎつねとはいいろおおかみときばもちいのしし、あなたは?」というのがすっと口から出てくる、落語みたいに。実はこれ、すごいことなんです。翻訳者は内田莉莎子さん。『てぶくろ』の他に、皆さんおなじみでいうと、『おおきなかぶ』の翻訳もされています。この中の「ねずみが猫を引っ張って、猫が犬を引っ張って、犬が孫を引っ張って、孫がおばあさんを引っ張って、おばあさんがおじいさんを引っ張って、おじいさんがかぶを引っ張って、うんとこしょ、どっこいしょ」という名訳で知られています。ちなみにこの「うんとこしょ、どっこいしょ」というのは、当然ながら原文にはない日本オリジナルの文章で、そういった言葉のリズムが子どもたちの中にすっと入っていくんだなということを、自分で読み聞かせをしながら非常に感じますね。(つづく)

目次

|1| 噛まない絵本
|2| 増築の手法
|3| てぶくろといぶくろ 
|4| 絵と言葉
|5| 作者ラチョフについて (準備中) 
|6| 子どもは絵本に何を求めるのでしょう (準備中) 
|7| わたしの『てぶくろ』 


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