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絵本『てぶくろ』を語る 4

第4話 絵と言葉


(須田)手袋から煙突が出ているシーンが三つほど出てきます。最初は煙が少しうっすらと描かれていて、だんだんその煙の色が白くなっていく。私、そこの場面が、非常に印象に残っているんです。彼らは手袋の中で、何か料理をしたり、あるいは暖炉を作っているのかもしれない。火を使うということ、そこに生活や暮らしというものがあるんだなっていうことを、この場面から想像できるのがいいなと思って、この絵を見ていました。礒野先生は、絵について、どんな感想をお持ちですか。

須田康之 附属図書館長

(礒野)そうですね、今館長が言われたように、この絵本は手袋の中を想像できる。手袋の中での生活のイメージって、それぞれの家庭で違うと思うんです。子どもたちは、自分たちの家の生活がこの中にあるというように想像する。全部を隠すんじゃなくて、少し隠れているからこそ想像しやすいというのが、この絵の素晴らしさかなと思っています。
「この中でご飯作ってる。お母さんが作ったカレーライスかな」とか、子どもたちの呟きがこの行間に入ってくるんです。そうなると、これはラチョフさんの絵と内田莉莎子さんの文章だけではなくて、その子の絵本になってると思うんです。で、子どもはこの絵本を自宅に持って帰る。すると、彼らはもう全部知ってるから、そらで語っていく。字は読めなくても。そうすると、お母さんたちは、絵を見ながら子どもの言葉で話が進んでいくんですね。で、大人は、「え、手袋にそんなにいっぱい入れるの?」とか「ちょっと手袋のこの辺もうちょっと膨らまさなくていいの?」とか、ついつい大人のおせっかいを入れてしまう。でも子どもは、「ううん、大丈夫だよ。だってね、お父さんとお母さんとお兄ちゃんとぼくがお料理食べてて、お料理がお腹に入っても全然膨らまないよ」と返したりするわけです。
子どもって喩えがすごく面白いんですよね。大人は、絵本の通り手袋と家とを比べるんですけど、子どもは先ほどの『いぶくろ』ではないですが、手袋と胃袋とを比べたりする。
子どもたちは、この絵からまずは身近な、つまり日本的な想像をしながら、ウクライナの文化にも触れていく。そんな風にして、世界を旅しているんだと思います。

礒野久美子 附属幼稚園副園長

(須田)今、絵について話をしていただきましたけれども、言葉が耳から入ってきて、耳から聞くだけで空想の世界を広げていくところも、もちろんあると思うんですね。それについてはいかがでしょうか。
  
(根本)絵本化するにあたって、たぶん元の昔話にはないような言葉の変化があるんだろうなというのは思います。つまり、最初ねずみが「ここで暮らすことにする」と言っていて、その後「だれ、手袋に住んでいるのは?」となるんです。でも、元の話では、たぶんこんな表現ではないと思います。つまり、ラチョフさんが家を増築するテーマに変えた時に、言葉を変えられているわけです。子どもたちは、「暮らす」とか「住む」という言葉を先に聞かされているので、家が建っていくという絵のストーリーにすっと入って来られる。「だれ、手袋に住んでいるのは?」と「だれ、手袋に居るのは?」では、子どもたちへの伝わり方が全然違うんです。このように絵と言葉を合わせていくことで、子どもたちがすっとイメージできるようになっているところが素晴らしいですね。

(須田)なるほど。

(根本)絵本には、古い言い回しも出てきますが、絵で表現されているから、子どもたちは、それが何かを目で理解して、その言葉遣いをすぐに自分のものにしてしまう。『三びきのやぎのがらがらどん』っていう絵本に「田楽刺し」という、現代ではあまり使われない言葉が出てくるんですけども、そういう言葉も絵本の絵を見て、イメージの世界で体験することによって、子どもたちの言葉の血肉になっていく。
絵本のいいところは、先ほど礒野先生が言われたように、自分はどのキャラクターになっているかは三者三様ですけれど、友達同士で同じ世界を楽しんでいる。その時、絵本に出てくる言葉が子どもたちにとっての共通言語になる。それにはやっぱり魅力的な絵と伝わりやすい言葉が必要なのだと思います。そういう意味では、内田莉莎子さんの「おしゃれぎつね」とか、今日ではなかなか使わないんですけど、やっぱりこの絵本を通じて子どもたちの一つの共通した言葉になるというのはあるんだろうなと思います。

(須田)なるほど。

(根本)絵本には、古い言い回しも出てきますが、絵で表現されているから、子どもたちは、それが何かを目で理解して、その言葉遣いをすぐに自分のものにしてしまう。『三びきのやぎのがらがらどん』という絵本に「田楽刺し」という、現代ではあまり使われない言葉が出てくるんですけども、そういう言葉も絵本の絵を見て、イメージの世界で体験することによって、子どもたちの言葉の血肉になっていく。
絵本のいいところは、先ほど礒野先生が言われたように、自分はどのキャラクターになっているかは三者三様ですけれど、友達同士で同じ世界を楽しんでいる。その時、絵本に出てくる言葉が子どもたちにとっての共通言語になる。それにはやっぱり魅力的な絵と伝わりやすい言葉が必要なのだと思います。そういう意味では、内田莉莎子さんの「おしゃれぎつね」とか、今日ではなかなか使わないんですけど、やっぱりこの絵本を通じて子どもたちの一つの共通した言葉になるというのはあるんだろうなと思います。(つづく)


目次

|1| 噛まない絵本
|2| 増築の手法
|3| てぶくろといぶくろ 
|4| 絵と言葉
|5| 作者ラチョフについて (準備中) 
|6| 子どもは絵本に何を求めるのでしょう (準備中) 
|7| わたしの『てぶくろ』 

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