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絵本『てぶくろ』を語る 2

第2話 増築の手法


(根本)『てぶくろ』は本を作る者からすると、ほんとに理想的な内容です。このお話、常識的に考えると、“うそ”のお話なんです。いのししは手袋には入らない。でも、子どもからしたら本当に感じる。そういう仕掛けが見事にされている。昔話を絵本化するというのは非常に難しいんです。言葉でいうと、手袋の中に何でも入る、言葉だったら。でも、それを絵にした時に、子どもに本当のことだって思わせるというのは非常に難しい。『てぶくろ』では、「増築」の手法を使っています。何となく大きな家にはいっぱい住めるという実感が子どもにもあると思うんですけど、手袋を増築することで、たくさんの動物が入ることが本当らしく思えてくる。もしかしたら入れそうかな、ぐらいでいいんです。そう思わせることで、このお話の世界にどんどん入っていく。
それと、この絵本って、同じ場所に同じものがずっと建っているというお話なんです。でも、毎回画面が切り替わるごとに描く方向を切り替えていて、これはたぶん非常に画力が要ることなんですが、その効果とともに、増築という変化の効果も含めて絵を巧みに配置している。最初にこの絵(改築後の手袋の風景)を見たら、「うそでしょ」ってなると思うんですけれども、繰り返し積み上げることで、子どもたちの中に「ほんとのこと?」って思わせる魅力がこの絵本にあると思っていて、ラチョフの絵の見事さを感じます。

(須田)たぶん5ページ目ぐらいからだと思うんですけれど、左、右というふうに交互に手袋が描かれていて、ああこういうふうになってるんだなと、改めて気づかされました。おおかみが左側から出てくる。そのとき手袋は右側にある。次に、きばもちいのししが右から出てきて、手袋は左にある。こんなふうに交互に配置されていて、非常に動きがあるんですね。ありがとうございます。礒野先生はいかがでしょうか。


©福音館書店


(礒野)私は子どもたちから出てきた言葉をもとに、ちょっとお話させていただきます。私が幼稚園の現場に出たばかりの頃に、福音館書店の松居直先生(福音館書店の創業者の一人。月刊「こどものとも」編集長として、加古里子や長新太など数多くの絵本作家を世に送り出した)の講演を聴いたことがありました。そのとき、『てぶくろ』のお話をされて、「この絵本は噛まないですよ」って言われたんです。やっぱり子どもの前で絵本読む時には、もう緊張してしまって、手がこうやって震えながら読むし、言葉も噛み噛みになってしまうので、「噛まない絵本」ということを知って、一番に手に取って読んでみました。本当に噛まなかったんです。唯一噛んだのは、エウゲーニー・M・ラチョフっていう作者名だけ。冒頭からここで噛んでしまって(笑)。それ以外は一切噛まずに安心して読めた絵本なんです。安心して読める絵本というのは、子どもたちが静かに聞いてくれて、私の言葉を耳で聞きながら1ページ1ページ、絵を読んでいってくれるんです。そして、先ほど根本さんが言われたように、絵はいろんな方向から描かれてるんですね。だから、子どもたちは平面ではなく3Dという感じで、立体的に手袋を自分の中にイメージしていたみたいです。
それと、先ほど「増築」っていう言葉が出てきて思い出したんですが、昔「ウッドデッキ!」って言った子がいるんですよ。ウッドデッキって何のことだろうと思ったんですけど。これ(上写真)のことなんですよね。
(つづく)

目次

|1| 噛まない絵本
|2| 増築の手法
|3| てぶくろといぶくろ 
|4| 絵と言葉
|5| 作者ラチョフについて (準備中) 
|6| 子どもは絵本に何を求めるのでしょう (準備中) 
|7| わたしの『てぶくろ』 

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