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ちょっと上級の物理学(たまに数学)

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基本事項の解説はありません。検索しても簡単に答えが出ない問題を考えた記録。
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#電磁気学

一様加速する電荷は電磁波を放射するか?―電磁気学の奥深すぎるパラドックス―

一様加速する電荷は電磁波を放射するか?―電磁気学の奥深すぎるパラドックス―

はじめに 等加速度運動を相対論的に記述するリンドラー座標について、これまでに以下の5本の記事を書いた。

①リンドラー座標を自力で導出してみた―等加速度運動の相対論的記述―
②リンドラー座標つれづれ(1)―双子のパラドックス―
③一般相対論的放物線―リンドラー座標つれづれ(2)―
④事象の地平面、ガウスの法則の破綻?—リンドラー座標つれづれ(3)―
⑤無限遠にある電荷がガウスの法則を取り戻す―リン

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無限遠にある電荷がガウスの法則を取り戻す―リンドラー座標つれづれ(4)—

無限遠にある電荷がガウスの法則を取り戻す―リンドラー座標つれづれ(4)—

はじめに しつこいが、リンドラー座標ネタは続く。本稿は、以下の記事の続きである。

問題をおさらいする。荷電粒子が$${z}$$軸上を相対論的な等加速度運動をしている状況を考える。$${t = -\infty}$$, $${z = +\infty}$$から原点に向かって移動してきて、$${t = 0}$$に$${z = b\,\,(>0)}$$に到達し、そこで折り返して$${t = +\infty

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事象の地平面、ガウスの法則の破綻?—リンドラー座標つれづれ(3)―

事象の地平面、ガウスの法則の破綻?—リンドラー座標つれづれ(3)―

はじめに 等加速運動を相対論的に記述するリンドラー座標について、これまでに以下の3篇の記事を書いた。

①リンドラー座標を自力で導出してみた―等加速度運動の相対論的記述―
②リンドラー座標つれづれ(1)―双子のパラドックス―
③一般相対論的放物線―リンドラー座標つれづれ(2)―

相対論的な等加速度運動で興味深いのは、等加速度運動する主体が荷電粒子の場合である。荷電粒子の等加速度運動を相対論的に取

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定常電流は電磁波を放射しない―奥が深い古典電磁気学―

定常電流は電磁波を放射しない―奥が深い古典電磁気学―

素朴な疑問大学で電磁気学を学ぶ場合、最初に、時間的に変化のない静的な電磁場について学び、次に、時間変化のある動的な電磁場について学ぶというようにステップを踏むのが普通である。静的な電磁場を生み出すのは、当然ながら時間変化のない電荷や電流の分布である。定常電流は静磁場を生み出す。このとき、電流が流れる導線の形状がどんなに屈曲していようが、周囲の電磁場には時間的な変動が一切生じないことが暗黙の前提とな

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「隠れた運動量」考―奥が深い古典電磁気学―

「隠れた運動量」考―奥が深い古典電磁気学―

はじめに互いに全く無関係な静電場と静磁場を組み合わせてできるポインティングベクトルは、電磁場のエネルギーの流れを表すか?という疑問は、古典電磁気学における神学論争的な問題である。電気回路の周囲に生じる静的な電場と磁場の場合、そのポインティングベクトルが、エネルギーの供給地である電源から消費地である抵抗に向かう電磁場のエネルギーの流れを確かに表していることについては、以下の記事で解説した通りである。

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電気回路のエネルギーは周辺の空間を伝わる??―奥が深い古典電磁気学―

電気回路のエネルギーは周辺の空間を伝わる??―奥が深い古典電磁気学―

はじめに話は大学時代の1998年1月12日に遡る。在籍していた物理学科の電磁気学の授業で、教官(坪野公夫教授(当時))が「電気回路のエネルギーは導線を伝わるわけではなく、周囲の空間を伝わる」とか言って煙に巻いたことがあった(下図は当時のノートの抜粋)。

当時は、まさかと思って深く考えなかったが、ふと思い出して2021年から改めて考えるようになり、なかなか奥が深い問題であることを知ることとなった。

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