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大人がハマる昆虫研究

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40になって知ったディープな昆虫の世界。身近な環境も、視点次第で宝の山に。
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#水生昆虫

ヨシトミダルマガムシ徒然

ヨシトミダルマガムシ徒然

はじめに ヨシトミダルマガムシHydraena yoshitomiiという水生甲虫がいる。ダルマガムシ科に属する、体長1.5 mmほどしかない微小種である。ダルマガムシ科の中でも、赤茶色の体色が特徴のシコクダルマガムシ種群に属する種で、この仲間は、通称、赤いダルマガムシ(赤ダルマ)と呼ばれる。

ダルマガムシ科の虫はいずれも微小で、見つけるには種ごとにコツを要するが、この赤ダルマの仲間は、特に採集

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相模川のクビボソコガシラミズムシ

相模川のクビボソコガシラミズムシ

都市化の進んだ神奈川県では、多分に漏れず、止水性の水生昆虫は危機的な状況にあるが、流水性種に関してはまだ捨てたものではない。そんな中、県央を流れる相模川が誇れる水生昆虫は、クビボソコガシラミズムシ Haliplus japonicus ではないだろうか。水生昆虫としては、全国的にはやや珍しい部類に入ると思われるが、相模川の中流では普通に見られるのである。

私は2018年から水生昆虫の世界にハマっ

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湿岩性甲虫探し―ニッポンセスジダルマガムシ―

湿岩性甲虫探し―ニッポンセスジダルマガムシ―

はじめにニッポンセスジダルマガムシOchthebius nipponicusという水生甲虫がいる。トップ画像に示したようにカッコイイ形態をしているが、体長が1.5 mmほどしかない微小種である。前回紹介したクロサワツブミズムシとコマルシジミガムシと同様に、湧水が薄く広がって流下する崖の壁面に生息する湿岩性の甲虫である。

前2種と違って、ニッポンセスジダルマガムシは主に海岸沿いの崖に生息するという

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湿岩性甲虫探し―クロサワツブミズムシとコマルシジミガムシ―

湿岩性甲虫探し―クロサワツブミズムシとコマルシジミガムシ―

水生昆虫は、大きく分けて止水性(池など)と流水性(河川など)に分かれるが、流水性の一部に、「湿岩性」の昆虫がいる。湿岩とは、流水が薄く広がって流れ落ちる崖の表面のような環境である。このような特異なニッチを利用する水生昆虫が、カゲロウやカワゲラのような原始的な仲間のほか、トビケラや甲虫からも知られている。調査している人がまだ少ない分野であるため、私の探索記を紹介する。

神奈川県央を流れる相模川では

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アサヒナコマルガムシが生息する高原の湧水帯

アサヒナコマルガムシが生息する高原の湧水帯

妻の実家が長野県央の白樺湖に程近い高原にあるため,帰省の度に現地の昆虫相を調査するようになった。長野県の茅野市と立科町の境界に位置する白樺湖周辺の一帯は,周辺の霧ヶ峰や八ヶ岳連峰の太古の火山活動によって形成された高原となっており,標高1,300~1,700 m程度の範囲で緩やかなに起伏する地形が広範囲に広がっている。この一帯で特徴的なのは,緩やかに起伏する樹林帯の至る所に湧水流があり,林床にミクロ

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コマルガムシ―神出鬼没すぎるその生態―

コマルガムシ―神出鬼没すぎるその生態―

2022年5月中旬のこと、近所の行きつけの相模川で水際の微小ゴミムシ類でも調べようと石を起こしたところ、微小で細長い水生甲虫がゴマ粒のように大量に浮き上がってきて驚いた。

何だこれは?一見してガムシ科だが、見たことがない。ツヤヒラタガムシに形態が似ているが、ツヤヒラタは翅の端部が明るい色に見えるはずだし、これより一回り大きいはず。本種は真っ黒で、体長2 mm弱しかない。調べると、本種はどうやらコ

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コモンシジミガムシとヒメシジミガムシ―最も身近な水生昆虫―

コモンシジミガムシとヒメシジミガムシ―最も身近な水生昆虫―

はじめにコモンシジミガムシとヒメシジミガムシという流水性の水生甲虫がいる。いずれも、開けた河川の河原の水際の石を動かすと、ワラワラと泳ぎだす個体がたくさん出てくるほどで、見つけるのは容易である。個体数の多さとその見つけやすさから、最も身近な水生昆虫といえるが、体長が2.5 mm前後と小さいためか、水生昆虫をやっている人以外では認知度は今一つである。

両種とも外見はよく似ているが、ヒメシジミガムシ

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ケシマルムシ徒然

ケシマルムシ徒然

2016年から始めた自分の浅い虫屋歴で、我ながらよく見つけたものだと未だに感心するのが、ケシマルムシである。

2018年の8月、神奈川県平塚市にある県立の「花菜ガーデン」に家族で遊びに行った折、園内にある水田の水際の泥をかき混ぜて浮いてくる水生甲虫を探していたところ、異様に小さい甲虫らしきものが浮いてきた。浮いた個体は水面でジタバタするばかりで泳げるようには見えなかったが、完全に水中から出てきた

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圃場整備された水田にはどれくらい水生昆虫が生息しているのか?

圃場整備された水田にはどれくらい水生昆虫が生息しているのか?

現在国内で止水性の水生昆虫が絶滅の危機に瀕しているのは周知の通りで、神奈川県においても、かつては水田で普通に見られたらしいナミゲンゴロウやタガメが姿を消してからすでに久しい。これら止水性水生昆虫の減少の原因として、水田における強力な農薬の使用や圃場整備による乾田化、中干しの強化等の稲作の近代化の他、水田に付随するため池への侵略的外来種の侵入や護岸強化が挙げられている。このようなネガティブなイメージ

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