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小説

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物語です。
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#ギター

ド年末のAnother World Stranger

 「お疲れー」
 間の抜けた挨拶をしながら、男ーー八代陸人(やつしろ りくと)は重い扉をくぐって室内に入った。
 だらだらと歩いて常設のギターアンプの前に立つと、アンプのパワースイッチを押してからのろのろと左手に持ったエフェクターボードと右手に持ったギターケースを床に降ろす。
 そこまで来て、陸人はこの貸しスタジオの同じ部屋にいるはずの仲間から返事がないことに気付いて、顔を上げた。
 陸人の所属す

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旧友 2

 「は? ライブ?」
 「そう、ライブ!!」
 彼はにこやかに、そして自信満々に言った。
 ライブ、というのは恐らく音楽ライブのことだろう。
 俺と彼が未だに時折連絡を取り合うのも、お互いに音楽が好きだからというのが大きい。
 そういえば、確かに目の前の彼は高校に入学して軽音楽部に入ったと言っていたことを思い出した。
 「な? いいだろう?」
 彼は俺が断るとは思っていないのだろう、ニヤリと口角を

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『キャンプ』

 夕日がすぐ近くの山々の間に落ちていくのをぼんやり眺めていた。
 昨日、一昨日とこの時間を同じように過ごしているが、飽きたとは微塵も思わなかった。
 普段の喧騒から離れた、こんな山奥でこうしてのんびりと過ごせる時間は貴重かつ贅沢極まりないものだろう。

 日が落ちれば気温は一気に下がる。
 が、それでもその風景を見つめていた。

 普段からぼんやりと風景を眺める時間が好きで、知人にはその行為を不思

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『ノイズ』

 丁度ソロ用の音色に変えようと、複数のエフェクターが接続された足元のスイッチャーを踏んだ瞬間だった。
 ジジッ!!と激しいノイズが、決して広くはない練習スタジオの個室に鳴り響いた。
 演奏が止まり、三人が俺の方を見た。
 そんな三人に俺が出来たのは、耳を貫くようなノイズを垂れ流したままのギターから手を離して、困ったように笑う事だけだった。

1/
 練習はいったん中断になり、メンバー四人でロビーに

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