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小説

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2023年10月の記事一覧

方向感覚

 ダダン!!
 合図のように視線を飛ばしてドラムのキメを叩くと、それに合わせてエレキギターがEのコードを大きく唸らせた。
 やがて残響音が止んで、俺たちは視線を合わせ、お互いに息を吐く。
 「……先輩、相変らず上手いですね」
 部室の、半ば備品と化している誰のかもわからない廉価品の赤いストラトキャスターを肩から下げた風島清景はアンプの上に置いていたペットボトルに手を伸ばしながらそう言った。
 俺―

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夏とアイス

 『ありがとうございましたぁー』
 背後から聞こえる覇気のない店員の声を遮るようにコンビニのドアが自動で閉まった。
 途端、ひどい熱気と湿度、そして強烈な真昼の陽光が体全体を包み込む。
 「あっちー……」
 思わず呟いてしまったその一言が、更に熱気を上げる気がして、俺――桐間周は我慢できずに買い物を終えたばかりの袋の中からソーダ味の定番アイスを取り出した。
 真夏の耐えられない暑さの時にはこれに限

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Life of Blue 『Forever Future Festival』ライブレポート

 雲のほとんど無い青空の中、心地の良い涼やかな風が優しく吹いている。確かな秋の気配を感じさせるまだまだ明るい夕刻前の『Forever Stage』に登場したのは、Life of Blue。このフェスには実に4度目の参戦で、「常連」の雰囲気も既に醸し出していた。

 彼らのライブではお馴染みの登場SEが鳴り始めると、音楽に合わせ観客も手拍子を打ち始める。その手拍子に迎えられて登場した4人の表情は明る

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魔剣騒動 23(後日談)

 騒動の原因となった魔剣もどきを破壊し、休憩を挟んで地上に戻った空也達だったがその後も面倒な出来事は続いた。
 まず、地上に戻った空也とアベル達を出迎えたのは完全武装した状態で待ち構えていた遺跡発掘キャンプを仕切っていた傭兵団の面々であった。
 やる気満々の傭兵連中にため息を吐きつつ、最低限の説明責任を果たすためレイアが前に出て説明を始めた。
 短い問答こそ挟んだものの、結局はすぐに戦闘となった。

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