魔剣騒動 23(後日談)
騒動の原因となった魔剣もどきを破壊し、休憩を挟んで地上に戻った空也達だったがその後も面倒な出来事は続いた。
まず、地上に戻った空也とアベル達を出迎えたのは完全武装した状態で待ち構えていた遺跡発掘キャンプを仕切っていた傭兵団の面々であった。
やる気満々の傭兵連中にため息を吐きつつ、最低限の説明責任を果たすためレイアが前に出て説明を始めた。
短い問答こそ挟んだものの、結局はすぐに戦闘となった。
とは言っても、こちらは一流冒険者四名。
対するは、『やる』とは言っても所詮は地方に留まっている木っ端の傭兵団崩れ。
傭兵どもが戦闘の挙動を見せた瞬間に彼らの足元で発動した大きな魔法陣は、足元で大爆発を起こし、地上とダンジョンを隔てていた地面を完全に崩壊させた。
結果、傭兵団は何をすることも出来ず、数十メートル下の硬いダンジョンの床へと真っ逆さまに落ちていった。
「あー、そっか。この真下ってダンジョンの部屋だったのか。いやぁ、可哀想な事したなぁ」
先程までの騒ぎが嘘であるかのようにしんと静まり返った地上で風の音と笑顔を浮かべたアベルの呟きだけが響いた。
その後、メオノラ市に戻っても一悶着。
ここからは空也はそれほど関わっていないので詳しくは無いのだが、なんでもあわやメオノラとギルドの全面戦争寸前までもつれたとかなんとか。
要するに今回の『魔剣騒動』はその裏にメオノラの統治機構の大きな介入があったということだ。
最終的には、悶着中メオノラに留まっていたギルド側の戦力、つまりは『剣の勇者』神月空也と第二ギルド筆頭パーティ『爆発の勇者』パーティをもってすれば街の一つくらい簡単に消し去れるということで、メオノラ側が降伏する形で決着がついたそう。
勝手に戦力に巻き込まれていたこととギルドの強硬なやり方に辟易しつつ、まぁ戦闘が起きずに済んだので良かったということで空也は結論付けた。
「で、今度は何の用です? アベルさん」
「いやだなぁ、今日は本当にたまたま居合わせたというだけだよクウヤ君」
メオノラ市のギルド施設の食堂で空也はまたアベルと鉢合わせた。
前回は巻き込まれてしまったので警戒と嫌味を込めてけん制したが、アベルはいつも通り口角を上げながら答えるだけだった。
「今回もすっかり助かったよ、クウヤ君」
濃度の高いソースの掛かった麺料理を食べながらアベルは呑気に会話を続ける。
「……俺居なくてもアベルさんならなんとでも出来たでしょう?」
「いやいや、そんなことないよ。僕らだけだったら街ひとつ地図から消す結末になってたよー。街ひとつ消すための大規模魔法陣ってすごい大変なんだよ」
――……おそらく、目の前にいるとんでも一流冒険者は実際にやったことがあるのだろうな。
空也はこれ以上巻き込まれるのは御免だと思い、食事を中断して窓の外の空を眺めた。
「クウヤ君さ」
「……なんすか?」
「僕らのパーティに入らない? 君が居れば百人力だ!」
「嫌っす」
「あはは、なんとも素気無い。君の師匠――レウィン君の断り方とそっくり」
「次はどこ行くの?」
「なんも考えてませんけど……、そうですね。一回魔界の自宅に帰ろうかな」
「そっか、じゃあレオン君によろしくね」
天気がいい。
晴天で、心地の良い風が吹いている。
食事の途中だということをしばし忘れて空也は目を閉じた。
気ままな旅は続く。
大きな目的は無いが、それでいい。
大きな役目はとっくの昔に果たしたのだから。
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