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小説

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2022年5月の記事一覧

小事件 裏

 「桐間は……、学校生活はどうなんだ?」
 夏休みの職員室の中はいつもよりは少し静かだ。
 目の前にいる中年の教師がそう訊ねながら部室の鍵を渡してきた。
 「あー……まぁ、その、そこそこです」
 俺は答えに困りながら当たり障りのない返事をした。
 俺の返事に教師は苦い顔をした。
 目の前にいるのは俺の担任を務めている教師で、俺のクラスでの振る舞いを知っている。
 まぁ、つまり俺に友達がいないという

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路地裏

 「あのジジイ……!! 足元見やがって!! クソ!!」
 近くにあった木箱を蹴りつけた。
 木箱が砕け、砕けた穴の中にずっぽりと足が入った。
 足が抜けなくなる。
 焦って足を抜こうとしたが焦れば焦るほど砕けた木が足に食い込んでいく。
 踏んだり蹴ったりだ。
 しばらく足をぶらぶらと左右に振って、やっと壊れた木箱が足から離れた。
 「クソッ」
 何もかもうまくいかない。
 イラつきは収まらない。

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小事件

 「で? お前はどうするつもりなんだ?」
 既に無人になったカフェの中で目の前の東洋人の女が不敵に笑う。
 「さっさと引き金を引いてみろよ」と言わんばかりにこちらを挑発する笑みだ。
 拳銃が突き付けられた状態でのこの余裕。
 男の方がこの状況がわからなくなりそうだった。

 月瀬水仙はその界隈では名の知らぬものの居ない超が付くほどの有名人だ。
 彼女が表舞台(『裏の世界』を自称する界隈で表舞台とい

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 チクタクチクタク。
 午前一時を過ぎたファミリーレストランは妙に静かで、近くの壁に掛けられた時計の音がやけに気になった。
 チクタクチクタク。
 時計の針の音に合わせて無意識に指でテーブルを叩いていたことに気付いて、やめた。
 天井を見上げて息を吐く。
 さて、どうしたものか。
 コップの中の氷が解けてカランと軽い音を立てた。
 視線を戻す。
 目の前の二人も視線を空に向けて未だに悩んでいる様子

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衝撃映像、生霊、人工言語

 「世の中には魔法使いやら魔術師やら魔導師やらを自称する連中がいる」
 その日、珍しく我が部活の部長――月瀬水仙は妙に饒舌だった。

 俺――桐間周が部室に着いた時点で部長は何やら机の上に将棋盤を広げ、一人で将棋を指していた。
 普段は仏頂面でPCと睨み合っていることの多い部長だが、時々こういう奇行をしていることがあった。
 以前は部室一杯を使ってドミノを並べていたこともあるのでそれに比べれば将棋

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