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夫が心筋炎でICUに入った時の話

8年程前の、まだ長女が1歳になったばかりの頃の話です。

当時は、夫の海外赴任に帯同して、台湾台北市に住んでいました。夕方、珍しく夫から電話が来て、どうしたのかと思ったら、

「胸が痛くて、長庚医院の救急にいる」との事。

普段は、痛みに無頓着な人なのです。その彼が痛いというぐらいだから、余程の事だろうと思いながら、娘を抱っこ紐で抱っこしてタクシーで駆け付けました。

病院に着くと、夫はもう担架に乗っていて、救急車で運ばれる手前でした。

夫の会社の方も駆けつけてくれています。会社の方が言うには救急で検査をしたところ、心筋梗塞の疑いがあると言われたらしく、ICUが空いている別の病院に救急車で行くことになったのだそうです。

心筋梗塞って、死ぬかもしれないってこと?!目の前が真っ暗になるような感覚でした。そのまま、夫は馬偕紀念医院に運ばれ、ICUに入れられました。

翌日、夫はICUで精密検査を受けます。私は、また娘を抱っこ紐で抱っこして、病院に張り付くことになりました。

私は休んでいる夫の代わりに、お医者さんから心電図やエコー検査、血液検査などの結果を見せられて説明を受けます。心臓の血管に詰まりがあるかもしれないとのことで、心臓カテーテル検査も受けた方が良いと勧められましたが、検査による死亡のリスクもあるとのこと。夫に海外でそんな検査を受けさせたくありません。どうしても受けなければならない検査なのか、現状を詳しく知りたくて、必死で覚えた中国語でお医者さんに質問を重ねていくと、精密検査の結果で分かってきたのが、現時点では確定はできけれど、どうも心筋梗塞ではない可能性があるらしいということでした。

心筋梗塞ではないのなら、何なのか。中国語で病名を聞き、ウィキペディアで探っていくと、日本語での病名が判明しました。

「心筋炎」でした。

・・・「心筋炎」って何?

その時、生まれて初めて知った病名でした。心筋梗塞と違って生活習慣病ではないこと、ウイルスが心臓の筋肉に入ってしまったものであることが分かりました。そういえば、入院する前に夫は頭痛があり、日本から持ってきた市販の風邪薬のパブロンを飲んでいたことを思い出します。

あれは、持病の片頭痛ではなくて、本物の風邪から来る頭痛だったのではないか。風邪のウイルスが、何故かは分からないけど、心臓の筋肉の方に行ってしまい、心筋炎になってしまったのではないかと思いました。夫は当時、まだ30代後半。毎日食事にも気を遣っていたし、太っていたわけでもなく、喫煙も飲酒もしない健康体でした。心筋梗塞のような生活習慣病になるはずがないのです。心筋炎の可能性があると聞いた時、合点がいきました。心筋梗塞ではなく、心筋炎に違いないと。

それに、もし異国の地で夫が医療事故で亡くなるようなことになったら。しかも、緊急手術でもなく、ただの検査で。本当に耐えられません。子どもはまだ1歳になったばかりなのに。外国で亡くなったらお葬式はどうなるのか、遺灰を日本に持ち帰るのか、その後の生活はどうなるのか、いろんなことが頭をよぎりました。

症状が落ち着いてきた夫と義母とも相談して、心臓カテーテル検査を拒否し、ICUから退院しました。久しぶりに家族で日本に帰国。お医者さんからは心筋梗塞だとしたら飛行機に乗るのは危ないと言われていたけれど、問題はありませんでした。

帰国後、聖マリアンナ医科大学病院を受診して、CTやらMRIやら精密検査をしたところ、やっと心筋梗塞ではなく心筋炎だったとの診断をいただくことができました。後遺症もありません。結果論ですが、あの時、心臓カテーテル検査を拒否して良かった。外国で病気になり、母語ではない言語で説明を受けて情報を収集し、生死に関わる判断をしなくてはならない状況は、結構しんどいです。HSPにとっては、特に。

夫の会社には、夫が心筋梗塞だと伝わってしまっており、夫が大病になったので、台湾赴任を解除しなくてはいけないと思われていました。今後の出世に響くマズイ状況です。

そこで、診断書をいただき、夫の会社の上司や同僚の方達に心筋炎だったと報告しましたが、心筋炎自体の知名度が低いので、心筋炎という病気を誰も知りませんでした。

「何それ?」「心筋梗塞ではないの?」「どう違うの?」という反応です。日本人も台湾人も、みんな知らない。医療従事者ではない人達には全く知られていない、マイナーな病気。その当時、私が心筋炎という病気に抱いた印象です。会社の方達には、心筋梗塞と違って生活習慣病ではないこと、ウイルス性で完治する病気だということを、何とか理解してもらえて、台湾に引き続きいられることになりました。めでたしめでたし。

翻って、8年後。

NHKの「きょうの健康」で「心筋炎」が取り上げられています。

あの時、誰も知らなかったマイナーな病気。あの病気がテレビで特集されています。あたかも、よくある病気のように。ああ、そうか。違うのです。時代が変わり、心筋炎は、よくある病気になったのです。新型コロナウイルスに対するワクチンの接種後に心筋炎が起こったという報告があるそうだから。

納得した自分に戦慄しました。あの時、私の家族が味わった大変な思いを、他の誰にもしてほしくないと思います。

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