〔小説〕朝起きたらアザラシになっていた その7
※この話はフィクションです。実在する人物・団体名とは何ら関係ございません。100%作者の脳内妄想のみで構成されています。
(・ω・っ)З(アザラシ)になった俺は人間の時に作った静脈認証型キャッシュカードが仇となってATMから金を下ろせなくなり、やむなくPから久しぶりに内職をあてがってもらうも3000円のために今年最悪の悪夢を見ることになった。
夢の中で俺は中学生だった。
夏に林間学校へ行くことがあった。
山のふもとは海沿いで景色もよかった。
しかし遊びたい盛りの子供にとっては牢屋に放り込まれたようなものだった。
テレビゲームもスマートフォンも無い環境で毎度、暇を持て余していた。
ある日、海岸で遊んでいると僕の昔話で頻繁に登場する西沢君が退屈さに耐え切れず発泡スチロールの漂着物でイカダを作り始めた。
気になった僕は「何で作るの?」聞くと西沢君は「アメリカに行ってくる」と笑顔だった。
退屈なら出ていけばいい。西沢君の逆転の発想に感動した僕と二人は社会の時間に習った海流に乗ればハワイに到着できると砂に棒で地図を描いて西沢君に説明した。
西沢君は手持ちのヘビ花火と爆竹で第2次真珠湾攻撃をしてくると言うので、この軍神(ますらお)に僕と二人は背筋を正してから敬意をこめて「海ゆかば~水漬(みづ)く屍(かばね)♪」と歌ってから敬礼。
軍神西沢君も礼には礼をもって接し、こちらに敬礼。
「皇宮(こうぐう)にむかって万歳三唱をする、天皇陛下万歳!」
と万歳三唱しようとしたら典型的な左翼思想の国語教師Hがやってきた。
「バカモーン!」
とHは怒号を発して首謀者の僕が一番はたかれた。
Hはにっくき軍国主義と権威主義を嫌う典型的な日教組系の国語教師だがゲンコツと垂直(すいちょく)権力でクラスを支配するなど、どっちが軍国主義か分からなくなるユニークな教師だった。
Hは僕に罰として読書感想文を書かせた。Hが選んだ本も意地悪で「源氏物語」を読むよう指定した。
年齢=彼女イナイ歴な俺には難解な代物で現代語訳を読んでも心折れる事は数えきれない。
何とかつまみ食いするように点々と読んでいくと、光源氏の君の母親は帝に寵愛されていたが帝のもとへ向かう廊下へ他の女子が糞尿を廊下にまき散らして往来を妨害するなど陰湿ないじめにあって心労がたたり早死にする。
ここまではお悔やみ申し上げると同情したがそれ以降は夜のハットトリックを繰り広げてゆく様にルサンチマンな怒りを覚えてゆく。
光源氏の君が親父の後妻とやったりするが、いくら若くてもオカンとやるのだろ?現代の価値観に生まれた俺はキモイを通り越して当時のマザコンドラマみたいで怖いと思ったり。
生霊を飛ばしてライバル女子をあの世へ「おくりびと」してみせるヤンデレが怖くて夜トイレに行くのが怖くなったり。
やった相手の娘を理想の女子に育てようとする様は当時のテレビゲームにあった育成シミュレーションゲーム「プリンセスメーカー」を現実でやろうとしているゲーム脳な光源氏の君に「犯罪者だろコイツ!」と当時あった宮崎勉事件の影響で「現代なら逮捕だな」と感想文を書いてなんとかHに提出した。
「ロマンがない!!」
Hはそう言って僕に何度も書き直しを命じる。
原稿用紙3枚、文字数1200文字を毎日書いて提出することとなった。そして提出してはボツをくらって感想文を書き直す。
中島らもさんの小説やエッセーにも原稿用紙という田んぼに活字という稲を植える単純作業だと書いてあったが。
当時の俺は賽の河原で石を積み重ねては鬼が崩すのを繰り返す苦行でしかなかった。
その後、どう書けばいいのかわからず。ワラにもすがる思いで著名人の書評をパクって感想文に偽装。それを読んだHが
「毒舌だがロマンにあふれる」
と評価してコンクールに出品すると言い出した。
Hの言葉に恐怖した僕は青森県の太平洋岸でハワイに亡命を決意する。
出航して10分もたたずに僕の「発砲スチール号」が転覆したのは言うまでもない。
浅瀬で転覆しただけなのにカナヅチとパニックで意識が遠のく俺は12月の真冬日に汗だくで目を覚ましたのだった。
つづく。
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