符亀の「喰べたもの」 20210228~20210306

今週インプットしたものをまとめるnote、第二十四回です。


漫画

デッドプール:SAMURAI」(1巻) 笠間三四郎(原作)、植杉光(作画)

アメコミ界で一番やりたい放題な男デッドプールを主役とする、ジャンプ+で連載中のスピンオフ。なんでこれ実現したん?

デッドプールがメタネタパロネタで好き勝手暴れている分、本筋は王道展開で大丈夫なのが強いですね。この1巻収録の7話のうち6話、シンビオート(ヴェノム)と寄生先の少女を別キャラとみなせば7話全てが、キャラ見せのための話になっています。しかしワンパターン化することなく面白いのは、デッドプールの持ち味とそれを活かす原作者の腕によるものだと思います。逆に言えば、ストーリーはシンプルでいいと割り切ったからこそ、筋が分かりやすくなってギャグがより際立っているとも言えます。こういう舵取りが上手いですね。


怪獣8号」(2巻) 松本直也

第十一回以来。作品概要はそちらかリンク先の試し読みで。

漫画の面白さの大部分を担うのはキャラであり、キャラの本質とはその行動原理にある。いささか言葉足らずかつ暴力的かもしれませんが、このまとめには共感いただけるのではないかと思います。この観点から考えると、本作の面白いところは、各キャラのモチベーションの源泉が別のキャラにある点です。主人公は現在はるか彼方にいる幼馴染を目指し、彼に救われた後輩はその恩を返そうとする。これらが1巻で見られた関係性でしたが、2巻では動機の矢印がより複雑に絡み合い、また変質していきます。

これにより得られるメリットは、2つあると考えています。1つはキャラの動機に深みが出て、結果キャラや作品が浅く見えにくくなる点。2つ目は、キャラ同士の関係性が生まれるため、話の展開が作りやすくかつ面白くなる点。こうなるとキャラを殺す意味もより大きくなってくるので、その点でも今後が楽しみですね。


マッシュル-MASHLE-」(5巻) 甲本一

この第38話、日本で一番面白い第38話だと思います。


ダンジョンの中のひと」(1巻) 双見酔

異常な強さの父に育てられたシーフの少女が、父が消えたダンジョンに挑む話。と思いきやモンスターとの戦闘中の事故でダンジョンの「中のひと」と出会い、そちら側で働くようになるという話。

これ系には珍しく、主人公がダンジョン攻略を引退せず、そのための修行も兼ねて働くというのが面白いです。おかげで主人公の目標が「強くなる」というわかりやすいもののままであり、読者が物語の行く末を見失い「で?」となるのを防いでいます。

1話の時点では気持ち悪いコマ割りもいくらかありましたが、この巻収録の最後の話ではそういうのはほぼ消えており、作者さんがこの世界になじんできている印象も受けました。2巻以降も楽しみにしております。


二番目の運命」 幌山あき
AIの行方」 幌山あき

前者は、好きになった人とその初恋の人の幽霊との関係を描いた読み切り。後者は、その作者さんが新人賞を取った際の作品で、亡くなった妻を模したAIとその夫とを描いた短編です。

両方いい作品だと思うのですが、その上で後者の方の講評コメントが的確で一粒で二度おいしい。と同時にそこまでプロは見るのかという点で私の不徳を恥じた作品です。


両翼」 驟々みそばた

生まれつき翼が大きな優等生の話。

オチが上手く、最後のページが作品全体に意味を与え直すオチの補助としていい働きをしています。twitter漫画という1枚ずつスワイプでページを送る形式も、ラスト2枚をより活き活きとさせていると思います。


余命2ヶ月の異世界健康法」 ムナカタ

余命わずかの合気道の達人が異世界に行く話。

全7投稿から成るtwitter漫画ですが、各投稿3枚ずつの計21ページなのが特徴です。1回に投稿するページ数を4枚から変えることにより、ヒキの強いページで終わらせて次の投稿に行かせやすくしているのがいいですね。

その他最初のうるさいキャラが実は年を取った主人公に配慮して大声を出していた親切なやつだったというギャップでつかんだり、それにフルネームを連呼させて主人公の名前を印象付けつつ下の名前で呼ぶ病院のシーンにつないだりと、細かな配慮が光っており読みやすいです。


海洋生物少女と研究者」 中西芙海

オチ好き。おまけも好き。


上には挙げておりませんが「アンデッドアンラック」(5巻)や「チェンソーマン」(11巻)も摂取でき、ジャンプ系を堪能できた週でした。週中の仕事がヤバかったせいで他の作品は手をだせなかった面もありましたが、金曜日に「ダンジョンの中のひと」を見つけられたのでまあセーフかと。

あ、「呪術廻戦」(15巻)は未だに14巻を手に入れられてないので未読です。ネタバレしたら呪います。



一般書籍

文章の書き方」 辰濃和男

朝日新聞のコラム「天声人語」の元筆者が書いた、文章論についての新書です。

この本では、筆者氏が考える文章を書く際に重要なことが、5つの主題から成る3つずつの巻、計15の内容に分けて書かれています。書く前の準備段階を広い円、現場、無新、意欲、感覚の「広場無欲感」でまとめた第一巻。文を書く際の基本を平明、均衡、遊び、具体性、品格の「平均遊具品」で表す第二巻。そして表現上の心構えを整えること、正確、新鮮、選ぶこと、流れの「整正新選流」で説いた第三巻。これら15の主題から、筆者は文章についてを論じています。

まえがきにもありますが、筆者は「文は心である」と考えており、これらの主題は実践的なテクニックというよりも心構えになっています。「整える」の章のみハウトゥー色が強いのですが、それが異様なぐらいに小手先の話が出てきません。なので、これを読めばすぐに文が上手く書けるような本ではありません。現に私の文才は先週と今週でそう変わらないはずです。

その一方で、文を書くにあたり常に胸に刻むべき戒めの十五ヶ条をまとめたものとして見ると、名著だと思います。上記3つの標語も、何度も思い出しながら自らを戒めるための覚えやすいキャッチフレーズとしての機能を存分に発揮しています。

欲しい答えは載っていないかもしれませんが、よるべき指針は載っている。この本は、そういうバイブルなのではないでしょうか。



Web記事

『ハルウララの有馬記念』という限りなく卑怯な負けイベント

流行りのウマ娘について、Cygamesの「やってくれた」シナリオを論じて話題になったnote。ちなみに、これがバズった日のと同じ日に、この負けイベで1位を取ったプレイヤーが出たそうです。

実は、今「不条理を感じさせず、失敗したら自分が悪かったとプレイヤーに思わせるゲーム」、もっと言えば「お前が悪い」と言われている気にさせつつそれに納得させるゲームが作れないかを思考実験していたところでして、そういう意味で非常にタイムリーな記事でした。これを書き終えたらもう一回ちゃんと読もうと思います。最悪ウマ娘はじめます。


『うっせぇわ』を聞いた30代以上が犯している、致命的な『勘違い』

東大で講義もしているボカロPが寄稿した、「うっせぇわ」に関する評論。

前半の、チェッカーズや尾崎豊を連想させる部分を作って年長世代にこの曲を「わかった気」にさせそれ以上入ってこないようにさせているという分析は、面白い視点だと思います。私的には、わざわざ社会人としての話を歌詞に入れつつもMVのキャラは学生風であるように、幅広い世代にそれぞれのフックを作って「その人流の消費」を可能にしてヒットしやすくしたのかと思っていました。本質より前にトラップをしかけてマジョリティーの侵入を防ぐという観点は私にはなく、後半の若者がLGBT級のマイノリティーであるというのも合わせて面白い考察だと思います。もちろんどちらが正しいかは作者さんしか知りえないところですし、どちらもハズレなのかもしれませんが。

刈谷メソッド_05『企画を考える――売れるゲームとは②』
刈谷メソッド_06『稟議書を作る』

アークライトでボードゲームの編集をされている刈谷氏が、毎週連載されているnoteです。8回まで読み、個人ボードゲーム製作者にとって特に勉強になると思われる2回を抜粋しました。


点を打つこと

東京造形大学准教授のカイシトモヤ氏のnote。今週投稿されたnoteから久々に読んで、やはりいいnoteだと思いましたので挙げました。

ちなみに、これを読んで「そういえば新書はほぼ読んでないな最近」と思い新書コーナーで30分ぐらいうろうろして買ったものの1冊が上の「文章の書き方」だったりします。あと3冊は積んでます。


東大王・林輝幸はなぜ『ジャスコ』になったのか【思い出のクイズ】

QuizKnockに所属する方々が思い出深いクイズについて語る連載の1つ。

「2019年4月3日、TBS『東大王』に初めて出演し、最初に対峙した1問。」の1行から加速的に面白くなるのですが、この日付と体言止めの2つが区切りの文としていい働きをしていると思いましたので、備忘録として書き残しておきます。


ポケモン倫理委員会

ポケモンの世界に倫理委員会があったらというSS(二次創作短編)。ちなみに筆者はエッチな画像の人

現実の皮肉を入れると、SSの現実感を増しながらユーモアも足せて一石二鳥である。これは本作で気づかされたテクニックで、機会があればパクらせてもらおうと思います。あとシンプルに短めで面白いんですよ。流石です。


『森喜朗はかつて私たちのセクシーアイドルだった』ゲイから見た“女性蔑視発言”

ワロタ。

筆者さん、たぶん「ホモがおっさんを性的に消費して茶化す記事はポリコレ棒で叩かれない(から載せられる)」のまで皮肉りながらこれ書いてると思います。そこも込みで見ると、なお味のある記事とコメント欄です。


「ジャンプ作品が豊作だった」「週中忙しかったせいで現実逃避のWeb記事漁りがはかどった」のダブルパンチで、自己ベストクラスの文量になってしまいました。そんなことしてるうちに新作の制作もいい感じに仕上がってきましたので、来週はいい発表ができるかと思います。お楽しみに。

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