符亀の「喰べたもの」 20201129~20201205

今週インプットしたものをまとめるnote、第十一回です。


漫画

鬼滅の刃」(23巻) 吾峠呼世晴

完結おめでとうございます。

本当にクオリティが高いです。197話(この巻冒頭の話)は一度全コマについて改善案が出せないかを検討してみたのですが、「好みの問題だけどこう書いてもよかったかもね」ぐらいのコマすらほぼなく、精読するほどにコマ配置や構図、セリフの意図に感銘を受けました。23ページ目の3、4コマ目を消して、代わりに味方の奮闘を見て自分にできることがないかを考える炭治郎を1コマ目の前に描写したほうが自然かな、ぐらいですかね。

20ページの、擬音で善逸のセリフに視線誘導しつつ、最後の横長のコマで次ページのセリフに疾走感を与えてテンポを崩さないコマ割は特に見事です。最初のページで前巻の内容を思い出させ、次の1.5ページ分のセリフから中央の目立つ書き文字で見開きのフリをし、技を食らうコマをそこに入れることで次の見開き2ページの静動の対比を邪魔しないという流れにいたっては、この文を書きながらため息が漏れるほどです。

改めて、素晴らしい作品でした。連載お疲れ様でした。


怪獣8号」(1巻) 松本直也

自然災害かのごとく怪獣が定期発生する日本において、討伐後の怪獣を処理する32歳男性が主人公の物語。幼馴染のヒロインが怪獣を討伐する防衛隊の隊長にまで上り詰める一方、主人公の彼はその隊員になることを諦めかけていた。しかし同じく防衛隊志望の後輩がやってきたことなどをきっかけに、彼の防衛隊への挑戦が再び始まる、という話。

世界観の説明、キャラの掘り下げ、画力の見せつけ、急展開と2話以降への引きを全てこなす1話。ギャグ展開で1話の緊張を緩和させてから見せ場をぶちかます2話。これらの構成の完成度が高いのがいいですね。トリッキーな設定のもとで展開は王道であり、斬新さとわかりやすい面白さが両立されている点も勉強になります。


コーヒームーン」(2巻) 牡丹もちと

「一番幸せな日」である自身の誕生日を1000回以上ループさせていた主人公だったが、ひょんなことから友人たちもループせずにループ前の記憶を持つようになっていく。そんなループを自覚した友達たちとの日々を過ごす中、主人公の心には明日に進みたいという希望が生まれるのだが…。

なぜループしているのかもわからないのにそれが「一番幸せな日」だからと楽しんでしまっている主人公など、少女たちの幸せな日々を見ているはずなのにふとホラー的な不安がよぎる。そんな気味の悪さと、それでもかわいいキャラたちが「やさしい世界」っぽい空間で青春を送るというアンバランスさが魅力です。この漫画のジャンルがわからない分、結末(次巻完結の様子)が読めないのが一番怖いです。

連載中で誰も結末を知らないという意味では今が一番この漫画を楽しめると思うので、ご興味のある方は試し読みからどうぞ。


微妙に週末が忙しかったことや、「鬼滅の刃」の精読にリソースを大きく割いたために、読んだ冊数としては少なめでした。しかし得た経験値としては日頃に負けないレベルかと思いますので、しっかり消化したいと思います。



一般書籍

ここらで広告コピーの本当の話をします。」 小霜和也

そもそも、広告の役割とはなんぞや。
それは、
モノとヒトとの新しい関係を創ること
です。

これは、本書の「はじめに」より引用した文章です。

正直、私は拙作を広告するのが好きではありません。特にキャッチコピーは敬遠していたのですが、その理由は「コピーによって、その作品がどのように受け取るべきものなのかを決めてしまう気がするから」でした。しかし、本書のこの記述を読み、ヒトとモノとの関係は一つではなく、広告やコピーによって新たな関係が創り出せると知って目から鱗が落ちました。

私のような商売的観点から外れた人間以外にも、というかメインターゲット的にはそういう人の方が、本書は非常に勉強になるかと思います。一見矛盾するような内容も書いてありますが、そこに自分でツッコんだうえで読者の誤解を解いてくださる書き方が、顧客視点に立つべきという本書の内容の実践でもあり面白いです。実例も多く、広告になんとなくの忌避感ぐらいしか感じていない人でも面白く読めるかと思います。


現在は関連する2冊を同時に読み進めており、片方が300ページほどの厚めな評論であるために次にここで紹介できるのがいつになるかはわかりませんが、今年中ぐらいを目標に読んでいきたいと思っています。



Web記事

コカ・コーラが『たまに買う客』を重視する真相 ターゲットマーケティング信者が見落とすもの

実はライトユーザーの方がヘビーユーザーよりも多くの売り上げを占めていることがあり、ヘビーユーザーに的を絞ったターゲットマーケティングではなく、ライトユーザーからノンユーザーまでを広く狙ったアプローチの方が成功につながりうるという記事。

後半で述べられている戦略については、正直眉唾な部分もあります(生存バイアスがかかっていそうなものや、それができたら苦労せんわなものなど)。ですが、最後のマーケティング理論は常に進化し続けているので最新の理論を知って活用すべきという主張はその通りですし、その一例として面白かった事例ですので、今回取り上げさせていただきました。


あんさんぶるスターズ!!のUIデザインについて

上記作品のゲームUI監督さんが、その解説をされているnoteです。

しっかりお金がかかっている作品のデザイン意図が実例と共に紹介されている、それだけで勉強になります。特に前作から新作に向けて変えたところと変えなかったところ、それらの意図について述べられている点が興味深く、参考になりました。


災害が日常の一部と化した「今」を描いた怪獣漫画 松本直也『怪獣8号』はなぜここまで注目を集めるのか

先程取り上げた「怪獣8号」への分析記事です。私の分析よりも文藝的観点からの評論になっているかと思います。

やや本筋からは外れますが、終盤の

 いい年こいた大人や女性が『少年ジャンプ』を読むことは全く珍しいことではない。思えば私が子供の頃からジャンプを読んでる大人はいたし、同級生の女の子だって普通に読んでいた。
 もはや少年漫画の主人公は「少年」である必要はないのかもしれない。

について。こうした少年ジャンプの「少年」離れについては、「ドラゴンボール」などの時代に編集長をされていた鳥嶋和彦氏が苦言を呈しているところなのを踏まえると、また違った角度からこの評論が見えてくるかなと思います。鳥嶋氏の発言は紙のジャンプについてで、「怪獣8号」はジャンプ+というアプリ発(評論中でもそこが注目されています)ですのでその差も踏まえるべきではありますが、ここは個人的に考察を深めたいところに思いました。



改めて、今回は取り上げた数も書いた文字数もコンパクトな回でした。多ければいいというものではありませんが、積読も溜まっておりますので、来週は期待しながら読み飛ばす準備をしておいていただければと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?