つくりたいからつくる
先日、仕事の受注判断を単純な4象限でまとめてみては?とツイートしたら、結構賛同してくださった方がいらっしゃって。
「面白くてお金がたくさんもらえる仕事は何がなんでもやる」「面白くてお金が少ないこともやる」「面白くなくてお金が多いこともやる」「面白くなくてお金が少ないことは絶対やらない」というアホっぽい4象限ですが、なぜわざわざ図に起こしてまで話したかということでして。
(ちなみにここでいう「面白い」の定義は広めに考えており、「新しい分野を開拓できる」「自分の能力がきちんと求められている」「心地よい関係性が繋がる・継続できる」といった事象も「面白い」に含まれます。)
学生の頃やプロを目指しているうちは、創作活動とお金がまだあまりリンクしないので、意識されにくいことですが、プロとして就職し、自分の売り上げやギャラとしてその報酬が頭に浮かぶようになると、ものづくりのモチベーションが報酬という外発的なものにコントロールされてしまいがちです。
本来は「つくりたいからつくっている」はずだったのに、「お金をもらえるからつくっている」に変わり、「お金がもらえないとつくらない」意識に変わってしまうということです。(これを行動経済学では「アンダーマイニング効果」とちょっと難しい呼び方をします。多くの人に起こり得る動機付けの変化です。)
もちろん、この報酬は貨幣によるものではなく、「承認」つまりクライアントが喜んでくれたり、周囲からいいねという評価を受けることも含まれるのですが、プロフェッショナルという語義は「貨幣的な対価を受け取る」という部分が重いため、どうしても「動機」と「お金」が密接になってしまいます。
「お金をもらえないとつくらない」が強化されると「お金をもらえるかどうかがつくるかどうかを決める」になってしまいます。前述の4象限の縦軸は無視され、横軸のみが創作の動機になってしまうということですね。
しかし多くの人にとっては、さきほど述べたように「つくりたいからつくる」というところからスタートしているわけで、その軸をプロになったからといって捨てるべきではない、という提案がこの4象限でした。縦軸(面白いか面白くないか)は横軸(お金)と同じようにクライアントや社会に対して強く掲げてよいと思います。プロとして幼稚なことでも恥ずかしいことでもないんです。
例えば安価なギャラで打診された場合、「金銭的な報酬としては正直十分ではないのですが、補完条件として、案件を面白くすることに協力いただけないでしょうか。例えば、私はこういうことを試したいと思っているのですが、この方向で基本的にダメ出しをしないという前提で進めていただければ、ぜひやらせていただきたいのですが。」なんて逆提案もありだと思うのです。
(むしろ、金銭的な軸のみを信奉していくほうが、長期的にクリエイティブ業を営む上で危険かも。)
複数の価値軸を探していくことはとても大切です。内発的動機(つくりたいからつくる)や外発的社会性動機(ほめられるからつくる)、外発的経済性動機(お金がもらえるからつくる)などの要素に貴賤はなく、案件ごとにあなた自身がそのバランスを定めていけばよいのです。もしあなたが会社員の立場にあり、契約関係で無理なこともありますが、その外での活動にはなんら制限はありません。
「つくることが好き」だったのにいつのまにか、大きなお金や責任を背負い込んで、社会に役立つこと、お金をもらうこと「だけ」がつくるべきこと、と信じ込まされる。それがプロフェッショナルという肩書が持つ落とし穴の一つです。大金は求めなくとも、自分がつくりたいものを吐き出すことや、同好の士からの承認を稼ぐことも、創作物をお金に変えていくことと同様、正統性があり認められるべきことです。
そして創作に関わる全ての動機は共存します。本職で求められるタスクと、つくりたいものとの間に距離があるとき、本職では付加価値を給料やギャラにしっかり変えつつ、つくりたいものはライフワークとして作り続けることが大切です。
社会が背負わせる、クリエイターの社会性や経済性の責任の重さに少し疲れたら、この言葉をつぶやいて軽くなりませんか?
「わたしは、つくりたいからつくってるんだ。」
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