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「ハルウララの有馬記念」という限りなく卑怯な負けイベント

ウマ娘を始めてしまった。


こんな事言ってたのに。

「好きになり過ぎそうだから新しいコンテンツを始めたくない」
というジジイそのものの感性が垣間見えるが、そもそも競馬に全く興味のない俺がウマ娘に興味を持ってしまったきっかけがハルウララだ。

ハルウララという馬について

我々の世代なら、どれ程競馬に興味がなかろうと「ディープインパクト」と「ハルウララ」という馬位は知っている。まだテレビや新聞といったマスメディアの影響が強かった頃、連日の過熱した報道は非競馬ファンにもフィーバーを巻き起こした。

ディープインパクトはその圧倒的な強さから、ハルウララはその逆、圧倒的な弱さから。

いや、多分「弱い」という表現には若干の語弊があるのだろう。
確かに100レース以上に出馬して1勝も上げる事はなかったが、出走による賞金によって赤字にはなっていなかったというし、その苛烈な出走頻度に耐えうるタフネスと走る事への熱意は持っていたらしい。

「自分が浅い事を言ってると思われたくない」という予防線は置いといて、
ともかくハルウララは「1勝もしなかった馬」として人気になり、人間同士のゴタゴタに巻き込まれる形で引退していった。

そのハルウララを「勝たせられる」。
現実ではついぞ叶わなかった初勝利を授けられる。
その気になればG1レースの栄冠すら手にできる。

俺はこの手の「夢が叶う類のIF」に弱い。
例えば頼れる大人に囲まれて真っ当に成長するシンジ君のような、「来るかもしれなかった幸せな未来」は、原作を摂取していなくとも胸にこみ上げてくるものがある。

実際、ウマ娘内のハルウララがどんなキャラなのかは全く知りもしなかったのだが、「ハルウララを勝たせられる」という事象そのものが、思わずDLボタンに手を伸ばさせるには充分だった。

……なお、同じくウマ娘内で「IF」を手にしたウマとして「サイレンススズカ」も有名だが、競馬を知らない自分がそれを口にするのは憚られるのでこの記事では触れない。

以降アプリ版ウマ娘でのURA編ハルウララのストーリーをなぞって行く為、盛大なネタバレを見たくない方は先にプレイしてください

ぽつんとひとり ハルウララ

アプリをダウンロードし、律儀にチュートリアルを始めると、まずは「ウマ娘」の世界でのレースを見る事になる。
綺羅びやかな衣装の(メタな言い方をすればレア度が高そうな)ウマ娘達がゲートから飛び出し、猛烈な速度で走り出す。

言葉にすると滑稽だが、絶え間ない実況や疾走する馬群を捉えたレース画面のテイストは、ダビスタやスターホースのそれを彷彿とさせる。つまり、驚くほど競馬然としている。

俺には何もわからないが、おそらく世代を超えたオールスター達が熾烈なレースを繰り広げる中、遥か後方を走る一人(一頭?)の姿があった。

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 最後方        
  ぽつんとひとり
           ハルウララ

実況に突然一句詠まれる程ぶっちぎりの最後尾、桜色の髪のウマ娘がハルウララらしい。

成程、噂に違わぬ弱さのようだ。これは恐らくスマブラDXのピチューやストリートファイターのダン、カスタムロボのヒヨコロボのような、意図的に作られた弱キャラ枠なのだろう。

チュートリアル中に回せるガシャからも、ハルウララは現れた。レア度は最低の星1。
このガシャは排出内容が固定らしいので、どんなにリセマラをしようが絶対に所持した状態でゲームが始まるし、レア度が最低なので「重ねる」のも簡単だろう。
始めた時点ではハルウララ以外に興味のなかった俺には願ってもない仕様だ。

チュートリアルもそこそこに、初プレイのウマ娘をハルウララに決める。
よく見れば髪色だけでなく、瞳の中にも桜の模様が入っているのに目を引かれた。

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(こんな子)
(以下スクショをそのまま貼ると記事の長さがこの世の終わりみたいになるので妙なトリミングが多発します)

「初プレイから弱キャラって、難しいキャラ選んじゃったかな」と当時の俺は思っていた。
……実際には、ハルウララが「初心者オススメウマ娘」No2の優良馬なのは知る由もない。

ある意味の史実らしさ

ウマ娘においてプレイヤーはトレーナーとして、「トレセン学園(競争ウマ娘を目指す育成機関)」に所属するウマ娘のトレーニングメニューを決めたり、出走するレースを決めたりし、最終的にはゲーム内オリジナルレースの制覇を狙う。
「パワプロのサクセス」とか「シャニマス」とか表現されるシステムなので、それらを知っている人なら理解は早いだろう。

物語が始まると、ハルウララとはトレセンで出会う事になる(当たり前だろと思うかもしれないが、いきなり無人島から始まるウマ娘もいるため念の為)
走るのは好きだが校内の模擬レースでも連戦連敗。
そしてトレーニング中には集中力を欠いて興味のある方へフラフラと足が向いてしまう、というウマ娘だと明かされる。

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成程、そういう方向の性格なのか。
始める前は「走るのが大好きで健気に頑張っているが勝てない」というキャラクターかなと思っていたが、この子は「負けるべくして負けている」感じだ。

ただ、「それでも走るのが好き」というのがハルウララの大きな魅力として描かれている。
例えレースで上位入賞を逃しても、他のウマ娘が落ち込む中でハルウララはにこやかに客席へと手を振る。

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デビュー戦、8人中6着という惨敗でもこの笑顔。
後ろの落ち込むウマ娘達との差が際立つ。

ウマ娘の世界ではウイニングランならぬウイニングライブという文化があり、レースで負けるとセンター(一位)の脇で踊るという割と屈辱的な目に遭うのだが、彼女はそれですらステージに立てる事を喜ぶようだ。

負けてなお笑顔、レースに出走する事を純粋に楽しむ様が観客や他のウマ娘を魅了しているという描写が各所に散りばめられている。

そしてアプリ版ハルウララを語る上で欠かせないのが個別シナリオの特異性だ。

ウマ娘の育成パートでは、全キャラクター同一の最終目標として3年後のオリジナル大会への出場・優勝を目指しつつ、ウマごとの個別シナリオとしてのステップ目標をこなしていく事になる。
各ウマ娘は史実での活躍をなぞるような、あるいは「叶わなかった」目標が複数設定され、規定ターンごとに訪れる目標レースでの上位入賞、あるいは勝利を要求される。
シビアな点として「目標未達成の場合育成打ち切り」というシステムが挙げられ、例えば「2年目に目標レースでの一着」という目標が達成できなければそこで育成もシナリオも強制終了してしまう。
グッドエンドを迎えたい場合は勿論、育成期間は長い方が当然ステータスも伸びるので、プレイヤーとウマ娘は目標達成の為に東奔西走する事になる。
レア度が高いウマ娘は元ネタの馬も偉業を成し遂げている事が多いので、育成の継続に四苦八苦する。

ではハルウララの個別シナリオはというと、なぞるべき史実もへったくれもない為か中盤まで「一定期間までにファン人数を稼ぐ」という目標が並ぶ。

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(シャニマスかな?)
期間も非常に緩く設定されており、充分なトレーニングで自力を付け、勝てるレースを選んで勝っているだけで簡単に育成が継続できる。
仮に1位を取れなくても順位に応じたファン数が増加するので、
「勝利できなくとも頑張って走ってファンを集める」というある意味現実のハルウララのような育成をする事になる。

そして常識的に考えれば最難関が待ち構えているだろう最後の目標は「有馬記念への出走」。

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有馬記念はウマ娘の世界でも現実と同じく、出走できるだけで栄誉あるレースだが、ファン数が一定に到達していれば出走自体は可能であり、出走さえできれば順位は問われないので、最後の最後に勝利を要求されない。

長々と書いたが、ハルウララのシナリオは「勝てなくても応援されるウマ娘」「勝利の必要がない最終目標」である事だけ念頭に入れて欲しい。

肝心の育成だが、ハルウララはステータスに制限があって他のウマ娘なら通過点に過ぎない初勝利が果てしなく遠い。

……という事はなく、普通にレースに勝てる。
先に述べたように短距離馬は育成が容易なので、むしろ高レアの名だたる名馬より序盤からガンガン勝てる。負け組の星とは一体。

ただ、シナリオ上は成績に残らないイベントでの競馬等に出走しており、そこではボコボコに負けている、という事になっている。
それでも持ち前の走る事への意欲、愛嬌の良さを存分に発揮し、商店街で後援会が発足されたり、負け続けな事へ悪態をついた一般人が彼女と接する事でファンに転じたりと、「勝てなくても応援される個性」が描かれる。

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ハルウララの友人とのとある一幕。
このトレーナーのモノローグ一つに、彼女が愛される理由が詰まっている。

有馬記念に出たい

ある時、「ただ目の前のレースを走る事が楽しい」ハルウララの心境に変化が現れる。
トレセンの仲間が出走する有馬記念を観戦した際、会場に渦巻く熱量に胸を打たれたハルウララは、その言葉の意味も理解しないまま「有馬記念に出たい」と叫ぶ。初めて「走りたいレース」を見つけた瞬間。 

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(馬の字が変なのはウマ娘の世界に4足歩行の本来の『馬』がいないので漢字の脚も減っている、というのをどこかで聞いた)
瞬く間に周囲が困惑にどよめく。それを耳にした観客も、プレイヤーの分身たるトレーナーも、プレイヤー自身も。

理由は2つある。競馬を知らない人(俺含む)でもその名くらいは知っている、国内最高峰のレースに弱小ウマ娘(という事になっている)が無謀にも挑みたがった事、そして有馬記念のレギュレーションが尽くハルウララの適正と噛み合っていない事。

ハルウララのゲーム内性能は決して負け組ではない。
数少ないダート適性Aであり、短距離~マイル(1200m~1800m)を得意とするスプリンター。デビューから無敗で連戦連勝というのも夢物語ではなく、現時点でのハルウララは「ダートの女王」と言っても過言ではない。

……だが、有馬記念は2500mの「長距離」「芝」コース。
長距離も芝も、適性は最低のG。チーターがイルカにドーバー海峡横断対決を挑むようなものだ。

シナリオ上での扱いでも、ゲームのデータ上でも、ハルウララが有馬記念に挑むのは無謀という他ない。
……が、現実と同じく、ウマ娘の有馬記念もファン投票で出馬できるので、それ自体は不可能ではない。

「勝てないウマがファンの後押しで有馬記念という大舞台に立つ」
無勝ながら大人気となったハルウララをモチーフとしたキャラにとって、ある意味では相応しいクライマックスだ。

「この時点では」そう思っていた。
競走馬にとっての「勝つ」事の意味を軽んじたまま。

ハルウララの夢を知った商店街の後援会は、ファン投票での出走を狙い活動を開始する。トレーナーはそれになにかを思うようだが、声を掛ける機会を掴みあぐね続ける。

その裏でハルウララは目標レースとしてとうとうG1(最高ランク)レースへ挑む。
……等の本人は「G1」に緊張するどころか「なんでたくさん観客がいるんだろう」とその意味すら知らない様子だったが。
目標ノルマは5着以内。育成が上手く行っていれば1着を取る事はできるが、恐らくシナリオ上は2~5着でパスするのが正規ルートに思えるのでその前提で進める。

惜しくも勝利を逃すものの、大勢の観客の前でウイニングライブに立てる喜びにはしゃぐハルウララの前に、悔しさに涙を流す「ウマ娘A」の姿があった。

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……このキャラは最後まで姿も名前もわかる事なく、「ウマ娘A」というモブの肩書を固有名詞として背負い続ける。後の抉るようなボディーブローへの布石。

思わず声を掛けるハルウララ。ウマ娘Aは折角手に入れたG1でのチャンスを掴み損ね、ウイニングライブのセンターに立てなかった事への後悔、そしていつか絶対にセンターを勝ち取ってやるという怨嗟にも似た決意を口にする。

目の前のレースが、ライブがただ楽しかった彼女には理解し難い感情を目の当たりにし、ハルウララは困惑する。

そしてこのわだかまりが弾けるまではあっという間だった。
ハルウララの有馬出走という夢を叶える為、商店街の後援会はハルウララはへの投票を呼びかける大々的なビラ配りを行う。
日頃から商店街のあちこちで手伝いをしているハルウララも、その行為の意味を理解しないままビラ配りに協力する。

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その場には活気が溢れ、皆笑顔な筈なのに、
「……あれ?これ大丈夫なのか?」という不穏さがトレーナーとプレイヤーを襲う頃、とうとうそれは炸裂する。

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現れたのはウマ娘A。
「まずい」と思う間もなく、彼女はハルウララに激昂する。

自分が何をしているのかわかっているのか。
ウマ娘は皆、出たいレースが、勝ちたいレースがあるから頑張っている。
それを、ハルウララは有馬記念を他人の力で簡単に手に入れようとしている。本気で走っている私達をバカにするな。
ウマ娘Aは怒りを隠さない。

憎らしい事に、この構図は現実のハルウララを取り巻いていた環境の再現だ。
ハルウララは負け続けた事で人気を呼び、一つの競馬場を救うに至る程のブームを巻き起こしたが、一方で競馬関係者からは冷笑されていたという。
毎年何千という競走馬が産まれるが、名を残すような馬はわずか。
勝てない馬は見限られ、馬自身だけでなく、それを産んだ両親の血統へすらもケチがつく事もあるらしい。
ハルウララが「負け犬の星」などと持ち上げられている裏で、名前すら知られない「馬A」達はひっそりと消えていく。
それ程シビアが故に、誰もが「勝つ事」「勝たせる事」こそ至上とする競馬の世界で、「負けている事」を評価するマスコミや一般人の熱狂と温度差が産まれるのは想像に難くない。
誰もが名を知る騎手の武豊ですら、そのブームには怒りを覚えていた事すらあるという。

現実でのハルウララフィーバーの如く過熱していた後援会が、若干冷静になる中でハルウララは悩んでいた。「楽しいから走る」じゃ駄目なのかと。

ハルウララは悩み続けた。有馬記念に出たいという気持ちに嘘はない。でも、今の自分は何が駄目なのだろうと。
友人のライスシャワーにも打ち明けた。時に「勝つ事を望まれなかった」ライスシャワーと、「勝ちたい」という気持ちのヒントを貰った。

そこから先は――

後日。
「レースへの緊張感」を身に着けて貰う為、トレーナーが選定したG3重賞レース(エルムステークス)への出走前、普段の弾むようなハルウララの声は鳴りを潜めていた。

……待て。

彼女は今までの自分では何かが駄目なのだと思い始めた。
有馬記念に出るには、有馬記念に「出ていいと認められる」為には、何かを変えないといけないと気付いた。

待ってくれ。

レース勝利後も、ハルウララは喜びを噛み殺す。

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そして、初めて「勝ちたい」と願った。

止まってくれ。

これじゃ足りない。もっと一着を取って認められたい。
有馬記念に出られるように認められて、皆を笑顔にしたい。
だから、次はG1のレースに出たい。G1のレースで一着を取りたいと告げる。

トレーナーもそれに応える。

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今のハルウララになら、純粋に「勝つ事」を要求できる。
彼女が欲する格式に相応しいレースとして、JBCスプリントへの出走を提案した。(ウマ娘のゲーム内にJpnの区分はない)

もしそれに勝ってしまったら――

個別シナリオも最終盤、実質的に最後の試練であるこのレースで勝てるのなら、文句なしに「短距離ダートの女王」だ。
ここまで積み上げてきた三年間の集大成とも言えるレースにハルウララを送り出す。

そして、文句無しにこのレースに勝利。
一着をもぎ取ってきたハルウララは、どこか不安げに問いかける。

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「これで有馬記念に出られるかな、出てもいいのかな」

無邪気にただ「有馬記念に出たい」と願っていた頃とは違う。
「有馬記念に出る」という重みを理解したからこその戸惑い。

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観客の大歓声が答えだった。
後援会だけではない。スタンド中がハルウララの健闘を讃え、彼女の夢を応援した。
文句なしに有馬記念出走の権利を手にした瞬間。

もう、彼女の夢は「有馬記念に出たい」ではなくなっているのに。

有馬記念直前のクリスマス。
ハルウララはサンタさんのプレゼントを無邪気に喜びながら、トレーナーへプレゼントの「約束」をする。

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有馬記念の一着をプレゼントしたい。
だからもうちょっとだけ待ってて、と。

……頼むからやめてくれ。

有馬記念で勝ちたい

有馬記念当日。
「勝てない落ちこぼれが有馬記念に出走する」という誰もが祝福したくなるような夢を叶えたウマ娘がそこにいた。

だがレースを控えたハルウララは、もう今までの彼女とは違う。
ただ漠然と「楽しそうだから」そこを目指していた過去から、
「勝ちたい」と本気で願ってレースに臨めるまでに成長していた。

「絶対一着取ってくるね」
そう宣言してハルウララは控室を後にする。

やめてくれ。
俺はもう、どうなるかわかりきっているのに。


……プレイヤーの一部は、このレースが始まらないでくれと願うだろう。
ゲートが開かないでくれと願うだろう。

無情にもゲートが開き、各バ一斉に飛び出してから、勝負が決するまでは一瞬だ。

いや、そもそも勝負など最初から始まってもいなかった。
名だたる名馬がポジション争いで馬群を形成する中、その遥か後方にハルウララは置き去りにされる。

ダート短距離走の最高峰を制する為に「まともに」育成されたハルウララは、この芝の長距離レースにおいて「まともに」走る事すら叶わない。

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 最後方            
  ぽつんとひとり   
           ハルウララ

いつか聞いたフレーズが実況の口から放たれる。

最早レースの行方を追うカメラに映り込む事すらない程に引き離され、一着争いどころか着順の前後すら起こり得ない中一人走り続ける。

彼女の走りに失望した観客は誰一人いないだろう。
全然勝てなくて、それでも見ている人に元気をくれるような走りをしていたあの子が、この大舞台で走っている。
誰もが自分の本命とは別に、ハルウララに声援を送っただろう。
そうして、長い長い孤独なレースが終わる。


レース後、ハルウララは泣いた。

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こんなに大きなレースで走れた事、耳に届いた観客の声援、どれもが嬉しかった筈なのにと言いながら。
初めて味わった「勝てなかった悔しさ」にハルウララは泣き崩れた。

最も卑怯な負けイベント

「やってくれたなCygames」
プレイヤーである俺も、どうしようもない悔しさと、制作元に対する義憤を抱いた。

まず言っておくと、「ハルウララを泣かせるようなシナリオを書くな」とキレている訳ではない。
走るのが楽しい、だから負けても楽しい。周囲も、本人もそれでいいと思っていたハルウララがとうとう勝利への執着を手にして、そして初めて「悔しい」という感情を味わう。有馬記念での涙は彼女の内面が競走バとして成長した証を劇的に描いている。

では俺がタイトルに断じる程に「卑怯」と表現しているのは何かといえば、
この有馬記念が実質的な負けイベントでありながら、
「ズルも小細工もない通常仕様のレース」である事だ。

このレースは漫画やアニメ、ゲーム中のムービーのようにこちらの意思決定の余地がない訳ではない。
また、他のゲームでの負けイベントで言えば、途中から敵が無敵になるとか、そもそもダメージが与えられないとか、あるいは回避不能の即死攻撃を放ってくるようなわけでもない。

例えば、有馬記念が始まったら全プレイヤー結果が完全固定のムービーが流れて最下位が確定するとか、データ上勝てる筈がない程の下方修正が掛かる、等であればプレイヤーは割り切る事が出来る。

だがこれは、ただ単に通常通りの仕様のレースに出走させ、そしてただ単に
「ステータスが足りていない」
という現実を暴力的に叩きつけて来ているだけだ。

「理論上『は』勝てる可能性がありますよ」
勝敗でシナリオが分岐するゲームで、こんなに性格の悪い目標設定があるだろうか。
「序盤にラスボス出てきて蹴散らされる負けイベ、もし勝っちゃったらどうなるんだろ」
「ほんとは通れちゃいけないルートをテクニックで強引に突破したらどうなるんだろう」
そういった興味本位で行われる負けイベ回避やシーケンスブレイクとは訳が違う。

このシナリオを見せられて、「ハルウララを有馬記念で勝たせたい」と思わない奴などいないだろう。
何キロ先にあるかもわからない場所に人参を吊るされて、その存在だけを仄めかされている。我々は地獄のマラソンへの参加券を手渡されている。それも無料で。

「極度のインフレを待つ」以外で現在考えうる現実的な手法としては、
①途方もない数の育成・継承(競馬でいう交配)をし、
②芝と長距離の適正因子を最大値で引き継げる継承元ウマ娘を用意し、
③その因子が強く影響し、芝と長距離の両方が「完全に駄目(G)」から「だいぶ苦手(D)」位のハルウララが産まれるまで祈る所がスタート地点。
それでいて有馬記念に出走する直前にJBCスプリントに勝利する必要がある。

育成理論も必要なステータスも根本から違う「短距離ダート最速」「長距離芝最速」を同時に達成するという事は、それは最早地上最速生物に他ならない。
そしてそれを成し遂げる運と育成を持ち合わせ、シナリオにおける最終局面に到達してようやく、やり直し不可の一発勝負で有馬記念に挑む事が出来る。

ここまで書けばわかる通り、これはもうやることがなくなった廃人が一生遊び続ける為のエンドコンテンツとか、上手くなり過ぎたが故に自らに縛りを課して遊ぶ変態プレイの類だ。

初心者向けの簡単なキャラを育成していた筈なのに
「この子が勝つ所見たいでしょ?」
と突然エンドコンテンツから手を差し伸べてくる。
覚悟を決めてしまった何人かは、もうその手を握り返してしまった。

正直、飽き性な俺はそれを達成出来る可能性は低い。
ただ、そもそも遊ぶつもりもなかった俺が、こんな長文を感情に任せて書き殴ってしまう程に揺さぶられ、熱中させられたこのCygamesの手腕に、
「これは余りに卑怯だ」「やり方が上手すぎる」と喚き散らすほかない。

最後に

念の為言うと、ハルウララシナリオは有馬記念がゴールではない。
その後共通シナリオとしてURAというオリジナルの大会を予選・準決勝・決勝と勝ち上がっていくのが最終目標だ。
最終レースは普通に育成すれば最も得意なコースが選ばれるので、ここまで鍛え上げた短距離ダートの実力を存分に発揮できる筈だ。
何度も言っている通りハルウララは育成難易度が低く、必勝に近い育成法も確率されているので(逃げ型ハルウララ、バクシンオー育成等)
彼女が迎えるエンディングに関しては自らの手で確認して欲しい。

更に重ねて念の為言うが、ハルウララが勝利に固執して闇落ちする展開などはないので安心して欲しい。最後までとてもいい子です。

気がついたらとんでもない文量になってしまったが、アニメも何も追っていなかった俺が突然ここまでハマる位ウマ娘のアプリは完成度が高いので、ちょっとでも気になったら遊んでみてはどうだろうか。

そしてサイゲにキレよう。

あと皆で中山競馬場を土で埋めよう。


追記



2022/1/4

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