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フューチャーデザイン・プロジェクト~Future Design 私たちが感じる未来~ vol.4 株式会社しごと総合研究所 代表取締役 山田夏子さん×エイチタス特別顧問 蓮見<後編>

エイチタスの特別顧問、現札幌市立大学/筑波大学名誉教授の蓮見孝と、様々な分野で活躍する次世代リーダーとの対談企画。第4回目となる今回は、株式会社しごと総合研究所 代表取締役/グラフィックファシリテーション協会代表理事の山田夏子さんをゲストにお迎えしました。

美術大学で彫刻を学んだ後、デザイン学校で教育に携わる中で、人と人との関係性が、個人の能力発揮に大きな影響を与えていることを実感した山田さん。現在は様々な企業や団体に対し、参加者の主体的な合意形成を生むために、話し合いを同時進行で絵と文字で表現するグラフィック ファシリテーションや、システム・コーチング®を使った組織開発事業を展開しています。様々な企業と関わる中で、山田さんは現代の日本企業にどのような印象を持っているのか。教育や人材開発、コミュニティデザインにも携わる蓮見と山田さんの対談の後編をお届けします。

前編はこちらから

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---大切な要素は、日本の暗黙知の中にある

蓮見:これからの時代、クリエイターも深層の可視化しにくい世界を探る必要があるでしょうね。仏教徒でもあったスティーブ ジョブズは、生前率先してマインドフルネスに取り組み、見えないものを見ようとしていたそうです。それは、日本人が元々持っていた要素だと感じます。

山田:見えない”気配”を感じ取るのは、日本人特有の感覚だそうですね。日本の中にはすごく暗黙知が多いと思います。オリンピックで日本に来る外国人は、駅などで迷うでしょうね。「なんとなく、こういうところは、多分こっち!」みたいな、単純な法則ではない“何か”を私たちは暗黙の了解として持って、暮らしています。日本人にしか認識できない感覚を私たちは無自覚に使いながら日常を過ごしているのだと思うのです。そして、この言葉にできない暗黙知の中に、すごく大事なものが眠っている気がします。

蓮見:表面的には近代化、合理化といいつつ、だんだん暗黙知に戻っていく文化性を温存している国かもしれませんね。

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山田:企業の中に入って感じるのは、それぞれの思い込みがとても強いということです。例えば、“上の人の方が下の人よりも優秀でなければならない”という思い込み。また、”組織の体勢や物事は上の人が決めるもので、下は従うもの”という思い込みなどです。例えば「新規事業を考えろ!」と上司に言われて、考えて報告すると「なんかうちの会社っぽくないんだよね。」と言われる。これは上司の考える会社の存在価値(ウチらしさや大切にしたいこと)が部下にちゃんと共有されていないということです。表面的な事業サービスがどうこうという所よりも、もう一段深い所での合意形成ができてないと、提案してもずっとダメ出しされ続けることになります。

蓮見:お互いにキャッチボールしながら時間をかけて共有知を醸成し、絞り込んでいくというのが、日本人の決め方かもしれませんね。

山田:以前の日本では、終身雇用で家族的な組織の育み方をして来ていたので、みんなでご飯を食べに行ったり、飲みに行ったり“同じ釜の飯を食う”とか、時間をかけて信頼関係を築くことを大切にして来ました。おそらく年配の方がそうやって、共に働いたり過ごす中で育んできた“暗黙知レベルで共有していたもの”が、若い人達にちゃんと伝えられていないのかもしれません。
上に立つ人が「行間を読め!」と怒るのではなく、自分が確信を持っている言葉になっていない価値を、ちゃんと若手に引き継ぐ意識で伝えていかないと、団塊世代が抜けた時点で日本人の持ち味が格段になくなってしまうんじゃないかなと不安がよぎります。

---これからの時代に求められる、学びとは?

蓮見:ひと昔前の日本人は和歌や俳句、お花などの美的なお稽古ごとをたしなむことで、生涯、頭を活性化させ続けていました。また商人やお百姓さんなど、生涯現役で定年がない仕事が当たり前でした。それが近現代に外国から新しい仕組みが入ってきて、60歳でバッサリと定年・退職させられるようになりました。明治維新までの島国にあった暮らし方や仕組みに慣れていた日本には、未だにしっくりきていないのかもしれません。

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山田:私は「本当の学び」というのは、自分の意見とは異なる意見の背景を知るということではないかと思っています。そして、これは学校の学習の中で「正解を解く」というプロセスでは得られない領域です。既に設定されている答えをペーパーテストで解いていくのではなく、多様な人との対話の中で育まれていくものだと思うのです。
海外だと違う文化を戦わせるということがベースにありますが、日本人はみんなと同じ時流にのっている方が安心で、そもそも違いあるのがすごく怖いのだと思います。だから、一見対話風に見えても同じ認識の人達でそれを確認しあっているだけということも多いです。SNSはまさにそれで、自分にとって安心な場所、コミュニティでつるんでいる人が沢山います。結果的にSNSだけでは、新しい考え方や捉え方を理解し、自分の中に取り入れていくというのが難しいように感じるのです。

同時に、昔と今では優秀さの定義が変化してきているのを感じます。昔の優秀さの中にはどんどん積み上げて、プラスにしていくことが求められていましたが、今は逆に何かを手放して、削ぎ落としていくことが求められています。歴史的に見ても千利休の茶道の文化があるように、日本人は本来それが得意なはずです。海外のやり方に踊らされて色々なものを手放す前に、日本人が元々持っている深みの価値を見直していきたいですね。

---もう一度、感性の豊かさを取り戻す

蓮見:日本にしかない強みをもっと生かしたほうがよいですよね。今までの時代はAbility(能力)が重視されていて、学力競争や出世競争などで、常に一つでも多くの正解を出してして勝ち続けないといけない、という均質化された社会でした。だけど、世の中には複雑怪奇な問題が沢山あって、単純な正答だけでは解決できない。今こそAbility以前の、みんな生まれた時から本来持っている感性のPowerが求められていると感じます。
赤ちゃんは誰も教えてなくても言葉を覚えますが、それは動物脳の働きによるものです。世の中で活躍している人の多くは、学習脳と動物脳とを巧みに併用しています。動物脳を磨くことを忘れずに、両方をちゃんと生かして高めていくということが、自分にしか描けない世界を拡げていくためにも有益ではないかと思います。

山田:先日、研究者達が集まるワークショップで、ある教授が話してくださった、「この先は情動社会だ。」というお話がとても印象的でした。これまでの社会は論理を真ん中において、情動的なもの邪魔なものとしてきました。でも、サイエンスや化学は本来人間の情動を補完するものだと。本来の情動を化学で支えるという考え方で物事を決めなければ、この先のテクノロジーの領域で日本がどこに力を入れていくかを決めることはできないという話になりました。

蓮見:私は筑波大学の大学院では感性認知脳科学専攻というところに所属していました。2045年に、進化した人工知能(AI)が人間の知能を超えるAIを自ら生み出す”シンギュラリティ”に至ると言われていますが、まさに情動はAIには解析できない領域ですね。

山田:私がグラフィック ファシリテーションで行っていることも、まさしく感性開発といえます。企業の中でも、主体的な合意形成を図ったり、新たなものを生み出すよう話合いを活性化させるには自分たちの感覚的な所を使ってもっとお互いを感じとる必要があり、そうすることで話が深まり、一人では生み出せない領域に進めることができるのだと思っています。私はそれを絵で見える化しながらファシリテートしていますが、絵に表すには、絵が綺麗に描けるかどうかよりも、場の雰囲気や参加者の心の機微を感じとることの方が、はるかに欠かすことができないものだと思っています。私たちがもう一度取り戻さなければいけないのは、自分と違う好みや考えなどへの好奇心と、その違いの背景にあるものを五感を総動員して想像していく「人間的な感性」なのだと思います。

蓮見:やっぱり心がワクワクするという状態というのが大切ですね。AIは詳細な計算はできるけど、ワクワクしない。文化や芸術はいつもワクワクするところからはじまっています。遊び尽くした部分からしか、生まれない価値が必ずあると思います。


山田夏子さん 株式会社しごと総合研究所 代表取締役/一般社団法人グラフィックファシリテーション協会 代表理事

夏子さんプロフィール写真

武蔵野美術大学造形学部卒業。株式会社バンタンにて、スクールディレクター、各校館長を歴任。人事部教育責任者として社員、講師教育、人事制度改革等に従事。2008年に株式会社しごと総合研究所を設立。人と人との関係性が、個人の能力発揮に大きな影響を与えていることを教育経験から実感し、グラフィックファシリテーションやシステム・コーチング®を使った組織開発やチームビルディング事業を展開している。関係性を “見える化” することを得意とし、様々な組織で本音を引き出す対話の場を紡いでいる。・NHK総合テレビ 「週刊ニュース深読み」に、2017年4月~2018年3月で出演。
https://www.shigotosoken.jp


■蓮見 孝 プロフィールはこちらから

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