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花瓶なんかじゃない

もう、止めにして頂戴
欠片を寄せ集めてみたって
わたしは疾くに砕けてる
過去の役割を求めないで
もう花瓶なんかじゃないの

わたしが若く粘土だった頃
何にだってなれたのに
あのひとの手捌きに応えて
自由自在に形を変えて
やがて化粧を施され
炎がわたしを大人にした

気づかない方が良かったのね
わたしは、もう此処から動けない
与えられた形のまま
ずっと立ち尽くしているだけ
今のわたしには、もう出来ない
あのひとの手に応えることも

わたしは全ての形になりたかった
やわらかに、しなやかに
その時々形を変えながら
役割からさえも自由でいたかった
それがもう叶わぬ願いなら
わたしに出来る事は唯一つ

友だち猫に頼み込み
わたしはわたしの望みを託し
猫はわたしの望みを聞いて
そっと、わたしを抱き締めてくれた
そして、しなやかな前足一閃
ゆっくり、
ゆっくり、
わたし




がしゃん

ああ、それなのに
ふたたび気がついた時には
わたしはムロの中だった
麦漆で接着された破片が痛い
嫌よ金継ぎされてしまうなんて
こんな筈じゃなかったのに
わたしの望みは、
わたしの望みは、

わたしは疾くに壊れてる
もう十分でしょう、
これ以上、水を注がないで
わたしは花瓶なんかじゃない

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