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『北鎌倉あやかし骨董店 / 佐藤とうこ』(マイナビ出版ファン文庫)を読んで。

日曜日、たまたま通りかかった中古用品店で〈木彫りの熊〉が売られていました。昭和風の置物を集めていて〈木彫りの熊〉もずっとほしかった品です。全長25cm(目測)と、なかなかの大きさに台座も付いて、価格は520円。新品だったら一万円代後半は確実にする、はず。

ただ、その日は急いでいて買えず、数日経って後悔真っ逆さま。遠方なので再訪は難しいです。他の店でまた行き会えるといいんだけどな。つくづく出会いって大事だなと思いました。小説と同じかもです。

こんにちは。自称読書好き、なかでもキャラクター文芸ばかり読んでいる春風といいます。

そんなこんなで今回は、佐藤とうこ先生著の『北鎌倉あやかし骨董店』(マイナビ出版ファン文庫) を書いていきたいと思います。押忍。

 ―― 注意 ――

・感想を書くにあたりこの記事内では作品の内容に関わる #ネタバレ をある程度しています。事前になにも知りたくない方はご注意ください。

◇の前に、マイナビ出版ファン文庫について

こちらの『北鎌倉あやかし骨董店』は、発売当時から読みたいと思っていた本でした。しかし金銭的に余裕がなく、日頃積読も多いしですし、買えずにいました。ですが、Kindle Unlimited で読むことができるみたいで、一番最初に読んでみました。

恥ずかしいんですが、電子書籍で小説を読んだことがなく、こちらの作品が人生初の電子書籍での読書です。(※マンガはあるよ。

『マイナビ出版ファン文庫』はキャラクター文芸としては数少ない Kindle Unlimited の読み放題対象レーベル。なので、読書家さんは目にする機会も多いはず。Kindle Unlimited だと人に薦めやすいなぁと思います。

同じマイナビ出版ファン文庫の『家政夫くんは名探偵! / 楠谷佑』と『ぬいぐるみ専門医 綿貫透のゆるふわカルテ / 内田裕基』も面白いですよ。(この場を借りて宣伝)

◆北鎌倉あやかし骨董店 / 佐藤とうこ

書名  :北鎌倉あやかし骨董店
著者  :佐藤とうこ
イラスト:野ノ宮いと
販売  :株式会社マイナビ出版

(あらすじ)
『如月骨董店』で売り買いされる骨董には、付喪神と呼ばれるあやかしが憑いている――
幼いころからあやかしが見える、男子大学生の恭介。
祖母からもらった『お守り』を母親に勝手に売られ、それを取り戻すため、北鎌倉にある骨董店『如月堂』に向かうことに――。
そして、そこで浮世離れした店主代理の四季と出会う…。

穢れ神――持ち主に捨てられた、付喪神のなれの果て。それらは、不気味な怪異現象を引き起こす。
恭介は四季と協力し、怪異を鎮め、あるべき姿に戻していく。

◇作者は佐藤とうこさん

こちらの『北鎌倉あやかし骨董店』がデビュー作だそうです(あとがきより)。Twitterや個人サイトは見つけられませんでした。

佐藤とうこさんは他にも他社さんからもう一作出されてます。

こっちも面白そう(表紙から電波を受信)。

◇装画は野ノ宮いとさん

お着物~~~~~。いい男の二人組ですね。用事がある人にしか見えない骨董店とかマジでズルい。

電子書籍で読んでみて初めて気づいたことですが、電子書籍がだと表紙の印象が薄くなりがちではないかなと感じました。サムネイルはサイズが小さめですし、紙版だと本に触れるたびに原寸大のものを見ます。

せっかくの美麗なイラストがもったいないような。なるべくなら紙で買えたほうがいいかもです。帯もないですし。(最近は電子書籍にも帯付きのものもありますが

買えばよかった……。

◇登場人物

・折井 恭介 (おりい きょうすけ)

本作主人公の大学一年生。子どもの頃から得体の知れない化け物を目にしていた。目が合うたびに襲われて恐怖を味わってきたけれど、いよいよヤバい事態になったある夜、祖母の手鏡を思い出す。祖母の手鏡があると化け物は姿を現さない。祖母は亡くなっていたので実家に手鏡の所在を聞くと、なんと骨董屋に売ってしまったという。恭介は手鏡をなんとしても買い戻そうと、北鎌倉の骨董店『如月堂』へ。

『如月堂』では店主代理の青年・四季と出会う。目を見張る美貌な男なのだ口から吐かれる言葉は辛辣。恭介は彼の説教を受けながら、追いかけてきた化け物(穢れ神)を祓ってもらい、なぜか店番のバイトにスカウトされる。買い取られたはずの手鏡は見当たらないという話だ。あったとしても代金は高額で恭介には払える当てはない。しかたなく如月堂で働くことになるのだが――。

恭介のひととなりは、自分のこととなると不器用で損をしがちな性格にも思えるけど、他の誰かや付喪神・穢れ神のことになると優しさの真価を発揮するような、そんな心優しい主人公。自分に正直でもあるのでときどき四季にも平気で歯向かう。でもそれは恭介なりに考えがあってのこと。四季相手にさらっとタメ口(かつ呼び捨て)を使えたり(←四季の命令)、ビビりながらも物怖じはしない強心臓は、かなりの店番向きかと思われる。

・四季(しき)

常時着物の出で立ちの、姿勢と所作の美しいイケメン。如月堂の亡くなった先代の跡を継ぐことになったらしい店主さん。付喪神を視る力は恭介以上。人間と見まごうほどの美貌らしいけど、いちおう人間っぽい(不確実)。恭介をバイトとして雇う提案をする。人間嫌いなのになんで?って思われるけれど、客と会話するのも嫌で、恭介という板を一枚挟めたら好都合らしい。……なんちゅうやっちゃ。丁寧語を操るけれど、放たれる言葉は冷淡そのもの。なんでも善いように捉える恭介によれば、四季はそれだけ付喪神が大事(人間よりも)だからだそうだ。道具に憑いた付喪神は持ち主の人間に酷い扱いをされたときに穢れ神になる。だから、付喪神が見えないからって道具を大事にしない人間が、四季は嫌いだった。色々なにかありそうな人物だけど、1巻きりでは彼についてはわかることは少ない。

初対面の恭介に「――あなたのような人間を見ると、反吐が出る」と、ぐちぐちくどくど。となる彼だが、「反吐を出すほどの価値はあると思ってるんじゃないか」と思うんだよね。

三話で、恭介の口車に乗せられて(?)合コンの頭数にされてしまう四季。「さすがに居酒屋前で気付くだろ!?」と思ったけど、たんに世間知らずなだけな可能性も。四季さん、世俗とかに一切興味なさそう。

・『骨董店 如月堂』

付喪神が生まれるまでの100年間、どこかの誰かに大事にされてきた付喪神憑きの品ばかりが集まる骨董店。北鎌倉にあり和風建築の平屋で窓硝子や壁には西洋の意匠も交じってるレトロでおしゃんな佇まいのお店。店内のそこら中に付喪神がふよふよしてる。恭介の大学と住まいの藤沢とは反対の方角の北鎌倉にあって片道一時間かかるらしい。通うだけでも地獄らしいが、大学生なのに勉強は大丈夫か。店に用がない人には『石ころぼうし』みたいになるらしい。

あとは依頼主というか、付喪神(or穢れ神)と縁のあった人が出てきますが、基本一話ごとの読み切りなので他のレギュラーキャラは特にいなさそうです。が、恭介の祖母や、如月堂先代店主など、気になる人物はいます。

以上、登場人物紹介でした。私見と主観たっぷりのものですので、詳しくは小説本編を参考にされてください。

◇短編連作形式で四編収録、だけど

目次
一話 花櫛をたずさえて
二話 綻びを継ぐもの
三話 夢を見る指輪
四話 愛の呪い炎に還る
エピローグ
あとがき

キャラクター文芸でよくある形式ですが、利点は読みやすい、欠点は飽きる。

けど、『北鎌倉あやかし骨董店』は特に飽きることはありませんでした。

◇理由は、同じテイストの話が続かない

二話「綻びを継ぐもの」。恭介が店番をはじめてから初めての事件(出来事)だったので、なんとなく一話目な気がしてしまう二話目。言葉の厳しいお爺さんの萩原さんと、萩原さんの息子さんとの話。キャラクター文芸は石を投げたら妖怪モノ(あやかしもの)に当たる昨今。そのなかで一番ありがちなのがこの人情ドラマ。内容もかなりよかったのですが、それはあとに書くとして、

三話「夢を見る指輪」恭介と同じ大学の女の子が指輪に宿っていた付喪神に会えなくなってしまったという話。どうしてなのかを謎を解く間に、ひとには視えない付喪神が自分には視えることを恭介が真面目に考える話。

四話「愛の呪い炎に還る」こーれーはー。なんと言ったらいいのか、こわぁいお話でした。クライマックスの話にふさわしいと言えるかもしれないです。人の念(悪意も善意も)がドロドロしていて、人間にも化け物にも怖い話。これまで四季のもとでバイトするうちに徐々に付喪神(or穢れ神)に心を許すようになってきていた恭介が、ちょっと挫けさせられる話。

四話でうまい具合に「起」「承」「転」「結」になってる気がします。「承」だけが一冊に4・5つある小説も普通にあって、そういうのはわたしは飽きてしまいます。どれとは言わないですが。

◇『×××』が出たら好きになろうと決めていた二話

二話は割れた茶碗が題材でした。割れた茶碗の骨董品といえばアレが付きもの。

お仕事がテーマのひとつでもある小説(特にキャラクター文芸で)で、どこまで専門的になってほしいとは、一概には言いきれませんが、「割れたら『×××』すればいいのになぁ」と思いながらずっと読んでいました。

そんな念願の『×××』が出たときは心の中でガッツポーズでした。『北鎌倉あやかし骨董店』をいつの瞬間に好きになったかと言えば、はっきりこの『×××』をしようと恭介が提案してきたときからと言えます。

着物のイケメンが出てきたくらいでは惚れへんで~~~~。

息子さんにやらせようとすることは想像以上ではありました。てっきり恭介が『×××』するのかと思っていましたが、ここは息子さんにやらせるべきでしたね。

◇誰も悪くない、これが結構大事

また二話のことです。登場人物といえば、萩原さんと萩原さんの息子さん。仕事一筋で家庭を顧みなかった萩原さん、そんな父親に愛想をつかして勝手に大学中退して家を出た息子さん。奥さまは何年も前に亡くなっておられます。

詳しく話を聞いてみると、どちらの言い分も判るのです。

わたし自身が、家庭内のことは家庭内で解決するべき(よそ様がとやかく言うものじゃない)、と思っている人なので、そう思うだけかもしれませんが。

ですが、読書感想文でよそ様が――、と言っていても始まらないので、口を出させていただきたいと思います。

◇家族だろうが、血がつながっていようが、言葉で伝えないとわからない、わかるはずがない

わたしは結構口で言ってしまうタイプです。言えば5秒で済むのに「察してくれの精神」で平気で5時間待てる人は羨ましくてしょうがないです。

家族だろうとひとりひとり、個人の人間です。脳波や念で意思疎通ができたりは絶対にない。

萩原家も、父がどう思っていたか、母がどう思っていたか、息子がどう思っていたかは、ひとりひとりのものです。話さなければ誰もわかりません。また、話したとしてもそれが本当に本心なのかを証明する術は、本当のところ無いはず……、なのが、人間関係の難しいところなのですが。

萩原さんが奥さまから贈られた茶碗を割ってしまったことを、亡くなる前に奥さまに謝れもしなかったことを悔いています。また、悔いていてもしかたないと思っているのもあります。

達観……とは違うんでしょうけど、あの世で会ったら真っ先に謝りたいと、思っているのではないでしょうか。うじうじしていてもしょうがないですし、木彫りの熊くらい、近所のお店にだってありますって、ええ。

父の一連の感情を息子さんは知りません。話してないので。プライドが邪魔して息子に言えなかった、わけでもないんじゃないかな。息子は家を出て絶縁しちゃったわけだし、夫婦がケンカした中身についていちいち子供に言わない気もします。

その一方、息子は運動会や学校行事に一度も来てもらえなかった父への恨みを抱えていました。正直、40代後半でいまだにそれを根に持って恨んでいるとは思わないんですが……恨む人は恨むんでしょうか。大学生で家を出たら、そのあとの人生はそれなりに大変なものになると思うし、いかに辛かったかどうかの感覚さえも、息子さん本人にしかわからないはずなので、読者がとやかく言う話でもないです。

しかし、茶碗を「叩き割ってくれましたよ!」と、これもなかなか言わない。「――くれましたよ!」って「――してやったぜ!」みたいなものでしょうか。……言わないなぁ。わざと芝居口調で言おうとするときは言うかもしれない。

息子さん、父に見せるだけでは気が済まず、茶碗を売りつけた骨董店にも見せつけてやりたかったって(これを自分で白状しちゃうのもすごいけど)、よっぽど恨みが深かったんだな、とわかります。

萩原さんの息子さんも。わたしは「恨みたいなら好きに恨めばいい」と思っちゃうタイプなので、特に……感想も何もないんですが、恨んだしっぺ返しを食らうことは覚悟してほしいと思います。あまり、誰かを憎んだり恨んだりすることっていい感情じゃないので、自分を蝕むことは確かです。なにごとも自己責任であることを理解したうえで、怒ったり恨んだりしてほしいです。

過去を後悔してもしょうがないとわかっている萩原父さん。まだ過去を後悔してもしょうがないとはわかってない(で恨み続けている)萩原息子さん。

何度考えてみても、どっちも悪くないです。

この『どっちも悪くない』な小説は、少ない。

萩原の息子さん、如月堂で怒鳴り散らした後に、店先(正しくは少し離れたバス停で)後悔にさいなまれてます。切り替えが早い。というか、怒ってる自分をコントロールできなかったことが明らかで、誰かに止めてほしかったんじゃないかな。茶碗を割ったこと、きっと心のどこかで後悔してたと思います。どうやっても止められない怒りに、息子さん自身も困ってたんじゃないでしょうか。

20歳にも満たない学生バイトの恭介に、感情を吐露してしまうあたりは、萩原さんのお子さんだなぁと感じました。40代からの未成年には意味なく若輩者扱いしそうだし、そんな点では親と子が本質では似てたに違いない、気がします。

◇まぁ、四季にしたらどっちでもいいんだろうけど

付喪神さえ無事なら、四季にとったらどっちでもいいんでしょうね ( 結論

バイトの恭介にすらまだまだ冷たい四季。ですが、四季はこんなことを何度も繰り返してきたんだろうな、だから人間が嫌いなんだろうな、と雰囲気でわかります。茶碗を割られるに似たようなことだって、何度もあったのでしょう。

人間に大事にされない付喪神が、望まずに穢れ神になってしまう。穢れ神になっても人に愛されたい、愛されることを諦められずに、もがき苦しむ付喪神。その様を、四季は先代の近くで見ていたのでしょうか。彼が如月堂の跡を継ぐことになった理由や経緯、気になります。

◇四話、にんげんこわい

こちらも夫婦のお話です、が、二話の萩原さん三話の指輪のハートウォーミングとは打って変わってオドロオドロシイ話。

ですが、見どころは恭介が穢れ神に対して、半端な覚悟でいたことを思い知らされる部分にあるでしょう。何に憑いてるかがわからない穢れ神が、怖いことには怖いのですが、結局、穢れ神よりも生きてる人間のほうが何倍も怖いという格言のようなお話。

◇続編出てほしいな

発売当時に買わなかったわたしが言えたものではないのですが、恥を承知で叫びます。『北鎌倉あやかし骨董店』は続編出てほしいですー!

気になることが色々あるよ~~~。先にもうしましたとおりに、先代のこと、四季さんのこと、恭介の祖母さんのこと、いくつか不明なところがあります。完結していないわけではないので、これはこれとしていいのでしょうけど、なんとなく消化不良があります。

エピローグの恭介と四季の雰囲気がよかったので、この雰囲気の彼らをもう一度見たい。一度とは言わずに、何度でもイイヨ。

とりあえず、第一巻だという気分にして、感想はここまでにいたします。『新宿歌舞伎町の宵町花店』も読んで、朗報を待ちたい。

◆後記

マイナビ出版ファン文庫さんに問い合わせして、ヘッダーに小説の表紙画像を使わせていただけることになりました。ありがとうございます。

※毎回のことですが、著作権は個別の許諾案件(わたしとマイナビ出版さんの間のこのnote記事ですよ、と特定しての許諾)なので、他の方が同じように表紙を使いたいときは、その機会ごとに問い合わせが必要です。注意して下さい。

マイナビ出版ファン文庫はやさしい小説が多い。「心がやさしい」と「読むのがやさしい」のどっちもの意味で。たまたま読んだのがそうだったのか、はまだ数を読んでなくて不明なんだけど、Unlimitedに入ってるうちにもう何冊か読んでみたいな。

北鎌倉、叔父叔母が住んでた。明月院まで歩いて行ける家だった。アホほど坂のある住宅街で、野良のリスがそこら中にいた。小さい頃に一度いったきりで、あまり覚えてることがない。

恭介と四季と紫陽花のお話とかあってもいいなー。四季、何者なんだろ。


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