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『ようこそ幽霊寺へ ~新米僧侶は今日も修行中~ / 鳴海澪』(マイナビ出版ファン文庫)を読んで。

こんにちは。はじめましての方ははじめまして。自称読書好き、なかでもキャラクター文芸ばかりを読んでいる春風ともうします。

今回は、マイナビ出版ファン文庫より鳴海澪さん著の『ようこそ幽霊寺へ ~新米僧侶は今日も修行中~』の感想を書いていきたいと思います。押忍。

こちら、今月11月20日に第2巻が発売されるとのことを最近知りまして、時代に乗り遅れないよう慌てて読むことになりました。

以前同じくマイナビ出版ファン文庫さんから発行された『北鎌倉あやかし骨董店 』(佐藤とうこさん著)の感想記事を書いたときと同様に、出版社に表紙の画像の使用許諾についての問い合わせをし、今回も許可の元で表紙の画像を当記事ヘッダーに使用しております。

個人なのに快いご返答をいただけて、ありがたかったです。マイナビ出版ファン文庫さんだけではなく、他の出版社さんにも返信、許可等をいただいたこともあります。もちろん断られたこともありますが(その出版社は個人にはどなたにも許可していないとのことで)どの場合も丁寧な返答をいただいて、単純に、すごいなぁ…と思ってます。出版社って忙しそうなのにね(汗

こりゃあ下手なことは書けないぞ、と思いもしますがあまり緊張せず、いつもと同じくらいに力を抜いて書いていきたいと思います。本来関係者に見られたらまずいもの、責任の取れないものは、本の書評に限らずインターネットに上げるべきじゃないです。と、つまんない持論でした。

 ―― 注意 ――

・感想を書くにあたりこの記事内では作品の内容に関わる #ネタバレ をある程度しています。事前になにも知りたくない方はご注意ください。

◆ようこそ幽霊寺へ ~新米僧侶は今日も修行中~ / 鳴海澪

書名  :ようこそ幽霊寺へ ~新米僧侶は今日も修行中~
著者  :鳴海澪
イラスト:akka
販売  :株式会社マイナビ出版
(あらすじ)

霊能力僧侶×イケメン結婚相談員(+幽霊!?)が悩みを解決!
実家の寺・松恩院で日々お勤めに励む僧侶の慧海は、幼い頃からある不思議な能力に悩まされてきた。それは、幽霊を見ることができる霊能力と、身近な人に命に関わる災難が迫っているのがわかる予知能力。
その秘密を知るのは、住職である父と、高校時代からの友人・柴門の二人だけ。ごく普通に暮らしたいだけなのに、今日も寺にはさまざまな騒動が舞い込んできて――。
お茶目な幽霊・源治郎の力を借りつつ、凸凹親友コンビが参詣客の悩みを解決!
幸せな家族の形とは――? じんわり心温まるお寺ストーリー。

◇作者は鳴海澪さん

鳴海澪(なるみ・みお)
おもに恋愛小説で活動中。恋愛小説の私的バイブルは『ジェーン・エア』。
著書に『ワケアリ結婚相談所 ~しくじり男子が運命のお相手、探します~』(マイナビ出版)、『俺様御曹司に愛されすぎ 干物なリケジョが潤って!?』(竹書房)などがある。
その他、『さくらの契り』(パブリッシングリンク)等、電子書籍を多数配信し、人気を博している。

はじめての作家さんです。普段は恋愛小説を書かれているようで同名義でTLや、Twitterアカウント( @narumimi009 ) のプロフィールサイトによると別名義でBLを2作書かれている方のようです。

『ようこそ幽霊寺へ』は表紙が男二人の作品ですがBLじゃないです。(いちいち書くことなんだろうか。まぁいちおうね。いちおう。

後に書くことになりますが、どちらの男性も過去に恋愛経験ありなので、ちょっとそっちの描写も出てきますよっ、ほんのちょっとですけどね。

◇装画はakkaさん

パッと見で右の男(柴門)の性格を誤解してしまいました。左側(慧海)は印象そのままだったのですが、柴門は読んでみるにつれ、表紙の印象とは違うと感じました。なんとなく読み終わってから、柴門の表情を見てみると、「これは……」となって、理解できました。全体的な見た目はスラッとしてるけど、よーく見たときの彼の表情にご注目。目元の憂いが隠しきれてない。読んだ後に、ぜひもう一度眺めていただきたい表紙だと思います。

◇登場人物紹介

・佐久間 慧海 (さくま えかい)

本作主人公。来月ようやく25歳になる、松恩院の跡継ぎ僧侶。阿弥陀如来像が重要文化財に指定されているけれどさほど大きくない寺の経営はトントン。修行中の身だけど住職の家系に育てられているから仏の教えが芯に根付いていて、問題事に出会っても(悩みを相談されたり)正しい正しくないはその人を見て判断して、必要以上に踏み込まないし話さない、を自然にやっている。真面目で、それなりに空気も読める人。幽霊が視えたり、命に関わる危機が予知できたりもする。高校生の頃、初めての彼女の命の危機を救えなかった(一応、無事)ことがあって、恋愛(特に家族を作ることは)は一生しない、って思ってる案外寂しい奴かもしれない。

・柴門 望 (さいもん のぞみ)

慧海の高校生時代の同級生で、今でも慧海の家に足繁く訊ねてくる親友。結婚相談所で働くイケメン。長身、スタイル抜群、切れ長の瞳、容姿に恵まれた彼でも心に傷を持たざるえなような生い立ちがある。そのせいで、どこにも属さないし、けれど、求められれば群れもする、悟りが一周しちゃった道化師みたいな男。慧海にだけはその傷の原因になる出来事を打ち明けていて、高校時代にその一部と、大人になってからはそのもっと根深いところまでを打ち明けることになった。慧海が踏み込まない・諭さない・同情しない、そんな性格だったから柴門は心を許して話してしまったのだと思う。慧海とは違った方向に難のある恋愛歴があり、柴門も恋愛コリゴリだって思っている、のだけど……。

・佐藤 源治郎(さとう げんじろう)

松恩院の納骨堂に棲んでる幽霊。享年85歳の元檀家さん。慧海にしかその姿は視えない。好奇心旺盛な幽霊で、うっかりな慧海の父(住職)が納骨堂の扉を閉め忘れたりすると寺の中をウロチョロ飛び回るらしい。特に悪さはしないけど慧海は突然現れられるとビビるので納骨堂にいてほしいと願っているが同時に適わない夢だと慧海もわかっている。言葉を交わせるわけでもなく慧海とはジェスチャーのみでやり取りする。恋の話が大好き(?)という結構アクティブな幽霊。

◇主人公の能力が中途半端なのは珍しい

幽霊が視えます!命の危機が予知できます!というと、特別な才能の持ち主、それこそ主人公に相応しい人物だと思われそうだけれど、慧海の場合、能力の効果範囲は身近な人に限られています。幽霊は松恩院に縁のある人に限られているようだし、命の危機に至っては家族か親族かのようなごくごく身近な人間に限られます。

おそらく、巷に溢れる「この主人公、幽霊視えます」系作品のように、特に何ができるってわけでもない。慧海の『身近な人』は、そもそも数えられるほどの人数だし、その人が命に関わる危機となると、たぶんもっと少ない。しかも人生のうちで何度もあったわけじゃないから(これまでには祖父と従兄の2例)、それが命の危機の予知だと慧海には確信が持てずにいたし、幼かったために見えたとしてもどうしていいかもわからなかった。

ですが、その限定的な範囲があるせいで、慧海にとってその人物が『身近かどうか』がわかる指標になるんです。うまい具合です。

慧海が初めての彼女の家の火事を予知したときは、心から彼女のことを好きになったから予知能力が発動したようですし、柴門に関わることも、親友として慧海に欠かせない身近な人間になっているから発動ました。命に関わる危機なんてそうそうないし、今後も予知に出くわす件数は少ないかもしれないけど、2巻以降でどのぐらいこの予知が話の鍵になってくるのかが気になるところ。

幽霊についても同じことで、範囲は限定的です。そして、視えるからってなにができるわけでもない。源治郎さんというビジュアル的に首をかしげたくなるようなおじいちゃん幽霊が、ときどきサポートをしてくれるけど、言葉は交わせない。ジェスチャーだけで、なんとか通じるような通じないような。ジェスチャーがわからなくて、慧海も戸惑ったり、などなど。と、なんとも中途半端な能力なのです。

でも、これは『手が届く範囲を救えたら』という意味が込められていての、能力の範囲なのだと思います。慧海だったら、家族親族や檀家さんの平穏をまず願うように。身近な人を救えなくては、なにごとも始まらない。そんな意味があるような気が、わたしはします。

◇僧侶に結婚相談所、どちらも家庭の内面にかかわる仕事

慧海は僧侶。柴門は結婚相談所職員。どちらも家庭の内情に関わる仕事だなぁと思いました。そこまで内情というほどじゃないかもしれないけど、他人に見せられるギリギリの内情を見てしまう場合もある職業だと思う。いわゆる家庭内の立ち入った話、というものです。お坊さんになら、結婚相談所職員さんになら、で相談される内容も多い気がする(他の職業の方に比べたら、です)。

悩める人達の相談事に対して、慧海も柴門も、自分の職業的な目線でものを考えて答えを出すかと思いたいところですが、わたしはそういう部分はあまり感じられませんでした。それは、二人がビジネスライクではないからだと思います。

慧海は根っからの僧侶気質(気質というか、『祖父や両親からの教え』かもです)だし、柴門は他人や自分を俯瞰して見てるタイプなんじゃないかと思われるので、職業どうこうというよりは、そういった彼らのもともとも性格が、行動原理になっているように感じました。

また難しい話題だなぁと感じた第一章

一章「婚約占いは生前墓地?」は、結婚相談所で婚約が決まったカップルがその親と生前墓地を探しに柴門に紹介されるかたちで松恩院にやってくるところから始まる話で、基本的には登場人物の誰もが悪い人ではないところが、「難しい話題だ」と思ってしまった要因だと思いました。慧海も同じ考えみたいですし、当たってますよね。

この話に書いてあるとおりに、結婚なんかはとくに「難しい」と思います。程度に違いはあれど、善いところと悪いところ、どちらも持っているのが人間です。人間はときに集団で行動したりします。家族や友人や学校や会社や。その中にはいろんな人がいます。集団で行動するとき、やっぱり人間関係は円滑であってほしいと思うものです。そのときに必要なのが『折り合い』だとわたしは思います。この一章、息子さんも息子さんの婚約者も、息子さんのご両親も、その『折り合い』の『折れ目』がズレてしまってるだけなんですよね。その折れ目の直し方がわからないので、ひとは苦労するんだと思います。

何が正解っていうのはないかもしれない。けれど、集団で行動したいと望むときは(この話の場合は結婚したい・家族になりたいと思うとき)、みんなが納得できる部分で『折り合い』をつけられるかどうかが鍵になってくると思います。幸い、ここに登場してる方々はお互いに説明や話が足りなかっただけで、聞く耳を持たないような人間はいないので、その点は救われてると思います。

今と、戦中戦後と

この新婚夫婦は今後うまくいく、と思われますが、佐緒里さんの曽祖父のほうは、なんともきびしい話題です。戦後間もない頃はこういった問題は各地にあったんじゃないでしょうか。海外の作品で、同じく兄弟でという話を読んだことがありますし。

今でこそ、倫理観は善い方向に日々確立されてきていますが、でもそれも今を生きているわたしから見て「善い方向」と思うだけなのかもしれない。なにが正しいかはわからないのが本当のところです。法華津洋一さん、祐二さん、文恵さん、にも、それぞれの時代の、それぞれの事情があったはずです。戦争を知る人も少なくなった令和の今の視点で、彼らの「正しさ」を測ることはできません。

◇ただし、鎮魂はできる

結論です。正しいがなにかなんてわからないです。洋一さんは亡くなってしまったし、祐二さんも、文恵さんも、当時、ご本人が本当になにを考えてたかなんてわかんないです。わかるはずがないです。

ですから、わからないものを現代人がくよくよしてもしょうがないです。亡くなってしまった人の無念は想像しても、ズバリ、それはたんなるあなたの勝手な想像なのです。

できることはない。けれど、弔うことはできます。死んだら人間どうなるかは属してる宗教や死生観によって人それぞれ異なると思いますが、この小説が一般的な日本仏教だとして、法華津さんたちの魂が安らかであってほしいとは願えるでしょう。四十九日はとおに過ぎてますので相応の場所に向かわれたはずです。先祖はルーツですし、その人たちに何があったのかを知りたいというのもわかりますが、死んだ人の墓を掘り起こすようなことはしなくていいんです。亡くなられた方に対して、生者ができる唯一のことは鎮魂です。死後の彼等が安らかであってほしいと願うことが大切なんじゃないでしょうか。慧海はそのために日々読経してるんでしょうし(無理やり締める

◇人は歪の中でも生きていける

この小説で一番印象に残るのは三章「それぞれの秘密」。面白かった、といいたいのですが、柴門が主役になっている回なので主人公の印象が薄くなっちゃってる……のでストレートに面白いと言っちゃうと慧海の立場が……なので、2巻はほんとに慧海頑張れ。

一章よりももっと難しい話でした。柴門の過去唯一の大恋愛のその後のお話です。15歳年上の鈴木黎子さんのこの三章での行動を他の読者さん方がどう思うのかがわたしは心配でたまらないんですが、わたしは~~、の場合で書きますね。個人の感想です。

まぁ、ありっちゃありなんじゃないですかねぇぇ。投げやりな言い方に響きますが、他人の家の事なので、読者であってもとやかく言える立場にないです。当人たちがよいと思ってるなら、できることは見守ることだけです。

柴門くんには幸い生涯童貞を誓っている慧海くんがいますし、男二人で寂しく純情を貫けばいいんじゃないですかね。

わたしは、ちょっと鈴木黎子さん、苦手かなぁ。勝手だなぁと思いました。やることやってたのは柴門くんも、なのですが、罪の重さは(罪じゃないかも)黎子さんのほうが重い気がします。黎子さんはやっぱり柴門くんを「15歳年下の男」としてしか見れなかったってたってことだし、もしも柴門くんの未来を想っての行動だったとしても、彼女が選択したものから受ける印象は自分勝手で、美談とは到底思えない。

でも、柴門くんの視点で語られるお話なので、黎子さんの言い分はほとんどなにも聞けないしわからないし、なので、読者は誘導尋問的に柴門側の気持ちになってしまうとは思います。

そういう視えざる神の手に気持ちを操られながら、最終的にはまぁ柴門くんが選んだ相手だし、とやかくは言わない、言えないなとわたしは思いました。とりあえず、柴門くんにあれだけの生い立ち設定を盛っておきながら、恋愛関係にもこのような苦行を与えるって、作家さんもなかなかサディストだなと思います。

どうなるんだろう。これからの柴門まつわる物語を作家さんがどう書こうとするのかが気になります。生い立ちの謎もどうするのか。本当に、この三章の印象が強すぎるので、慧海が活躍する場面が増えてほしいなとは思いました。頑張れ主人公!!!

ともかく。柴門くんには幸い生涯童貞を誓っている慧海くんがいますし、読者は安心していいのですよ。

◇2巻の発売日は11月20日

2巻が発売されます。一応リンクを貼らせていただきます。

◇外部リンク

著者:鳴海澪 さん ( @narumimi009 )
装画:akka さん ( @akka_1172 )

◆後記

以下、読まなくていいところです。

今回の感想が今までで一番難しかった。内容が難しい。読む人を選ぶような、違う、賛否があるような内容だった。最近の世相のせいで余計気にしすぎになるのかもしれないけど。問題事を詠むとき、片方の言い分を聞いてない状況っていう、ミスディレクションには騙されないようにしたい。けど、柴門、いい感じに性格イケメンだからめっちゃ自然に柴門側についてしまうな……。ああいう世間を斜めから見てるタイプはモテる、はず。わたしは好きだ。もう少し、幸せになってほしいと思った。幸せになることを望めるようになってほしいと思った。慧海もかな。慧海は楽しそうなんだよな。父がいいキャラしてるし。柴門の問題をこれ以上進行させるのかどうか……、2巻の表紙の柴門が笑顔なのが、気になるなぁ。

今のところはとりあえず慧海を活躍させてくださっているかどうかを二巻で確かめたいが一番の気持ち。


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