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『彩柏寺の神様見習いたち 元保育士・小森新、あやかし保育に再就職しました! / 時田とおる』(富士見L文庫)を読んで。

今朝方、ついに暖房をつけました。わたしが住んでいるのは比較的温暖な地域なため、雪が積もるほど降るのは数年に一度あるかなしかで。今年はうちの町にも積もるんだろうなと思いながら明日、11月7日は立冬です。まだまだ冬はこれからですね。

こんにちは。はじめましての方ははじめまして。自称読書好き、なかでもキャラクター文芸ばかり読んでいる春風ともうします。

さて今回は、時田とおる先生著の『彩柏寺の神様見習いたち 元保育士・小森新、あやかし保育に再就職しました!』(富士見L文庫)の感想を綴ってまいります。押忍。

以前、感想を書かせていただいた、同じく時田とおる先生の『俺の悪魔は色々たりない!』はまだ1巻しか読んでないので、これからぼちぼち読みすすめないと。

 ―― 注意 ――

・感想を書くにあたりこの記事内では作品の内容に関わる #ネタバレ をある程度しています。事前になにも知りたくない方はご注意ください。

・また、タイトルが長いので記事内で『彩柏寺の神様見習いたち』と略させていただいてる箇所がございます。

◆彩柏寺の神様見習いたち 元保育士・小森新、あやかし保育に再就職しました! / 時田とおる

(あらすじ)
子どもを庇って大事故に遭った保育士の小森新。以降、おかしな回復力と怪力に悩まされる新は、仕事をやめて実家に帰ることに。
ある日、祖母の七回忌が行われ、新は美形すぎる関西弁の僧侶・相澤紅鷹に出会う。彼はなぜか子狐を連れており、その子狐は突然変身して……子どもの姿に!?
「やっぱり自分、こいつが視えとるな?」
紅鷹に半ば拉致され、新が連れてこられたのは――片田舎にある『彩柏寺』。ここは妖怪の子どもたちを「神使」に育てるための寺で、新の力の理由を探る代わりに手伝えと言うが……!?

◇作者は時田とおるさん

読ませていただくのは2作目です。角川ビーンズ文庫でデビューされた方で、今回、富士見L文庫からは初。折り返しの作者紹介より、

10月3日生。第10回角川ビーンズ小説大賞奨励賞受賞『俺の悪魔は色々たりない!』(角川ビーンズ文庫)にてデビュー。
最近は外に出られないので、行きたい国の料理を作って食べて飲んで、異国に思いを馳せています。

と、ありますが『彩柏寺の神様見習いたち』では、特に食べ物の話題は出てきません。

ただし、お酒の話が出てきます。といっても少しですよ。ほんのキーアイテム的に話題に上がります。

そういえば、キャラクター文芸ではあまりアルコール関連モノを見かけません。ターゲットとしてる読者層的にはアルコール類の話もアリだと思うんですが、どうなんでしょう。裏路地のバーを切り盛りするワケありイケメンマスター…………………アリじゃないか。

◇装画は安野メイジさん

優しい色あい。こんな肌色と桃色の中間みたいな色好きです。一目で保育モノとわかる躍動感とわちゃわちゃ感。

奥行きある絵なために紅鷹さんのお顔が小さくなってしまっているのがちょっともったいない気もします。紅鷹さん、人間も妖怪も虜にしてしまほどの美形らしいので、購買ホイホイのためにもっと大きくてもよかったんじゃないかな。

とりあえず、わたしは表紙に顔を近づけて紅鷹さんの御顔を目に焼き付けてから読みました。このような美形でも言動はコッテコテの関西人なので、表情筋はめっちゃ豊かそうなのですよねー。マンガにすると面白いかも。

おっと言い忘れた、紅鷹さんは外見だけじゃなく、中身もイケメンで素敵な男です! 言っておかないとドヤされそうなので(←紅鷹さん、こんな人です)

◇登場人物

・小森 新(こもり あらた)

交通事故にあって、さらに色々あって、保育士を辞めることになった25歳の本作主人公。祖母の七回忌にあわせて帰省したS県北部にあるという母の実家の法要に来た彩柏寺の住職・紅鷹と出会う。彼の後ろになにかふさふさした生き物・狐が視えることに驚いた新。どうやら、その狐は自分以外には視えていないようだ。紅鷹が連れていたのは普通の人間には視ることができないという妖狐のコン(湖春)で、彼は「自分、こいつが視えとるな?」と言い、自分は彩柏寺で妖怪の子どもの保育園をしていて大変過ぎるから新に「手伝え!」と言ってくる。

保育士はなりたかった夢だった。ただ、新にはこれまで誰にも言えなかった懸念材料があった。交通事故にあってトラックに轢かれ、死ぬ寸前の重傷を受けたのに新の体は一ケ月後には何事もなかったように回復してしまった。それだけじゃなく、人のものとは思えないほどの異様な怪力が出るようになってしまった。新にもなにがなんだかわからない。不気味な体になってしまった。今の自分は子どもを怪我させてしまうんじゃないかと新は保育園は辞めるしかなかった。……てなわけなんだけど、「妖怪の子どもなら強いし大丈夫やろ!」って感じに胡散臭い住職の紅鷹にそそのかされて、妖怪の子どもをダシに、新が保育士としての自信を取り戻していくお話。

・相澤 紅鷹 (あいさわ くれたか)

彩柏寺十八代目住職。外見は美形だけれど、コッテコテの関西弁。心やさしい兄ちゃん。先代が亡くなって跡を継いだけど、田舎過ぎて寺を維持できずに……妖怪が視えた紅鷹は妖怪を預かる代わりに寺の維持費を工面してあげるよという妖怪の親たち(各地のいろいろな神社に神職としてまぎれこんでいる妖怪達らしい)、紅鷹自身、どうしてもお寺を守りたい理由があった。バンドが好き。ライブにも行く。車も乗る。酒も飲む。見た目以外は普通の兄ちゃん。

コン(湖春)妖狐の子ども。狐火が使えるけど、制御がまだまだで、かなり危なっかしい。

・リコ(瑠璃子) 妖狸。化けるのがうまい。

・風香 かまいたちの三つ子、お姉ちゃん。紅鷹が好き。

・一颯 三つ子のまんなか。大人びてる。新いわく、イケメン。

・凪沙 三つ子の末っ子。引っ込み思案。風香が好き。

珠紀 実は猫又。お姉さん姿に化けて保育のお手伝いをしてくれてる。

・百々(どど) 地元のお医者さん。元人間の妖怪。ときどき彩柏寺に訪れて妖怪の子どもたちの健康も診てくれてる。

◇キャラクター文芸で流行ってる?『保育モノ』

あやかし・グルメ・お仕事がキャラクター文芸の流行りの三種の神器かもしれないんですが、『保育モノ』も結構な数を見かけます。

わたしはイケメンコンビが好きなんであまり出会うことがなかった。『真夜中の保育園はじめました 京都四条の子育て事情 (富士見L文庫)』とかありますけど。ああう。購入資金がなくて買いはぐったやつだ……。

◇『子ども=かわいい』が成立してしまうのはどうか

タイムリーな話題でした。先日、子ども科学電話相談で『妹は特別にかわいいです。どうして?』との質問があったそうで、それに似た話です。

結論から言うと、子どもがかわいいと思うように人間はできています。頭身が小さく(二頭身とか三頭身とか)、目・鼻・口の距離が近い顔立ちに、人間は庇護欲をそそられるようにできています。子どもは守るべき存在である、と人間の種としての本能のようなもので、クマのぬいぐるみがかわいいと思うのもそれによるものです。だから、子どもはかわいくて当たり前。そこに騙されないようにしたいのです。

というと、大人げない言い方に響きますが、子どもだろうが、大人だろうが、男だろうが、女だろうが、かわいいかどうかはちゃんと読んで知ってから判断したいです。無条件でかわいいなんて安易さで、キャラクターを評価したくない。かわいいと思うちゃんとした理由があって、かわいいと思いたい。※偏屈な大人の意見です。

こんなことを言っても、まぁかわいいです。彩柏寺の子どもたちは。読んでいくとわかります。

新は、不気味な力を手に入れる前は、真面目に保育士をしていた人です。だから子どもが妖怪であっても怖がらず(自分自身のほうが怖い存在だと思ってるので)、コンが夜中に狐火を暴走させてしまう癖があるとわかると、それを治してあげようと、コンが暴走を怖からずに狐火のコントロールができるにはどうしたらいいかを新は必死に考えて、それで試して、コンや他の子たちを守ったりしてなんとかなっていく。

妖怪の子ども、ということなので新より年上かもしれないんですが、かわいいには違いないです。かわいい……というより、わたしはこの子たちスゴイ!と思ったシーンが最後のほうにありました。後述します。

◇早々に新の力の正体がわかっちゃう!?

作品でももったいぶってないのでネタバレしてしまいますが、新の力の源は、ヤマタノオロチの血を引いているから、でした。

この秘密について、もっともったいぶるのかと思っていたら、かなぁ~り前半でわかってしまって、こういうところがサクサクしててキャラクター文芸はいいなと思います。特に拍子抜けもしません。そっちに重点がなかったんだ、ってわかりますし、その内容ズルズルしないぶん、他の話題を読むことができるので。

ヤマタノオロチは酒呑童子にもつながるそうで、怪力だったり、鬼の角や爪が出せちゃったりする、けど、新が受け継いだのはめっちゃ薄い血らしくて、力はいつ発揮されるかわからないし、どんな条件かもわからない。

紅鷹がネットで調べて、ひらめいて、新で試してみて、どうやら××が発動条件らしいと。彩柏寺、かなりの山奥なのに回線来てるのか……。

新の(母の)実家近くに県内に伊福来神社(ヤマタノオロチを祀っているらしき神社)があって、紅鷹と一緒に行くことになるんですが、祖母と昔来たことがあったことを新が思い出ます。祖母が「ここの神様が、新のことを見守っててくださるからね」と言っていたことも思い出します。

新が帰省したのも祖母の7回忌が理由でしたし、祖母さんが新を紅鷹と出会わせてくれた、とも考えられますよね。

◇関西男の魅力を堪能せよ

オススメしたいのはなんと言っても紅鷹。主人公じゃなくてごめん!新!

若き住職、紅鷹。見た目は男の新も思わず見とれてしまうほどの秀麗眉目なのですが、ニカッとする笑顔に、コッテコテの関西弁。住職ですが法事以外は派手なTシャツにジーンズが普段着。

紅鷹の関西弁は自然なものの気がしました。時田とおる先生も関西地方になんらかの繋がりがありそうな気がしない、それぐらい自然です。

※わたしは関東育ちで今は関西地方に住んでいるので、この地方の独特の感じは少しはわかるつもりでおります。なお、関西弁は喋れません。

ちょっと説明しにくいんですが、関西の方は思考回路も微妙に違うような感じなんです。言葉が違うだけじゃない、直訳できない、関東流は通じない。どっちも同じ日本語に何言ってんだって感じるかもしれないのですが、実際そうなんです。紅鷹で言ったら、ツッコミですね。あと、ボケるし、乗るし、都合の悪いことになると茶化しだします。基本は心根が素直で、人がいい感じです。善い人と悪い人がいるのは関西も関東も同じですが。

人格を形成する頃に育った土壌がそうさせるんじゃないかと思ってるんですが、紅鷹はそういった関西人感が自然でした。

言葉も笑顔も気さくで、総合して性格がめっちゃ優しいんですよ! 気のいい関西の兄ちゃんで。最近、悪い奴に関西弁使うキャラクターを書いてる作品を3つぐらい読んだせいで……なんで関西弁悪い役に使われるんだろう……って思っていた心がこの作品で癒されました。記憶から消したんで覚えてない。たしかマンガでした。

紅鷹、顔だけじゃなく、性格は人情味溢れるいい男なので、実際に『彩柏寺の神様見習いたち』を読み、ぜひ関西男の魅力を堪能していただきたいです。

オススメはP151や、P179などです。

◇背中を押してくれる存在

新がねー。ウジウジとも意気地なしとも違うんですが、子ども達と触れ合うことにかなり尻込みしてしまっているんです。

子どもたちから妖怪の力をいくら見せつけられても、「怪我させちゃうんじゃないか?」と心配でしょうがないみたいで、でもそれって、新が人一倍、子ども達を大切にしたい、と想う心がそうさせているのは読者の誰もがわかることなので、新が諦めずに立ち上がり前を向いてくれることを応援するしかない。

新を立ち上がらせてくれるのが、彩柏寺子どもたちであったり、一番は紅鷹だったんじゃないでしょうか。彼も色々あって。

大人も子どもも、お互いを助け合ってる部分ってどちらにもあると思うんで、人と人とが(片方妖怪だったね……)支え合う姿に心が癒される作品かと思います。

◇弱味を見せてくれる男に弱い(※ただしイケメンに限る

P222です。紅鷹が寺を継ぐことになった経緯などを、新に打ち明けるシーンです。相棒として新を認めて、心も許せると思ったことがわかる決定的場面。バディモノによくあるボーナスステージです。

このときの新と紅鷹の会話がいいんですよー。ほっこりしてて。今回の『彩柏寺の神様見習いたち』は、『俺の悪魔は色々たりない!』に似た部分があまりなさそうだな、と感じていたのですが、時田とおる先生風を存分に感じられたシーンが、ここにありました。

◇最後に急展開

物語も終盤に差し掛かり、てっきり彩柏寺の先代の行方についてを、あれこれするのかと思っていましたら、全然予想もしない方向に舵を切られました。

裏切りは大好物なので、ぜひどんどん予想もできなかった方向に進んでほしい読者です。

ひとつ言いたいのは、「紅鷹、そんなにか!?」です。そんなになんですね。よくわかりました。(戦々恐々

◇続編は出るのかどうか

売上次第と言ってしまうと悲しいし、読者がどうこうできる話でもないので、わたしの個人的意見として聞いてほしいんですが、彩柏寺はシリーズ化してほしい、それどころか「あと10巻~15巻は読みたいなぁ」と思ってしまいました。

さすが角川ビーンズ出身の作家さんで読みやすかった、というのもありますし、内容がそこまでドロドロしてなくって、あやかしモノなのに日常モノみたいな雰囲気がありました。終盤は、ちょっと派手なシーンもありましたが、基本は緩くてほのぼのな保育モノ。新の力のこともわかったし、今後があるならほのぼのはもっと加速するはず。日常モノを力入れずに読みたい……。

あやかしのシーンも見逃せないです。思わず泣いてしまったシーンもありました。感動したんです。人智を超えた力に弱いみたいで、泣かされた―! 涙もろくはないのに。子ども達がすごい、と思ったのはこのシーンでした。約定、覚えておきます。

なにせ作品のタイトルが『彩柏寺の神様見習いたち』なので、神様見習い的なことをもう少し読んでみたい。もちろん、新と紅鷹と珠紀に助けられながら。

『彩柏寺の神様見習いたち』の続きを読ませろー!

以上、感想でした。ぜひとも。

◇外部リンク

・富士見L文庫公式(彩柏寺の神様見習いたち 元保育士・小森新、あやかし保育に再就職しました!
・時田とおる ( 個人Web見つからず )
・安野メイジ ( @satoudamawo )

◆後記

保育モノはじめて読んだ気もするけど意外と面白かった。イケメンが出てくるなら読みたいな。しかし風香ちゃんみたいなこと、人間でも妖怪でもありえそうな気がするんだけど、保育士さんたちはどんなふうに対応するように教育されているんだろう。少し気になった。紅鷹もあんな感じだし数年後に大変なことにならないかが、わたしゃ心配だよ!新が守るって言ってたし、大丈夫か……、大丈夫だと思うことにしよう、そうしよう。


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