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記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
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『千手學園少年探偵團 / 金子ユミ』(光文社キャラクター文庫)を読んで。

日ましに秋が深まり読書のお供のホットコーヒーがますます美味しくなる季節。自称本好き、なかでもキャラクター文芸ばかり読んでいる春風ともうします。こんにちは。

今回は、先月シリーズ最新巻が発売された金子ユミ先生著の『千手學園少年探偵團 (光文社キャラクター文庫)の感想を書きたいと思います。

こちら記事は1巻のみの感想です。2巻3巻は現在注文中。明日届く予定です。きっとこの記事を投稿する頃には届いて……おります!

ということなのでサクサクまいりましょう。感想文の投稿は第3回。どうぞお手柔らかにおねがいします。押忍。

 ―― 注意 ――

・感想を書くにあたりこの記事内では作品の内容に関わる #ネタバレ をある程度しています。事前になにも知りたくない方はご注意ください。

◆千手學園少年探偵團 / 金子ユミ

(あらすじ)時は大正時代、東京府―。大蔵大臣・檜垣一郎太の妾の子・永人は、嫡男の“謎の失踪”を受け、急きょ跡継ぎとして名門私立千手學園に放り込まれることに。学園内では妖しげな呪いの噂が流行しており、永人は思いがけず友人たちとその解決に挑んでいく。学園に蔓延る謎を、そして義兄失踪の真相を暴くことができるか!?大正浪漫の香り漂う本格学園ミステリ、ここに開幕!文庫書下ろし。

◇購入のきっかけは表紙でした

どうでしょうか、この表紙。短くてもわかりやすいタイトル、赤を基調にした装丁に彩られた雰囲気もりもりのイラスト。写真での紹介はできませんが「大正浪漫の学園ミステリ、ここに開幕!!」と太字の打たれた白地の帯がよく映えます。

この小説をパッと見たとき、あらすじを読まない状態でも『舞台は大正時代』『学園ミステリーモノ』『しかも少年がいっぱいでてきそうだぞ』『ちょっぴりオカルト要素もあるっぽい?』ということが一目でわかります。こういうのがキャラクター文芸は大事なのでは、と思いました。

各出版社サイトも情報が揃っていて便利なのですが、レーベル内の作品数が多いと作者やタイトルでの五十音順で検索しなければいけなくなり、まだ知らない小説との『出会い』の機会は格段に減ります。

出版社サイトはほとんど目録(索引)としてだけの価値になり……と、そこで書店パトロールの出番です。こちらの『千手學園少年探偵團』との出会いも書店パトロール中でした。

◇2巻・3巻と発売されていくのを書店で目の当たりにする

表紙を見て気になりました。しかしお財布に事情があり購入を先送りしているうち、いつしか『千手學園少年探偵團』の第2巻が発売されるのを目撃してしまいます。

2巻が発売されるということは、1巻がある一定以上の評価を得たということであると思います。「もとからシリーズものとして発売する予定だった」としても事前に出版社内での一定以上の評価があるということです。読者からしたら理由はどちらでもかまわない。ともかく面白さになんらかの保障のあっての2巻発売です。

2巻発売に後押しされるカタチで『千手學園少年探偵團』の1巻を買ってみたもののそうこうしてるうちに(←積読のことです)、またもや3巻が発売されるのを目撃してしまい……!「3巻も発売するなんて?『千手學園少年探偵團』ってそんなに面白いの?」

ということで『千手學園少年探偵團』は読まないと!となりました。

◇大きい声では言えませんが

えーと、ですね。刀剣乱舞が好きでですね、そこに登場するキャラに似ていて気になったのもありました。前〇くんと平〇くんのことです。

小説でも漫画でも『〇〇(好きなキャラクター)に似てるから買ってみたー!』という意見を見聞きしてしまったとき、昔はムカっとしてたものです。でも、勝てば官軍といいますか、たとえ購買理由が『〇〇に似てたから』だったとしても、そのあとで実際読んで小説なりキャラなりをちゃんと好きだと思えれば、それで万事いいんじゃないかな。それは、一部の人には不快に響く可能性もあるし、胸を張れる話じゃないかもしれないけど、きっかけなんてなんでもいい。ともかく小説を手に取り読まなければ始まらないし、どんな理由の興味でも手に取ってもらえるだけありがたい、はず。(読者としてもです。売れたら続きが出ますから)。わたしの購買理由のほとんどの『表紙がイケメンだから』なんて……そもそも大声で言えない……。

わたしも実際千手學園少年探偵團読んでみたとき、「この人、好き!」と思ったのは、最初に気になったキャラとは別のキャラでした。そんなもんです。他人の何気ない一言を悪い見方してイライラしちゃうのは即刻やめにして本を読む時間にしましょう。(読書好きの友達とこういう話になったことがありまして、余談です)

◇作者は金子ユミさん

金子ユミ(かねこ・ゆみ)『アナタを瞳でつかまえる!~天然女子はカメラアイ!?』(コスミック出版)でデビュー。ゆみみゆ名義でボーイズラブノベル、漫画原作を手がける。幼少の頃より、江戸川乱歩や横溝正史など、怪しく艶やかな世界観に耽溺。近著に『異世界宿屋でおもてなし~転生若女将の幸せレシピ!~』(コスミック文庫α)がある。 -折り返しの作者紹介より引用。

金子ユミさん。初読みの作家さんです。これまでBL作品が割合多く執筆されているようです。別名義を隠さないでくださるのが嬉しい!作者紹介に「別名義で多数出版あり」と見かけるたびに、逆に気になっちゃうよ!?と、なってるわたしです。

◇装画はバツムラアイコさん

表紙イラストを手がけているのはバツムラアイコさん ( @btmr_aiko )。アニメ調のはっきりした色遣いに目が惹かれます。キャラクターも表情豊かでどんな人達なんだろうとわくわくします。後ろの背景の紙の面をする人達がなんだかオカルトちっくで怖い、けど見たい、知りたい、読みたい。そんな不思議な手招き感のある表紙。

表紙にキャラが何人も描かれているのもキャラクター文芸の特徴かと思います。読みながら、どのキャラが表紙のこの人で~、って当てはめたりしながら読むのも楽しみのひとつ。2巻の表紙にははっきり『東堂』『黒ノ井』と名札ならぬ名前が描かれていますが、と思っていたら、なんと1巻でも描かれているではないですか!? 字が小さくて読めなかった(汗。ごめんなさい!

2巻の表紙は白基調。一味変わってかっこいいです。東堂さん、中身もすこぶる素敵な御人でした。

次は登場人物について、私見をたっぷり交えた紹介です。1巻に登場人物一覧のページもございましたので、真実や真相はぜひ小説本編を参考にされてください。

◇登場人物紹介

・檜垣 永人(ひがき ながと)

本作主人公・探偵役。父は現大蔵大臣・檜垣一郎太。母は浅草の三味線弾き。永人はいわゆる妾の子。早くから檜垣に生活費を打ち切られたりしたものの、母子で慎ましくも楽しく生活していた。檜垣の嫡男・蒼太郎の失踪事件が起こり、永人は義兄の後釜として急遽檜垣家に引き取られ、名門私立『千手學園』にぶち込まれたところからこの物語ははじまる。

浅草育ちの江戸っ子だが、父にはもう逆らえないとわかってるからだろうか『べらんめえ』的なものはさほど感じない。永人から醸し出される性格からして、かなり大人しく学園生活している気はする。ただ向こうっ気はちゃんと強く、大人相手だろうがどこぞの御令息相手だろうが、分け隔てなく接する態度は正直そのもの。けれど無理を押し付けてくる慧にもそこそこ付き合う気立てのいい、いい男。檜垣になったし将来モテるのではとしか思えない。のちに履くことになる下駄が彼に許された最後のアイデンティティかもしれないと思うとちょっと切ない。

・来碕 慧(きさき けい)

かわいいその1。東京府内随一の大病院・来崎病院の息子。双子の兄。病弱だが性格は活発で学内でも結構な人気者。探偵小説好き。好奇心旺盛で永人を少年探偵に似てるとかなんとかで持ち上げ、不可思議な事件の噂を聞けば我先にと永人に探偵役をやらせたがるこの小説の着火剤。明るく可愛い陽キャ、と思わせておいて、弟・昊とのあいだに色々ある。

・来碕 昊(きさき こう)

慧の双子の弟。かわいいその2。慧が光なら昊は影のような存在。二人の性格がもともとそうだったと思いきや、実は二人はお互いにそう演じているに過ぎなかった。それぞれ慧は昊のために、昊は慧のために、自ら課した役割を演じていたのです。その秘密を永人だけにはおのおの打ち明けてて、「昊には言わないで!」「慧には言わないで!」と念を押してくる双子。永人なら吹聴しない、永人は大丈夫な人だと直感でわかったような感じなので意外と鋭い? なつかれてる永人がちょっとうらやましい気もするが、割も食ってるのできっとトントンだ。

・多野 乃■(たの の■)

千手學園の用務員一家・多野家の一人息子。■って何かと思ったよー。そういうことでした。これ以上の紹介は控えます。

・東堂 広哉(とうどう ひろや)

読み終えて大好きだと思ったのはこの人です。千手學園・生徒会長。父は現陸軍大臣の東堂広之進(次期首相とも呼び声高い時の人)。笑顔は爽やかな圧倒的カリスマ男。だがしかし、食えないその1。腹に一物どころか腹に日本を納めそうなくらいの上流階級の頂点に君臨する素質は父・広之進よりあるのでは。こんなパワーオブパワー設定の権力系イケメンは大好きなので期待してる。

・黒ノ井 影人(くろのい かげひと)

食えないその2。千手學園生徒副会長だし東堂の参謀かと思いがちなんだけど、よく見てみるとそうでもなさそう。東堂がいなくても黒ノ井は黒ノ井でボスをやれそうな感じがする。父は黒ノ井製鉄社の社長。世界的な戦争が多い時代で、造船だったり大砲とか造る会社の黒ノ井製鉄社だから現陸軍大臣の東堂の父と黒ノ井の父は恐らくズブズブの関係。息子どもはどうなんだかまだよくわからない。親友なんだろうか。なんかそうとも思えない。この二人は気になるので今後とも注意していきたい。

・檜垣 蒼太郎(ひがき そうたろう)

謎の失踪を遂げた永人の義兄。最後に姿を目撃されたのは千手學園の中だという話。誰も何も教えてくれず、永人にはなにがなんだか謎の人。


以上。このくらいの紹介にとどめます。作品内では他にも生徒や先生など、氏名ありなキャラが多数登場するけど全員キャラが濃い! かぶることなく名前と特徴を覚えられました。

◇第三話「千手歌留多」のトリックに感動

連編構成の学園ミステリーで第四話まであります。第三話「千手歌留多」のトリックが好きです。すごいと思いました。トリックとしてはありえなくはないものだったけれど、そのやりかた・手法に感動しました。学園ミステリーならではとも言えるし、学園ミステリーだからこそとも言えるトリック。ネタバレは避けます。ぜひ『千手學園少年探偵團』本編を読んでお楽しみください。

◇「てめえのその一言が、誰かの生きる場所を奪うかもしれねえって考えたことがあるか? ああ? てめえは他人の人生に責任が持てるのか!」

このあと「てめえみてぇな世間知らず、苦労知らずが簡単に他人を選別できると思うなよ。爵位だ? 政治家だ医者だ企業家だ? それがどうした!」と続く、永人が慧に放った叫びです(197頁)。

とても印象的なセリフで胸を撃たれました。なんともうしますか、現代人にも絶対響くはず。

学園付きの用務員一家の多野家を路頭に迷わせる可能性があることを安易に発言した慧に対して、永人の堪忍袋の緒が切れたシーンですが、これがもう……

病弱でひょろっこい慧の首根っこ掴み上げて怒りをぶちまける永人です。しかし永人のこの怒りは慧に対してのものだけではない。自分と母の人生をしっちゃかめっちゃかにしてくれた父の檜垣一郎太に対しての積もり積もった鬱憤がかなり入り交じってしまっての怒りのような気がしてなりません。

が、永人もおそらく自分でそれに気付いていたことでしょう。永人は下町育ちですが頭が悪いというわけでもありません。母のために賢く生きなければ、と今までやってきた永人だからこそ、人やモノを常人以上に見る力がある。

永人の叫びはおおむね正しいです。慧にとっては些末な事でも多野家にとっては一大事。慧の言葉は思いやりが相当欠けた言葉でした。けれど慧は檜垣一郎太ではありませんし、慧の親が東京府内随一の大病院だろうと、ここが千手學園で将来国の中枢を担うであろう御令息しかいないような選び抜かれた學園であろうと、慧は慧です。慧ひとりぶんの悪さに対して以上を言われる所以はない、とわたしは思うのです。

慧をフォローするのにも理由があります。永人は知らなかったことですが、慧は昊とひと悶着あったばかりでした。昊が乃絵に特別な興味を持っていると気付いてモヤモヤしてたときでした。昊が僕よりも他人を気にかけるなんて初めてだ、という双子ならではのエモいやりとりがあった直後のことなので、慧の未成熟な嫉妬心が冷静さを狂わせ、軽率な発言をするに至ってしまったのは読者側からしたら読んでてよくわかることです。

対する永人も、現在真っただ中でもがきまくっていました。嫡男の身代わりとして引き取られても檜垣家には到底歓迎されない。生まれ育った浅草なのに誰もが永人を檜垣家のお坊ちゃん扱いしてくる。もう戻る場所がない。千手學園でも自分は異分子だ。どこにも居場所がない。生きる場所を奪われていたのは永人でした。

まぁそこは主人公。下町仕込みのド根性精神でもって、今後シリーズの中で永人が『自分の居場所』についてを考えていく流れになるじゃないかなと思いますが。

第四話のメインの紛失事件を解決して、慧とも誤解がとけて仲直りした永人は、千手學園がただのボンボンの集まりじゃないと気付けました。慧は慧という一人だし、昊は昊という一人だし、ほかの生徒も全員がひとりひとり見てみれば、そこまで悪い奴は少ない(いないとは言ってない)。特権階級を過剰に敵視していた自分に気付けた永人。一歩踏み出すその音が下駄の音なんて、粋に感じました。五感が働かされる小説は素敵です。

◇全寮制学園モノの魅力の、良くも悪くも

千手學園は全寮制です。舞台が海外となれば『寄宿学校』なんていわれるかもしれませんが、キャラクター文芸では意外にも見る機会が少ないような気がする全寮制モノ。わたしの蔵書の少ない本棚でですと『英国紅茶予言師 / 七海花音(キャラブン!)』『ふりむけばそこにいる 奇譚蒐集家 小泉八雲 / 久賀理世(講談社タイガ)』くらいしかありませんでした。どちらも英国が舞台だ。男の子はとりあえず全寮制にぶちこんでほしいとなぜわからない(寝言です。

わたしが思う全寮制学園モノの魅力はその閉鎖感です。

外界(世間一般)との交流が制限されている状態。俗世の汚いものが入ってきにくい環境と言えるいっぽうで、内部で生まれた汚いものが外に出ていきにくい環境とも言える。締め切りの部屋に空気が籠るような。無響室に近いんです。無響室って音を立てなければ静かで落ち着くけど、声を出すと途端違和感に気持ち悪くなる、全寮制もまさしくそれじゃないかと思います。『いつもと違う』が『ちょっと怖い』のです。

永人が千手學園の籠り濁った空気を新しいものへと変える風、または読者や慧にとっては面白い事件を呼び起こす波風となっていけばいいのではないかと思いますが。自身の居場所や立ち位置も考えていかねばならないでしょうし。永人ならなんとかしていけるんじゃないかと期待は持てます、有望な男なので。シリーズの続きで永人の成長を楽しみにしたいと思います。

◆外部リンク

・金子ユミさんTwitter ( @yumikmiyu )

・バツムラアイコさんTwitter ( @btmr_aiko )

光文社キャラクター文庫 編集部のおすすめシリーズ『千手學園少年探偵團』

◆後記

今回もヘッダーに小説の表紙を使わせていただけないかを出版社問い合わせたところ許可をいただけました。やったー。個人の問い合わせなのに個別に対応していただけるなんてすごい。(※注意)こちらの話はわたしの今回の場合のみにいただけた許可です。画像を使用する際はその機会ごとに個別の問い合わせが必要です。著作権には各自で注意してください。

記事が長くなってしまった。登場人物が多かったせいもきっとある。こんなに人物たくさんなのにキャラが混じらないのは不思議だ。「キャラ立て」がうまいってこういうこと?

noteにもネタバレ注意機能ができたぞ!早速使う。




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