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『HRテクノロジーで人事が変わる』解説note ~共著者の一人として、難しい問題をかみ砕いてみた~ ①序章

HRテクノロジーで人事が変わる

1.はじめに、書籍の紹介

 2018年8月末に、『HRテクノロジーで人事が変わる』(労務行政、共著)が出版された。内容・テーマからしてバカ売れする本ではないかもしれないが、2020年1月の時点で「5刷」ということで、じわじわと売れ続けている話題作といってよい。

 評価頂いている点としては、

・テクノロジー推進の観点から、人事領域におけるデータの活用という「アクセル」の要素とともに、法的リスクの洗い出しも網羅的に行うという「(適度な)ブレーキ」の要素も兼ね備えている。

・タイトルに「テクノロジー」と謳いながら共著者陣の半数が法律の専門家であり、それに加えて関係行政機関、学識者、人事管理の専門家、コンサルタント、テクノロジーの専門家という重厚な布陣。

・人事業務の各領域を網羅的におさえたうえで、それぞれにつき「事例紹介」「テクノロジー」「人事管理」「労働法」「個人情報保護」という5つの視点から将来予測や懸念事項について多角的に論じられている。

・肝心のテクノロジーに関しても、本質論(これ、時には皆が嫌がるやつ)から真正面に論じている。

などを挙げることが出来る。

2.「ブリッジ」の必要性

 ただ、共著者の一人としては少し残念に感じていることがある。その気持ちを要約すれば、「日本中、もっともっと隅々まで行き渡るべき内容なのに、何かの壁に阻まれている。惜しい!」ということになる。

 上記の構成の中で、人事やテクノロジーに多少なりとも興味がある人であれば「事例紹介」「テクノロジー」「人事管理」のパートはスムーズに、楽しみながら読んで頂けるはずである。用語もスッと入ってくるものがほとんどであろう。他方、「労働法」「個人情報保護」というのは当然ながら法律の世界である。多くの読者にとって「とっつきにくい」はずである。実際、私の周囲からは「この法律系のパートにこそ重要なことが書かれているのだろうが、途中で挫折しそうだ。。。つい読み飛ばしそうになる。。。」という声がよく聞こえてくるのだ。これが、「何かの壁」の正体である。

 私個人の勝手な調査によると(笑)、人事業務に携わっている人たちのうち約7割から8割は「学生時代も含めて法律、法学を全くかじったこともない」のである。ちなみに私も運営に関わるHRテクノロジー・コンソーシアムでは「HRリーダーのための個人情報保護・労働法基礎講座」という講座を実施していて、私がその講師を務めているのだが、約10名の受講者にアンケートを取ったところやはり私のそれまでの肌感覚と同じく7名が法学未経験者であった。仕事の領域からして少なくとも労働法については詳しかったり社会保険労務士の資格を持っているのかと思いきや、これが実態である。人事担当者ですらこの状況なのだから、これまで人事は未経験で「テクノロジー」の部分にのみ興味があるというタイプの場合はさらに法律に弱い、もっといえばアレルギーさえあるのではないか。

 そこで私は考えた。使命感を強く覚えた。「そうだ、僕が橋になろう!」って。

スイミー

 私は、自分が「橋渡し役(ブリッジ)」に適任な要素を兼ね備えていることに気づいた。

・HRテクノロジーを熟知している(世界のトレンドも含めて)
・一応、日本版ロースクール卒(新司法試験短答式のみ合格後、受験1回のみで諦め組)
・難しいこともかみ砕いて教えなければならないという、講師歴通算12年以上
・何と言っても自分も共著者の一人(なので責任を感じる)

 そこで、非常にチャレンジングではあるが、オリジナルの内容を崩さないように配慮しつつも可能な限り私自身の言葉で言い換えて、平易な表現で「労働法」「個人情報保護」の領域の重要論点を解説する、という取り組みを次回以降数回に分けて行ってみたい。

3.最後に、フォロー

 今回の内容で、もしかしたらここが最も重要なのだが、当該書籍中「労働法」と「個人情報保護」のパートの内容や構成が分かりづらく書かれている、ということでは決してない。むしろ、法律というものをちょっとでもかじったことがある人からすれば、非常に分かりやすく、コンパクトに、そしておそらく「平易に」という工夫もなされて巧くまとめられている

 最も価値があるのは、実は論点の網羅性と最新情報(2018年夏時点での)の提供である。論点の洗い出しについては、共著者陣が何度もディスカッションを重ねてほぼ抜け漏れのない状態が実現されている。「最新情報」の点に関しても、労働法と個人情報保護法のそれぞれの分野について「新進気鋭の大家」(矛盾する語法のようではあるが、「若くはあるが間違いなく第一線級」の意)が惜しみなく知見を提供しているから間違いない。

 しかしながら書籍のターゲット層が「人事」×「テクノロジー」というクロスした、それゆえニッチなところとなっており、そして残念なことに「人事」の人も「テクノロジー」の人も決して法律に強い人たちとはいえないにも関わらずこの人たちにこそ「法的リスク」を知って頂きたいというコンセプトとなっているため、初めからジレンマを抱えていたと言わざるを得ない。そうすると、誰が悪いわけでもなくターゲットの読者にとっては「どうやっても難しい」のである。

 そうであるとすれば、誰かが橋渡し役(ブリッジ)となって「届いて欲しい層」にこれらの素晴らしい内容を確実に届けなければならない。次回以降、試行錯誤の連続となるであろうがぜひこのチャレンジに期待して欲しい。 


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