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2022年の働き方~すべての従業員を幸せにする人事変革~ ⑥ラーニング革命

1.まえがき

 タイトルのとおり、「人事変革」は人事部門に閉じたものでもなく、すべての従業員の働き方、その人生すべてに大きな影響を及ぼす非常に重要な取り組みである、という思いを込めて最新トレンドやホットな情報をお届けしたい。逆に、「働き方改革」は決して従業員側の自助努力のみではなしえず、人事部門あるいはもっと上のレベルの経営層がリードして具体的かつ効果的な施策を打ち出していかないことには達成できない。その施策のひとつとして、HRテクノロジーの導入は欠かせないであろう。そしてこのHRテクノロジーの分野の中でも昨今最も注目されているのがラーニング・ソリューションである。

2.これまでの連載の振り返り

 「①人事のトレンド」では、「人事の優先課題」として「エクスペリエンス(良い体験)の創出」を挙げた。また、「2020年以降のトレンド」としても「従業員体験」を挙げるとともに、「ラーニング革命」という言葉も紹介した。
 「②HRテクノロジーのトレンド(前編)」では上記をまとめて、「自らキャリアを切り開いていきたい」という強い願望を抱いているとされるミレニアル世代に対しては、最適なラーニングメニューや最適なポジションを、自ら考え、選択できる形で提示することが最高の支援策といえ、これこそが従業員体験の向上に直結するということをご紹介した。
 「③HRテクノロジーのトレンド(後編)」では、「ラーニングプラットフォームとキャリア支援」の中で、 「ラーニング(の機会)」と「スキル(のアップデート)」がFuture of Workの鍵となるとされ、これらがエンゲージメント向上のための最大のドライバーであること。ラーニングの分野もやはり「エクスペリエンス」を重視するということで、ラーニング・エクスペリエンス・プラットフォーム(LXP)と呼ばれるようになり、パーソナライズ、ナッジ、AIによるマッチング等は必須とされていること。これらを実現するために欠かせないのが、組織側のジョブ定義、スキル定義と従業員側のスキルの棚卸(可視化)であること、をご紹介した。
 「ジョブ定義・スキル定義の重要性」とその具体的手法については、それぞれ、「④『スキル』の重要性」 「⑤『スキル中心の社会』とは」の中でご紹介している。
 まず読者の皆様には、ぜひこれらのバックナンバーの該当箇所を読み返して頂きたい。

3.「スキル重視」と「エクスペリエンス」の交錯点

 企業側としては、今後ますます精緻なジョブ定義を進めていくはずであり、その一環としてスキル体系の整備を進めることになる。新規採用の場合も後継者計画の際も、そして人事評価についても「人材要件」をスキルという共通尺度、共通言語で定義する。これが「スキル重視」の体現である。
 一方従業員側から見てみると、「学習機会または成長機会がない」というのが離職原因の上位に常にランクインするといわれている。これらの機会を切望しているわけであり、HRテクノロジーの力を借りてうまく要望を満たすことが出来ればそれだけでも従業員体験の飛躍的向上が期待できる。ここで関連するHRテクノロジーとは、まさにパーソナライズされた従業員体験を提供する類のものであり、具体的にはラーニング・ソリューション、あるいはラーニング・エクスペリエンス・プラットフォーム(LXP)が該当する。受講すべきラーニングメニューをパーソナライズして提供するためには、当該従業員が保有しているスキルの情報が不可欠である。
 以上のように、「スキル重視」の姿勢で様々な仕組みづくりをしていくことによりパーソナライズされた体験を提供しやすくなり、それを学習機会の提供、成長機会の提供の局面で行えば従業員体験の飛躍的向上が見込めるのである。そして、テクノロジーを活用してそれらの機会を提供する方法を考えると、必然的にラーニング・ソリューションに行きつく。すなわち、ラーニング領域こそが「スキル重視」と「エクスペリエンス」の交錯点なのである。

4.ラーニング文化の醸成

 優れたラーニング・ソリューションが存在したとしても、企業の中にそれをうまく活用する風土がなければ結局根付くことなく「宝の持ち腐れ」となる。
 リーダーシップに求められる要素としては、まず「グロース・マインドセット」(成長意欲)を配下のメンバーに芽生えさせ、同時に、これが自部門のみで完結するのではなく「共有意識」をもって組織全体で育んでいく姿勢が求められる。ただし、号令だけで根付くものではないため、インセンティブを適切に与えることも重要である。インセンティブの例としては、ラーニングの累積受講時間が一定時間を超えると簡単な報奨制度により賞賛されたり、あるまとまったテーマ群を修了すると「バッジ」(デジタル終了証のようなもの)が貰えたり、ということが挙げられる。
 次に重要な要素としては、「エクスペリエンス」である。ラーニングメニューを利用する側、受講する従業員側に良い体験を提供するためには「個別化」が欠かせない。つまり、「無料で利用できるコンテンツが何百種類もあるので自由に利用してください。」という形式での提供ではなく、「あなたにお勧めのコンテンツはこの3つです。なぜなら、あなた自身が最も強く課題と捉えているスキル・ギャップを埋めるために有効な内容だからです。」という形でレコメンドされるような仕組みである。これにより自然と動機付けがされた状態でコンテンツを利用することになり、習得した内容を実践しやすくもなる。
 最後に、「システム」に求められる要件もある。
 まず、「Learning Agility」(学びの素早さ、とでも訳そうか)の要素が求められる。たとえば、自分にとって受講が必要なラーニングメニューは何かということが瞬時に分かり、このコンテンツに迅速にアクセスできてワンクリックで受講を開始出来たり、興味あるキーワードを入力して検索するだけで適切なメニューが一覧表示させる、といった仕組みのことである。
 次に、「透明性」というのもキーワードとなる。自分が受けるべきラーニングはどれか、同じ職務を担当している同僚はどのようなラーニングメニューを活用しているか、そのメニューを受講するとどのようなスキルが身につくのか、等の情報が一部の人事担当者やラーニング担当者のみならず全従業員に向けてオープンになっている状態のことである。
 さらには、学びの姿勢が「一過性」で終わることなく継続的なものとなるよう、日々の習慣となるような工夫が盛り込まれていることが望ましい。

5.具体的なソリューションの活用

 ここでは、まず初めにSumTotal(サムトータル)というソリューションをご紹介する。特徴としては、直観的な操作性に定評がありUI/UXが優れている、パーソナライズされたラーニングメニューを従業員毎にレコメンドする、完全モバイル対応でSNS的な要素やゲーミフィケーションも取り入れている、ということが挙げられる。

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 まさにLXP(ラーニング・エクスペリエンス・プラットフォーム)の代表例と言えるが、このようなシステムを活用することの隠れたメリットが別にある。
 それは、ラーニング領域のシステムやツールの利用を促進することにより、従業員側から自然と優れた情報を収集できるということである。パーソナライズされた従業員体験、ラーニング体験を提供するための前提条件として各従業員の保有スキルや担当職務の情報が必要になるわけであるが、これらの情報を真面目に提供すればするほど自身が享受できるメリットも多くなるという分かりやすい構図が出来上がるため、情報の提供を自主的に行うという文化も醸成されやすい。

 ところで、ラーニングコンテンツも重要な要素である。魅力的なコンテンツなくしては、上記の「エクスペリエンス」や「継続的学習」を実現できない。そしてそのコンテンツは、外部から「出来合い」のものを借りて利用するだけではなく、自社内で、自分たちの手で自由に開発できることが望ましい。そのための強力なプラットフォームとしてUMU(ユーム)をご紹介する。

 UMUは学習管理全般を担うラーニング・プラットフォームとしても優れているが、ここでは特に「コンテンツ開発ツール」としての側面に注目したい。「様々な学習要素をモジュール化し、コース設計を積み木のように革新的で楽しいものに」という特徴を持ち、画像、テキスト、動画と音声を使って、誰でも気軽に、ノンプログラミングで簡単に教育コンテンツを作成することが可能である。

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 UMUで作成されたコンテンツをSumTotal上に乗せ、あるいは、SumTotal側から遷移させてUMU上でラーニングを受講し、受講の結果としてたとえば特定のスキル・コンピテンシーを付与するといったようなタレントマネジメント的な管理を再びSumTotal側で行う、という連携が理想形であると考える。そうすることで、「優れた従業員データの収集」が促進されるからである。

 こうして集められた従業員データは、本格的なタレントマネジメントを行うためにも必須のものばかりである。つまり、採用や社内公募における候補者選択、後継者計画、将来のキャリア計画、戦略的異動・配置、を行うためにも、常に最新の状態にアップデートされた保有スキルの情報が必要不可欠なのである。
 さらに、システムの中に記録された受講履歴等のデータや最新化された従業員の保有スキルの情報と、それ以外の様々な人事データとを組み合わせてダッシュボート上に表現することにより、非常に多角的な分析も可能になる。例えば、人事考課のスコアが高い従業員と低い従業員とを比較して、どのようなタイプのラーニングメニューが活用されているかの傾向を掴むことが出来たり、残業時間の推移とラーニングの活用度合い(累積受講時間)の推移を合わせて追って、業務負荷と「学びの姿勢」の関係性を探ったりすることが可能になる。例を挙げればきりがないが、より効果的なラーニング戦略を立案して実行するための仮説・検証に有用であることは間違いない。ちなみに、先に紹介したSumTotalの場合は、ウイングアーク1stが提供しているMotionBoardというダッシュボートツールと連携させることが可能である。

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6.終わりに

 「ラーニング革命」というテーマでご紹介した。また今回もエッセンスのみをお伝えした。専門用語の解説も不十分であろう。
 HRテクノロジー・コンソーシアムでは、「HRリーダーのためのHRテクノロジー基礎」と題して講座を実施している。また新たなシリーズとして、「HRリーダーのための個人情報保護・労働法基礎講座」も開講された。
 これらの講座の中では、各テーマに即して参加者同士がディスカッションを行い、テーマによっては具体的なアウトプット(PPT等でまとめたもの)を作成して頂くということも行っている。ぜひ記事の読者の中から多く方々が参加されることを願っている。








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