【医師論文解説】高齢者注意! 〇〇が増えると糖尿病リスクが高まる研究結果【OA済】
背景
高齢者では2型糖尿病の新規発症が増加している。
これは高齢者におけるインスリン分泌能力の低下とインスリン抵抗性の増大に起因すると考えられている。インスリン分泌能力の低下は膵β細胞の機能低下によるもので、インスリン抵抗性の増大は筋肉量の低下や体脂肪の増加に伴うものとされる。しかし、65歳を過ぎてもこのインスリン分泌能力とインスリン感受性が個人レベルでさらに悪化するかどうかは明らかではない。もし悪化するのであれば、そのメカニズムを明らかにすることが重要である。
方法
東京に在住する65-84歳の糖尿病既往のない高齢者1438人を対象に横断研究を実施した。参加者には空腹時採血と75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を施行し、空腹時血糖、血中インスリン、OGTTにおける血糖およびインスリン曲線下面積(AUC)を計測した。インスリン分泌能力はAUCインスリン/AUCグルコース比、インスリノジェニックインデックスで評価した。インスリン感受性はHOMA-IR、マツダ指数で評価した。膵β細胞機能はディスポジションインデックス(マツダ指数×AUCインスリン/AUCグルコース)で評価した。さらに参加者の体組成、腹部内臓・皮下脂肪面積、筋肉量、握力等を測定し、インスリン抵抗性との関連を解析した。
結果
参加者を65-69歳、70-74歳、75-79歳、80-84歳の4群に分類し比較した結果、年齢が高い群で糖尿病の有病率が高かった。マツダ指数とディスポジションインデックスは80-84歳群で65-69歳群と比較して有意に低下していた。一方で、インスリノジェニックインデックスやAUCインスリン/AUCグルコース比には年齢群間で差はなかった。以上から、65歳を超えてもインスリン抵抗性が増大し、膵β細胞機能が低下することで糖尿病が発症しやすくなることが示唆された。次に、マツダ指数とディスポジションインデックスとの関連因子を検討した結果、両指数は内臓脂肪面積、皮下脂肪面積、遊離脂肪酸と負の相関を示した。多重回帰分析ではこのうち内臓脂肪面積と遊離脂肪酸が最も強く関連していた。
論点
本研究から、65歳を超えてもインスリン抵抗性がさらに増大し、膵β細胞機能が低下して糖尿病が発症しやすくなることが示唆された。その主な原因として、加齢に伴う脂肪の蓄積、特に内臓脂肪の増加とそれに伴う遊離脂肪酸の上昇が寄与している可能性が考えられた。遊離脂肪酸は膵β細胞に障害を及ぼしインスリン分泌能を低下させることが知られている。よって、高齢者における適切な食事と運動による内臓脂肪の減少が、インスリン抵抗性の改善と膵β細胞機能の維持に重要であると考えられる。
結論
65歳以上の高齢者においてもインスリン抵抗性と膵β細胞機能は個人レベルでさらに加齢とともに悪化する可能性が示された。適切な食事と運動により体組成、特に内臓脂肪を改善することが、高齢者の糖尿病発症予防に重要であることが示唆された。今後は縦断研究により加齢に伴う変化を個人レベルで追跡し、適切な対策を立てる必要がある。
文献
Hitoshi Naito, Hideyoshi Kaga, Yuki Someya, Hiroki Tabata, Saori Kakehi, Tsubasa Tajima, Naoaki Ito, Nozomu Yamasaki, Motonori Sato, Satoshi Kadowaki, Daisuke Sugimoto, Yuya Nishida, Ryuzo Kawamori, Hirotaka Watada, Yoshifumi Tamura, Fat Accumulation and Elevated Free Fatty Acid Are Associated With Age-Related Glucose Intolerance: Bunkyo Health Study, Journal of the Endocrine Society, Volume 8, Issue 2, February 2024, bvad164, https://doi.org/10.1210/jendso/bvad164
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