【夏休み科学Vtuber相談室2024 x 医師論文解説】革新的術式の始まり 21歳男性の運命を変えた医師たちの挑戦【Abst.】
はじめに:
1973年、オーストラリアのメルボルンで画期的な手術が行われました。
この手術は、血管吻合を用いた遊離皮弁移植という、当時としては革新的な方法を臨床で初めて成功させたものでした。
症例:
21歳の男性患者が、車にはねられる事故に遭遇しました。
右足首の内側に12cm×7cmの開放創が生じ、距骨と足関節が露出。内果、下部脛骨の皮質、そして後脛骨神経血管束の3cm分が失われるという重篤な状態でした。さらに、胸部外傷による肋骨骨折と肺挫傷、右骨盤の粉砕骨折も併発していました。
従来の治療法の問題点:
このような下肢の複合損傷では、一般的に早期の分層植皮後に皮弁による被覆を行うのが通例です。しかし、この症例では腱や骨が露出しているため、遊離植皮には適していませんでした。また、局所皮弁も不十分であり、通常なら交叉下腿皮弁が選択肢となりますが、骨盤骨折のため適用できませんでした。
新しいアプローチ:遊離皮弁移植
著者らは、この難題を解決するために革新的な方法を選択しました。それは、鼠径部から皮弁を血管茎とともに採取し、完全に切り離した後、脚の血管に再吻合するという方法でした。
手術の詳細:
受容部の準備:後脛骨動脈と伴走静脈から血栓を除去し、損傷部を切除。大伏在静脈を欠損部に移動。
ドナー部の準備:対側の腸骨大腿部から、浅腸骨回旋血管と浅下腹壁血管を含む皮弁をデザイン。欠損部より50%大きい皮弁を作成。
血管吻合:
後脛骨動脈と浅下腹壁動脈を吻合
後脛骨動脈の伴走静脈の1本と浅腸骨回旋動脈の伴走静脈を吻合
大伏在静脈と浅下腹壁静脈を吻合
手術時間:血管吻合に1時間半、全体で7〜8時間を要しました。
術後経過:
患者の経過は極めて良好でした。術後17日目に抜糸、40日目の動脈造影で動脈吻合の開存を確認。50日目には腓腹神経移植で後脛骨神経欠損部を架橋しました。
この症例の意義:
この手術は、微小血管外科技術を用いた複合組織の一期的遊離移植の臨床での初の成功例となりました。従来の方法では困難だった下肢の皮弁被覆に対する非常に満足のいく代替法を提示し、微小血管技術の新しい応用を示しました。
今後の展望:
著者らは、この技術のさらなる臨床評価の必要性を指摘しています。また、腸骨大腿皮弁の血管の予測可能性について新鮮屍体解剖で評価中であり、術前血管造影の役割についても更なる調査が必要だとしています。
この画期的な手術は、形成外科学の歴史に新たな一頁を加え、複雑な組織欠損に対する再建手術の可能性を大きく広げました。以後、遊離皮弁移植は形成外科の標準的な手技となり、現代の再建外科に不可欠な方法として発展していきました。
文献:
Taylor, G I, and R K Daniel. “The free flap: composite tissue transfer by vascular anastomosis.” The Australian and New Zealand journal of surgery vol. 43,1 (1973): 1-3. doi:10.1111/j.1445-2197.1973.tb05659.x
この記事は後日、Med J Salonというニコ生とVRCのイベントで取り上げられ、修正されます。
良かったらお誘いあわせの上、お越しください。
私たちの活動は、皆様からの温かいご支援なしには成り立ちません。
よりよい社会を実現するため、活動を継続していくことができるよう、ご協力を賜れば幸いです。ご支援いただける方は、ページ下部のサポート欄からお力添えをお願いいたします。また、メンバーシップもご用意しております。みなさまのお力が、多くの人々の笑顔を生む原動力となるよう、邁進してまいります。
所感:
ここから先は
¥ 100
よろしければサポートをお願いいたします。 活動の充実にあなたの力をいただきたいのです。