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たけとりものがたり 9枚目

又、ある時、僕は、坊主の妹の婿とも山にあがった。
妹の婿もまたまた坊主だ。
叔父より年は上であるが、一応妹の婿であるので、「義弟」になり、
叔父は
「食べるばかりではなく、お前も茸採りに行けや」
と偉そうに指図する。
 
坊主と、妹の婿坊主と、叔父坊主と、僕。
色んなキノコを見つけて、かごいっぱいに帰ってきた。
 
妹の婿坊主が満足そうに
「色々とれたなあ」とにやにや。
 
そのうち、さてそろそろ帰る時間かと
妹の婿坊主が腕をまくった。
「お前、わしの時計をしらんか。」
「あれ、あんた、山へしていったがね。」
きょとぉん・・・。
「やま・・へ?・・・していった。」
さっきまでのにやにや顔がふっとんだ。
「わしの、・・わしの、と、時計が、
わしの時計が山でなんなったああああ!!!」
 
 
賢い大学を出て、役場に勤めて初めて買った時計。
そういや高価な時計とご満悦だったっけ。
寺の格や収入や学歴を気にする妹の婿坊主。
 
でも中野の山では、
別に時計なんていらない。
空と山の景色を見ていたら
山から降りたが良い時間なんて分かるから。
 
格も収入も学歴もいらない。
 
山に感謝し、恵みをもらい、有り難う、って挨拶するだけ。
山で時計がなくなったって?
山の神さまのいたずらに違いない。
 
あわてて、みんなで暗くなりかけた山へ。
通った道を巡ってみたが、
結局見つからなかった。
「お前が言い出しっぺで、山に誘ったけん。」
「誘ったお前が悪い。」
「お前たちの探し方が悪い。」
「なんで山に入ったか。やっぱりお前が悪い。」
後悔と愚痴ばかり。何年経っても言ってるから。
いつしかそれは酒の肴。

時計


 

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