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これからの入試広報は“大学らしさ”より、振り切った“自分たちらしさ”。(帝京平成大)

伝えるだけでは、伝わらない。伝えるだけで伝わるのは、知りたいと思う人にだけ……。

ややポエム調の出だしですが、そんなことを思ったのは、ある大学のリリースを見たことがきっかけです。どんなリリースかというと、このリリースです。

ファミリーマートユーザーなら、あぁ知ってる、となる人も多いのではないでしょうか。帝京平成大学のこの音声CMはシリーズ化されていて、2017年にスタートしました。

はじめはワンピースのロロノア・ゾロ役で有名な中井和哉さん、その後、エヴァの碇ゲンドウ役を務めた立木文彦さん、ドラゴンボールのフリーザ役でお馴染みの中尾隆聖さんと続き、今回はこの後継として、ポケモンのピカチュウ役などで有名な大谷育江さんがナレーターとして起用されたようです。

YouTubeをあさってみると中井和哉さんのCMがあったので、こちらを貼り付けておきます(実際は音声のみのCMです)。

大学が広告を打つときに、多かれ少なかれアカデミックなものを、とか、大学なんだから、といった、ある種の枷(かせ)を意識的にも無意識的にも自分たちに課して制作しているように感じます。この枷は、ときには大学のプライドとしてポジティブに受け止められることがありますが、それによって本当に伝えたいと思う人に上手く伝わらない可能性があります。それどころか、アカデミックな印象を強く打ち出すことで、自分たちが志望すべき大学ではないと、一線を引いてしまう人だってなかにはいるように思うのです。

ちょっとまどろっこしく書いたので、もう少し説明を具体的にします。

進学意識が低く、能動的に情報を得ようとしない人がメインターゲットの場合、その人たちは自分から大学を調べないし、この大学に入りたいという明確な目標を持つこともありません。そういった人たちに伝えたいなら、何を伝えるかよりも、まずその人たちの日常にどう割り込んでいくかを考えることが大事なように思うのです。

帝京平成大学は、1987年に設立され、偏差値は37.5~52.5(「みんなの大学情報」より)と、比較的若く、偏差値は下の上というポジションです。長く存在していれば、それだけである程度認知は広がりますが、帝京平成大学にはそこまでの歴史はありません。また偏差値から見るに、積極的に進学情報を得ようとする層がメインターゲットではなさそうです。

こういう状況をわかっているからこそ、自分たちの大学が選択肢に入るだろう受験生に、何はともあれ存在を知ってもらうことを優先して、この音声CMをはじめたのではないかと感じました。

そう考えると、ファミリマートという“場所”で、受験生たちにとって馴染みのある“声”で伝えるというのは、非常に理に叶っている。極端にいうと、内容なんて関係なくて、大学名さえ聞いてもらえれば目的の大半は叶っているのかなという気がします。

大学が大学らしくあれ、という考えについては共感しますが、大学のユニバーサル化が進むところもまで進んでしまった今、“大学=最高学府”ではなくなりました。そうであるなら、さまざまなターゲットに向けた、さまざまな大学があるべきだし、そのときの伝え方はターゲットに合わせて変えるのが自然です。さらにいうと、教育内容もそうあるべきです。

私が住む関西圏だと、大阪経済大学が近年、経済用語をビジュアル化する交通広告を出しています。これは見ようによっては、“経済用語への知識はないけれど、それに興味を持てる人”というのをターゲットにしていると受け取れます。

東大や京大を志望する受験生は、受験段階で簡単な経済用語については理解があるのかな、という気がします。そういった人をターゲットから外して、“知らなくてもいいんだ”と大学名に“経済”を冠している大学が声を大にして言うのは、なかなか強いメッセージ性があります。帝京平成大学とターゲット層こそ違うかもしれませんが、これもまたターゲットを絞った(理解した)メッセージだといえます。

すべての大学からのメッセージ(そして教育内容)がアカデミック一辺倒であれば、偏差値上位から順に受験生が埋まっていくしかありません。でも実際は、受験生の学力や進学意識、価値観、エリアなど、さまざまな要素によっていくつもの層に分かれており、それぞれの層のなかで大学は競争しています。この状況を理解すれば、何を意識して何を伝えるべきか、またどこでどうやって伝えるべきかは、かなり工夫する余地があることがわかります。

“大学らしさ”なんかにこだわらず、自分たちの大学が必要とされる層に向けて、広報も教育も全力投球する、そんな“自分たちらしさ”こそが、今後より大事になっていくはずです。「帝京魂!」からは、それをすでに実践している潔さと凄みを感じました。

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