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独自のカルチャーに”浸れる”環境が人を育てる。武蔵野大学EMCのイベントから考える、大学で学ぶ意味とは何か

インターネット上に無料の学びがたくさんあるなか、大学で学ぶ意味とは何なのだろう?こういった問いは、メディアやネットの書き込みを見ていると定期的に目にします。私自身もたまに考える問いではあるのですが、今回、見つけた武蔵野大学のイベントはその答えの一つになるかもしれません。

スタートアップ界隈の”熱さ”を体現した大学イベント

では、どんなイベントなのかというと、「EMC SUMMIT −未来の前では、誰もが仲間だ。−」という、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(EMC)の学生たちが取り組むプロジェクトをピッチやポスターセッションで発表するイベントです。参加者は会場とオンラインをあわせて、なんと1000名ということで、かなりの規模。そして何より印象的なのが、とにかく“熱い”んですね。予告編動画からも感じられるし、当日のアーカイブ動画を見てもビンビンと伝わってきます。

スタートアップ関連のイベントを取材したり、参加したりしたことが、これまでにもあったのですが、あの界隈特有の熱っぽさであったり、フレンドリーさというのは特有です。人によって好き嫌いはあるでしょうが、あのような場だからこそ育まれる精神やネットワーキングというのは確かにあると思います。そして、これらは誰かが教えようとして教えられるものではありません。実際それはEMCも理解しているようで、プレスリリースには下記のようなくだりがありました。

学部長の伊藤 羊一や、教授陣の粟生 万琴、岩佐 大輝、篠田 真貴子が学部開設当初に多く寄せられていた「アントレプレナーシップを教えることはできるのか?」という問いに対して、全員が「アントレプレナーシップは教えることはできない。しかし育むことはできる。」という確信を表しました。

武蔵野大学プレスリリースより

必要な”カルチャー”を意識的にデザインする

EMCが感じさせる特有の空気感、これって言うなれば“カルチャー”なのだと思います。これってスタートアップ界隈で顕著なものの、よくよく考える大学業界……つまり大学や学部、研究室にも、実はあるように思うのです。実験を重視するとか、伝統を重んじないことを重んじるとか、自ら体験していないと高く評価されないとか、院生や研究者を取材していると、あ、これって、ここのカルチャーだと思う話を聞くことが多々あります。

とはいえ、一般的な大学とEMCとでは大きく違うところもあります。前者は長い年月をかけて自然と培われてきたものなのに比べ、EMCは学部開設から3年でここまで仕上げてきたことを考えると、意識的にデザインしてきたものだということがうかがえます。

前者の場合、その分野を学ぶうえでそういったカルチャーが必要かどうかはわかりません。結果として、そういったカルチャーが育まれてきただけかもしれない。もちろん今も残っているということは、何かしら有効だからなのだとは思います。一方、EMCの場合、目的があってそこから逆算的に考え、計画的にカルチャーを育んできており、これが明確に必要だから育んできたのでしょう。

大学とは、価値観を変えてしまうほどの経験に”浸れる”場

ここで話を冒頭に戻します。学習コンテンツがあふれている現在、わざわざ大学で学ぶ意味ってナニ?ってやつです。アンサーのひとつは、こういったカルチャーに浸る、ということだと思うのです。新しい知識は一人でも学べます。しかし、自分の価値観や生き方を変えるようなこと、別の言い方をするなら、起業家であったり、研究者であったり、“その分野の人になる”という決意やマインドを得るには、やっぱり経験が必要で、しかもそれは一度や二度ではなく、何度もする、つまり”浸る”ことが必要なように思います。

「この経験が自分を変えた!」みたいなことを話す人もなかにはいますが、結局その段階に至るまでに類似した経験を何度も無自覚に重ねていて、最終的に閾値を超えたときの出来事を自覚しただけだと思うんですね。インドに行って人生観が変わりましたとかいうのも、わざわざその人をインドに向かわせるまでの経験が、それまでにあったわけです。そしてそうであるなら、大々的に一つのイベントをすればそれでOKというわけではなく、日常的にそういった経験ができる場がいる、つまりカルチャーが根付いているということが、とても重要になります。

教育理念やディプロマ・ポリシー、学部の専門領域等から考えると、どういうカルチャーがこの学部にあるべきかというのはけっこう見えてくるように思います。見えてきたカルチャーを、どのようにしたら学部に根付かせることができるかという活動を、計画的にやっていくというのが、今後すごく大事になっていくはずです。教育方法や教育内容については、どの大学も熱心に議論しているのですが、大事なのはそれだけじゃないと思うんですよね、いやはや本当に。

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