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ドブヶ丘集

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妄想虚構都市ドブヶ丘に関する記事をここにためていきます。説明書をよくお読みになり用法容量を守ってお使いください。あなたドブヶ丘に踏み入るとき、ドブヶ丘もまたあなたに侵入している。
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#パルプ小説

手口兄妹の冒険 vol.1

手口兄妹の冒険 vol.1

 第三管区外れの廃倉庫前

 廃倉庫のひさしから落ちた雨だれが分厚い外套に染み込んでくる。ドブケ丘に降る雨は町のあらゆるものと同じように耐え難い悪臭を放っている。匂いが肌に侵食されているような気がしてサナダは手を鼻に運んだ。気分の悪くなるような悪臭に外套の裾で手を拭った。匂いは消えず、ただひどくなっただけの気がする。サナダはため息をついた

 通りにむかう角に目をやる。アイモトが立っている影だけが

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手口兄妹の冒険 vol.2

手口兄妹の冒険 vol.2

【前】

倉庫の中

「今後も、良い取引が続くことを期待していますよ」
 取引相手の男は笑って契約書を鞄にしまった。爬虫類のような笑み。今後この関係は良い結果をもたらすだろうか。クニハラの胸の内に暗い不安がよぎった。十分に考え、裏もとった。
 それでも大きな決断をしたときにはいつも本当に良かったのかという疑念が残り続ける。組織のボスには向いていないのではないかと思う。
 向いてないからといって抜

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出口兄妹の冒険 vol.3

出口兄妹の冒険 vol.3

【前】

下水道
 ドブヶ丘にかつて文明があった証として下水道の存在があげられる。いつ誰が掘ったのかも、どこに続いているのかも皆目わからない下水道には、町の淀みという淀み、濁りと言う濁りが流れ込み、悪臭と混沌が濃縮され続けている。その全貌を把握する者はいない。
 この町で地図を作ろうとする変わり者は少ないし、数少ない変わり者はたいてい短い生涯を終える。好奇心が猫をも殺すのはドブヶ丘においても同様な

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町の匂い

町の匂い

 この時季になると水の入った田んぼから泥の匂いがぷんと香る。少し胸の詰まる匂いは、嗅いでいると少しだけ安心する。そう言うと妻は決まって
「嫌だよ、こんな田舎臭い匂い」
 と言って笑う。妻の両親に挨拶をしに行った町のことを思い出す。見渡す限りに広がる水田。青々とした稲の葉を通り過ぎる風が撫でていた。あの町で育った妻からすれば、この匂いは嗅ぎなれたありふれた匂いなのかもしれない。海辺の町で育った私に

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ドブヶ丘風土記・プロローグ

ドブヶ丘風土記・プロローグ

ブルーシートで作られた掘っ立て小屋の通り。
バラックの家々、錆び、汚泥。
空は煤煙で曇り、水は全てドブ。
ここは日本のスモーキーマウンテン、ドブヶ丘。
東京から全ての汚濁が流れ込む、捨てられたものたちの街。

イチノセは東京からやってきた流れ者だ。
彼は舗装されていない通りを歩きながらつらつらと自分の人生を思い出す。

「人生、人生か……」

父親はクソみたいな黒魔術師。
母親はイチノセが六つの時

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胡乱紳士 漫遊編 ドブヶ丘に降る雪

胡乱紳士 漫遊編 ドブヶ丘に降る雪

ドブヶ丘に降る雪も濁った色をしているけれども、雪が積もったときばかりは町の汚さが隠される気がする。たとえ中身が変わらないのはしっていても、少しだけましに思えて、ギンジはこの季節が好きだった

もちろん寒さをしのぐ建物か、せめて壁があればの話だが。ギンジは身震いをすると、酒瓶を取り出し、ふたを開けると中身を惜しむようにちびりと舐めた。生臭さと錆び臭さに顔をしかめて、それでも飲み下すとカッとお腹の中が

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【短編小説】ドブヶ丘くじ引き大会

【短編小説】ドブヶ丘くじ引き大会

分厚い曇天と薄汚い窓ガラスを透かして朝の光が差し込んでいる。光は脱ぎ捨てられた上着や帽子、みすぼらしい調度、そしてせんべい布団にくるまって眠るアケミを照らしている。

その穏やかな寝顔をタケシはぼんやりと眺めた。

その視線に気が付いたのか、アケミはゆっくりと目を開いた。眠たそうに目を瞬かせる。

「おはよう」

「ん、おはよう」

タケシに挨拶を返すと、アケミは体を起こし、大きく伸びをした。

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【短編】ドブヶ丘名所案内「マッドマン」

【短編】ドブヶ丘名所案内「マッドマン」

ドブ鉈はありふれた手応えでハチヤの頭にのめり込んだ。

「…あ…ご」

意味をなさない言葉を吐きつつ崩れ落ちるハチヤに唾を吐きかけると、クマダはハチヤの頭からドブ鉈を引き抜き、死体の上着で血を拭った。

「次は相手を選んで喧嘩を売るんだな」

念のため頭を蹴り飛ばして反応がないのを確認して、ポケットを探る。

くしゃくしゃになったドブ券が数枚出てきた。

「しけてやがんな」

舌打ちして、まあ、今

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【短編】ドブヶ丘環状線、銀の弾丸、カミグラム

【短編】ドブヶ丘環状線、銀の弾丸、カミグラム

「ダアシャリアスカッコミジョオシャアゴエンロオカーツァイ」

奇妙なチャントがヨドミノ通りに響く。「ピピー」と警笛を模した声聞こえたかと思うと、続いてジリジリと地響きが鳴り始めた。

巨大なタイヤが動いていた。大人の背丈ほどの厚みのあるタイヤだ。直径はその二、三倍ほどはあるだろうか。動力は一人の男だった。襟の高い制服と大きな制帽を被った小柄な男が肩に背負ったロープでタイヤを曳いているのだった。当然

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