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大人の幸せはちっぽけでいい

早く帰ってゲームがしたい。残業で帰ることができない私は腕時計をにらみながら遠い未来の悲しい物語に思いを馳せていた。

私の人生で最もお気に入りのゲームの一つである『ニーアレプリカント』のバージョンアップ作品がPS4で発売された。およそ10年ぶりの復刻とあって、私は少年のように心を踊らせていた。

またあの陰鬱で救いのない世界に浸って廃人になりたい!とワクワクしている私のもとに、Amazonから「配達完了」のメッセージが届いた。昼休憩中の私はガッツポーズを取り、今日はなんとしても定時で帰るのだと意気込んだ。

そして運命の17時半、定時を迎えた私は一目散に帰宅した。はずだった。

人生はなぜこんなにも皮肉めいているのだろうか。とくに予定がないときほど定時で帰れて、最も帰りたいときに面倒が降り掛かってくる。定時を過ぎても次から次へと新しい業務が舞い込んできた。

気づけば2時間の残業をしていた。せめて残業代が出てくれればと思うのだが、もちろんサビ残である。意気揚々と帰るはずのわたしの帰路は、暗く足取りの重いものになってしまった。

家に帰るとポストにそれは投函されていた。あまりゲームをやる元気は残っていなかったが、ひとまずパッケージだけでも見ようと包装を破ると、中から懐かしい主人公のイラストが顔を出した。

シュリンクを取り、パッケージを開いて中の匂いを嗅いだ。まぎれもなく新品のゲームの匂いだった。

気づけばPS4の電源を入れ、ディスクを挿入していた。10年前、まだ希望に満ちていた頃のことを思い出した。あの頃は翌日のことなんて気にせずに徹夜でゲームをしていた。

大人になった私はそんな無茶はしなくなった。でも、ゲームの到着を楽しみにし、そしてゲームをプレイする喜びは今でも変わらない。

人生には大きな幸せはいらない。でも、こういうちっぽけな幸せは必要なんだと思う。豆粒のような幸せをたくさんかき集めて、それで大きな「幸せ」という文字を書いてやろう。

ということで、仕事で疲れているなんて言い訳は万年詰まり気味の洗面台に流し、ちっぽけな幸せを享受するとしよう。

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