「湧き水」に出会うため、静岡県清水町・柿田川公園へ
私はTwitterが好きで、ほぼ毎日、生活習慣の一部として眺めている。そんななか、タイムラインによく、きれいな湧き水の動画や写真が流れてくるのが気になっていた。
ポコポコと吹き出していたり、キラキラと輝いていたりする湧き水たち。いつか見に行きたいけれど、一人で行くのもつまらない。
「湧き水を見に行こうよ」
そんな子どもみたいな誘いをしてみてもいいだろうか。ちょっと迷いながら、友人に連絡をしてみた。
「えっ、いいの!?」
思わずそんな声が出そうなくらい、あっさりと決まったものだから、拍子抜けしてしまう。
友人を遊びに誘うことが極端に苦手だから、いつも誰かに誘われることを待ってしまっていた。こんなことなら、もっとはやく誘ってみればよかったかな。
さて、湧き水を見に行くことが決まり、次はどこに行くか旗を立てなければ。私は今まで気になっていた「湧き水リスト」の中から、一番気になっていた「柿田川公園」にある「柿田川湧水群」を指定する。
ここは、富士山から雪解けした水が湧き出る、美しい風景が見られるらしい。
ゴールデンウィークも終わり、浮足立った世の中がちょっと落ち着いてきたころに、私たちはレンタカーに乗り込んで、湧き水へと向かった。
「湧き水を見に行こうよ」から始まるお出かけなんて、新たな物語が始まりそうだ。なんだかワクワクしてくる。
***
当日。東京から車で2時間かけて、柿田川公園にたどり着いた。目の前に広がる公園は、思ったより広くてびっくり。
想像では、小さな公園に水だけ湧いているのかと思っていたが、実際には草木が生い茂る森林が広がっていた。
子ども時代よりも、大人になってからのほうが、こういう自然に心躍るようになった気がする。
日常的に自然に触れられないからか、ずっと昔に失ってしまった本能が、その姿を前にすると揺れ動くのだ。
公園にはきれいなバラの花が咲いていたり、
グッと近づいてみても、素知らぬ顔をしている呑気な猫がいたり、
新緑をたたえた木々が枝を揺らしていたり。穏やかで、ゆたかな時間が流れていた。
立て看板に書かれた順路の通りに進んでいくと、ずっと見てみたかった湧き水を発見…!
コンクリートでできた井戸のような円柱形の囲いのなかから、ぽこぽこと湧き出ている湧き水。想像以上に澄んでいて、そして宝石のように透き通って輝いていた。
日の光が水中に透けて、水面が揺れるたびに、その表情を変える。その様相があんまりきれいで、目を奪われてしまって、もう何時間でも眺めていられそうだ。
2mくらいは水深があるだろうか。湧き水の周りを、小さな魚が泳いでいた。飛び込んでみたら、きっと気持ちがいいだろう。
初夏の暑さに、薄く滲む汗を拭いながら、この美しい湧き水のなかで泳ぐところを想像してみる。ちょっとだけ体温が下がる気がした。
柿田川公園には、いろいろな場所で水が湧き出ているようで、歩いていると、複数の方向から水の流れる音が聞こえてきた。
そんな水音に耳を傾けていると、頭の中でこんがらがった思考や、モヤモヤとしたわだかまりが、ちょっとずつ澄んでいく。
そういえば、昔から水のある場所が好きだった。子どものころだって、しょっちゅう近所の川や池に訪れて、水遊びをしたり、ザリガニ釣りをしていたというのに、すっかり忘れていた。
未来のことばかり考えて忙しなく生きていると、自分が何を好きだったかということすら、忘れてしまう。それって、恐ろしいことじゃないか?
さらに公園の奥に進んでいくと、大きな川が見えてきた。
まるで、モネの絵画「睡蓮」をそのまま現実世界に取り出したかのような、美しい風景に息を呑んだ。
なんだこれ。美しすぎて、なんだか笑えてきてしまう。私が見ている世界が、こんなにきれいでいいのだろうか。
透明度の高い川の中には、青々とした水草が、川の流れのリズムに合わせて踊っている。
対岸には、今は使われていないのであろう荒廃した木造の建物が佇んでおり、その手前には誰も乗っていないボートが、川岸に繋がれていた。
午後4時。西に傾いた太陽から、強い光が川に差し込んで、水面は太陽から贈られた祝福に応じるかのように輝く。輝きに共鳴した風が、木々を揺らす。
一緒に訪れていた友人も、その美しさに驚いていて、思わず顔を見合わせた。
「やばいね」「きれいだね」
美しさに圧倒されて、語彙力を完全に失い、そんなバカみたいな単語しか並べられないのがおかしくて、さらに笑いがこみ上げてきて、二人して大笑いしていた。
「湧き水を見に行こうよ」
普段なら言えないような、子どもみたいな誘い文句を投げかけてみて、本当に良かったと改めて思った。
歳を重ねるにつれ、友人を気軽に遊びに誘うのが難しくなっていた。難しいことだと思いこんでいた。
気を遣っているうちに、やりたいことが山積みになっていくのを、「仕方がない」と諦めながら横目で眺めていたけれど、もっと肩の力を抜いてみてもいいのかもしれない。
もうすぐ夏本番。暑いのは苦手だけれど、きっといい出会いもある。ちょっとだけ希望を携えて、次の誘い文句を考えてみよう。
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