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①【佐野由於 先生】宝生流能楽師をもっと身近に。

最近では動画サイトで能楽関連の配信を多く見かけるようになりました。しかし、公演の動画だけでは伝わりきらない能楽師の魅力がたくさんあります。これから初めて能楽を観る方、ずっと能楽を愛し応援し続けてくださっているお客様、すべての方を対象に、宝生流能楽師をより知っていただく機会をつくれないだろうかと考えました。

そこで、毎月2名の能楽師にインタビューし、各々の個性を最大限に活かした紹介をしていきたいと思います。

佐野由於先生1

宝生流の盛んな金沢の地で生まれ育った佐野由於先生。今月2月14日(日)、月浪能「東北」にご出演されます。東京での公演だけでなく、金沢での催しにも主体的に携わっておられる佐野先生に、金沢での能のこと、コロナ禍での地方公演やお稽古について伺いました。


――金沢での公演の思い出はおありですか。
今から55~6年前、「望月」という能を宝生英雄先生がなさったときに子方の役をいただきました。笛は藤田大五郎先生がお勤めになっており、私は当時、このような立派な先生方と一緒に舞台に立つというのは初めてだったので、緊張感があったのを覚えています。子どもながらに「いつもと違うな」と思ったんですよね。英雄先生の肩に手をかけて、「父に会ひたるここちして」という文句を言うところが手に汗にぎりました。藤田先生の笛は自然と体が動いたんです。笛に合わせるというより、うまく誘導してくださっている感覚でした。子どもながらにすごく記憶があって。

それから半年くらい経ったころ、父親から「お前、東京へ行かないか」と言われました。その表情が「これ、断れないな」という感じだったんですよね(笑) 私の前にも高校を卒業してから東京に出た金沢の人間はいました。中学から行くというのはあまりないのかな?とも思ったんですけども、「行く」と言いました。後から思うと、あの「望月」の舞台が自分の人生を変えたのかなという気がしています。

それからも毎年金沢で勤めていまして、いろいろな思い出がありますけども、子方として舞台に立った記憶がインパクトとして大きいです。あの緊張感、独特の空気は今でも体に残っている感じですね。


――コロナ禍での金沢の公演やお稽古はどうでしたか。
金沢も最初はクラスターが出て感染が広まって、首都圏外ではちょっと多い方だったんですよね。石川県立能楽堂は県の所有物なので、2月の半ばくらいから県の担当の方と、今後の公演についてなど、毎日3時間くらい相談しました。

実際は2月の最後の土曜日の公演から全部中止することになりまして。4月の第一日曜日に家元に無観客の能をやっていただいて、それを配信したりしました。

金沢能楽会無観客公演 半能「船弁慶」(ダイジェスト版)

ちゃんとお客様に入っていただいて再開できたのは6月の末くらいからでしたね。緊急事態宣言が終わってから、能楽堂でのお稽古としての使用は換気などの感染対策に十分注意すれば大丈夫ですということになって。どうしてもしなければいけないお稽古に関しては私の家だったり、いろいろな所で個別でやるという感じでしたね。もちろん自粛はされてましたけど、最低限のお稽古はしていました。

運動選手と同じで、声を出したり動いたりしていないと、舞台に出て良いですよと言われても、なかなかすぐにできないですからね。東京の宝生会も金沢の県立の能楽堂も対策としてはそんなに変わらなかったと思います。
まずはできるだけ安心して観ていただけるような体制を整えていくことが大事ですね。


――2月の月浪能「東北」の見どころを教えてください。
特にここが見所ということはなくて。ほとんど動きの変化もないですし、シンプルな曲ですので、基本的な所が大変重要視されるものなんですよね。動きが少ないのでちょっとした動作でも非常に大事になってくるというか。非常に難しい曲ではあります。

今までずっと先輩から教えていただいたことを忠実に勤めないとね。「自分が教えているんじゃなくて宝生流が教えているんだから」というふうに皆様おっしゃってくださって。ちゃんと我々も若い人に伝えていかなきゃいけない、という所もあります。

宝生流は動きが凝縮というか、動きをできるだけ控えて、という流儀ですから。そういう点でこの曲は宝生流らしいものかもしれませんね。


――「東北」をご覧になるお客様に向けてメッセージをお願いします。
梅もちらほら咲き始めました。お客様には一番を通して春の足音を感じていただければと思います。

佐野由於先生2

日時:2月3日(水)、インタビュー場所:楽屋、撮影場所:稽古舞台、2月月浪能「東北」に向けて


二月月浪能

二月月浪能番組

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※防疫のため、当日券の販売はございませんのでご注意ください。


佐野由於 Yoshio Sano シテ方宝生流能楽師1954年金沢生まれ。佐野正治(シテ方宝生流)の芸嗣子。1960年入門。17代宗家宝生重英、18代宗家宝生英雄に師事。初舞台「鞍馬天狗」花見(1958年)。初シテ「殺生石」(1974年)。「石橋」(1983年)、「道成寺」(1985年)、「乱」(1990年)、「翁」(2000年)を披演。蔦由会主宰。

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