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「私の死体を探してください。」   第14話

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白い鳥籠の五羽の鳥たち【1】

 西日がまぶしい教室はオレンジ色に包まれていた。その隅の方で藤田友梨香は福原奏の二つ折りのケータイに修正液で丁寧に絵を描いていた。
 友梨香の将来の夢はネイリストだった。厳格な両親にそう言うと反対されるのが目に見えていた。幼稚園の頃にアイドルになりたいと言って、猛反対されたのが友梨香のトラウマになっている。
 
 そして、それは彼女の両親を象徴する出来事だった。彼女は両親に美大に行きたいと言っているがその話は完全に無視されている。お絵描きが好きなら、趣味でいくらでも描けばいいというのが、両親の言い分だった。

「できた! どうかな?」

 奏は友梨香から差し出された自分のケータイをしげしげと見つめた。

「すごくいいと思う! ねえ、絵美、そう思うよね?」

 友梨香に話を振られて、佐々木絵美はにっこり微笑んだ。

「下書きの時より全然いいよね」

「そう?」

「うん。ほら、次は私のに描いてよ」

「オッケー」

「ええ! 私のを先にしてよ! 私もう部活に戻らないと」

 陸上部の練習の合間に教室に戻ってきた山本由樹は頬を膨らませた。

「由樹は部活が終わってから、とりにくればいいんじゃない?」

 友梨香が絵を描いているのを一番遠巻きに眺めていた森林麻美がそう言うと由樹は頷いた。

「それもそうか。友梨香! とにかく私のも!」

 福原奏、藤田友梨香、佐々木絵美、山本由樹、そして森林麻美は仲のいい友人だった。

 友人という言葉では軽いのかもしれない。親友といっても良かっただろう。
 五人のケータイに描かれていた白い鳥籠はこうして、藤田友梨香の手によって描かれた。友だち五人で同じキャラクターのチャームを持つ時特有の嬉しいような誇らしいような気持ちで五人はケータイを眺めた。友梨香は恐らく想像もしなかっただろう。自分が描いた白い鳥籠から後に起きた出来事が「白い鳥籠事件」と世間に騒がれるようになることを。

 事件が起きたのは平成十九年七月三十日。姫上女学園高校は夏休みがはじまったばかりだった。  


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