現役TVディレクターによる『もっと面白くなる!ロケVTRの教科書③企画発想編』
『もっと面白くなる!ロケVTRの教科書』撮影編と構成編を書いたところ、少なからず反響がありました。(まだの方は、そちらも是非です。)
これらはあくまで基礎編でした。
構成編は特に「型」のようなものです。
この型通りにVTRを手掛ければ、とりあえず合格点のものが作れます。なにしろ中身は、数多の先輩テレビマンが築き上げてきた演出論のいいとこ取りです。間違いありません。
ですが「構成編」の最後で少し触れましたが、世の中に出回る動画には色々な形式があります。
理屈抜きに面白い!というものだって、ゴマンとあるわけです。
ですので、これより「型破り」の段階へと進みたいと思います。型を覚えてこその、型破りです。
さて、突然ですが一番大事なことを言います。
構成なんてめちゃくちゃでも、とにかく見たことのないモノが次々映し出されて、出てくる人たちの喜怒哀楽が激しくて、見ている側の感情を揺さぶってくる異様なテンションを持った映像だったら、人は見ます。
面白い・面白くないではありません。
視聴体験として「強い」のです。
『笑っていいとも!グランドフィナーレ』。
タモリ・さんま・ダウンタウン・ウッチャンナンチャンがいる所に、「長ぇよ」と言って殴り込むとんねるず。そこに爆笑問題。さらにナインティナイン。
何の予定調和もありません。ただただ、今まで絶対にありえなかった人たちによる、混ぜるな危険の夢の共演でした。
見ている時の異様な高揚感。今この瞬間を目に焼き付けなければと胸が高鳴りました。冷静になって思い返せば、面白かったのかどうかよく分かりません。むしろ「事件」の目撃者になった感覚です。画面から放たれる磁力はあまりにも強いものでした。
2012年公開、ジョシュア・オッペンハイマー監督のドキュメンタリー映画『アクト・オブ・キリング』を見た時も似た気持ちになりました。
1965年にインドネシアで軍事クーデターが起き、国内で共産党狩りが行われ、罪のない人が多数虐殺されました。監督は最初、その被害者側を取材しようとしましたが、どうにも口を開こうとしない。そこで逆に、虐殺に関わった者たちを取材することにしました。すると彼らは自分たちのことを英雄だと思っているので、当時の殺害行為をカメラの前で演じませんか?とけしかけて再現ドラマを演じさせたのです。異色のドキュメンタリーで、本当に衝撃的でした。
画面に映る全てが、圧倒的な強度で迫ってきたのです。
一方でこの映画、「構成」という点からは物足りなさを感じました。同じ素材をもっと情報を整理して編集したらわかりやすくなるのに…なんて思ったものですが、余計なお世話ですね。
撮れている素材が強ければ、それを並べただけでも人は見たいし、見世物になるのです。興行として成立するのです。
先ほど書いたこと、もう一度言います。
構成なんてめちゃくちゃでも、とにかく見たことのないモノが次々映し出されて、出てくる人たちの喜怒哀楽が激しくて、見ている側の感情を揺さぶってくる異様なテンションを持った映像だったら、人は見るのです!
オッケー、了解。そういうものを作ればいいんですね。わかりました。
で、作れてしまう人はこの続きをお読みいただく必要ありません。きっと凄い取材対象やネタをお持ちなのでしょう。それを撮れば世に出られると思います。
ですが、普通に生きている一般人の我々は、なかなかそういう題材に出会いません。
凄い場面に出くわして、それを撮影したいと思ったりしますが、そんな場面なんて滅多にないのです。
では、ここで少し「題材」について考えてみたいと思います。
「映像で何かを伝える」行為は、大雑把な因数分解をすれば「題材」と「見せ方」に分けて考えることができます。
「題材」とは、人、モノ、現象、物語。これは番組やコンテンツのタイトル、見出しの文言になったりする部分です。
「見せ方」とは、構成、演出。様々な仕掛けや、パッケージ感、デザイン、煽り方、盛り上げ方などを指します。
テレビメディアは常に、人々が食いつきそうな「題材」を探し続けてきました。
例えば、ダイオウイカ。
2013年のNHKスペシャル『世界初撮影!深海の超巨大イカ』は強烈なインパクトがありました。水深200mよりさらに深く潜っていった海の秘境「トワイライトゾーン」。そこに棲む未知の生物、ダイオウイカが生きて泳ぐ姿を世界で初めてカメラで捉えたのです。
例えば、ヤノマミ。
2009年放送、こちらもNHKスペシャル。奥アマゾンの密林に住む最後の石器人、ヤノマミ族。子を産んだ母は、その子を人間として迎え入れるか精霊にするか、選択を迫られます。番組では自分が産んだ子をバナナの葉にくるみ、シロアリの巣に入れて燃やす「嬰児殺し」のシーンが映し出されました。
私に近い例を挙げるなら、トランスジャパンアルプスレース。
日本海 富山湾から太平洋 駿河湾まで、北・中央・南アルプスの山々を含む全長415kmの道のりを、8日間以内に自らの足だけで駆け抜ける超人レース。これは2年に1度行われる知る人ぞ知る草レースだったのですが、2012年にNHKスペシャルで初めて紹介され大反響を呼びました。(ちなみに私は2018年大会の総合演出を務めておりBlu-ray発売中です。面白いですよ。)
これらに、凝った構成や演出はありません。むしろ不要と言ってもいいでしょう。
題材そのものが強ければ強いほど、細かい理屈を超えていきます。
だってそこには、誰も見たことのない世界が広がっているのですから。
しかし、そう簡単に「誰も見たことない題材」は転がっていません。
さらに言えば、「誰も見たことない題材」は、見たことがない度合いが強ければ強いほど、企画として成立しにくいとも言えます。
先ほど「例えば〜」で挙げた番組が、意図せず全部NHKスペシャルになりました。「誰も見たことない題材」の撮影には長い年月がかかったり、時には危険を伴うこともあります。これは、民放ではなかなか実現しにくいのです。
ゆえに…、私たちは、「誰も見たことのない題材を探す努力」を続けつつも、次のことを演出として考えるべきだと思うのです。
すなわち、
「ありがちな題材」を「見せ方の工夫」で斬新なものにできないだろうか?
題材そのものがよくあるものであっても、切り口や見せ方の工夫で今までにないものにできるはずなのです。編集に、構成に、デザインに、新しい表現方法を投入します。これからそれを一緒に考えていきましょう。
そもそもテレビにおいて「題材」は使い回されることが殆ど。
テレビ番組で取り上げる題材は、こすられたおしています。
「ガリガリ君の工場」を、「セブンイレブンの1号店」を、「錫で出来た能作の器」を、「でんじろう先生のビリビリ実験」を、「富士急ハイランドのFUJIYAMA」を、各局の様々な番組で何度見たことでしょう!
ちょっと有名な飲食店には、ロケで訪れた有名人の写真やサインが大量に貼られています。
旬のタレントや文化人も、人気番組に一通り出演して毎度同じ自己紹介の持ちネタを披露します。これをよく「一周する」なんて言います。
「あの番組で話題だったあれをうちでもやろう」と考えるテレビマンはとても多いのです。
題材はこすられ倒します。
かぶりたくなくても、扱う題材や出演するタレントはかぶってくる。
だからこそ、「見せ方」で差別化を図っていかなければなりません。そこに、新しい発想を持ち込んで。
では参りましょう、
「ロケVTRの教科書」企画発想編!
諸先輩方が作ってきた斬新な番組を例に出しながら、成功例を分析しつつ、抽象化して学べる部分を考えていきたいと思います。
これを書いている最中、私自身が総合演出をつとめた番組で「ある新しい着想」を得られることができたので、それなりに有意義なのではと思いつつあります。それについても後述いたします。
ではまず、VTRづくりの初期設定を疑うところから始めましょう。
では、第1章に入ります。
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