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冬の星々(140字小説コンテスト第4期)応募作 part1

季節ごとの課題の文字を使ったコンテストです(春・夏・秋・冬の年4回開催)。

冬の文字 「広」
選考 ほしおさなえ(小説家)・星々事務局

1月31日(水)までご応募受付中です!
(応募方法や賞品、過去の受賞作などは以下のリンクをご覧ください)

受賞作の速報はnoteやTwitterでお伝えするほか、星々マガジンをフォローしていただくと更新のお知らせが通知されます。

優秀作(入選〜予選通過の全作品)は雑誌「星々」(年2回発行)に掲載されます。
また、年間グランプリ受賞者は「星々の新人」としてデビューし、以降、雑誌「星々」に作品が掲載されます。

雑誌「星々」既刊ご購入▼


応募作(1月1日〜7日)

投稿日時が新しいものから表示されます。

1月7日

雪菜冷 @setsuna_rei_
空から伸びる枝に海月が咲いた。ふっくらとした桜色の蕾が開きりぼんのような足がこんにちは。ひらり、青の中を泳ぐ。夜に咲けば星の輝きを含んだ傘が淡光を放ち絶景。恋人達は開花予報に敏感だ。晴天が広がる中白雲代わりに浮かぶ海月を見て、今なら空に消えれると失声した人魚姫はビルの屋上に立つ。

泉野帳 @watage_0804
激務を終えてかっ食らうメシが好きだ。特に塩がきいた焼き鮭がいい。
「鮭は広塩性があって、塩分濃度の変化に耐えて川と海を行き来してるんだよ。頑張ってるよね」
もう別れた恋人が、なんにでも意味を見出して感心していたっけな。
しょっぱくて美味しい。
これで俺は明日も頑張れる。

泉野帳 @watage_0804
私の彼氏は物知りで、ちょくちょくためになる蘊蓄を教えてくれる。頭のいい言い方で言えば「広学」というらしい。
ある日ウィキペディアを見ていたら、過去に聞いた彼氏の蘊蓄がそのまま一字一句違わずに書いてあった。
「頭よく見られたくて」と彼氏はバツが悪そうに言った。

泉野帳 @watage_0804
一人の若者が広場でマジックをしていた。
シルクハットからは鳩が飛び立ち、口から万国旗を吐き出す。広場にいた人々は拍手を送った。
最後に若者は大きな大きな白い布を人々に被せると、人々は消えて色とりどりの花畑が現れた。
花畑に一礼して、若者は次の町へと旅立った。

イマムラ・コー @imamura_ko
「パパ、オリンピックのお仕事もしたんでしょ?」娘には大手の広告代理店で働いていると嘘をついている。情けない父親だと思う。そんなある日娘が新聞の折込チラシを集めていた。「知ってるよ。パパほんとはこういうの作ってるんでしょ。パパのお仕事全部集めてるんだ」娘の笑顔に涙がとまらなかった。

瓦夜 @KawaraYoru
「お金が無くても広い部屋には住めるって事に気が付いたんだ。そう、部屋に物が無ければいい。さあ皆、何でも持って帰りたい物を一つ、せーので指をさしてくれ」かつて友人全員を部屋に呼んでそう言った彼も、今ではとても狭い部屋にいる。花で埋め尽くされたその部屋で眠る彼を、私は密かに指さした。

 @writer_akane
母娘で住む1DKのチャイムが鳴り、慣れないスーツ姿の彼氏を振袖姿の娘が迎える。
「じゃあ行ってくるね」
晴れ着の2人を見送りに、腰掛けていたダイニングチェアから玄関まで5歩。手を振って送り出し、7歩でガスコンロ前へ。
部屋が少し広いから、一客だけのカップを出して紅茶をいれた。

けんたろ @kentaro135512
「来てよかった」
久し振りにふたりの一泊旅行。
お互い忙しく休日を合わせるのも一苦労。
子どもたちも成人し家庭の心配はしていない。
美しい景色を堪能し、ディナーに舌鼓を打ち、
部屋に設えられた温泉で、
私たちは広げた手を重ね合わせる。
互いに持つ「戸籍上の」伴侶のことは
いまは忘れよう。

野田莉帆 @nodariho
食パンを厚めに切る。表面に切り込みを入れた。予熱したオーブントースターで焼く。常温に戻したバターを練りながら待つ。こんがり焼けたトーストに、バターを塗り広げていく。じゅわっと溶けたバターが生地に染み込んで、キラキラ光る。そうして、小さな幸せを噛みしめる。奥歯で噛みしめて、生きる。

もちつきやさん @Ajya_mochi
たくさんたくさん泣いた夜に飲む水は、とっかりとして、体によく染み渡る。冷たい温度が喉をゆっくりゆっくりくだって、胃に横たわるときの安心感。その時ばかりは私の胃も広々と海のように思えて、たくさんたくさん水を飲む。今度泣いてもたくさん涙が出るように。悲しい時に涙が出ないのは損だから。

1月6日

迷路メィジ @Akumademeiji
「これからの時代を見る視野が狭い!」と、飲み屋で同級生からなじられる。
お前の見てる世界、それこそ限られてるだろ。俺とお前じゃ手持ちのカードが違うだろ。自分しか見えてないのに視野広いと思ってんの?

でも、俺もそう言えるか?と思った井の中の蛙は、へらへらと笑うことしか出来なかった。

迷路メィジ @Akumademeiji
同居人が出ていった部屋は広く感じる。
今までも家事は私ばかりだったから、生活はむしろ楽になったのに。何か物足りない気がして、ぬいぐるみを床に置く。「にゃーん」と私が代わりに鳴いてみた。本物の猫でも飼ったらこの気持ちは埋まるだろうか。そんな責任持てないから、今日も床に私は寝転がる。

西乃暁文(サイトからの投稿)
朝が来た。身体を起して、今日も広大な海へ向かう身支度をする。
幼い頃は波も穏やかで、きらきらと美しいものであったような気がする。
しかし今では荒波が絶えず、気を抜けば深く傷つき、遭難する恐れもある危険な場所だ。
今日も最後まで泳ぎ切らねば。私はそう思い、ネクタイをきつく締めた。

楠木氷雨 @Hisame_kusunoki
広縁から見る花火は特別なものだった。夏特有の暑さと風が私をワクワクさせ、そこに加え大きな音と色とりどりの花火。床から立ちあがり両親にはもちろん祖父母にも花火が綺麗だと指を差して言っては、そうだねぇと微笑んでもらっていた。今では孫が西瓜を片手に空を指差し、それに対して私が微笑む。

楠木氷雨 @Hisame_kusunoki
「こうして見ると地球って小さいですね」隣の方に言った。「そうなんですよ」眩しい笑顔と共に返事が返ってきた。あの地球にいた頃、嫌悪感や同調圧力などに流されて簡単に死を選んだ事をひどく後悔した。だから私はこの広い宇宙の星となった今、小さい地球で暮らす両親を明るい未来へ導く事を決めた。

楠木氷雨 @Hisame_kusunoki
素直じゃなかった彼女は、よく体温を奪う為と理由をつけ僕の左手を握っていた。今はもう握ってくれる人がいないんだと淋しく思っていると広場から一匹の猫が駆け寄ってきた。猫は何処と無く彼女に似ていたので愛おしく感じ、どうしても撫でたくなり右手を出すとその猫はわざわざ左手に擦り寄ってきた。

たつきち @TatsukichiNo3
広辞苑の彼女と呼んでいるその人は、入院病棟の図書室にいつも分厚い辞典を持参する。1時間ほどじっくりと持参した広辞苑を読んでは病室に帰って行く。こっそり彼女を追いかけて病室を確認した。だからといってその先はない。どちらかが退院するまでの疑似恋愛。それでも明日も図書室へ行くのだろう。

リツ @ritsu46390630
大衆に寄せろ、客観性を持て、と言われ続けてきた。それでも彼はそんな意見を一蹴し、自分が面白いと思うものを創り続けてきた。しかしある夜、彼の中のもう一人の彼が語りかけてきた。ねえ、もしも、この広い世界の中で、俺のことを認めているのが俺だけだったとしたら?彼は身震いして布団を被った。

綾波 宗水(サイトからの投稿)
思いのほか世界が広いことに気づかされるのが冬。雪は僕らと違って歩道かどうかなどお構いなしに積もるので、でこぼこと分類された従来の世界は真っ白にリセットされる。それまで安全だった道を、一歩一歩踏みしめて開拓する中で、滑ったり、轍を作ったりして、再び体温が伝わることを春と呼ぶらしい。

モサク @mosaku_kansui
いつ頃からか「好みのタイプは、心の広い人」と答えるようになった。友だちは不服そうだったけれど。だってうっかり言えば、翌週には髪型や服装が変わる同級生がいたからね。でもそれが功を奏して、寝坊しても肉じゃがを焦がしても、笑って許してくれる人と一緒にいます。
友だちに賀状で知らせる春。

おきつね土鍋 @okitune_donabe
広大な星の海をクジラが泳ぐ。
「ご覧、宇宙クジラだよ」
母がそう言って教えてくれたのはいつのことだったか…。随分と長い間、宇宙クジラはうちの星の近くには来てくれなかった。
夜更けに遠くから、はるか遠くからの声が聞こえた。
慌てて天を仰げば、クジラの反響定位。
ああ、いてくれたのだ。

MEGANE @MEGANE80418606
「コンコン」今日は待ちに待った森の広場の音楽祭。「ピアノが風邪なんて困ったな」とシカは角を振る。ウサギとリスとアライグマは気の毒そうにキツネを見る。「代わりを見つけないと」この日のために夜遅くまでピアノの練習をしていたのに自分の代わりがいるなんて、とキツネは涙まで止まらなかった。

1月5日

東方健太郎 @thethomas3
初日の出を見に行こう。そう言って連れ出した友人は、終始浮かない顔をしていた。つられるように、私もつまらない気分だけを満喫した。仕方なしに立ち寄ったコンビニエンスストアでは、店員の半笑いの表情に苛ついて、五百円を募金する。ただの恩返しでしかない。背広の襟が崩れて、尚、疲労は溜まる。

河口國江(サイトからの投稿)
ゴッホと一緒にドライブをしていると、新大橋に差し掛かった。
「ごらん、きみが写した絵の場所だ」
「ええ……たしか」
「歌川広重だ。好きだったのかい?」
「ええ……」
 ゴッホはあまり喋らず、外ばかり見ている。ラジオをつけると、今日はずっと晴れている、とのことだった。

河口國江(サイトからの投稿)
雪も積もれば、そこには何も無い、ただ広いだけの世界が現れる。
しかし、時々、その世界に迷い込むものがある。例えば、
今、足下にある腕などがそうで、
誰のものか分からない(おそらくは女で、切り口は整っている)。
―そういうものを持ち帰って飾るのが、わたしのささやかな趣味である。

河口國江(サイトからの投稿)
広義的に見て、地球人もまた、宇宙人と言える。宇宙人をalienと表すのであれば、地球人もまた、alien―すなわち、異邦人であると言える。よって、地球人一同は、家族でも兄弟でもなければ、乗組員や共犯者でもない。皆、異邦人なのである。それは、上記の関係下でも当てはまる。

水原月 @mizootikyuubi
ある寒い朝にストーブを点けると、奥から真っ赤な液体が滑り出てきた。
ひゃっと叫ぶと、マグマの水たまりは子猫の姿になった。赤い子猫は窓辺に飛び上がって、ひゃっと再び仰天。
それ以来、子猫はずっと外を眺めている。窓辺は常に暖かい。窓の外の世界が、前より広く見えるようになった。

しろくま @ohanasi_tubu
部屋を眺めながら1人呟く。「こんなに広かったのか...」私には妻子がいたが、先日強盗に殺された。証拠は何も無く、捜査は困難を極める。それはそうだろう。家主である私が手引きしたのだから。今後私は妻子を喪った哀れな男として生きていく。危険な役目を担ってくれた友人には感謝してもしきれない。

久保田毒虫 @dokumu44
ねえ。海王星に連れてってよ。どうせ暇でしょう? 木星や土星はもう飽きたの。冥王星は遠いし。海王星の広くて青い大地に寝転びたいの。ついでにトリトンにも寄りましょうよ。え? 地球? 嫌よあんな星。戦争ばっかりしてるもの。仲間で殺し合うなんて馬鹿みたい。私たち金星人を見習ってほしいわ。

南鏡花 @kyouka_minami
歯と歯の間は、広大な宇宙そのものだ。歯に何かが挟まったと言う患者の内、半分近くの歯間には月や星が挟まっている。昨日来た女の子の奥歯には満月が挟まっていた。フロスで取った満月を見せると、表情が明るくなった。今後はよく磨いてねと言ったが、満月に見惚れていて、話を聞いていたかは怪しい。

さく @saku_sakura394
壁ギリギリまでさがりカメラを構える。ファインダー越しにキッチンやローテーブルが映る。自分の部屋ではないような綺麗な部屋の写真。それは今の私のすべて。カーテンを透かす光。窓辺の観葉植物。嘘を作り込む。でも絶対、この広角レンズを使わず撮れる本物の部屋に住む。それが私のこれからの目標。

もちつきやさん @Ajya_mochi
町はとびきり冷たく、彼女は立ちすくんでいるように見えた。呆然と、目的もわからず。だから駆け寄りたかった。迷子になっている子供に声をかけるように、それは自然で正しいことのように思えた。けれど僕の喉は張り付いたように動かない。目の前で、ぱん、と傘が広がる。突き放すような音を鳴らして。

@AoinoHanataba
俺はただ、空を眺めていた。広大な景色を見ていると、自分の悩みなんてちっぽけに感じるっていう人がいるけれど、それは希望がまだある人だ。俺は、もうない。背中に感じる、袋に詰められたゴミのクッションから立ち上がる。次は、ゴミ置き場から外れるといいな。僕は、ビルの屋上へと歩を進めた。

照山紅葉(サイトからの投稿)
広い湯船で思い切り足を伸ばすとストレス解消にもなるので、私は月に一度、近所の銭湯にいく。楽しみはそれだけではなくて、月ごとの季節湯もある。今月は『ゆず湯』なのだけれど、一人でのんびりつかっていたいのに、ゆずたちがいちいち寄ってきては、かまって欲しがるのがうるさくてしかたなかった。

藍葉詩依 @aihashii_mokyu
一面に咲いた花園から、七色のデイジーを摘んで、風船の中へと詰め込むのが私の仕事。完成した風船は光輝いて、光を好む鳥が見つければ風船を割る。私はこの風船が多くの場所で割れることを毎日願っている。人の願いと祈りから咲いたデイジー。今日届くのはどこだろうか。
広がれ、希望と平和の花。

1月4日

冨原睦菜 @kachirinfactory
冬のだだっ広い田んぼの上を容赦なく空っ風が吹き抜けていく。通学中の子供達の頬を凍てつかせて。熟れ過ぎた桃のようなお互いの頬を、手袋をはめた手でキャッキャと笑いながら温め合う風景が空っ風のお気に入りだった。ところが、最近の子供達は親の車で学校へ行く。熟れることない白い頬のまんまで。

我破レンジ @RenziWareha
この広い海が大嫌いだ。ユーモアにあふれた夫を津波でさらったから。
孤独感に苛まれるあたしに父は自分で釣り上げた鯛を贈ってくれた。捌いてみると胃袋から指輪が出てきた。内側にはあの人とあたしのイニシャル。
どうだ、めで“たい”だろう?
夫の声が聞こえた気がして、あたしは泣くほど笑った。

せらひかり @hswelt
白兎の毛並みにブラシをかける。こんなことがあったよ、と兎は楽しそうに、あるいは悲しそうに告げる。相槌を打ち、龍は兎が全身ふかふかになったことを確かめる。毛玉は春先にでも外に並べると、小鳥が集めるだろう。広い世界を駆け回った兎は、足を休めて居眠りする。間もなく龍も旅立ち、世を巡る。

原田透子 @dancingohenro
霊園の広場ですれ違ったあなたの顔を、わたしは死ぬまで忘れないだろうから、墓まで持って行ってあげよう。罪も罰も、全て引き受ける。どこまでも幸せに貪欲で、人を踏みにじってでも明るい道を歩いているふりをしてほしい。ただあなたの心にさす昏い影が、どうかわたしの形をしていますようにと祈る。

リツ @ritsu46390630
近所を散歩しながら何度も深呼吸をする。膨らめ、膨らめ。今よりずっと広い心を持とう。どこかで泣いてる他人のこととか、共感できない価値観だったり、生きるためには必要のない娯楽とか。そういうことに思いを馳せたりできるような余白を作ろう。風が優しく、自分本位に暮らしてきた僕の頬を撫でた。

青塚 薫 @ShunTodoroki
白うさぎのタムと、子アヒルのルーシーは、いつも一緒です。どこに行くにも、タムのすぐ後ろをルーシーは歩きます。
「ねぇルーシー、なんだってきみは僕の後ろを歩くんだい?」
「タムの後ろが好きだからさ」
「僕の後ろに何があるって言うんだい?」
「広くて真っ白な、タムの背中があるんだよ」

ともろ @gotogohan555
屋上へ行くと高木さんがいた。柵の外側を建物の淵に沿って歩いていた。なんだか少し嬉しそうに見えた。
何が起きているんだろう、とぼうっとしばらく彼女を見つめた。
私に気がついた高木さんは、哀しそうな笑みを浮かべた。そして柵の外側を向き、両腕をまるで翼であるかのように大きく広げた。

さく @saku_sakura394
広い世界に行きたいと思った。見渡す限りの田畑。空へ続くような退屈な長い一本道。すれ違うのは老人と動物。こんな町から離れたいと思った。でも見上げれば無数の星が瞬いている。手は届かないけれど。そして世界にも手の届かぬ星は溢れていた。だから僕はこの町で、皆の手に届く星になろうと決めた。

ともろ @gotogohan555
押し花ができていた。父の本棚から引っ張り出した広辞苑の間に。あの時あの子に渡せなかった、丸い雪のような花の。
あの子は無邪気に笑いながらその花の王冠をくれたのに、私は一輪ですら恥ずかしくて渡せなかった。
彼女はいま幸せだろうか。まぶたの裏であたりいっぱいの真っ白な花畑を思い描く。

藤和 @towa49666
広げた風呂敷を畳めない。俺はいつもこうだ。思いつきで小説を書きはじめて、あれもこれもと要素を足していって大風呂敷を広げて、結局畳むことも完結させることもできないままに飽きて書くのをやめる。でも、これでも読者は着いてるしいいかな。そう思いながら鏡を見ると、たくさんの影が背後にいた。

久保田毒虫 @dokumu44
正月。ひとりぼっち。特にすることがなく、部屋でごろごろしている。テレビをつける。年始から暗いニュースばかりだ。なんだか急に寂しくなった。君がいなくなって、この部屋は一層広くなった。寂しいのは僕だけじゃない。誰しも心では泣いているんだきっと。庭のヒヤシンスが咲こうとしていた。

照山紅葉(サイトからの投稿)
私は新聞で週刊誌の広告を見るのが好き。それだけでもう記事の内容がわかって、読んだ気になってくるから、わざわざ買う必要もない。「アンタいい仕事してる、助かるわ」と親指を立ててほめているけれど、「何言ってんだよ。そんなことで満足せずに、ちゃんと本買え」と『見出し』はいつも焦っている。

野田莉帆 @nodariho
底が広いフライパンを火にかけた。生地を流し込み、蓋をする。焼き色がついたら優しく返す。立ち込める甘い香り。孫娘が寄ってきた。ふわふわのパンケーキをのせたお皿に、目を輝かせる。幸せそうな笑顔をずっと見ていたかった。空っぽの部屋に、空っぽのお皿が残る。底が広いフライパンを火にかけた。

我破レンジ @RenziWareha
人は海を愛する。この広大な海を眺めるとそれを実感する。
「お父さん、生きてる間にテラフォーミングが終わってよかったね」
「あぁ。開拓の為とはいえ、遠い所に来たからね」
車椅子を押す娘とともに眺める、赤茶けた火星の地平線と、地球を思い出す水平線は、宇宙で最も美しいコントラストだろう。

照山紅葉(サイトからの投稿)
私は大きな広葉樹の下にいました。木洩れ日が射す中で、ドングリを拾っていたのです。その時、風が吹いて木陰が揺れました。ふと上げてみましたが、どの葉も動いていないのに気がつきました。「あら?不思議なこともあるものねえ」と首をかしげましたが、そんなことはすぐに忘れてまた拾い始めました。

おおとのごもり猫之介 @ponkotsu_mt
未明から降り出した雪のせいで休工にした。
現場監督は孤独だ。底冷えのする仮設事務所から窓の外を恨めしく眺める。雪は工期などお構いなしに、苦労した掘り穴の凸凹を白く広く初期化してしまった。
オレは居た堪れず外に飛び出し、不安な気持ちを払拭する為ひたすら雪だるまを量産した。心が晴れた。

おおとのごもり猫之介 @ponkotsu_mt
長く勤めた職場を去る。
見回せば気の合う連中はとうに辞めていた。もう潮時だった。
抽斗の中から書けないペンや糊の効かないばらけた付箋紙や乾いて固まった朱肉。それら私の分身達を始末し、書類の山が全て片付くと、机面は虚しく広い。最後に耳を揃えて置いた自分の名刺束から、一枚だけ頂戴する。

おおとのごもり猫之介 @ponkotsu_mt
今日オマエが来ると知って、私は駅前広場でひとり待っている。此処は光に満ちて明るいが、他に誰も居らず動く影もないから広さばかり際立った。
黙って先に来てしまったこと、謝らなければ。随分と待たせてしまったが私とて忘れた日はない。
「ハチ」
呼ぶと、犬は疑いもせずに尾を振って駆けて来る。

葉名月乃夜(サイトからの投稿)
真夜中、眠れない私はいつもの如く公園にいた。広大な原っぱに、私と、もう一人。隣にいる男子は、クラスメートの汐田。ここで話すのはもう随分と前から日課になった。今日までは。「汐田」「ん?」「月が綺麗だね」空に月なんて浮かんでいない。でも、汐田は笑った。「そんなの、ずっと前からだろ?」

高遠みかみ(サイトからの投稿)
彼女が広島に引っ越してから、僕は広島を支配する方法ばかり考えている。県民は毎日お好み焼きともみじ饅頭を食べているから、あれらを人質に取れば広島を強奪できるはずだ。でもその前に、まずは向こうへ行かなくちゃ。僕は手づくりの翼を腕につけ、すべり台の上から高く飛んだ。いざ、広島空港へ!

1月3日

高遠みかみ(サイトからの投稿)
なにも描かれていない真っ白な広告板がある。これを見つめていると、そのユーザーに適した企業広告が浮かび上がる。日本では英弘20年に広く普及。開発者は「視覚インプラントの応用」でその年のノーベル化学賞に選ばれた。
その後、技術を悪用した犯罪組織の洗脳映像により、5つの国が滅びた。

高遠みかみ(サイトからの投稿)
紀元前中国王朝の知られざる皇帝、姫広。唯一の詳しい資料は「髪洗い係」と呼ばれる女の手記で、若き君主の発言が逐一書かれている。女の私的な言及も夥しい。髪の匂い、肌の柔らかさ、目を閉じた顔の美しさが、比喩を交え列挙されている。
王の転落死の描写から先、文章は途絶えている。

農薬(サイトからの投稿)
「せっかく広い家を買ったのに、どうしてそんなにくっついてくるの」
「僕は心が狭いから君から離れると不安になってしまうんだよ」
そんな会話ははるか昔の夢で、部屋に残ったのは埃を被ったペアマグカップと私のものよりも少し大きな指輪だけだ。もう一度不安になって戻ってきてくれたらいいのに。

藤和 @towa49666
心が広くてやさしい人だとよく言われる。たしかに、人の愚痴を聞いたり悩みを聞いたり、相談に乗ったりすることも多い。困っている人がいれば助けることもまあまあある。でも、それはほんとうに心が広くてやさしい人なのかな?少なくとも私はそう思わない。ただ単に、他人に興味がないだけだよ。心底。

はぼちゆり @habochiyuri0202
ようやく掴んだ成功で、豪邸を建てた。家族念願の個室はどれも、前に住んでいた家の居間よりも広く、そこに運ばれてくる料理も誰にも邪魔されず食べられる。書斎での仕事も捗る。ますますの繁栄に家族の笑顔が頭に浮かんだ。狭苦しい部屋で小さな炬燵に身を寄せ夕飯を食べる、あの頃の、家族の笑顔が。

透依よみ @toui_yomi
世界は広いよなぁなんて、僕は漠然に思っていた。ハワイにしか行ったことがないし、地理なんて覚えるのが多すぎて嫌になるから。でも僕もいつの間にか大人になり、君と出会い色んな場所に行って、楽しいことも苦しいこともたくさん経験した。その結果僕はやっとわかったんだ、世界はとても広いことを。

三日月月洞 @7c7iBljTGclo9NE
建物の中には無数の無が詰まっていた。私は思わず唸声を漏らし、息を呑むと、室内を埋め尽くす静寂の渦に心地良く浸った。「ム……」無が詰まっているからこそ広いのだ。その証拠に人が訪れ室内が騒がしくなった途端に狭くなってしまった。おお、元の広さに戻さねば。私は、終末のラッパを手に取った。

リツ @ritsu46390630
華やかな広い舞台で彼は輝く。細い綱の上をすたすた渡る。自信と謙虚のバランスが素晴らしいひと。紅白の玉に乗って右へ左へ素早く動く。冗談と本音のバランスが美しいひと。バーにぶら下がり、大きく揺れて、手を取り合う。私は逆さまになって彼を見つめる。ふたりで作った空気の中を、刹那、泳ぐの。

せらひかり @hswelt
新しい夢を抱いて兎は漂います。龍は青空高く飛んでしまったので、その夢がどこまで行ったか、兎には見えませんでした。向こうの方で鶏が呼んでいます。犬や猿、虎が宴会をする声も。よがあけた。次の日に向かって、行かなくては。浮き輪のように夢を掴んで、兎はもうしばらく広い世を漂っていました。

南鏡花 @kyouka_minami
やけに幅広の帯には、湖が描かれている。綺麗でしょと彼女。確かに綺麗だ。水面の上に小舟が一艘。中には彼女によく似た女性が一人。ふと、女性がこちらを向いて手を差し出す。思わず手を取れば、身体が揺れた。尻餅をつけば小舟の中で。目の前には彼女。これでずっと一緒。浮気相手はエヘッと笑った。

砂糖イート @neeeeeet0214
二階のリビングで淹れた熱いお茶を、三階の自室へと持ち込む。北海道の冬。部屋には簡易的な電気ストーブしか無かった。階下からは依然として、両親と親戚の笑い声が届く。気まずさから逃げ、たどり着いた空間がいつもより広く感じる。暖かさからほど遠い場所で、お茶は十分と保たず温くなった。

砂糖イート @neeeeeet0214
足裏がざらつく。洗面台の下。スリッパを履かず、素足で歩いて思い出した。あなたが手を滑らせ、派手に塩をこぼしたことを。何度も掃除したはずなのに、まさかこんな所にまで広範囲に散らばっていたなんて。そんな意図しない置き土産が、あなたの存在を際立たせる。私の元へ戻ってほしい。どうかまた。

1月2日

一ノ瀬(サイトからの投稿)
一月一日、僕はキャンプに来ていた。薪を集めて焚火をし、熱いココアを持って空を見上げる。街中にいては見れないような綺麗な星々が輝いているのが見えた。「なぁ冬の空ってめっちゃ広いよな」僕はココアを一口飲んで友人に言った。「そうだな、僕らがちっぽけな存在に見えるほど空はめっちゃ広いな」

紺乃未色 @kon_miiro140
巨大迷路が延々と広がる娯楽施設にやってきた。「クリアできたら結婚してくれ」「うん!」
ところが日が暮れてもゴールは見えてこない。足が痛くて歩みが遅くなる。彼は私の様子を察すると、すぐ係員に降参の合図を送った。
「ごめん、君に無理させて」
私はYesの意味を込め、彼の手をぎゅっと握った。

紺乃未色 @kon_miiro140
せめて夏の転勤ならよかったのに。旅立つ彼のセダンは青空にきっと映える。寒空の広がるXmasだなんて人生史上最悪に憂鬱だ。
彼は「泣かないで」と言って薬指に触れた。
私は驚いて左手を宙に掲げる。
「結婚しよ」
雪化粧した駅を背景に指輪がキラリと輝く。私は頷き、幸せな冬の夜に心から感謝した。

東方健太郎 @thethomas3
高速バスを降りると、速やかに改札を抜け、出発を待つ夜行列車に乗り、そのままぐったりと背もたれに寄りかかる。どこまでも深い空の濃紺は、今にもその列車を飲み込もうとしている。窓の外を眺めると、透き通る肌の女性が薄桃色に頬を染めて、白い息を吐いていた。そこに広がる静謐な時間を見つめた。

藤和 @towa49666
白い息を吐きながら夜空を見上げる。星や月が輝いているはずの空は重い雲で覆われていて、どこまでも寒々しい。静かな空気の中、ちらちらと雪が降り始める。少しずつ、少しずつ、粉のような雪が降る。広い、広い空から雪が降る。明日の朝には一面の銀世界だろうか。どこまでも広い、広い、純白の世界。

八木寅 @yagitola
鳥が一つ落とした種から広がってこの花畑ができたのよ。初めて会った花の妖精は色々と話してくれた。でも何でそんなに教えてくれるのと聞いたら、君が幸せの種になって人の世を花畑にしてほしいのと言われた。あれから人々は猫に癒され笑うようになったから、妖精の願いを叶えることはできたかにゃん。

雨琴 @ukin66
毎年この時期に届いていた便りが今年はない。元気な証拠と言い聞かせる。最後に会ったのはいつだったろう。きっともう、すれ違ってもわからない。縁が切れたんだ。さながら糸の切れた凧。束縛されることなく飛べばいい。広い空に疲れたならば、われても末に会わむとぞ、なんてご都合主義も過ぎる初夢。

南鏡花 @kyouka_minami
小学生の頃、公園によく万華鏡屋が来ていた。三百円の万華鏡を覗くと、見知らぬ街の風景が広がる。風景は万華鏡ごとに違ったから、僕たちは買うと、互いに見せ合った。普通の万華鏡を知ったのは大学生になってから。実家で万華鏡を探すこともあるが、あんなに買った万華鏡が、今は一つも見つからない。

せらひかり @hswelt
広い場所に出るのは久しぶりだった。十年に渡る冬眠の後、お腹が空いて最初に大切なものを食べ尽くした。おいしいものたち。りんごもみかんもパンもワインも。君が置いていったセーターを着て、穴蔵を這い出す。外には見たことのないひとたちがいて、冬眠の間に世の中が変わったことを教えてくれた。

赤木青緑 @akakiaomidori
歌川広重の『東海道五十三次』を見たゴッホは慄き打ちのめされた。「ヤバいって、こりゃ凄い!とんでもない!いやいやいや、有り得へんて、どないしよう…、もう描けへんて…」ゴッホはもう筆を折るしかないと落ち込んだ。しかし、ゴッホは「我が道ゆくしかないだろ!」と奮起し『ひまわり』を描いた。

文咲 黎(サイトからの投稿)
どうして空を見上げるのが好きなんだろう。理由は自分でもよく分からない。だけど上を向いている方が気分が良いとか、泣きそうなのを誤魔化してるとか、きっと無意識にそういう気持ちがあるんだと思う。僕は広い空にある種の救いを求めているのに、空は僕に何も求めてこない。一緒に沈んではくれない。

文咲 黎(サイトからの投稿)
星空は好きだ。どこまでも続く、広くて黒い画布に散らばる煌めきが。でもそれを好きだなんて絶対に口にしない。だって、みんなが綺麗だと思っているものを好きだなんて、凡才みたいでつまらないから。私だけが価値を感じる何かを好きになりたい。でも分かってるんだ。それに私は興味を持たないってさ。

赤木青緑 @akakiaomidori
荒涼とした大地から見上げる冬の夜空はとても広かった。まばらに星々が点在し、一際光る星がメッセージを送るように輝いている。メッセージを読み取ったパウロは「ありがとう」とひとりごち、星の方へ小さく手を振った。星から手が生えてきて、パウロへ手を小さく振り返した。パウロは頭を垂れた。

藍葉詩依 @aihashii_mokyu
私の世界は白かった。白いカーテンに白い壁、白いベッド。毎日ベッドで過ごす私に、世界が広いと教えてくれたのは一月だけ同室になった男の子。話を聞いた時は半信半疑だったけど、白い世界から飛び出して十年たった今は確かに広いと思う。だからこそ、この世界でもう一度君に出逢えたのは、奇跡だ。

安戸 染 @yasu_some_
「マダレム!」敵を前に呪文を唱えた。
今、僕は課された試練に挑んでいる最中で、こいつがラスボス。呪文の手応えは十分にあったが、はたして…シャッ!赤丸!倒せた証!よしっ!

【かんじてすと】
( )のなかをかんじにしましょう。
(ひろ)いそら。
ひろ、ひろ、ひろ
まだれにムで広。
マダレム。

赤木青緑 @akakiaomidori
広角打法を極めた星はホームランを量産し大谷とホームラン王を争った。星は年間五十本を放ち、大谷は四十九本で星がホームラン王となった。驚いた王は「とんでもない争いだった。一本差で星がホームラン王になったが、矢張り一本の差は広角に打てるかどうかだったと思う」。冬空へ球が消えてった。

1月1日

郵便屋さん @warawanaiouji_k
年末、孫たちさえも大きくなり、今年はいよいよだれも顔を出さない。
外は雪景色で空気は冷えているが、天気は良く、暖かい日差しが部屋に差し込んで来ている。
こたつに入り、蜜柑をむく。
気付けばうたた寝をして、夢を見ていた。
遠い景色。
わたしはまだ子どもで、辺りは焼け野原。空が広かった。

安戸 染 @yasu_some_
むしろ私だけが問える。私は私以外が問う事を認めない。問う。父よ、母よ、なぜなのですか?と。父、貴方は広長治。母、貴女は広高子。広い。長い。高い。それだって微妙です。境界線での攻防。過去にそこに触れた人もいたでしょう。でしたら余計になぜ?なぜ私の名前は広広(ひろひろし)なのですか?

安戸 染 @yasu_some_
冬の空が広いのは何でだろう。今日の星がやけにきれいなのは何でだろう。きれいなほど悲しくなっちゃうのは何でだろう。星の数ほどある星。どれか一つくらいは吸い込めるかもって深呼吸してみたのだけれど星は変わらずそこで瞬いていて、やっぱり僕は無力なまま。ぽたんぽたんと足元に星が生まれた。

久保田毒虫 @dokumu44
親父が冥王星での忘年会で酒を飲み過ぎて倒れたので仕方なく車で迎えに行った。親父の同僚のAさんも一緒だった。「いやあ、息子さん悪いねぇ。君の親父はきっと疲れているんだよ」「はぁ」雨が降ってきた。この雨は僕の味方だろうか。この広い世界は僕らの味方だろうか。僕は家路を急いだ。

原田透子 @dancingohenro
体を捩じ込むように飛び乗った満員電車でふと顔を上げると、広告のなかの、痩せこけた異国の子供と目が合った。渇いた漆黒のまなこに、カメラのレンズが映り込んでいる。わたしらを揺する鉄の箱は街から街へ肉の塊を運んでゆく。同じ肉塊なら、この子の腹に運ばれる肉のほうがよっぽど高尚な気がした。

けんたろ @kentaro135512
僕らが会う日は、なぜかいつも天気予報は外れてしまう。今日も晴れると言ったから、僕は傘を持ってそこへ向かった。すれ違うみながちらちら視線を投げてくる。そりゃそうだ、冬の東京はたいてい雲ひとつない青空なんだから。「大丈夫」。未来が視える僕は傘を広げ、彼女を迎え入れて秘密を告げた。

あきら @akirakekunote
彼がくれた指輪に嵌る石は、あの日に死にかける星となった。震え燃え尽きゆくのを見つめていたらそれはいつしかブラックホールになり、そっと私の薬指を飲み込んだ。その昏く広く深い穴の奥に彼が見える。思わず覗き込んで私ごと墜ちた。11次元の姿になって、彼を抱きしめる。ようやく永遠が手に入る。

雨琴 @ukin66
母の誕生日が来るたびに、ニュースでは黙祷が捧げられる。数珠を握って拝む人の映像を見ながら、母は毎年バースデーケーキを食べてきたのだ。広島に原爆が落ちたのなんて母が生まれる前の話で、生まれも育ちも東京だから。世界では今も焼け出される人がいるのに、どうして私は東京にいられるのだろう。

雨琴 @ukin66
自分の性別が怖かった。暴力から逃れられない。年々怖がられることも増えるのに、受け入れられず。却って怖がらせてしまう。この世で最も赤いものは、他のすべてを吸収して、赤い波長の光だけを反射している。広く言えば最も赤い光を嫌ってる。怖れることをやめたら、怖れられることもなくなりますか。

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