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冬の星々(140字小説コンテスト第4期)応募作 part4

季節ごとの課題の文字を使ったコンテストです(春・夏・秋・冬の年4回開催)。

冬の文字 「広」
選考 ほしおさなえ(小説家)・星々事務局

1月31日(水)までご応募受付中です!
(応募方法や賞品、過去の受賞作などは以下のリンクをご覧ください)

受賞作の速報はnoteやTwitterでお伝えするほか、星々マガジンをフォローしていただくと更新のお知らせが通知されます。

優秀作(入選〜予選通過の全作品)は雑誌「星々」(年2回発行)に掲載されます。
また、年間グランプリ受賞者は「星々の新人」としてデビューし、以降、雑誌「星々」に作品が掲載されます。

雑誌「星々」既刊ご購入▼


応募作(1月22日〜26日)

投稿日時が新しいものから表示されます。

1月26日

夢沢那智 @Nachi_Yumesawa
午後三時の銭湯は僕の貸し切り状態だった。広い湯船の中で遠慮なく手足を伸ばす。この解放感はアパートの狭い浴槽では決して味わえない。
爽快な気分と共に心の中から毒が抜けていくのを感じる。風呂を出たら部屋に戻って遺書を破り捨てよう。そして辞表を書いて明日、あいつの顔に叩きつけてやる。

夢沢那智 @Nachi_Yumesawa
大型スーパーの広大な食品売場。色鮮やかな野菜と果物に新鮮な肉や魚。見ているだけで腹が鳴る総菜や弁当。圧倒的な豊かさの真ん中で正体不明の不安と罪悪感に包まれた私は、空っぽの買い物かごを抱えて立ち尽くす。
「もうすぐ罰を受ける」
そんな思いが頭から離れない。

流山青衣(サイトからの投稿)
国民の預貯金が封鎖されてから、広場はにわかに不穏めいた。抗議の声を上げる人、うなだれる人。怒り狂った人もいる。ある男は、ほくそ笑む人だった。君たちは金に支配されているから、動揺するのさ。群衆を横目に、男は空き缶を拾った。国が破綻してから、袋は缶で一杯だ。男の笑いは止まらなかった。

山羊山ヨウコ(サイトからの投稿)
真夜中にぼんやりと意識は重怠くなりつつ広がる。自分が開いてゆくのか閉じてゆくのか。眠りながら覚醒する。そのときに見た夢はきっと全部忘れてしまうのだろう。限りある生命である自分自身と限りなく広がって希薄になってしまった自分自身へと目覚める。その夜明けが燐光のように照らしだす不安へ。

つくえのゆくえ @kamakiriyasa
幼い頃、駅のホームと電車の扉の隙間が妙に広く感じて怖かった。よく見るとそこには缶やペットボトルをはじめとするゴミの代表格がたちが申し訳なさそうに寝転がっていた。そんなことを思い出した後、自宅の重い扉を開ける。もうみんな寝ている。家族のために何にもしてやれないおれはゴミ人間である。

小鳥遊 @takanashi_25325
新聞の求人広告に載っていた住み込みの仕事は、広いお屋敷での留守番だった。昔から一人が好きなので私は自由に暮らした。庭にあるガーデンハウスで紅茶を飲みながら読書をする事を毎日楽しんでいる。たまに廊下で見えてはいけない人影や、聞こえるはずの無い音が隣室からするが、私は全く気にしない。

小鳥遊 @takanashi_25325
団地の広場にある象形遊具のパンダが私の友達だった。小さい頃からパンダの上に乗り、石の冷たさに心が落ち着き、高校生になっても母と喧嘩すると夜中にパンダの上に腰掛けていた。離婚して娘を連れて実家に戻るとパンダはいなく、カエルの遊具に変わっていた。娘はカエルに乗り嬉しそうに笑っている。

冨原睦菜 @kachirinfactory
どうです、貴方の技術を我々の星に広めてはいただけないだろうかとのご依頼。型紙を置いてジョキジョキと鋏で切り取る。夜空にそこだけぽっかり青空が顔を出すが、誰も気付かないようだ。それを流れ星のしっぽから作った糸で縫い上げ、入道雲を詰め込む…道具さえ揃えれば材料費ゼロ。悪い話じゃない。

鳥尾巻 @eigarian2239
おいおい、そんな大風呂敷広げちまって収拾つかなくなっちまってんじゃねえか。お前の作った登場人物が増えて増えて勝手に動き回って、争い合って終わりが見えないな。さあ、ここからどうする?いっそのこと全部なかったことにして一から始めてみたらどうだ?そんな顔すんなよ。お前が始めた地球だろ。

想田翠 @shitatamerusoda
首都圏の小学生の修学旅行先の定番は日光だよねと盛り上がる。「広島やったわ」と彼が呟く。「大事なんはわかるけど、ドーム見学後は鬱やった」胸がギュッとなったのは、小六男子に戻ったような心細げな顔で敢えて原爆という文字を避けた心情に呼応したから。大阪弁にときめいたわけではない、決して。

想田翠 @shitatamerusoda
毎朝鍵を閉める時、いつも隣のおじいさんが水やりをしていた。挨拶して登校が習慣化。下校時も庭先で姿を見ることが多かった。庭木の手入れに熱心と思っていたが、自分が親になって初めて「見守り」だったと気づく。特別話すわけでも柿をくれるわけでもないけれど、広義では愛と呼べるのかもしれない。

想田翠 @shitatamerusoda
広大なフラワーガーデンで春バラが咲き誇る。高貴な香りを漂わせるプリンセスの名を冠した大輪には目もくれず、賑やかしに植えられたキンギョソウに一目散な所が我が家の犬らしいと微笑んだ。甘い香りが鼻腔をくすぐり、郷愁を誘う。フンと鼻鳴らす真似をした。手持無沙汰な散歩にも早く慣れなければ。

鳥尾巻 @eigarian2239
罪に堕ちる深海。王子に焦がれ泡沫に還ろうとした人魚を捕まえた。広がる髪の波打つ海に沈む。透き通る白魚の指を捕らえ、紅く色づく珊瑚の唇に触れる。冷たい水のような貴女の青白い肌に私の熱が移る頃、真珠の如き随喜の涙が溶け落ちる。今は憂いのすべてを忘れ、どうかこの私に溺れてはくれまいか。

鳥尾巻 @eigarian2239
生きていても死んでいても構わないじゃないか。悲しみがあふれ出す前に飲み込んでしまえばいい。広大な宇宙の網でもがく我々は、捕食し捕食され、ただ食べるだけの孤独な胃袋なのだ。そこに嗜好などありはしない。いいから屁理屈ばかりこねてないで好き嫌いせずになんでも食べなさい、とママが言った。

二郎丸 大 @JiromaruHiroshi
この広い世界でなぜ君が選ばれたか、知りたい?
僕もだ。なんで君なんだよ。君が選ばれるなら僕が選ばれたっていいじゃないか。そう思っている。
でもね、君以外の人間は君を褒めるか貶すしかできないんだよ。選ばれるってすごいことなんだ。胸を張って行ってこい!

……いつも言えない、本当の事は。

詩織(サイトからの投稿)
窓から差し込む陽をより一層鮮やかなものに変え、私の頬をも照らす。丁度手におさまる重みに、自分の瞼がとうに軽くなっていることに気づく。口の中でプチプチと弾け、体中の隅々まで巡り、今か今かと動き出そうとする細胞と呼吸を合わせ、「おはよう。」鼻孔を抜け部屋中に広がる爽やかな香りに乗る。

静森あこ(サイトからの投稿)
テレビの中の奇術師は、白いハンカチを広げて地球を鳩に変えようとする。血を洗い流す洗剤のポップなCM。煌びやかなミラーボールの下、踊り狂う人々が互いに指をさして「正義」を競い合うカルチャー番組。テレビを消して目を瞑ると、聞こえる誰かの叫び声。私は真偽のわからない夢の中で幸せを貪る。

へくしっ(サイトからの投稿)
こどもの日、東京からはるばる広島平和記念資料館に行く。小学校の修学旅行以来だ。平和公園内に廣島と刺繍のされた大きな旗が犇めき、大勢のそれっぽい方々が仁王立ちしている。おおこれが本物の廣島ヤクザかあ!うち震えながら見ていると、皆さん行儀よく列をなしてぞろぞろと資料館に入っていった。

三屋城衣智子 @Miyagiichiko
広いのは怖いと言う。聞くと「いつでも足音一つ、私の声だけが響いていくの」と漏らした。実家の事だろう。頑として合わせようとはせず、猫の額程のアパートへ転がり、逃げるように結婚した。戸籍に確かに名前は載っていた、沢山。今は子らの声でお互いの声が掻き消える。それが良いのよね、と綻ぶ顔。

小鳥遊 @takanashi_25325
祖父が暮らしていた田舎の広い家に住んでいる。最近の日課は祖父の日記を読む事。明子さんを見た。明子さんが好きだ。明子さんが僕と結婚してくれる。明子さんと一緒にいるだけで幸せだ。祖父の祖母への想いを今の僕が受け止める。今の僕と変わらない祖父の想い。妻が呼んでいる。僕は今とても幸せだ。

鈴木林 @bellwoodFiU
母が使っていたXO醬の読み方を調べないまま「エックス」と呼んでいて、味を「エックスのエキス」と呼んでいて、最終的にXO醬自体を「エッキス」と呼ぶようになり、母もそれを「エッキス」と呼びはじめて、広東料理でそれと再会し読み方を知ったときは、「エッキス」とは味が違うなと思ったりしていた。

1月25日

神山れい @ko__yama0
ソファに一人腰掛けてテレビを見る。
毎週欠かさず見ている番組は面白いのに、どこか味気ない。
きっと、隣からあなたの笑い声が聞こえないから。
このソファも、あなたと座るために買ったもの。
一人だと広く感じ、寂しさが込み上げてきて、今日もわたしはもう戻らないあなたに思いを馳せる。

ケムニマキコ @qeiV97pW0x5342
両手の人差し指と親指を繋げて、広い夜空を四角く切り抜いた。
その表面を、人差し指でそっとスワイプする。私の遥か頭上を、尾を引いた流星が通り過ぎた。
銀河のはずれで、私は繰り返し、流星の雨を降らせる。さよならを言えなかった、たったひとりの友達に届くように。
ケンタウル、露をふらせ。

かまどうま @nekozeyakinku
「車を換えっこしたら?麓しか広い道が無いし、ここが頂上なんだし」
彼女の言葉に男たちは顔を見合わせた。
「やることはお互い似てるしな」
そう結論が出て、警官達は救急車に、救急隊員達はパトカーに乗って道を進んだそうだ。
祖母の幼い頃の体験談。
ホントかなあ……?

若林明良(サイトからの投稿)
ジャンボで1億当たった。即ボロ1Rから1DKに引っ越した。運ぶのは机とPCと座布団だけ。買替えようと思ったが貧乏性が発動した。それに俺の手垢のついたこの机と尻の形に凹んだこの座布団でないと思考が働かないのだ。仕事は辞めた。だだっ広いリビングの隅の半径30cmで遊ぶここが俺の世界。

山尾登 @noboru_yamao
スーパーのチラシ広告で、どこが一番安いを比べるのが朝の日課だ。卵はここ。チーズはこちら。ターゲットが決まれば、コースが決まる。ひとつ特売品をゲットすれば、次のスーパーへ。あれ!先のスーパーにいた隣の奥さんがここでもいた。特値品なんて!が口癖の隣の奥さんが、激安卵をぶら下げている。

にわ冬莉 @Touri_niwa
「ほら」
宙を舞う缶コーヒー。
「ありがと」
落とさずにキャッチ。
冬の空は空気が澄み、星が空一面に広がっているというのに、煮え切らないままの二人。
「な、もうよくない?」
抽象的な言葉で濁そうとする。
「それ、どういう意味?」
追及をやめない。
「結婚、しよ」
——冬が終わる音がした。

にわ冬莉 @Touri_niwa
肩を並べるだけの人をこっそりと見あげる。
本当はもっと近くに。
本当はもっと親密に。
お互いがお互いでなければ埋まらない溝を抱えながら生きたいけれど。
広い宇宙の端っこで、近くて遠い、私じゃないあなた。
その手を取ることは、決して許されない。
それならいっそ、私を星へ還して……。

にわ冬莉 @Touri_niwa
いつだって空は無限だ。
疎らにある雲の隙間から見え隠れする一番星を見上げ、今は亡き友に思いを馳せる。
あなたはそこに、いるだろうか。見ていてくれると願ってもいいだろうか。
流れゆく雲の陰に光る月に祈りを。
広がりゆく闇の向こう、伝えることのできなかった「大好き」を胸に。

春うか @UkaHalu
約束事はひとつだけ。決して「その言葉」を口にしないこと。おどけ笑いの王子さまの手をとって、超満員のボールルームに躍り出る。まばゆいシャンデリアの光に流れるワルツ。誰も彼も、私も笑う。ああ、「まるで夢のよう」。瞬間、全てが弾けて消える。取り残されたステップ。大広間はがらんどう。

春うか @UkaHalu
働き方改革なのですって。夜ごと輝き続けるお月さまにお休みをあげなくっちゃいけないものだから、夜の女神さまは、代わりに海の月を夜空に揚げることに決めました。叢雲が波立つ夜は、ぜひ空を見上げてみてください。月の表面に四つ葉のクローバーが浮かんでいたら、それは傘を広げたくらげです。

笹慎 @s_makoto_panda
コタツにむいた蜜柑の皮を広げる。薄皮はそのままで食べるのが好きだ。
天板に顎を乗せた犬が私の口へと運ばれていく蜜柑を懸命に見つめている。そっぽを向いて蜜柑をあげようとしない私にため息をつくと、父は彼に一粒の果肉を与えた。
今はもうどちらもいないコタツで残された母と私は蜜柑を食べる。

音葉(サイトからの投稿)
「ゴム、足に引っ掛けている2人は何するの。」「2人は見てるの。」ゴム飛びではなくゴム段であると強調した。「ママ、面白そう。」と幼い声が弾む。タン、タン、タン、タン、タンタンタンタン…と規則的に地面が鳴る。重たい振動がアスファルトの奥底に広がっていく。懐かしい感触が足裏に蘇る。

堀川雪太(サイトからの投稿)
漁師だった父はボートや旅行先の遊覧船に乗ろうとしなかった。一度だけ漁以外で夜に母と私に分厚いコートを着させ船で沖に出たことがある。その日は私の20歳の誕生日。静かな海。父は船のエンジンを切り明かりも消した。今も時折、どこまでも広がる満天の星とそれを眺める父の顔を思い出す。

みなみの(サイトからの投稿)
鏡のような湖面は凪いで描いたシンメトリーを微塵も乱さない。小石を掴み、放り投げる。戯れのような行為。一連の流れはスローモーションのように見えた。石の角が水面に触れる。滴が宙を跳ね、石は湖へと吸い込まれた。湖面の波紋は次第にさざなみのように広がると、絵画のような景色を千々に乱した。

みなみの(サイトからの投稿)
頭上に広がる満天の星空を見ていたら、子供の頃に読んだ童話の一文を思い出した。知らず笑っていたのか、隣からどうしたのかと訊ねられる。【空にお星さまを吊り下げるのがぼくたちの仕事だよ】私の言葉に笑った夫は、彼らは今日は残業かもしれないなと言葉を続けた。顔を見合わせると笑顔がこぼれた。

みなみの(サイトからの投稿)
自分の名前の由来を尋ねる課題が出たと、息子に言われた。ふと、あのヒトとのやり取りに想いを馳せる。ふたりして名の響きはすぐに決まったものの、当てはめる字をどうするかであれが良いこれが良いと話したものだ。夢を拓くか、夢が広がるか。「ひろむ」私が名を呼ぶと、息子は夫に似た瞳を見開いた。

川原正路(サイトからの投稿)
昔は「母の日」が辛かった。
赤いカーネーションが街に並ぶ頃、幼い私は、天国のママを想い泣いていた。
いつの間にか、私はママと同い年になった。
今日は「母の日」
娘が折り紙で作った、カーネーションをくれた。今では、娘とママを感じる幸せな日。
娘をギュッと抱きしめ、広い空を見上げた。

音葉(サイトからの投稿)
軽快なワルツが活字を追う事を阻む。紙をめくる事を諦めた指先に、苦味を残した溜息がかかる。さわやかな朝を演出した店内は、闇夜を引きずる私を優しく包み込む。心臓がタクトを振る。見慣れた自動扉の前に立ち、目の前に広がる雑踏を想像する。苦味の記憶は新しく、軽やかに今日の一歩を踏み出した。

酒部朔(サイトからの投稿)
虹が迷っている。その足を大きく広げて歩き回る。トルマリン、アメジスト、エメラルドを降らせて。困惑、混乱、してる。蛇のようにしなる。傘を突き抜ける宝石。思わず受け止めたルビーは、死んだ母だった。あの朝の紅茶の色だ。口に入れる。わたしの中の母の遺伝子が波のように光った。

酒部朔(サイトからの投稿)
走っていく。広野を。ポニーテールの彼女が今日も。夢とか希望とかぱんぱんに詰まった鞄を胸に抱いて。ぼくは大樹の根の隙間の忘れられた骸骨。木漏れ日とどんぐりの中に隠れているから驚かせることはないだろう。錆びた胸の銃弾が時々痛む。でも微睡んで毎日彼女を見ているよ、平和だね、平和だね。

酒部朔(サイトからの投稿)
ぼくは今年死ぬ気がする。もういない父からもらった広という文字。十勝平野が見渡せる扇ヶ原展望台の景色をくれた。遠くに海が見える。あの雲の下で雪が降ってる。ぼくの心臓は凍っていてもう砕けそう。自分のかじかんだ指で何回温めただろう。春まで耐えられない。心が飛んでいく、あの景色へと。

中村君(サイトからの投稿)
閑古鳥の鳴くこの映画館がついに閉館するらしい。
上映が終わったがらんどうのシアタールームから、暗闇が波のように引いていく。広々とした空間に煌々と輝くスクリーン、さながら雪景色を映す列車の窓だ。音ひとつ転がらない中で私は1人、映画館という名の回送列車から降りられないままでいる。

中村君(サイトからの投稿)
広く棚引く暮雪が私に拾えと語るは迷い猫。

1月24日

しゃくさんしん @sansangogohe
スーパーが閉店し、取り壊され、敷地に立つ屋外広告の看板だけが残った。国道沿いの四角い空白は世界の塗り残しのように見える。そこで事故があり、いくつかの花束とともに煙草が供えられた。銘柄が日を追うごとに揃いはじめる。

音葉(サイトからの投稿)
まるで行進曲のような応援合戦が校庭に響き渡る。灰色の砂埃が存在感を露わにする。僕は体育館の脇の手洗い場で、水道の蛇口を一気に捻った。たちまち行進曲がノクターンに変化した。蛇口を握りしめた右手に一層力が入る。僕は広い校庭を眺めながら、ぼやけた灰色が透明になるのをじっと待つ。

たつきち @TatsukichiNo3
おかしな噂が広まっている。伝言ゲームみたいに少しずつ形を変えて噂は広まる。昨日聞いた話と今日聞いた話は少し違う。明日にはどれが本当のことなのか答え合わせが始まるはず。ホントのことなんてどこにもないよ。さっき狐が咥えていった」余計なことを言うんじゃないよ。ほらほら噂に狐が加わった。

慈セレン(サイトからの投稿)
今日は、暖かい肌着と元カレから貰った5万のダウンを身に付けた。けれど、新宿駅は広くて酷く寒い。あまりに寒いから、私は改札口の手前で動けなくなる。氷鬼で捕まった子みたいなのに、誰にも溶かしてもらえない。背と腹にカイロを貼る知識はあっても、タッチしてと呼びかける勇気は今も無いから。

島野きいろ(サイトからの投稿)
広い星空の下、彼女はひとり立っていた。彼女は手を伸ばし、夜空に触れようとする。ほうっと吐いた白い息が暗闇に消えたかと思うと、星々は一瞬、輝きを増したように見えた。彼女は星空と交信しているのだ、とその時は信じて疑わなかった。月に照らされた自信に満ちた表情が、とても美しかった。

細谷修平(サイトからの投稿)
「どこに行くの?」と聞くと、君は「あっちの方」と言って指をさした。僕は、その方角を忘れないように、広大な夜空に、星でしるしをつけた。星は時間とともに移ろう。でも、幼い頃の僕は、それを知らない。その星を見つけると、その下に君がいると思っていた。今はもう、どこにいるのか、分からない。

みまむめも。(サイトからの投稿)
「広ーい!割と綺麗にしているんですね。」
背広を着たおじさんが私を訪ねてきた。「失礼します。」彼は土足で上がり、趣味で彩られた中をまじまじと見て回る。不思議と私は何も思わなかった。「では、また。」
彼が出て行ったと同時に、指を鳴らした音が頭に響く。「あなた、アニメ好きでしょ。」

好花(サイトからの投稿)
保育園のバスから降りてきたあこちゃん。手をぎゅっと握って開きません。「なぁに?」お母さんが聞いても何も答えません。お家に帰っておやつの時間。あこちゃんは綺麗な水色のお皿のうえに、ぱっと手を広げました。「おかあさん、お土産だよ。」色とりどりの小さな星がお皿いっぱいに広がりました。

結城熊雄(サイトからの投稿)
午前五時。仄暗い光によって縁どられた部屋が、いつもより広く感じる。なんの音も聞こえない。あまりにも静かで、神様の葬式みたいだ。ふと思い立ち、足の爪を切ることにした。なぜか音は僕を咎めるように、やけに鋭く鼓膜を刺す。夜に爪を切ってはいけないというが、今は夜なのかもしれないと思った。

結城熊雄(サイトからの投稿)
翌朝、家に戻ると彼は消えていた。文字通り、跡形もなく。衣服や食器、本にいたるまで、彼の所持品は全てなくなっていた。その不自然な広さに、一瞬部屋を間違えたのではないかと疑う。しかしそうではない。それは失ったものの大きさを表しているのだった。心臓を攫われたみたいに呼吸ができなくなる。

南城里奈(サイトからの投稿)
私の世界は、灰色。壁も床も、部屋の中の本も褪せた色。ある時、外が騒がしかった。がんドカン。眩しい光が塔の中に差し込んだ。「あなた誰?」「盗賊ってとこ、なんだお宝は無しか」「ねえ、私を連れ出して」「はあ?」次の瞬間、ニヤリと盗賊さんは笑った。「良いぜ姫さん、広い世界を見せてやるよ」

堀川雪太(サイトからの投稿)
娘は赤ん坊の頃から星を見ると泣き止み、少し大きくなってからも夜になると星をずっと見ていた。雨の日には「お星様が泣いてるのかな」と言い、曇りの日には「今日はお友達が少ないね」と星に話しかけていた。私が東京を離れ家業を継ぐことに決めた理由の1つは娘にこの広い星空を見せたかったから。

堀川雪太(サイトからの投稿)
冬になると母から名前を教わったシリウスを探す。オリオン座は冷たい空気を和らげる楽器のよう。他の輝く4つの星を線で繋いでダイヤモンドを作る。今夜はいつもより輝いて見えた。ただ今は潤んで見える。広く澄んだ冬空に、私は薬指にはめたばかりのダイヤモンドを合わせる。

南城里奈(サイトからの投稿)
広場で泣いてる女の子、入試ってのがダメだめだったんだって。そんなに大切?って聞いたら、良い会社に入ってお金が稼げなくなるって言われたの。紙束を渡したら、泣いて喜んでた。その日の夜、ニュースで世界のあり方が変わるって聞いた。次の日、私は雪代わりに積もった紙屑でマシュマロを焼いた。

南城里奈(サイトからの投稿)
思い浮かべると、瞬間的にどこへでも行けた。どんな人にも会えた。夢のような光景も、ついに私の心を跳ねさせる事は無かった。誰も私に気づかず通り過ぎた。私も彼らが誰か忘れてしまった。どこかこの世界はおかしい。そう知ったのは、いつだっただろう。この広い世界で、私はいつも一人ぼっちだった。

綿(サイトからの投稿)
「星はどうしたよ、ていうか何見てんの?」白い息が宙に溶ける。頭上に広がる満点の星空そっちのけで望遠鏡を覗く友人。レンズの先は地を向いている。天体観測をしようと言い出したのは自分の癖に。一体こいつは何を眺めているのだろう。星明かりに照らされて悪戯っぽく輝く瞳。「ん、世界の欠片」

坂本真下(サイトからの投稿)
だだっ広い屋敷でかくれんぼをしていたら、兄弟がいなくなってしまった。鍋の裏まで探しても見つからず、泣く俺に皆は神隠しだから諦めろと言った。その屋敷が近々取り壊されるらしいと耳にしたので、急いで万屋の門を叩いた。「つまり人探しの依頼ですか?」「いや?神殺しの依頼さ」依頼料は弾むよ。

如月恵 @kisaragi14kei
広口瓶の底に鳴砂を敷く。ガラスの瓶を傾けて砂を寄せ、青く着色したレジン液を垂らし、ミニチュアのヤシの木と浜辺で拾った貝殻をピンセットで慎重に置く。波が寄せては返し始める。鳴砂が泣いた。広口から覗き込めば、砂浜に小さな足跡が続いていた。瓶から顔を上げると、窓の外、雪が降っている。

さるすべり(サイトからの投稿)
子供の頃から世界一になるのが夢だった。そんなぼくのプロポーズの言葉は、「世界一心の広い男になって、きみを幸せにします」だ。でもその五年後に、「なにが世界一心の広い男よ、嘘つき。世界一心の狭い男のくせに」と罵られ、離婚届にサインするはめになる。とほほ。なんて悲しい世界一なんだろう。

1月23日

鶏林書笈 @kourairou
この地に降り立った時、何と広大なんだろうと感心した。全てを捨てやり直すには、まさに相応しい場所だ。
彼は、水を得たように活動を始めた。この地は彼の手の中にあり、全て思い通りに出来た。
だが、後ろ盾だった帝国が崩壊すると、彼はまた無一文になった。

大ばくち 身ぐるみ脱いで すってんてん

コモドモネ @komodo_eekth19
仕事で忙殺されていた彼女に「次の休みは好きなところに連れて行ってあげる」と声をかけると、彼女はパッと顔を輝かせ、「じゃあここ!」とスマホの画面を見せてきた。
「ええ!?いや寒いよ。それに弾丸すぎる。なんだって急に帯広?」頭を抱え困り顔の僕を見る彼女はここ一番楽しそうに見えた。

一見 才 @SI_hitOmi_NoveL
黄昏。茜色の頬を流星が切る。赤い筋さえ垂れないけれど、私の願いごとはそんな流星に乗って肌をふいっと過ぎていく。喧嘩してしまった日。あの子に明日謝れますように。嫌いにならないでくれますように。

透明な隕石が瞬いて、口許と地面で破裂する。広いひろい片隅で、流星の冷気ばかり頬に染みた。

外山雪(サイトからの投稿)
いつも背中を追いかけていた。あなたは速くてなかなか追いつかない。あなたを守るため、息を切らせ必死に走った。今のあなたは立ち止まってくれる。でも待ってはくれない。わたしは、わたしよりだいぶ広くなった背中をやさしくなでた。明日は入学式。初めて離れて暮らすことになる。いってらっしゃい。

一見 才 @SI_hitOmi_NoveL
商人に勧められ、お試しで猫の足(手)を借りた。本物そっくりな前足は冬を越す頃には立派な爪が生えるだろうとのことだ。前足一本、帰路に着きドアを開ければ一人には広すぎる部屋でチロリ、肉球をあらわに待ってくれる。その姿に甘えるとツンと跳ねのけられるが、それもまた孤独には嬉しい反応だった。

田代智美 @satomitashiro8
深い藍に星が点々と並んだワンピースには、くっきりとしたオリオン座がプリントされている。オリオン座の星言葉、「信念を持ち我が道を行く」。そんな言葉とはかけ離れた私だけれど、広場の雑踏の中から、どうか私という星を見つけてもらえますように。祈るような想いで扉を開け、あの人に会いに行く。

海音まひる @mahiru_1221
ある日、快晴の空にぽっかりと穴が開いた。巨大な穴の奥には果てしない闇が広がり、無数の眩い星があった。
 そこから天使が降りてきた。天使は人々が見上げる前で宇宙の歌を歌った。至上の調べを聴いた人々は残らず幸福になった。
 一人の少女が、天使の力に憧れて小説を書き始めた。

時南 坊(サイトからの投稿)
「前の会社でやらかしたらしいね」転職初日、隣席からの言葉だった。心が広いボクに反論の文字はない。仕事で結果を出す。まずは内部事情に精通すること。社内イントラから情報収集だ。重要な隠れフォルダも見つけた。スキルを活かしてパスワードも解除した。えっ。画面に「キミはクビ」の文字。

明桜生(サイトからの投稿)
広い土地に一人。広い星に一人。寒くても一人。誰もと暖を取り合えない。雪がチラホラ降ってきた。そのまま積もれ。僕の周りに積もって体操座りのまま僕を雪だるまにして固めて。そうして冬眠に入るんだ。動物たちと同じように。春、あの花が咲く頃に一緒に目覚めよう。

明桜生(サイトからの投稿)
冬はテーブルが広くなる。お母さんは冬が稼ぎ時だから。お母さんは冬は一緒にご飯を食べない。テーブルに並べられるお皿が一つや二つだけになって、テーブルが広くなる。でも、クリスマスだけはテーブルがプレゼントで埋まる。赤い服を着たお母さんがお菓子やおもちゃを飾り立ててテーブルを埋める。

明桜生(サイトからの投稿)
広野に散らばる星を空から眺める。それらは空まで届かない白い空気を吐く。死んで灰色の煙になって、ようやくこちらへやってくる。野原よりずっと広い雲海へ。溺れないように羽を生やす。そんな姿を星々は天使と呼ぶ。きっとここでの生活は真っ白で純粋で汚れのない新たな星になるまでの洗たく時間。

多福(サイトからの投稿)
森下はいちいちうるさい。右の髪だけうねってるとか、制服のリボンがザツだとか、ソックスの折り返しが広すぎるとか。はっ?アイツ、辞めるの?ガサガサの下唇がゴワついたマフラーにあたって痛い。明日からは1本早い電車じゃなくてもいいのか。無理にひっぱった人差し指のささくれから血がにじむ。

ぼぶ(サイトからの投稿)
広瀬は目を閉じた。つい数秒前まで見ていた星空を瞼の裏に写し、自分と会話した。いつからか自分に自信を持てなくなっていた。なんでもないのに涙が流れては不安が襲う。朝は起き上がれず、人混みを嫌がり、食欲もないけれど星だけは、夜の星空だけは味方だった。今日もまたパニック障害と歩いていく。

藍葉詩依 @aihashii_mokyu
君の瞳に映るのは数秒だ。
その数秒で僕は何を伝えられるだろうか。
伝えたいことは数多くあるけど、実際に伝えられるのは様々な感情がぎゅっと圧縮された一言だけ。
その一言が君の胸に響けばいいと願いながら静かに佇む。
人は僕のことをこう呼ぶ。広告と。

かまどうま @nekozeyakinku
「野菜?なんとか食べてる。でも、おにぎりが多いかな……母さんみたいに美味しく握れないけど。コツがあるなら教えてよ」
僕がそういうと母は一瞬目を伏せたが、「独り暮らしだしね」とつぶやいて、バッグからA社のハンドクリームを出して机に置いた。
「握る前にコレを塗るの。広めちゃダメよ」

ナゾリ @Naz0n0vel
記憶の中の父親は、いつも汚れた作業着を着ていた。それが私と母さんにとっての自慢だった。
だけどいつからか、父親が背広を着て出かけるようになった。休みの日でさえも。
あるとき、母さんが珍しく怒鳴ったことがあった。
その翌日、いつもの作業着姿で仕事に向かう父親の背中は、肩が狭く見えた。

ナゾリ @Naz0n0vel
上京し、六畳一間の家で一人暮らしを始めたという先輩。
その一年後には自分も上京し、再会を祝して先輩の家にお邪魔させてもらえることになったのだが……どうも聞いていたより狭い気がする。
そしてなぜかロフト付きで、無駄に天井が高い。しいて言うなら、畳を縦に六枚並べた広さといったところか。

さるすべり(サイトからの投稿)
「広島焼きもうまいけどな」とおっさんが大声で言った。「やっぱり、大阪のお好み焼きがええな。野球とおんなじや」ぼくが相槌を打つと、おっさんはにこっと笑った。でもぼくは知っている。おっさんの奥さんは広島育ちで、奥さんの前では「やっぱり、広島焼きが一番や」とおっさんが言っていることを。

1月22日

水原月 @mizootikyuubi
公園の広場には時々、ピアノが置かれる。寒い冬、特に人が少なくなる曇りの休日に、私はこっそり弾きにいく。
蓋を開けて、さぁ今回も英雄ポロネーズの好きな部分だけ。
冷たい鍵盤が私を奮い立たせる。勇ましい英雄に、雷の踊り子になれる束の間。厚い曇の轟音すら、今だけは舞台装置なのだ。

わか(サイトからの投稿)
小さな公園の狭いベンチで、空を見上げる。寒いけれど、流れ星を見つけるまでは帰らない。冬の楽しみ方、人生の楽しみ方を、彼が教えてくれた。彼は私の世界をいっぺんに広く鮮やかにした。夜の冬の匂いとともに蘇る。苦しくて、きれいで、やっぱり苦しい大切な思い出。

海芝 @umishiba_st
「明日は広範囲で雨と風が強まり、交通に影響が出るでしょう」と天気予報士の声。僕の隣で「だめそうだね」と君がつぶやく。平年よりも早めに咲いた公園の桜は、明後日までには散っているだろうか。その時には、君はまた遠くへと行ってしまう。せめて君の故郷へ届けと花びらを手紙に入れる事に決めた。

海芝 @umishiba_st
僕の町は雪が降らない。降ったとしても道路が薄い白色になる程度で、次の日の朝には溶けている。でも、森が真っ白になった時は、先生が授業を中止してみんなを校庭に連れて行ってくれる。雪だるまを作ったり、雪合戦をしたり、目いっぱい駆け巡ったあの場所は、いつもの何倍も広く見えた。

海芝 @umishiba_st
際限なく広がり続ける海でずっと背浮きをしている。こうやって波に身を任せていると、遠くの方で島が燃えていたり、サーフィンをしている人たちの顔が浮かんでくる。時折、青い鳥が落としてくるビラを読み、赤い箱を開けてBGMをかけるが、さして自分の人生に影響はないので、今日も液晶の空を見る。

鈴木林 @bellwoodFiU
立入禁止区域の雪を渡り、私たちは家へと戻った。割れた窓から侵入する。すっかり氷漬けになったリビングで、喧嘩の時につけた壁の傷や、あの日食べようとしたご飯がそのまま固まっている。持って来た布を広げて私たちは座った。体温でほんのわずか溶けた床の表面が澄んで、カーペットの赤色を見せる。

冷檬檸凍(サイトからの投稿)
凍った水面が月を映す。木と酸素が爆ぜる音に耳を和ませ白い息を吐く。身体を丸めながら深々とした夜に身を融かす。土くれに意識を委ねて木々と漏れ日の中で囀り。広々とした海中で回遊魚達と珊瑚の葬式をし。消えゆく自然たちへの弔いに雲達と涙を流す。
感傷に襲われる夜の冬。
明日も僕は人間だ。

兎野しっぽ @sippo_usagino
絶望だ。眼前に広がる光景に手が震えだす。まさかこのタイミングでこんな重大な失態に気づくだなんて。なんでもっと早くに見抜けなかったんだ。今からやり直すか。いや、ダメだ。もう時間がない。真っ白になった頭に、タイムリミットを知らせる鐘の音が無情に響いた。
解答欄、全部一個ずつズレてた。

つくえのゆくえ @kamakiriyasa
ヒロの両親は遠い昔、車に乗り遠くへ行った。1人で生き抜くために自然の中で広い視野を培った。ある日、朝食をとっていると男に声をかけられた。男は、広い視野を持った仲間と仕事をしないかとヒロを誘った。ヒロにはそれ以降の記憶がなく、気がつくと彼は草食動物のシマウマという名前になっていた。

モサク @mosaku_kansui
7時間。君の町にもあるチョコレートを手に電車と飛行機を乗り継ぐ。僕らを隔てる空間は簡単に繋がるけれどとても広い。到着してすぐさまコートを脱げば、強い海風にくしゃみがでた。君の部屋のガジュマルは、初めての雪に震えるだろうか。僕が気温差20度の暖かい町で風邪をひけば、君は笑うのかな。

田中美優(サイトからの投稿)
深夜3時の商店街。逃した終電が頭をよぎる。

ギターの音が響き渡る。
ブーツのコツコツと鳴る音までBGMに変わる。
無駄におしゃれなしゃがれた声は煙草のせいだと分かる。
広い世界で、この一瞬、君と私だけの瞬間。
短くて狭い。でもそれがいい。

そんな、タクシーで帰る贅沢をする夜。

湯桶 梨紗(サイトからの投稿)
知識とは星、遠く広がるあてのない道を照らすしるべ。その灯りは人々の魂とも言われるけれど、どうだろう。その知識に宿る魂とは。その言葉に宿る力とは。考えてもキリがない。けれどなにかにすがりつきたくなる夜に、知識と星は似ていると思う。そうして祈る。私のしるべとなってください、と。

五十嵐彪太 @tugihagi_gourd
カラフルなバスも、かっこいい文字が並んだ看板も、きれいな写真がいっぱいのチラシも、すべて「広告」というものだと知ってしまった子は、世界に心底がっかりした。今夜も、チラシで折った紙飛行機から夜の町に真っ白なペンキを撒いて、白くなった町にクレヨンで大きな鳥の絵を描く夢を見ている。

一見 才 @SI_hitOmi_NoveL
広大な星のすみかに、一点の星が煌めいていた。星の砂に埋もれたそれを、そんな骸をクシャリ踏みしめ両手で受ける。さらさらこぼれる骸に、わたしを照らす小さな生命。シアン、マゼンタ……。様々な光をわたしの頬に乗せて手の平に熱を垂らす奥、さざなみに連れられて夜光虫が生命の応答を求めていた。

一文字草(サイトからの投稿)
ハンガーにかかる背広を見つめる。何度もクリーニングに出され大切に扱われてきた背広。けれど随分長く見ていなかった背広。「本当にいいの?古いけどいい品なのよ?」母は言う。私は首を降った。「駄目だよ、一緒に送ってやらなきゃ。これがないと父さん、向こうで何を着たらいいか悩むじゃないか。」

一文字草(サイトからの投稿)
その小さな手は何かを握っている。まるで美味しそうなおまんじゅうみたいな手。ぷにぷにふっくら。それが動く事が奇跡のように思えた。にぎにぎと大事そうに君が握る何か。それを見つめる誰もが顔を綻ばせた。握って開いて。皆が笑顔になる。君はこの広い世界からそれを掴み取る。温かな幸福な時間を。

一文字草(サイトからの投稿)
世界は広い。確かに広い。けれどそこに飛び出すか否か。自分の世界を広げたい。けれど私はきちんと認識できているのだろうか?自分の質量・濃度・容量を。無限に広がる世界。そこに足を踏み入れる。拡散していく自分の存在。広い世界。小さな自分が溶けて見えなくなる。私はどこ?見誤ると自分を失う。

さるすべり(サイトからの投稿)
「世界で一番広いおうちってどこにあるの?」とお母さんに聞いてみた。「アメリカでしょ。IT企業の大金持ちの社長さんか、ハリウッドスターの家よ。私たちには関係がないことだけど」後日、お母さんの答えには二つ間違いがあることが分かった。世界で一番広いおうちはぼくたちが住んでいる地球だよ。

椎井 慧 @she_satoshi
あのオリオン座はいつか片腕を失くす。隻腕のオリオンは蠍を追い掛けて仕留めることもできなくなるだろう。この広大な宇宙で何万年も続いた追いかけっこについに終止符が打たれるんだ。そうして自由を得た蠍は冬の星座になるのかも。蠍の真赤な心臓が新たな大三角を作ったら、きっとまた会いましょう。

今田夢(サイトからの投稿)
家に一人、シャワーを浴びる午前二時。
嫌気がさすような退屈な日常を洗い流すように。どれだけ明日を拒んでも、それはいずれ影を落とす。
私は見えない太陽を睨みつけようとした。
深夜二時半。
目に映る世界が、現実にはない絵画のようだった。
狭い窓枠の奥には無数に瞬く幻想が広がっていた。

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