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冬の星々(140字小説コンテスト第4期)応募作 part2

季節ごとの課題の文字を使ったコンテストです(春・夏・秋・冬の年4回開催)。

冬の文字 「広」
選考 ほしおさなえ(小説家)・星々事務局

1月31日(水)までご応募受付中です!
(応募方法や賞品、過去の受賞作などは以下のリンクをご覧ください)

受賞作の速報はnoteやTwitterでお伝えするほか、星々マガジンをフォローしていただくと更新のお知らせが通知されます。

優秀作(入選〜予選通過の全作品)は雑誌「星々」(年2回発行)に掲載されます。
また、年間グランプリ受賞者は「星々の新人」としてデビューし、以降、雑誌「星々」に作品が掲載されます。

雑誌「星々」既刊ご購入▼


応募作(1月8日〜14日)

投稿日時が新しいものから表示されます。

1月14日

イマイエイチ @imaieichi
私が何度も爪を立てたから、彼の広めのオデコは三日月だらけだ。いつもぼんやり青く光っている。彼は「夜の散歩のとき、君が躊躇なく曲がり角を曲がるようになって何だかつまらない。あと猫が寄ってこない」と言って、三日月が空に一つきりになるまで二人の夜の散歩はお預けになった。

物部木絹子 @yuko_momen
その広場はとても人気で初めての待ち合わせで見つけづらかったから、背の高い僕は二度目から赤いニット帽を被って行った。夏になっても。今はもう人気じゃなくなったその広場に今日も向かう。
誰も来ない。君ももう来ない。この広場は君のニット帽と僕だけの世界だ。耳を覆う。あたたかい世界の完成。

夜明けごとに透明になる @yorugaowaru1218
穢れを露わにする風花が降る。澱みない青天に、どこまでも透き通ってゆきそうな雪が、わたしの広い額に降り注ぎ、落ちて、じゅわっと水になった。その夜に浴槽に浸かって弾く、水の鍵盤でノクターンを奏でた。弾く水滴の小気味よい音は、何故か悲しくて、静かに落ちる泪の音色が一番美しいと思った。

李都 @litolittlen
世界は広いと誰かは言った。空も海もどこまでも続いていくのだと。しかし、私の生きてる世界はこんなにも狭い。四角い小さな部屋で、決められた番号を渡され決まった椅子に座る。時折座席が変わろうと、世界の狭さは変わらない。ああ、いつになったら本当の世界を見られるのか。卒業の文字はまだ遠い。

 @tatami_tatami_m
広い広い皿には人が立って、作り物みたいだったが紛れもなく生きておりその証拠に瞬きをしたり口を開けたり膝を屈伸する。皿の周りは真っ暗で皿にだけ光が当たり彼は居心地が悪かった。なぜ自分はこんなところに立っているのか。考えたくなかったが、そういえば彼は食器を最近買ったような気がする。

イマイエイチ @imaieichi
子供たちは大声で笑いながら集まってくる。地面に落ちる自分達の影を黒くする。後から後からやって来て、影はどんどん広がって、どんどんどんどん黒くなる。公園を越え、街を越え、海を越えて星を覆う。冬の冷たい宇宙に笑い声を響かせて、子供たちの黒い星がゴロゴロ転がって行く。

イマイエイチ @imaieichi
大きな怪獣が私を噛み砕く。彼は私の名前を唱え、ゆっくり咀嚼してくれたので穏やかな気分で胃にたどり着いた。数日して、ビルの壁に向け彼は私の一部を吐瀉した。私は壁一面に広がった。このまま乾いて粉になって何処へ飛んで行こうと思っていたら、残りの私が飛んできた。ベタベタと糸を引いている。

宮川ヌエ @mi8kawa
ついに、果ての地に着いた。人が住んでいると言う昔話を信じて。氷点下の風がジリジリと命を削っていく。広大な森林を抜けると、そこには朽ちた村があった。当たり前だ。人類なんかずっと前に滅亡した。けれど、プログラムされた本能がそれを許さない。充電が終わったら、また人を探す旅に出よう。

かぼすサワー @boaluz0829
嫌がると思ってたから。ありがとうね。そう呟いた母親の顔は本当に嬉しそうだ。
「別に」
当たり前だよ、は省いた。
「就職の時に着てもらおうかと思ってたけど、身長伸びるの早かったね」
「高校私服だし入学式に着てくにはピッタリだよ」
父さんの背広を羽織ると、とても晴れやかな気持ちになった。

草野理恵子 @riekopi158
あんたが金網の穴を広げて私を通した。行方不明者を探すポスターを貼って歩いた。写真はただのいたずら描きにしか見えなかった。「どろどろだよ顔。なんか溶けたみたいに。いいの?それで」あんたはいいと言った。この顔でいるはずだからって。急な雨にあんたはポスターを濡れないように抱きしめた。

うたがわきしみ @arai_chi2
地球にはもう色は残されてなかった。全世界を席巻した白の膨張と侵食。世界広域白色症候群。その余りに暴力的な白さに人類は発狂し、視界は純白に染めあげられた。「間に合ってくれ」桐箱から取り出した地球最後の明太子。一粒、ピンセットで白に置く。瞬間、世界は赤い目となり、宇宙が書き換わった。

たつきち @TatsukichiNo3
「広い所が苦手で…」と彼は言った。おそらく僕がキョトンとした顔をしたのだろう。「教室にひとりとか、怖くない?」と訊ねてきた。「ひとりっきりで教室は落ち着かないね」と答える。「むしろひとりで教室に居たい奴の方が僕は嫌だな」そう言って肩をすくめてみせた。それが彼との最初の会話だった。

梅雨 @Brille2525
そこは不思議な木々が立ち並ぶ森。枝先には果実の代わりに本が実り、幅広く多種多様な創作物たちは空想の世界へと誘っていく。たとえいつか本が地面に落ち、少しずつ人々の記憶から消えてなくなったとしても、沢山の心に残った言葉の種が、小さな芽になって新たな物語を次の未来へと紡ぎ続ける。

うたがわきしみ @arai_chi2
引き出しからはいつも雨の匂いがしていた。三十九歳というのは微妙な年齢だ。若くもないし、それほど老いてもいない。机の上に佇んだままの蓄音機がもしもあの人の声を覚えているとしたらどんな音で鳴くだろう。窓に張り付いた冷たい雨が私を見つめる。ぬるくなったコーヒーの酸味が舌の上に広がった。

見坂卓郎(サイトからの投稿)
ぼくらの広子園は春夏だけじゃなく毎日どこかで開催される。サイレンの代わりに爆音が響く。審判のいないまま一死二死とアウトを重ねていく。フェアプレーは敬遠される。魔物よりこわいものが棲んでいる。広子園は遠くから見ると青いボールみたいな形をしているらしい。そこだけが少し野球と似ている。

日下勿忘 @wasurenak
彼女は流れ星だ。今日も光がまつげを伝って流れていく。彼女の広すぎる心は、顔も知らない遠い夜をも包み込もうと光を放っている。細い肩に手を当てながら僕はその度に願う。「これ以上優しくならないで」優しくない僕の願いは彼女にはきっと届かない。だから僕も流れ星になろうと、そっと瞼を閉じた。

大江信 @oemakotoqq
「広島って徳島より北でしょ? だから超極暖着てきたんだけど暑い。どうしよ?」みたいな話で笑い合いたい。超極暖の上にスウェットシャツを一枚着ている私は、フリースを脱げばとは言わない。もっと寒い場所へ連れていけば喜ぶの? エアコンを消すと窓から少しずつ冷気がやってくる。もっともっと。

大江信 @oemakotoqq
自然と不自然の違いについて考え続けている。広島と徳島の違いについても。会えないことの弊害は大きい。匂いはもちろんせず、触れることはないにせよ。田山花袋の「蒲団」みたいな話なのか。そうかもしれないと思った。知らないことが増えてゆくと白い雪のように積もり、お互いの姿は見えなくなる。

大江信 @oemakotoqq
「これから広島で暮らすの?」と訊かれ、そうだねと答えた。四年間を振り返りながら、目の前に映る新しい景色の話もした。助手席の居心地は悪く、山々の名前は今後もわからないままだ。「島同士、近くだったら良かったのにね」毎日会っていた頃が懐かしい。姿は映像に切り替わり、話はしばらく続いた。

1月13日

天瀬  ひすい @_amase_it
仕方ないのだろう。そう自分に言い聞かせ、自室に入る。中は光なんて一つもなく寒い。電気をつけ机に向かう。机上には沢山の参考書や過去問があった。「もう終わったんだ。」そう呟き山積みにした本たちを枕代わりにして頭を乗せた。

受験シーズンを終え、俺はあの広い競技場に別れを告いだ。

草野理恵子 @riekopi158
私の足が浮くのを小さな鹿が見ている。青い夕暮れが足首からよじ登り毛布のように広がり二人を一緒に包む。スカートの裾が揺れる。小さな鹿の小さな耳が動く。「何が聞こえる?」感情が爪先から滴り小さな鹿が小さな舌を出し舐める。夕暮れの毛布が口を閉じもう何も吐き出さない。ねえ鹿一緒でごめん。

藤和工場(サイトからの投稿)
ラッコになりたくて、広い海へと漕ぎ出たらしいよ。なれたかな? 無理だよう。ラッコは寒い海にいるんだから。さむいとひろいの違いも知らないから、きっとクジラにだってなれないよ。なれるのは、中身のない巻貝にだけ。ママがそう教えたの? パパがそう教えなかったの。知り方も知らなかったの。

藤和工場(サイトからの投稿)
広い背中という言葉に憧れていた。何も知らない頃、いつも見ていたのは、喧騒すぎる喧騒の中で銀色の星が瞬く間に消えていく盤面に煙を吹きかけ、腰かがめ小さくなった姿だけ。ある日、命はぱっと燃えて消えたけど、瞼の裏に、その姿のまま焼き付いて、その姿しか、残っていない。

かぼすサワー @boaluz0829
扉が開かれる。歩み出す。いつもの場所へゆっくりと。獲物を狙いに向かうのだ。少しはエンターテイメントの気持ちをもってるかも知れないと最近思い始めた。イメージと違うのは申し訳ないけど俺も動くのよ。住み処から狩場まで、そして寝床まで帰るのだ。瞬間移動なんて出来ないよ。俺はただの嘴広鸛。

藤和工場(サイトからの投稿)
煌びやかな広い世界を見てきて、帰り着いた最寄り駅。ロータリーもない、星の吐息だけがある。我が家まで三キロ、存在する街灯は二本のみ。重い荷物を引く音が生き物を遠ざけ、月へ伸びた枯れ枝の腕、掌には宇宙、人間は最小の国家、愛の形こそ万別、物言わぬ家族、きっと寂しいとはこういうこと。

八樹諦(サイトからの投稿)
「ちゃんと撮ってよね!」と君は今流行ってるんであろうポーズを決めて笑った。はい、チーズと声をかける。通りすぎていく人達が振り向くのも仕方がない、それくらいに綺麗だ。広角レンズに写る君は、遠くが透けて見えるほど透明感があって艶やかで、もうこの世にいないなんて思えなかった。

八樹諦(サイトからの投稿)
小さい頃よく来ていた広場は草が生え放題になっている。秘密基地も砂地も今はジャングルみたいだ。確かここら辺に埋めたよなと友人が言う、タイムカプセルを探しに否定的だった自分を殴りたい。これなら見つかりそうだ。あの日言い残した想いも今だから言いたいこともそこに入ってるのだから。

八樹諦(サイトからの投稿)
大学を卒業して随分経つ。毎日一緒だった友達とも卒業してから疎遠になって会うこともなくなった。あの頃男女関係ない最高の友達を持ったと思っていたのに、今は結婚したことをSNSで知る程度。ふと通知に目をやる、グループが動くなんて珍しい。同窓会かと思って開くとただの広告だった。

夜明けごとに透明になる @yorugaowaru1218
冬の夜空はまほろば。星々が放たれた、だだっ広い夜空の庭を眺めていた。あなたがこの世界から居なくなってから、流れ星を探す癖がついた。あなたはきっと流れ星を飼い慣らして、放し飼いにしているはずだから。星座になれなかった星々はジプシーなのだと思う。あなたがいつか言っていた愛の話のこと。

草野理恵子 @riekopi158
「追放されたの?」私は茶色い生き物を抱く。生き物は歌に似て途切れながら答える。「わからない」不意に私から生まれた動物のように私にもわからなさが広がる。雪になったね。白く冷たく最後は青くなるものの中に埋まり柔らかい腹部を撫でる。瞼を白い扉が閉じていくと雪が大きな体になり冬が眠る。

沢原海也(サイトからの投稿)
「広いねー!」彼女はそう言いながら、まるでこの世界を覆ってしまうかのように手を広げた。僕の瞳に映っているのは初めて海を見た彼女が子供みたいにはしゃいでいる姿。それから約1年後、僕らの世界はお互いに指輪をはめたこと――結婚したことで海よりも広くなった。でも、またあの海に行きたい。

三日月月洞 @7c7iBljTGclo9NE
死にそこねた夜に、私は貴方と恋をした。私が『死にそこね』なのだという事には一切気が付かぬまま、貴方は優しく微笑んでくれる。試しに「私と心中しない?」と訊ねたけれど、「嫌だよ」と一笑に付され終わった。無邪気な貴方。仕方がないから、貴方の背中が広いうちは頑張って生きてみようと思うわ。

ともろ @gotogohan555
そうだ、ぼく、広いところに行きたかったんだ。家を出て散歩をしていても、すぐ家に連れ戻されちゃうから。
おじいさんとおばあさんが和室の押し入れに向かってぼくを呼んでいるのが見える。ぼくはそんな見つけやすいところに隠れたりしないのにな。まだまだだな。
でも、そろそろ降りてあげようかな。

つゆくさ(サイトからの投稿)
あれの朝は早い。窓を開け、黎明を見やる。それが寒さを招くことを、あれはまだ知らない。吾輩はごめん寝だ。トントン、コトコト、がさがさ、ばちゃん、チーン。あ〜、やっちゃったとあれの声。焙じ茶の水たまりが広がり、豚汁と弁当の匂いが覆う。丁寧に暮らすあれの不器用さがいつも吾輩を喜ばせる。

五十嵐彪太 @tugihagi_gourd
子供の頃に住んでいた町には広場があった。小さな時計台があり、フィドル弾きが鳩や猫を相手に演奏していた。古い郵便ポストがポツンと淋しそうにしていたから、よく手紙を出した。書ける文字は少しだけ。切手も貼っていない。その手紙が60年を経て届いた。孫が喜び、返事を書くんだと張り切っている。

静森あこ(サイトからの投稿)
今日の天気は広域で晴れ時々初夢。誰かの見た初夢が時々降ってきた。向かいの林さん家の後ろに富士山が現れたり、鷹が公園の梅の木で羽を休めたり。茄子も降ってきたので夕飯は茄子の煮浸し。お隣の獏さんにお裾分けするととても喜んだ。私がまだ初夢を見ていないと話すと目が泳ぐ獏さん。やっぱりね。

桜庭 蓮(サイトからの投稿)
 胸に花を挿しながら雲一つない青空を見て、僕らの未来がどこまでも広がっているようだ、なんて。柄にもなくそんなことを思ってしまったけれど。
 隣で君は、まるで天井みたいだねって。そんなの、知らないうちに閉じ込められているみたいじゃないか。
 親友が、ひどく遠くに感じたある門出の日。

しゃくさんしん @sansangogohe
深夜放送の映画を見ていたら、テレビの画面が静止した。コンセントを抜いても消えない。知らない白人の女が、几帳面な姿勢で椅子に腰かけている。「すぐに燃え広がるでしょう」という字幕。しばらく、その画面を見て過ごさなくてはいけなかった。直線的な背、骨ばった首、すぐに燃え広がるでしょう。

野田莉帆 @nodariho
天国へは写真を一枚だけ持っていける。記憶は薄れてしまうから、写真に映っている小さな女の子が誰なのかはもうわからない。それでも、天国へ来てからの習慣は染みついている。写真の縁を撫でて、いつも願う。花が綻ぶように笑う女の子が、幸せに暮らしていますように。広く澄みきった空の上で、想う。

虹風 想蒔 @i_nw_ao_rbdmges
自転車を漕いでいると、背中でピンッと音がした。3日後、人生初の鍼治療を受け、他の部位の不調も体の歪みからきていたと気づかされる。ただ、連れてきた3歳の子どもが側を走りまわっていたからか、どこかほぐれきれなかった。帰宅後、コーヒーを淹れた。香りや味が広がると、ようやく施術は終わった。

山尾登 @noboru_yamao
今夜も愛の言葉が、上滑りしていたから、私は賭けをした。今夜こそ奥さんのところへ帰ってあげて。あの人は、またかよと顔を曇らせたが、たった二度目の私のネェ帰ってあげてで、シャワーも浴びず身支度をいそいそとする。賭けに敗れた私は、ベッドの皺を伸ばしながら、その広さが襲う空虚さに耐える。

籾木 はやひこ(サイトからの投稿)
時々海釣りに行く。礒だ。一匹釣れると後は、ぼ~と海をながめている。(広いな。なぎで、穏やかだな)そんなことで過ごす。帰りは道の駅へ。釣りの格好をしてクーラーボックスを持っている僕に観光客が声をかけてくる。「見せてください?」僕は開けて魚の説明をする。「すごいですね」でうれしい。

東方健太郎 @thethomas3
郊外都市の駅前の広場には、噴水があり、その周りに、人だかりができてきた。今夜、ここでは、大道芸のパフォーマンスが行われる。ピエロの被り物をした若者が、何やら揉め事を起こしているようである。或いは、それは、夢のなかの出来事であるかのように、彼の胸元をしきりに初春の雨が濡らしていた。

SZ(サイトからの投稿)
世界広しといえども、骨伝導会ほど奇妙な演奏会は他にないだろう。晩年、聴力を失ったベートーベンは、ピアノの上に棒を置き反対側を口に咥え、骨伝導によって音を聞きながら作曲をした。骨伝導会では、聴衆が耳栓をして棒を咥える。ベートーベンが聞いていた本来の曲を楽しもうという会なのだ。

193(サイトからの投稿)
「漢字の親は木に立って見るって書くんだよ!」覚えたての漢字を教えてくれた息子。ある日「いちいちのむ…」と呟いて埋めていたドリルには
 1
 一
ノム
の字が。妻が望む広い庭付きの家を買う為に上司からの理不尽な要求を毎日呑むストレスで俺の額が広くなってきたのがバレたのかと焦ったわ…

1月12日

李都 @litolittlen
日暮れの帰路を歩きながらひとり吐く息は、白く淡く広がって消えていった。 今、幼い息子と同じ道を歩きながらはあ、と息を吐き出す。「こりぇ、じいじといっしょだねぇ」と自分から出る白い息を指す息子を見ると、この寒さも少し和らぐ気がした。それにしても、じいじの煙はいつみたのだろうか。

ちぃひろ @chi_hirobunko
思ってたより、広かってんな。

家業を継ぐことになった。
この街を訪れることがあっても、この部屋に帰ってくることは二度とあるまい。思い出が詰まっていたはずの部屋も、今はただの空っぽの箱になってしまった。

行くか。
僕は最後に、ここ数日の洗濯物を押し込んだギターケースを背負い込んだ。

珈琲豆 @mame_amami
私は今日もスマホを見る。
小さい頃、世界は広かった。何がそこにあるのか分からないから、冒険を繰り返した。試行錯誤して世界を知り、言葉を介して学びを得た。
今もきっと世界は広い。全てが近く感じるだけだ。いつの間にか、スマホの中に私の世界は縮まったんだと思う。
私は明日もスマホを見る。

天野砂月(サイトからの投稿)
左の掌の痒みが治まらない。生命線に沿って右手の指で何度も搔いたり、膝の上に手を置いて擦ったりして誤魔化している。また、一時的ではあるが、雪の中に手を埋めると和らぐことが分かった。
それから二週間。生命線は枝分かれして広がり、うち一本は肘まで延びている。痒みとの永い戦いが始まった。

おんぷりん @GJBgugkgHCneBk3
なんで世界は広いんだろうと考えた。すぐに分かった。たくさんの人に出会うため。
じゃあ、たくさんの人に出会うのはなんでだろう。大切な人は、何人いたって多すぎることはないから。
それなら誰かを大切に思えない人はどうなる?広い世界へ見つけに行く。
八十億の選択肢、そういうときの君のため。

石森みさお @330_ishimori
私を初めて見たその人は、仏頂面で「狭い」と言って、「新築がよかった」と隣に佇む人を睨みました。二人は諍いながらも私の中で生活を始め、一時は小鳥のような囀りに包まれもして、けれどいつかそれも静まり返り……その人は最後に一人、「広すぎるわ」と呟いて泣きました。私は変わりませんのにね。

瓦夜 @KawaraYoru
「我が龍神新聞の読者を増やすための、新たな広告案はないか?」上司の唐突な言葉に、私は「社名を刻印したどら焼きを販売してみるのは?」と答えた。その案がまさかの大当たり。「龍神どら焼き」は名物となった。私は今でも時々、廃刊となった龍神新聞を棚から取り出し、そのどら焼きを味わっている。

静森あこ(サイトからの投稿)
生まれた頃は真っ白だった私の地図も今では3分の1ほど埋まった。思いもしなかった歩みとなり、その軌跡は歪だが面白い。時に立ち止まることもあったがまた歩き出すために必要な時間だったのだろう。さあ、今年も冒険を始めようか。地図に広がる白に心を躍らせる。それはまだ見ぬ私という世界だから。

みきゃん(サイトからの投稿)
向かいマンションの部屋は人の往来が多い。老人が住んでいて、ヘルパーや、管理人が訪ねていく。ベランダにいると目が合う距離なので、カーテンを閉める。ある日、家族連れ、カップル、管理人がその部屋に吸い込まれていく横顔が見えた。どんだけ顔が広いんだよ!はっと謎が解けた。エレベーターだ!!

さんかく @tCVsWzw2AxCrNxR
親友の背中を見て少女は父親のことを思い出していた。「どうしたのさ、あたしの背中なんかついてる?」
少女は首を振る。柔道部に所属している親友は小柄だががっしりとした体躯で広い背中の持ち主だった。
『ほら、おんぶするか?』
父の声と背中が脳裏に浮かび少女は涙を浮かべた。今日は父の一周忌

あきら @akirakekunote
立ち上がれと君は言う。立たないと広い世界は見渡せないと君は言う。指に血を滲ませながら地面を掻き毟る私にそう言う。私は無言で土を掻く。君はそうして穏やかに、空の青さや地平線の輪郭を見ていればいい。私は蹲って、痛みを傍に置きながら、永遠に隠されようとしていたものたちを見ていたいのだ。

物部木絹子 @yuko_momen
交友関係に部屋、更には心、広いことは良いことだと身をもって実践してきた姉が、口には出さなかったが唯一の誇りだった。そんな姉が殺された。私は独りで突き止めた。姉の部屋に誘き出し、銃口を、涙で狭まる視野の向こうの男に向ける。
「何故、踏みにじった?」
この領域では、手帳など無価値だ。

保健委員 @vwJMTGNCVgUrtAO
職位が上がるにつれて机が広くなり、会社にいる時間が増えた。その分、家族との会話が減っていった。完全な会社人間になったが、定年後は会社に残ることができなかった。もはや家に居場所はどこにもなく、家族とは別居。引っ越したアパートの部屋には、小さな四角いローテーブルがとてもよく似合った。

虹風 想蒔 @i_nw_ao_rbdmges
上司からの転送メールに息を呑んだ。「このフレーズが頭から離れず、ダメ元で買いました。おかげさまで、今までの不調が嘘のようです。」私の仕事が一人の命を救った。広告に最も躍らされ、最も助けられているのは私たち。感謝の言葉ほど刺さるコピーを産み出せるか。その問いを解く式は、日々変わる。

阿部暁(サイトからの投稿)
新居にやってきた。窓の外の枯れた街路樹に目を向ける。部屋には物もなく、端から端まで4歩でいけるほどの空間しかない。私は大きく息を吸い込んだ。そして、キャリーバッグから筆とキャンバスを取り出す。準備万端。この広く真っ白なキャンバスを、私色に変えていく。ここが私のアトリエなんだ。

きなこもち(サイトからの投稿)
7歳の頃、誰も見つけられない場所に広い秘密基地を作った。
その中で一切邪魔されることなくゲームやお絵描きを続け、チラシを見ながら美味しそうな食べ物を全て注文した。時々、その中にある星を見に行った。
今日から狭い1Kに秘密基地を少しずつ移す。実現し、7歳の私は喜んでくれるだろうか。

1月11日

ケムニマキコ @qeiV97pW0x5342
本当に辛いとき、私はひとりぼっちで痛む。誰も気付かない場所に、涙の水たまりができる。
ある日、水たまりに星を見つけた。見上げると、真っ暗な空に星が広がっていた。
その星は、言葉だった。同じように泣いている貴方達の、言葉だった。
私逹はひとりぼっちのまま、同じ空に、星を浮かべている。

春音優月 @yuzuki_harune
「来てくれてありがとうね、広くん」
「ばあちゃん、俺の名前は武だよ」
「そうだった、武くんだったね」
日々言葉が増えていく俺の息子とは逆に、ばあちゃんは会う度に言葉を忘れていく。でも、俺を迎えてくれる時の温かい笑顔は昔からずっと変わらないんだ。
また会いに来るね、ばあちゃん。

珈琲豆 @mame_amami
貴方は良い人だった。
私が何をしても許してくれた。私だったらきっと怒って縁を切るだろうに、ああ本当にこの人は心が広い菩薩みたいな人だと思っていたけれど、詰まるところは私に興味がなかったのでしょう。
クリスマスツリーの下。指輪を外した貴方は誰かの細い指を握り、知らない顔で笑っている。

郵便屋さん @warawanaiouji_k
擦りむいた膝小僧。
傷口は半ズボンから伸びた、私の幼い太ももとふくらはぎの間にある。
熱を持った貴方の手のひらが、私の膝を包む。
「大丈夫? すぐに救急箱を持ってくるね」
遠ざかる貴方の背中。
私は自分の膝周りに触れる。
貴方の広く厚い手が残したその温もりに、今しばらく触れていたくて。

三上宥 @RANDAMHAJILE51
風雪舞う碓氷峠を抜けて、聳ゆる山膚はきっぱり身を潜めた。頻りに動く指先から目線を外すと、車窓が広闊の絶景を垂れ流している。白樺は豊かな碧葉を煌めく氷の蕾に変え、薄日にだけ花開く。その清廉さに狂った三半規管も鎮静を始める程だ。窓を全開にすると、望外に凍む風。思わずくしゃみが一つ。

小崎アキ @a_name2020
夜も明け切れていないゴミ捨て場前に、若い男が一人。男は強張った右手を幾度も広げては、その手にある男性サイズの指輪を見つめ静かに泣く。指輪の持ち主になるはずであった男は、もうこの世には居ない。昨日あった葬儀には当人の希望で、出席はできていない。死ぬ前にLINEで一言、そう言われたのだ。

さく(サイトからの投稿)
空から黄色い葉っぱが降ってきて、私の目の前に落ちた。しゃがんで見ると、それは綺麗なハート型をしていた。広い世界に沢山生えているであろう木が、たまたま葉を落としただけ。なのにラブレターみたいだ、なんて浮かれたくなるのはどうしてだろう。軽い足取りで私は進む。散歩はまだまだ続く。

八木寅 @yagitola
「おいてかないで」
娘は泣きだした。まただ。
「お母さんトイレいくだけ」
そういつものように言って、娘の目を見たら、なぜか引きこまれた。漆黒の瞳は広大な宇宙のようで。涙に煌めく光は瞬く星……ああ星。遥か彼方の星で僕はキミと。
「大丈夫。今度は平穏に長生きするさ。キミよりもね」

さく(サイトからの投稿)
世界はものすごく広いらしい。だけど、生きていく上でそんなに広い世界はいらない。学校という世界は、大して広くもない。夜、減らないお茶を眺めて「空っぽだ」なんて呟いて、一人でぼんやりと涙を流して。また朝になったら日常に取り込まれる。そういうもの。これは広い世界の一区域にいる誰かの話。

きり。 @kotonohanooto_
浄土の世界は、広大無辺際なのだそうだ。果てしなく広く、そして、端っこがない。だから、誰も仲間はずれにならない世界。思い出す、あの子のこと。仲間はずれにされて、苦しくて、狭い空間から抜け出せず去ってしまったあの子に、そんな世界が与えられているといい。無宗教の私が、心からそう祈った。

珈琲豆 @mame_amami
今日は冷えるからと、母さんが僕に新しいセーターを着せてくれた。
居ても立っても居られなくて僕は外に出た。ほら、やっぱり雪が沢山積もっている!庭先の段差も、車道の白線もない。だだっ広い庭がそこにあった。
僕は元気よく走り出したかったけど、「散歩はまだでしょ」と母さんに持ち上げられた。

きり。 @kotonohanooto_
籠のなかの小鳥は、一瞬大きく羽を広げた。ほんとは、その羽で空だって飛んでゆける。けれど私は、決して籠から出さない。きっと外では生き延びられないのも、わかっているから。自由とは、それほどきびしいものなのだ。私には命をかけてもやりたいことがあるだろうか。小鳥は黙って、餌をついばんだ。

虹風 想蒔 @i_nw_ao_rbdmges
歩道、電車、デパート、水族館、幼稚園…。どれもびっくりしたよね。公園の木みたいに大きくなるんだ、と言っていたっけ。経験した初めては、これから会いに行く星達より多いよ。胸を張って、そう言える。
「間に合ってよかった。」「相変わらず。でも、母さんのおかげ。」
君の懐は、また一層広がる。

冷蔵庫(サイトからの投稿)
今朝、じいちゃんが心筋梗塞で死んだ。俺は新幹線に飛び乗る。俺の憂鬱な気持とは無関係に、車窓からは雲一つない青空がうかがえた。この瞬間、俺は澄み渡ったこの青空と、じいちゃんが大好きだった広大な海とを、重ね合わせずにはいられなかった。じいちゃんとの思い出が蘇る。新幹線は動き出す……。

1月10日

キュンメルめぐみ(サイトからの投稿)
ふと山田孝之の出ていた映画を思い出す。余命宣告を受けた彼は絶望し、膝から崩れ落ちたんだ。その時は他人事のように思ってた。まさか自分にそんな窮地が訪れるなんて!だたっ広いスペイン広場。背中越しには今、ナイフを持った怖い人たちがいる。「広い視野を持て」なんて、誰が一体俺を唆したの?

キュンメルめぐみ(サイトからの投稿)
私の名前は広子。どうしてその名前になったのかは知らない。「毒親」という名がつく人達はもう、この世にはいない。愛着の無い名前を今「ヒロ」って愛おしそうに呼んでくれる人が目の前にいる。白いドレスの私は、これから世に広く羽ばたく鳩。切り刻まれた左腕を取り、指輪を通す彼。バイバイ、広子。

キュンメルめぐみ(サイトからの投稿)
『明日の天気は広い範囲で日差しが強く、』って嘘じゃん!
目の前に拡がる深雪。急いで窓を閉めると、吐いた息が白いのを確かめる。
青白いカーペットの上を、猫がゆっくりと歩を進めている。雪かきは、明日でいっか。彼のいない今週、仕事頑張れるかな?悲しさも寂しさも、雪よどうか浄化してね。

けんたろ @kentaro135512
冬の夕暮れ、私鉄の駅から見上げる空。
雪を孕む厚い雲が陽を早々に隠し込み、
北風は容赦なく吹きつける。
就職氷河期の僕たちは希望通りのはずもなく、
いまも夢と現実の端境にいる。
耳を塞ぎ目を瞑る。
今日がどれほどつらくても。
明日こそは、煌めくだろうあの雲の上で
なけなしの翼を広げよう。

郵便屋さん @warawanaiouji_k
木枯らし吹く東京。
アパートの階段を降りていると、夕焼けチャイムが鳴った。
下町の裏通りにあるこの場所は、昭和歌謡の世界そのものに思えた。
「またいつか、どこかで」
貴方は振り返らない。
夕陽に向かって歩く広い背中は哀しいほど逞しく、別のだれかと築くであろう家族の姿が見えた気がした。

初恋、あるいは最後の春休みの(サイトからの投稿)
招待状に導かれるまま、だだっ広い大部屋に集められた八人の男女。神妙な面持ちで、みな同じ衣服に身を包んでいる。「さあ、ゲームの始まりですよ」司会の合図と共に、戦いの火蓋がいま切って落とされた。カチッ。最初は躊躇なく。久しぶりだ。将棋を打つのは。六年前に亡くなった祖父が大好きだった。

イマムラ・コー @imamura_ko
「僕は君が好きだ。君はどうなんだい?」
彼女は考える。「地球って広いよね」「まあね」「じゃあ宇宙は?」「それはとてつもなく広いだろう」「でしょ?そのとてつもなく広い宇宙と同じくらい広い意味で好きよ」とりあえず嫌いだとは言ってないのでここは好きと解釈していいだろうと思うことにした。

小崎アキ @a_name2020
寒い。イライラする。夕方に始まったリモート会議も気づけば4時間。甲高い声で熱く語る社長様。何度も同じ内容を繰り返しているのに気づきやしない。それにしても、社長様。あなた様の背後の窓に広がる冬の星々はどこから見える星なんですかね?あなた様のご自慢のお山の別荘ですか?あ~そうですか!

尾上立夏(サイトからの投稿)
「早く走らないと凍っちゃうよ」隣の女子が声を震わせながら言った。体育の先生の話が嫌なほど長く、身体が芯から冷えていく。「てかもう、暖房で良くね?」「いや、こんな広い競技場借りれること、これからねぇぞ」「それが嬉しいのは運動部だけでしょ」ああ。なんでもいいから、早くあたたまりたい。

雪菜冷 @setsuna_rei_
吹雪も止み空は満天の星に包まれた。一面の雪海にゆらり、白いボートが浮かぶ。船頭は白い毛皮の帽子とコートを着た子供。オールを器用に足で操作しながら、星の欠片を雪に埋めていく。雪国の雪かきは重労働だ。今年も雪の甘みが染みた星金平糖を手にするべく、幅広い年代の人達が夢中で宝探しをする。

1月9日

(サイトからの投稿)
「......怖い......そばに、いて」
「手握ってる」
「あったかい......手......震えてる?」
「大丈夫、大丈夫......」
「......眠くなってきた」
「そう......」
暫くして画面には0の表示。
......目を開けると、美しい花畑が広がっていた。

梅雨 @Brille2525
歩んでいた道を月光が照らす夜。とある旅人が訪れたのは廃墟と化した広大な街。在りし日に多くの人々が生活していた家々はその形を失い、二度と元に戻ることはないと物語っていた。けれど俯きかけた顔を見上げれば、その瞳には今も昔も変わらない、夜空を埋め尽くすほどの星の瞬きが広がっていた。

(サイトからの投稿)
「きこえるかい、凍えている空気の声が」
「声がするの?」
「そう。今日は星が一段と輝いている気がする」
「うん。今日の空は星がとても輝いているよ」
私の左手にはホットココア。右手には大切な人の左手。言葉を交わすたびに感じる。この人には見えている私よりも広大な世界が広がっている。

迷路メィジ @Akumademeiji
長い間、その人はスターに挑もうとした。その星には届かずとも、努力は着実に実を結んだ。それでも、その人は歯を食い縛り続ける。
「この広い世界、人は星の数いるというのに、何故、あの届かぬ星に手を伸ばすのですか?」
僕は訊ねた。
「最初に決めた、あの星に届かなきゃ意味がないんだ。今も。」

ジョナサン @xxdokunlot2
去年は夏をおいしく食べた一年でした。秋も冬も、春は少々。そう振り返ると、季節というものはとても広大で豊富なものなのだなあと思います。隣で共に手を合わせ拝んでいる彼女も夏を共に食べました。今年の冬も一緒に温かいものを食べようと思っています。お稲荷さんお稲荷さん、今年もどうかよろしく

横木千恵子(サイトからの投稿)
冬の真夜中、仕事を終えて家路を急ぐ。
自転車を全速力で漕ぎ出す。いつもと変わりない風景は少しずつ変化していた。信号待ちで、ふと空を見上げると星々が空一面に広がっていた。綺麗。思わず声が出た。気づけば一心不乱に働いていた。たまには空を観ようと思った。

モサク @mosaku_kansui
外出前、マスクのノーズフィッターを入念に調整する私の横で、娘が前髪を撫でつけている。ふと祖母の口ぐせを思いだす。「鼻高うなれ高うなれ、でこひっこめ!」しわしわの手が胡座をかく私の小鼻をむにゅむにゅし、広い額にぺちりと触れた。してやったり。私はばあちゃんのまじないに打ち勝ったのだ。

瓦夜 @KawaraYoru
その商店街の広場の足元には、青い空が描かれていた。逆にアーケード屋根には、凹凸のある岩場の地面。大道芸人の私は、コウモリのように天井に足をくっつけ、広大な空を見下ろした。やがてそこに無数のプロミネンスを散らし、赤黒い太陽と、「イカロス広場」という俗称を生み出す事になるとは知らず。

泉ふく @fuku_izumi
今、私は病院のベッドにいます。
消灯時間はとうに過ぎ、真っ暗の中、閉ざされたカーテンの奥を観ている。このカーテンの奥はとても広い。星々のように考えの異なる人々が居て、ぶつかり合い、散らばっては新しくなる。まるで宇宙の様に。
今夜は空気の澄んだ空だそうで、私はその広さを創造している。

1月8日

雪菜冷 @setsuna_rei_
広大な雲の上に一本の木が佇んでいる。雪原のように真っ白な面に朝日が輝いて、空も雲も薄紫を帯びる。時々鳥が羽休めに止まりお礼に羽を一枚置いていく。色とりどりの羽で満開になると枝を振るって羽を散らし始める。地上ではどこもかしこも羽吹雪。人々は天使が祝福をくれたと一日中お祈りに忙しい。

三日月月洞 @7c7iBljTGclo9NE
一碧万頃の海を父と2人ジッと眺めていた。常から寡黙な父だが、今日はより一層何も話さない。広い砂浜には私達父娘2人きり。ふいに、父が涙声で笑い始めた。驚く私。笑いながら父は「ママ、まだ──海には来るなってサ」と呟き、また黙る。泣いているような波の音が、ただひたすらに命を叫んでいた。

 @AoinoHanataba
こんなに広かったんだ、私の家。荷物が片づけ終わった部屋達を見回った。がらん、とした部屋は、今から旅立つ不安に似ている。でも、大丈夫。積み上げてきたものを、完全に手放さないから大丈夫。私は扉を開け、光へ向かった。
「いってきます!」
最後の挨拶を、今までお世話になった部屋に残して。

MEGANE @MEGANE80418606
今ごろ同級生たちは会場で笑い合ってるんだろうな。冷たい海風を全身で受け止めながら苦笑する。僕だけがあの頃を過去にできない。笑って水に流すような、大人になれない。大きく息を吸い、腹の底に溜まった全部を吐き出す。「くそったれどもが!」広い海に僕の傷ついたままの心の声が溶けていく。

五十嵐彪太 @tugihagi_gourd
往来で文字通り大風呂敷を広げている人がいる。警官に注意されても気にする様子はない。口上を述べるが異国の言葉なのか、聞き取れない。最後に風呂敷に飛び込み、吸い込まれた。大風呂敷は軽やかに宙に舞い、電線に絡み付き停電が起きた。大風呂敷に消えた人を案ずる者が一人でもいればよいのだが。

夏目シロ @seikomart217
気付くと氷の広場にいた。私はダンスの練習をしていたはずなのに。紳士が踊りを見せてくださいというので渋々ダンスを見せるとここを直したほうがいいと助言。夢かしら。紳士の透き通るような表情に心がときめく。気付くと次の日。ダンスの講師に初めて褒められる。氷の広場には行けなくなっていた。

西乃暁文(サイトからの投稿)
広い背中だった。
小さな頃からただその後ろを歩いているだけで、何が起きても大丈夫、そう思えた。
でも今はもう、その頼れる背中は私の前にはない。
代わりにこの手の中では、あの頃の私よりもうんと小さな命が産声をあげている。
見ていてね。強く大きくなるからね。

海本 頌 @sho_kaimoto
昨日観た映画の良さを広めたい。そうだ、まずは彼女に伝えよう。《今電話出来る?》《いいよ!》「もしもし?いきなりごめん」『大丈夫!どうしたの?』「昨日○○って映画観たんだけど……」『え!私も観た!』「マジか、タイミング良すぎ!」俺はただ、彼女の声を聞きたかっただけなのかもしれない。

あきら @akirakekunote
広い座敷に出して貰えたあの頃は良かったと、誰かの嘆息が箱の中に響いた。各々の姿さえ視認できない暗闇で。遣る瀬無い気持ちで目を閉じると、我々を見て弾むように喜んだあの子を思い出す。「きっと幸せになれたのでしょうね」内裏様も雛様も満足げで、そうだ雛人形に生まれて良かったと思い直した。

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