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冬の星々(140字小説コンテスト第4期)結果発表

季節ごとの課題の文字を使ったコンテストです(春・夏・秋・冬の年4回開催)。

冬の文字 「広」
選考 ほしおさなえ(小説家)・星々事務局

「季節の星々賞」として一席、二席、三席の3賞+佳作7編(計10編)を選出しました(応募総数644編)。ご応募いただきありがとうございました。

選評(評・ほしおさなえ)とあわせて受賞作は後日hoshiboshiサイトへも掲載します。
また、優秀作(入選〜予選通過の全作品)は雑誌「星々」(年2回発行)に掲載されます。

一席、二席、三席の方には特製の賞状(ほしおさなえによる手書きのお名前入り)を、さらに一席の方には図書カード(3000円分)を贈呈いたします。

年4回のコンテスト後に、各回の一席のなかから大賞を1編選出します。
年間グランプリ受賞者は「星々の新人」としてデビューし、以降、雑誌「星々」に作品が掲載されます。

受賞作

入選

一席

森林みどり(サイトからの投稿)
その夏はずっとおくるみを編んでいた。白と浅葱色の毛糸で花柄の五角形をいくつも作り、繋いだ。鉤針は糸をすくい、次の糸を絡ませて黙々と広がって行った。お腹は丸く膨らんでいたけれど、私はそれが産まれるのだとうまく実感できなかった。私は見知らぬ誰かをくるむためのおくるみを夏中編み続けた。

二席

南鏡花 @kyouka_minami
歯と歯の間は、広大な宇宙そのものだ。歯に何かが挟まったと言う患者の内、半分近くの歯間には月や星が挟まっている。昨日来た女の子の奥歯には満月が挟まっていた。フロスで取った満月を見せると、表情が明るくなった。今後はよく磨いてねと言ったが、満月に見惚れていて、話を聞いていたかは怪しい。

三席

祥寺真帆 @lily_aoi
そのときになったら必ず誰でも翼が生えますと教わった。「そのとき」がいつなのかわからないし、広げた翼は自分にしか見えないらしかった。大人になり忘れていた。言葉より先に手が伸びるほど守りたいものができた。ひるみそうな鏡の中の自分に強くうなずき、気づいた。血の滲む勇気の先に翼があった。

佳作(7編)

野田莉帆 @nodariho
天国へは写真を一枚だけ持っていける。記憶は薄れてしまうから、写真に映っている小さな女の子が誰なのかはもうわからない。それでも、天国へ来てからの習慣は染みついている。写真の縁を撫でて、いつも願う。花が綻ぶように笑う女の子が、幸せに暮らしていますように。広く澄みきった空の上で、想う。

青塚 薫 @ShunTodoroki
ばら撒かれたパン屑を喜んでついばみにいくと、大き過ぎてついばみ切れない時がある。そんな時はひどくがっかりする。なぜもう少し細かく千切ってくれないのかと腹が立つ。でもこの広い鳩の世界、何も君だけじゃない。他の鳩にとっても日常茶飯事さ。それでも僕らは、ついばまずにはいられないんだ。

河音直歩(サイトからの投稿)
タクシーで祖父の葬式へ向かう。後部座席は父と姉と並んでぎゅうぎゅう、快晴の日射しが強い。父は見たことのない背広姿で「お義父さんが結婚祝いに作ってくれた。大事にしまっていて、今日、初めて着た」と苦しそうに笑う。埃ひとつ付くたび父は、姉も私も、手を伸ばして払う。何度も何度も払う。

鈴木林 @bellwoodFiU
立入禁止区域の雪を渡り、私たちは家へと戻った。割れた窓から侵入する。すっかり氷漬けになったリビングで、喧嘩の時につけた壁の傷や、あの日食べようとしたご飯がそのまま固まっている。持って来た布を広げて私たちは座った。体温でほんのわずか溶けた床の表面が澄んで、カーペットの赤色を見せる。

笹慎 @s_makoto_panda
コタツにむいた蜜柑の皮を広げる。薄皮はそのままで食べるのが好きだ。
天板に顎を乗せた犬が私の口へと運ばれていく蜜柑を懸命に見つめている。そっぽを向いて蜜柑をあげようとしない私にため息をつくと、父は彼に一粒の果肉を与えた。
今はもうどちらもいないコタツで残された母と私は蜜柑を食べる。

石森みさお @330_ishimori
友人がオナモミの実になってしまった。感受性の葉を広げすぎて心が傷だらけになったから、しばらく殻にこもることにしたのだそうだ。実から伸びる棘はしがみつく爪にも見えて、そんなになってもまだ人を求めるのかと胸が痛む。水をやれば芽吹くのかも知れないが、彼女の自由か、と思いそっとしている。​​

海街るり子(サイトからの投稿)
広瀬くんは背が高い。広瀬くんは足が速くて、数学が得意で、国語が少し苦手。冬生まれで、みずがめ座で、B型の男の子。おばあちゃんと暮らしていて、学校まで自転車で通っている。真面目だけれど、授業中たまに頭が揺れている。広瀬くんは優しい。私に花を手向けてくれた。広瀬くんは、私のものだ。

part1 part2 part3 part4 part5 part6 予選通過作 結果発表

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